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#70 洋風味噌雑炊の朝ご飯。その2

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 茂造とサユリは、揃って洋風味噌雑炊を口に入れた。

「うんうん、旨いぞ、壱」

「うむ。なかなかカピ」

「良かった」

 茂造は表情を綻ばして眼を細め、サユリも満足げに鼻を鳴らす。壱は安堵し、漸く口に運んだ。

 うん、卵がふわふわとろとろに仕上がっている。ベースはブイヨンだが、玉ねぎと鶏肉から良い出汁が出て深みが増している。そこに味噌が良い加減に合わさり、まろやかになっている。

 生から煮た米がそのスープをたっぷり吸って、ふっくらとしている。あらかじめ炒めておいた玉ねぎは甘く、焼いた鶏肉は香ばしい。それがまた良い風味を生み出している。

 また我ながら良いものを作ってしまった。壱は雑炊を咀嚼そしゃくしながら口角を上げる。

「壱よ、そろそろこの味噌を使ったメニューを、食堂でも出してみてはどうかの。味噌作りには手間も時間も掛かるが、壱がこの世界に来てもう数日経つからの。そろそろ辻褄つじつまも合うじゃろ」

「うん。それ俺も考えてた。サユリの舌に合うんだから、大丈夫だと思うんだよね。この雑炊みたいにブイヨンかコンソメをベースにしても良いけど、やっぱり昆布こんぶ鰹節かつおぶしで出汁を取りたいんだよなぁ。この村の食材で豚汁が作れるから、ご飯と一緒にして定食にするとか。あ、ご飯の保温が出来ないか」

「そうじゃの。それが問題じゃな。そこはまぁ、暫くはパンにするとして」

「何か味気無いなぁ」

 壱ががっかりすると、サユリが言う。

「米が育つまでの辛抱カピ。そうカピな、保温出来る道具は我が作るカピ」

「え、それはサユリの魔法使いとしての立ち位置的に大丈夫なのか? 嬉しいけど」

「数ヶ月試行錯誤しこうさくごしたとでも言うカピ。炊くのはこれまで通り鍋でしてももらうカピが」

「うん、それは勿論。となると、大きな鍋がいるなぁ。出来ればスープ用みたいな高さのあるやつじゃ無くて、横に広いやつ。じいちゃん、ある?」

 茂造は上を向いてしばし考えた後、また壱に視線を戻して言った。

「確か、しばらく使っていないのが物置にあったかと思うがの。また探しておくぞい。まずはお試し品で、少量出すのが良いかのう。その前に食堂の従業員に試食して貰うのも良いかも知れん」

「あ、確かにその方が確実だな。カリルたちの口にも合えば、安心してお客さんにも出せる」

「では、明日の昼に昆布を取りに行くカピか? 今日は米農家の面接があるカピから、無理カピが」

「あ、そうか面接今日か。煉瓦れんがは大丈夫なの?」

「今日は焼きじゃからの。釜に運びさえすれば、陶器工房が巧くやってくれるからの。また男衆が来てくれるからの、大丈夫じゃ」

「そっか。じゃあ晩にでも作り方調べなきゃ。昆布って天日てんぴとかに干すだけで良いのかな」

「鰹も入荷してもらわんといかんの。鰹節を作るんじゃろ?」

「うん。前入荷して貰った時は1尾だったから、タタキとツナに、って、あ、うわ、ツナ忘れてたうっかりしてた! 冷蔵庫に入れてたんだった。うわー何で忘れてたかな!」

 壱は頭を抱える。翌日の朝食に使おうと思って冷蔵庫に入れていたのに、すっかりと忘れていた。俺とした事が迂闊。

「ほう、ツナとはあの缶詰のやつかの? 家で作れるものなのかの?」

「作れるよ。賞味期限は大丈夫だから、今日の夜のまかないで何か作ってみようかな。ホワイトソースが余ったら入れて……て、あ、鰹節の話かられた」

「鰹は、今日漁師に言っておくかの。今日はもうりょうに出ておるじゃろうからの。明日入荷してもらうかの」

「うん。そうしたら明日鰹節作れるかな。これも作り方調べておかなきゃ」

 確か燻製くんせいとかをするのだったかと思うが、ちゃんと調べて美味しいものを作らねば。

「うんうん。この雑炊も旨いが、やはり鰹と昆布の出汁が懐かしいのう。楽しみじゃのう」

「うん、俺も楽しみ。やっぱりちゃんとした味噌汁が飲みたい。その前にツナだな。鰹だけど、大丈夫かな」

「多分大丈夫じゃ。そもそも村人の鰹が苦手な原因が生の時の癖じゃったからの。ツナにしたら消されるじゃろ?」

「大丈夫な筈。じゃあ賄いで食べて貰ってみて良いかな。これも巧く行ったら新しいメニューに出来るかな」

「そうじゃな。段取りの調整がるじゃろうがの」

 さて、ツナの評判が今から気になるところである。楽しみでもあった。
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