70 / 190
#70 洋風味噌雑炊の朝ご飯。その2
しおりを挟む
茂造とサユリは、揃って洋風味噌雑炊を口に入れた。
「うんうん、旨いぞ、壱」
「うむ。なかなかカピ」
「良かった」
茂造は表情を綻ばして眼を細め、サユリも満足げに鼻を鳴らす。壱は安堵し、漸く口に運んだ。
うん、卵がふわふわとろとろに仕上がっている。ベースはブイヨンだが、玉ねぎと鶏肉から良い出汁が出て深みが増している。そこに味噌が良い加減に合わさり、まろやかになっている。
生から煮た米がそのスープをたっぷり吸って、ふっくらとしている。あらかじめ炒めておいた玉ねぎは甘く、焼いた鶏肉は香ばしい。それがまた良い風味を生み出している。
また我ながら良いものを作ってしまった。壱は雑炊を咀嚼しながら口角を上げる。
「壱よ、そろそろこの味噌を使ったメニューを、食堂でも出してみてはどうかの。味噌作りには手間も時間も掛かるが、壱がこの世界に来てもう数日経つからの。そろそろ辻褄も合うじゃろ」
「うん。それ俺も考えてた。サユリの舌に合うんだから、大丈夫だと思うんだよね。この雑炊みたいにブイヨンかコンソメをベースにしても良いけど、やっぱり昆布と鰹節で出汁を取りたいんだよなぁ。この村の食材で豚汁が作れるから、ご飯と一緒にして定食にするとか。あ、ご飯の保温が出来ないか」
「そうじゃの。それが問題じゃな。そこはまぁ、暫くはパンにするとして」
「何か味気無いなぁ」
壱ががっかりすると、サユリが言う。
「米が育つまでの辛抱カピ。そうカピな、保温出来る道具は我が作るカピ」
「え、それはサユリの魔法使いとしての立ち位置的に大丈夫なのか? 嬉しいけど」
「数ヶ月試行錯誤したとでも言うカピ。炊くのはこれまで通り鍋でしてももらうカピが」
「うん、それは勿論。となると、大きな鍋がいるなぁ。出来ればスープ用みたいな高さのあるやつじゃ無くて、横に広いやつ。じいちゃん、ある?」
茂造は上を向いて暫し考えた後、また壱に視線を戻して言った。
「確か、暫く使っていないのが物置にあったかと思うがの。また探しておくぞい。まずはお試し品で、少量出すのが良いかのう。その前に食堂の従業員に試食して貰うのも良いかも知れん」
「あ、確かにその方が確実だな。カリルたちの口にも合えば、安心してお客さんにも出せる」
「では、明日の昼に昆布を取りに行くカピか? 今日は米農家の面接があるカピから、無理カピが」
「あ、そうか面接今日か。煉瓦は大丈夫なの?」
「今日は焼きじゃからの。釜に運びさえすれば、陶器工房が巧くやってくれるからの。また男衆が来てくれるからの、大丈夫じゃ」
「そっか。じゃあ晩にでも作り方調べなきゃ。昆布って天日とかに干すだけで良いのかな」
「鰹も入荷してもらわんといかんの。鰹節を作るんじゃろ?」
「うん。前入荷して貰った時は1尾だったから、タタキとツナに、って、あ、うわ、ツナ忘れてたうっかりしてた! 冷蔵庫に入れてたんだった。うわー何で忘れてたかな!」
壱は頭を抱える。翌日の朝食に使おうと思って冷蔵庫に入れていたのに、すっかりと忘れていた。俺とした事が迂闊。
「ほう、ツナとはあの缶詰のやつかの? 家で作れるものなのかの?」
「作れるよ。賞味期限は大丈夫だから、今日の夜の賄いで何か作ってみようかな。ホワイトソースが余ったら入れて……て、あ、鰹節の話から逸れた」
「鰹は、今日漁師に言っておくかの。今日はもう漁に出ておるじゃろうからの。明日入荷してもらうかの」
「うん。そうしたら明日鰹節作れるかな。これも作り方調べておかなきゃ」
確か燻製とかをするのだったかと思うが、ちゃんと調べて美味しいものを作らねば。
「うんうん。この雑炊も旨いが、やはり鰹と昆布の出汁が懐かしいのう。楽しみじゃのう」
「うん、俺も楽しみ。やっぱりちゃんとした味噌汁が飲みたい。その前にツナだな。鰹だけど、大丈夫かな」
「多分大丈夫じゃ。そもそも村人の鰹が苦手な原因が生の時の癖じゃったからの。ツナにしたら消されるじゃろ?」
「大丈夫な筈。じゃあ賄いで食べて貰ってみて良いかな。これも巧く行ったら新しいメニューに出来るかな」
「そうじゃな。段取りの調整が要るじゃろうがの」
さて、ツナの評判が今から気になるところである。楽しみでもあった。
「うんうん、旨いぞ、壱」
「うむ。なかなかカピ」
「良かった」
茂造は表情を綻ばして眼を細め、サユリも満足げに鼻を鳴らす。壱は安堵し、漸く口に運んだ。
うん、卵がふわふわとろとろに仕上がっている。ベースはブイヨンだが、玉ねぎと鶏肉から良い出汁が出て深みが増している。そこに味噌が良い加減に合わさり、まろやかになっている。
生から煮た米がそのスープをたっぷり吸って、ふっくらとしている。あらかじめ炒めておいた玉ねぎは甘く、焼いた鶏肉は香ばしい。それがまた良い風味を生み出している。
また我ながら良いものを作ってしまった。壱は雑炊を咀嚼しながら口角を上げる。
「壱よ、そろそろこの味噌を使ったメニューを、食堂でも出してみてはどうかの。味噌作りには手間も時間も掛かるが、壱がこの世界に来てもう数日経つからの。そろそろ辻褄も合うじゃろ」
「うん。それ俺も考えてた。サユリの舌に合うんだから、大丈夫だと思うんだよね。この雑炊みたいにブイヨンかコンソメをベースにしても良いけど、やっぱり昆布と鰹節で出汁を取りたいんだよなぁ。この村の食材で豚汁が作れるから、ご飯と一緒にして定食にするとか。あ、ご飯の保温が出来ないか」
「そうじゃの。それが問題じゃな。そこはまぁ、暫くはパンにするとして」
「何か味気無いなぁ」
壱ががっかりすると、サユリが言う。
「米が育つまでの辛抱カピ。そうカピな、保温出来る道具は我が作るカピ」
「え、それはサユリの魔法使いとしての立ち位置的に大丈夫なのか? 嬉しいけど」
「数ヶ月試行錯誤したとでも言うカピ。炊くのはこれまで通り鍋でしてももらうカピが」
「うん、それは勿論。となると、大きな鍋がいるなぁ。出来ればスープ用みたいな高さのあるやつじゃ無くて、横に広いやつ。じいちゃん、ある?」
茂造は上を向いて暫し考えた後、また壱に視線を戻して言った。
「確か、暫く使っていないのが物置にあったかと思うがの。また探しておくぞい。まずはお試し品で、少量出すのが良いかのう。その前に食堂の従業員に試食して貰うのも良いかも知れん」
「あ、確かにその方が確実だな。カリルたちの口にも合えば、安心してお客さんにも出せる」
「では、明日の昼に昆布を取りに行くカピか? 今日は米農家の面接があるカピから、無理カピが」
「あ、そうか面接今日か。煉瓦は大丈夫なの?」
「今日は焼きじゃからの。釜に運びさえすれば、陶器工房が巧くやってくれるからの。また男衆が来てくれるからの、大丈夫じゃ」
「そっか。じゃあ晩にでも作り方調べなきゃ。昆布って天日とかに干すだけで良いのかな」
「鰹も入荷してもらわんといかんの。鰹節を作るんじゃろ?」
「うん。前入荷して貰った時は1尾だったから、タタキとツナに、って、あ、うわ、ツナ忘れてたうっかりしてた! 冷蔵庫に入れてたんだった。うわー何で忘れてたかな!」
壱は頭を抱える。翌日の朝食に使おうと思って冷蔵庫に入れていたのに、すっかりと忘れていた。俺とした事が迂闊。
「ほう、ツナとはあの缶詰のやつかの? 家で作れるものなのかの?」
「作れるよ。賞味期限は大丈夫だから、今日の夜の賄いで何か作ってみようかな。ホワイトソースが余ったら入れて……て、あ、鰹節の話から逸れた」
「鰹は、今日漁師に言っておくかの。今日はもう漁に出ておるじゃろうからの。明日入荷してもらうかの」
「うん。そうしたら明日鰹節作れるかな。これも作り方調べておかなきゃ」
確か燻製とかをするのだったかと思うが、ちゃんと調べて美味しいものを作らねば。
「うんうん。この雑炊も旨いが、やはり鰹と昆布の出汁が懐かしいのう。楽しみじゃのう」
「うん、俺も楽しみ。やっぱりちゃんとした味噌汁が飲みたい。その前にツナだな。鰹だけど、大丈夫かな」
「多分大丈夫じゃ。そもそも村人の鰹が苦手な原因が生の時の癖じゃったからの。ツナにしたら消されるじゃろ?」
「大丈夫な筈。じゃあ賄いで食べて貰ってみて良いかな。これも巧く行ったら新しいメニューに出来るかな」
「そうじゃな。段取りの調整が要るじゃろうがの」
さて、ツナの評判が今から気になるところである。楽しみでもあった。
10
お気に入りに追加
500
あなたにおすすめの小説
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します
黒木 楓
恋愛
隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。
どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。
巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。
転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。
そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。
目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し
gari
ファンタジー
突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。
知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。
正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。
過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。
一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。
父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!
地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……
ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!
どうする? どうなる? 召喚勇者。
※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~
甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって?
そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる