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4章 期間限定の恩恵
第9話 ファーストコンタクト
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「さかなし」は今日も通常営業である。お昼に近付くとお客さまもぼちぼちと増え出し、店内のご利用も増える。
(お昼からビールとたこ焼きって、最高やもんなぁ)
渚沙はそんなことを思いながらたこ焼きを焼き、店内のお客さまにご注文の品を運んだ。そんな賑わいを横に持ち帰りのお客さまの対応もする。
座敷童子期間の様な混雑は無いので、今は余裕を持って回せるのである。
すると、一際背の小さなお客さまがひょっこりと現れた。
「たこ焼き10個ください」
幼い高い声でそう言うのは、和馬くんだった。驚いた。座敷童子が「さかなし」にいない今、もう来ないだろうと思っていたからだ。
横を見ると、座敷童子の姿は無い。お家にいるか、母親に付いて行っているのだろう。和馬くんがこの時間にお昼ごはんを買いに来ているということは、今母親は仕事中のはずである。
「はい。お待ちくださいね」
渚沙は焼き上がっているたこ焼きをひょいひょいと発泡スチロールの容器に盛り付ける。ソースを塗って、マヨネーズを網状に掛けた。
蓋をして輪ゴムで押さえ、ナイロン袋に入れる。
用意できたそれを渡し、お金を貰えば良いのだが、何となく和馬くんをこのまま帰すのがもったいないと思ってしまった。せっかく来てくれたのに。ちょうど順番待ちのお客さまもいない。そこで渚沙は何気無さを装って声を掛けてみた。
「ねぇ、ぼく、この前も来てくれたやんねぇ。お姉ちゃんのたこ焼き、美味しい?」
すると和馬くんは、まさか話し掛けられるとは思っていなかったのか一瞬きょとんとした顔になり、次には満面の笑顔を浮かべてくれた。
「うん、おいしいです!」
その表情に渚沙は和みつつほっとする。こんな朗らかな笑みを作ることができるのだから、和馬くんの心は大丈夫、そう感じた。
そして丁寧な言葉をきちんと使えることにも感心する。母親は勉強だけで無く、躾もきちんとしているのだろう。もちろん和馬くんの頭の良さも一因だろうが。
「良かった。たくさん食べてな。毎日やったら飽きるやろうけど、また買いに来たってな。お店の中でも食べれるし」
すると和馬くんは少しもじもじしてしまう。
「でも、中に入ってくん、おとなの人ばっかりやから、ぼく、子どもやから」
「子どもでも大丈夫やで。ジュースもあるで。コーラとかオレンジとか」
渚沙のせりふに和馬くんは目を輝かせた。だがすぐにがっくりと肩を落としてしまう。
「でもぼく、お金、500円しかあれへんから」
なるほど。やはり母親からもらっているお昼ごはん代は500円なのか。小学生の食事代としては充分だとは思うが、確かにジュースやお菓子などの嗜好品までは手が届きづらい。
渚沙は思いっきり背伸びをし、鉄板越しに身を乗り出す。鉄板の熱を身体にじわりと感じながら、声を潜めて言った。
「ほな、今日だけお姉ちゃんが、ジュースご馳走したげるわ。皆には内緒やで」
渚沙は和馬くんを安心させるために、にこりと笑う。すると和馬くんは嬉しそうに目を丸くした。
「え、ええんですか? あ、でも、お母ちゃんに知られたら、おこられてまうかも」
渚沙はまたにんまりと笑う。
「お母さんにも、なーいしょ。たまにはちょっとだけ悪いことしてみぃひん? 今日だけやねんから」
和馬くんは迷う素振りを見せるが、ジュースの魅力に抗えなかったのだろう。やがて「あ、ありがとうございます!」と元気に頭を下げた。渚沙は「うん」と笑顔で頷いた。
「ほな、中へどうぞ。たこ焼きとジュース、持ってくね。ジュース、何がええ? コーラとオレンジと、カルピスと、あとはスプライトやで」
「コーラ、お願いします」
「はぁい。少し待っててな」
和馬くんが店内に入って来るのを見届けてから、渚沙は新しいたこ焼き10個を舟皿に用意する。包んでしまった分は、営業後にグラタンにでもして、茨木童子たちに食べてもらおう。とりあえずは蓋を開けて置いて、粗熱が取れてから冷蔵庫に入れたら良い。
コーラはコカコーラを缶で仕入れている。トレイにたこ焼きとお箸、コーラにグラスを乗せて和馬くんの元に運んだ。
「はい、お待たせしました」
「ありがとうございます!」
熱々ほかほかのたこ焼きの上では削り節がふわふわと踊っていて、きんと冷えたコーラは汗をかく寸前である。和馬くんはさっそくコーラのプルタブを開け、グラスに注いでぐいと飲み干した。「はぁっ!」と心地良さそうな息を吐く。それが幸せそうで、渚沙はつい微笑ましくなってしまった。
夏の盛りは過ぎたとはいえ、外はまだ暑い。喉も乾いていたことだろう。
次に和馬くんはお箸でたこ焼きを割り、はふはふと口に運んで、満足げに目を細めた。
(お昼からビールとたこ焼きって、最高やもんなぁ)
渚沙はそんなことを思いながらたこ焼きを焼き、店内のお客さまにご注文の品を運んだ。そんな賑わいを横に持ち帰りのお客さまの対応もする。
座敷童子期間の様な混雑は無いので、今は余裕を持って回せるのである。
すると、一際背の小さなお客さまがひょっこりと現れた。
「たこ焼き10個ください」
幼い高い声でそう言うのは、和馬くんだった。驚いた。座敷童子が「さかなし」にいない今、もう来ないだろうと思っていたからだ。
横を見ると、座敷童子の姿は無い。お家にいるか、母親に付いて行っているのだろう。和馬くんがこの時間にお昼ごはんを買いに来ているということは、今母親は仕事中のはずである。
「はい。お待ちくださいね」
渚沙は焼き上がっているたこ焼きをひょいひょいと発泡スチロールの容器に盛り付ける。ソースを塗って、マヨネーズを網状に掛けた。
蓋をして輪ゴムで押さえ、ナイロン袋に入れる。
用意できたそれを渡し、お金を貰えば良いのだが、何となく和馬くんをこのまま帰すのがもったいないと思ってしまった。せっかく来てくれたのに。ちょうど順番待ちのお客さまもいない。そこで渚沙は何気無さを装って声を掛けてみた。
「ねぇ、ぼく、この前も来てくれたやんねぇ。お姉ちゃんのたこ焼き、美味しい?」
すると和馬くんは、まさか話し掛けられるとは思っていなかったのか一瞬きょとんとした顔になり、次には満面の笑顔を浮かべてくれた。
「うん、おいしいです!」
その表情に渚沙は和みつつほっとする。こんな朗らかな笑みを作ることができるのだから、和馬くんの心は大丈夫、そう感じた。
そして丁寧な言葉をきちんと使えることにも感心する。母親は勉強だけで無く、躾もきちんとしているのだろう。もちろん和馬くんの頭の良さも一因だろうが。
「良かった。たくさん食べてな。毎日やったら飽きるやろうけど、また買いに来たってな。お店の中でも食べれるし」
すると和馬くんは少しもじもじしてしまう。
「でも、中に入ってくん、おとなの人ばっかりやから、ぼく、子どもやから」
「子どもでも大丈夫やで。ジュースもあるで。コーラとかオレンジとか」
渚沙のせりふに和馬くんは目を輝かせた。だがすぐにがっくりと肩を落としてしまう。
「でもぼく、お金、500円しかあれへんから」
なるほど。やはり母親からもらっているお昼ごはん代は500円なのか。小学生の食事代としては充分だとは思うが、確かにジュースやお菓子などの嗜好品までは手が届きづらい。
渚沙は思いっきり背伸びをし、鉄板越しに身を乗り出す。鉄板の熱を身体にじわりと感じながら、声を潜めて言った。
「ほな、今日だけお姉ちゃんが、ジュースご馳走したげるわ。皆には内緒やで」
渚沙は和馬くんを安心させるために、にこりと笑う。すると和馬くんは嬉しそうに目を丸くした。
「え、ええんですか? あ、でも、お母ちゃんに知られたら、おこられてまうかも」
渚沙はまたにんまりと笑う。
「お母さんにも、なーいしょ。たまにはちょっとだけ悪いことしてみぃひん? 今日だけやねんから」
和馬くんは迷う素振りを見せるが、ジュースの魅力に抗えなかったのだろう。やがて「あ、ありがとうございます!」と元気に頭を下げた。渚沙は「うん」と笑顔で頷いた。
「ほな、中へどうぞ。たこ焼きとジュース、持ってくね。ジュース、何がええ? コーラとオレンジと、カルピスと、あとはスプライトやで」
「コーラ、お願いします」
「はぁい。少し待っててな」
和馬くんが店内に入って来るのを見届けてから、渚沙は新しいたこ焼き10個を舟皿に用意する。包んでしまった分は、営業後にグラタンにでもして、茨木童子たちに食べてもらおう。とりあえずは蓋を開けて置いて、粗熱が取れてから冷蔵庫に入れたら良い。
コーラはコカコーラを缶で仕入れている。トレイにたこ焼きとお箸、コーラにグラスを乗せて和馬くんの元に運んだ。
「はい、お待たせしました」
「ありがとうございます!」
熱々ほかほかのたこ焼きの上では削り節がふわふわと踊っていて、きんと冷えたコーラは汗をかく寸前である。和馬くんはさっそくコーラのプルタブを開け、グラスに注いでぐいと飲み干した。「はぁっ!」と心地良さそうな息を吐く。それが幸せそうで、渚沙はつい微笑ましくなってしまった。
夏の盛りは過ぎたとはいえ、外はまだ暑い。喉も乾いていたことだろう。
次に和馬くんはお箸でたこ焼きを割り、はふはふと口に運んで、満足げに目を細めた。
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