たこ焼き屋さかなしのあやかし日和

山いい奈

文字の大きさ
29 / 40
4章 期間限定の恩恵

第4話 小さなお客さまの事情

しおりを挟む
 座敷童子が「さかなし」に来て数日。座敷童子の影響により繁忙期が続いていたが、今日1日乗り切れば、明日は水曜、定休日である。渚沙なぎさは鉄板を前に「よっしゃあ!」と気合を入れた。

 お店を開ける10時には、鉄板を焼き上がったたこ焼きでいっぱいにしておかなくては。渚沙は温まった鉄板に手際良くたこを落とした。



 お昼にはまた、たけちゃんが握ってくれたふんわりおにぎりを頬張り、列をなすお客さまにひたすらたこ焼きを焼き続けたら、19時半に生地が無くなってしまった。

 不思議なもので、そうなるとお客さまはぱたりと途絶える。そしてちょうど売り切れるのである。最後のお客さまとのやりとりもいつものことになっていた。

「あと10個しか無くて~」

「あ、ええよええよ、それで。全部ちょうだい」

 そう事も無げに言ってくれる。本当にありがたい。この良い塩梅も、やはり座敷童子効果なのだろうか。見事な采配である。



 最後のお客さまをお見送りし、「さかなし」のシャッターを閉めて鉄板の火を一旦落とすと、ふらふらと歩いて店内の机に突っ伏す。座敷童子期間はもうこれがルーティンの様になっている。疲れてはいるが、達成感も大きい。今日もやり切った、そんな思いもあるのである。

 仕事終わりの渚沙に竹ちゃんが冷たい麦茶を持って来てくれるのはいつものことなのだが、座敷童子期間は特にありがたい。渚沙は「ありがと~」と間延びした返事をして、一気に飲み干した。竹ちゃんはおかわりを入れるために、グラスを手に水場に向かった。

「お疲れさまじゃな」

 座敷童子が正面でにこにこしている。その可愛らしい笑顔に渚沙は癒される。座敷童子は勤勉な人には優しいのである。

「ありがと~。わらしちゃんのお陰で大盛況やで」

「良いことじゃ。せいぜい励め」

「うん。もうちょっと踏ん張る。わらしちゃんはどう? 次のお家見つかりそう?」

「それなんじゃがのう」

 座敷童子は考え込む様に眉根を寄せると、重々しく口を開いた。

「渚沙、ここしばらく、お昼ごろに買いに来る子どもがいるの、覚えておらんか?」

「子ども?」

「男の子じゃ」

「……ああ、おるな」

 竹ちゃんがおにぎりを届けてくれるのと前後して、確かに小学生低学年ぐらいの痩せ型の男の子がたこ焼きを買いに来ていた。

 この繁盛期だし、忙しさにかまけてお客さまの年齢までは気にしていなかったが、言われてみたら確かに。座敷童子が来てからのことである。お昼間に子どもひとりで買いに来ることは「さかなし」では少ないので、どうにか記憶に残っていた。

「今、夏休みやっけ?」

「夏休みはとうに終わっているカピよ。麦茶のおかわりカピ」

「あ、ありがとう」

 竹ちゃんが麦茶を置いてくれ、会話に加わる。そのまま渚沙の横に腰を下ろした。

「そっか、もう9月やもんな。新学期始まってるやんな。学校どうしたんやろ」

 渚沙は首をかしげる。もしかしたら行っていないのだろうか。いつも500円玉を握り締めて、それで買えるだけを買っていた様に思う。個数的にひとり分なので、その男の子の分か。それとも他の誰かの分か。何か事情があるのだろうか。

 夏休みの間なら自分のお昼ごはんを買いに来ているのだろうと想像できる。今やご両親が揃って仕事を持っているのは珍しく無いからだ。だが2学期が始まっている今、確かに不自然なのである。

「わしは、その子が気になるんじゃ。なので少し調べてみようと思う」

「そうなん? いつもみたいにお母さんや無くて?」

「どうも、あの子どももそうじゃが、家に問題がありそうな気がするのじゃ。ま、有り体に言えば、わし好みの母親がいそうな気がするのじゃ」

「結局そこかい」

 自分の欲望に忠実とも言える座敷童子のせりふに、渚沙は苦笑した。しかしやはり天真爛漫な座敷童子はそうで無くては。

 あの男の子が何か問題を抱えているとして、そして座敷童子好みの母親がいたとして、座敷童子が介入して解決できるかどうか。

 そればかりは渚沙にも竹ちゃんにも判らない。ただひとつ分かることは、その家庭が発展したとして、怠れば待っているのは破滅ということである。

 それが座敷童子というものではあるのだが、渚沙としては何とも複雑な気持ちである。それでも男の子の家庭が少しでも救われたら。今はそう願うしか無かった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

とくら食堂、朝とお昼のおもてなし

山いい奈
キャラ文芸
25歳の都倉碧は、両親と一緒に朝昼ごはんのお店「とくら食堂」を営んでいる。 やがては跡を継ぐつもりで励んでいた。 そんな碧は将来、一緒に「とくら食堂」を動かしてくれるパートナーを探していた。 結婚相談所に登録したり、紹介してもらったりしながら、様々な男性と会うのだが? 前職でのトラブルや、おかしなお見合い相手も乗り越えて。 25歳がターニングポイントになるのか。碧の奮闘記です。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

処理中です...