たこ焼き屋さかなしのあやかし日和

山いい奈

文字の大きさ
13 / 40
2章 渚沙と竹ちゃんの出会い

第5話 次の約束

しおりを挟む
「はーい、たけちゃん、そろそろたこ焼きも焼きあがるで~。どうやって食べる? お出汁効いてるからそのままか、定番なんはソースとマヨネーズ。ポン酢も美味しいで」

 竹ちゃんは口の中の焼肉をごくりと飲み込んで、楽しそうに声を上げた。

「いろいろな味で食べてみたいカピ!」

「ほな、ちょっとずつ味変えよか」

 渚沙なぎさは焼き上がった12個のたこ焼きを白い丸皿に盛り付け、一旦コンロの火を落とす。4個にソースとマヨネーズ、4個にポン酢を塗り、4個はそのままにしておいた。多くのお店で「素焼き」と言われているものである。たこ焼きそのものの味に自信があるからできるのである。渚沙にとってお祖母ちゃん直伝のたこ焼きは、自慢の一品なのだ。

 たこ焼き発祥のお店である会津屋さんの元祖たこ焼きは、生地にたっぷりのお出汁はもちろん多分お醤油などでも味を加えて、ソースなどは付けない前提で提供している。「素焼き」がスタンダードなのである。大阪もんに指定されている、大阪名品のひとつなのだ。

「どれから食べる? 味の薄いのんからがおすすめやけど」

「では何も付けていないのからカピな。小皿に乗せるが良いカピ」

「はい、どうぞ」

 渚沙がお箸で小皿にたこ焼きを載せてあげると、竹ちゃんは「うむ」と頷き、たこ焼きにかぶりついた。

「あ、熱いから気をつけて!」

 言い忘れていたと渚沙は慌てる。焼きたて熱々のたこ焼きはもはや凶器だ。おでんの卵に匹敵する。

「はふ、平気だカピ。はふ」

 竹ちゃんは口をはふはふさせながらたこ焼きを頬張る。そしてやがて、うっとりと目を細めた。

「これは……美味しいカピね! たこの甘さが全体に広がっているのだカピ。牛の肉も美味しいカピが、たこの美味しさにはびっくりなのだカピ」

 相当気に入った様子である。渚沙も自分が作ったものを、お祖母ちゃんのたこ焼きを、ここまで褒めてくれるのはとても嬉しい。それと同時に安心する。

「カピバラって確か、水辺で暮らすんやんねぇ。せやからお肉とかより海の幸の方が好きなんやろか」

「そうカピが、海では無いカピよ。野生が海辺に現れるという話は聞いたことがあるカピが」

「そっかぁ。でも同じ水やし」

「雑カピな」

 あっけらかんと言う渚沙に、竹ちゃんは呆れた様子である。確かに海の水と川の水は全然違うものであるが。

「でもこのたこ焼きは良いものカピ。次はポン酢のを食べるカピ」

「はぁい。これもあっさり食べられると思うで」

 渚沙はポン酢を塗ったたこ焼きを、竹ちゃんの小皿に取り分ける。

「うむ」

 竹ちゃんはまた器用にかぶりつく。そして「ふむ」と目を弓なりにした。

「これも良いカピね。ポン酢が良い仕事をしているカピ。酸味が油を中和するのだカピな。たこの味わいも引き立つのだカピ」

「あはは。竹ちゃん、なんやグルメレポーターみたいやなぁ。テレビみたい」

 渚沙は竹ちゃんの様子がおかしくて、つい笑ってしまう。しかもなかなか的確な食レポでは無いか。竹ちゃんは味の分かるカピバラなのか。竹ちゃんはこくんと首を小さく傾げた。

「テレビ。聞いたことはあるカピ。確か娯楽だったのだカピ?」

「そうやで。映画とかドラマとかお笑いとか、そういうのが観れるねん。さすがに竹ちゃんは観たこと無いかぁ」

「丘の後、すぐに古墳だったのカピ。そんな隙間は無かったカピ」

「ほな、観てみる?」

 渚沙は言うと、リモコンを手にして、ダイニングの壁際に置いてあるテレビの電源を入れた。この部屋はリビングも兼ねているのである。

 お祖母ちゃんが「さかなし」を始めるにあたって建て替えた時、この2階に生活基盤の全てを整えたので、何かとコンパクトにまとめてあるのだ。ひとり暮らしだったので、リビングダイニングで充分なのである。渚沙にとっても不満は無い。むしろ使いやすいと言えた。

 平日の夕方、テレビに映し出されたのはニュース番組だった。これだと竹ちゃんには面白く無いだろうと、渚沙はザッピングをしてみる。しかし時間的なものなのか、どこの局でもニュースや報道バラエティだった。なんとタイミングの悪い。

「ごめん竹ちゃん。ニュースとかおもんないやろ」

「いや、日本の情勢を知っておくのも悪く無いカピ。それよりもうひとつのたこ焼きを寄越すのだカピ」

「あ、ソースマヨな。はいどうぞ」

 最後のトッピング、ソースマヨネーズのたこ焼きを小皿に置いた。竹ちゃんはさっそくぱくつく。

「ふむ! これがオーソドックスな味付けなのだカピな。ふむふむ、これはこれでなかなか。ソースとマヨネーズのこってりさで、たこ焼きがまるでジャンクフードカピ」

 満足げにふんふんと鼻を鳴らしている。この味もまた気に入ってくれた様だ。

 今家にある調味料では限界があるが、明太子マヨネーズやホワイトソースなどを掛けたり、中にお餅やウインナを入れたりするアレンジもある。「さかなし」ではそこまでの味付けはしないが、個人的にはありだと思っている。

 今度また竹ちゃんにたこ焼きを食べてもらう機会があれば、いろいろと作ってみるのも良いかも知れない。ベーシックなもので無くても、お家たこ焼きなのだから、好きな具材を見つけてもらえれば良いのだ。

「まぁ、たこ焼きはジャンクフード言うても過言や無いけどね。B級グルメっちゅうか」

「グルメにA級やB級があるのだカピか? 人間の食生活は不思議なものカピ」

「A級グルメって明確に言うてるわけや無いけどね。でもたこ焼き、お気に召してくれたみたいで良かったわ」

「また食べに来ても良いカピか? テレビも、他の番組も見てみたいカピ」

 好奇心を刺激されたのか、竹ちゃんの黒い目が輝いている様に見えた。

「もちろん。いつでもおいで。あ、水曜日以外は朝から夜の8時までお店やってるから、それ以外の時間でな」

「分かったカピ」

 また竹ちゃんに会えるんや。そう思うと心の底から嬉しくなり、渚沙はにっこりと微笑んだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

とくら食堂、朝とお昼のおもてなし

山いい奈
キャラ文芸
25歳の都倉碧は、両親と一緒に朝昼ごはんのお店「とくら食堂」を営んでいる。 やがては跡を継ぐつもりで励んでいた。 そんな碧は将来、一緒に「とくら食堂」を動かしてくれるパートナーを探していた。 結婚相談所に登録したり、紹介してもらったりしながら、様々な男性と会うのだが? 前職でのトラブルや、おかしなお見合い相手も乗り越えて。 25歳がターニングポイントになるのか。碧の奮闘記です。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

処理中です...