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2章 新しいお家といちょう食堂
第9話 どうか繁盛します様に
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そろそろお料理も届きつつあった。リリコは「いただきます!」と手を合わせてお箸を伸ばす。
舌平目のお造りは、上品な甘さを蓄えた白身だ。新鮮だからこそお刺身で食べることができるのだそうだ。淡白そうに見えてしっかりとした旨味が広がる。
菊菜(春菊)のごま和えは渋みやえぐみがほとんど無く、爽やかな香りと、白すりごまをふんだんに使った和え衣との組み合わせが最高である。
なにわ星の豚のローストは、程よいさしが入っていてきらきらと輝いている。脂はあっさりしていて甘みが強く、噛めばぶわっと旨味が広がる。
田辺大根のふろふきは、きめの細かい田辺大根にふくよかなお出汁がしみじみと沁みて、田辺大根そのものの甘さと相まってたまらない旨味が舌に乗る。味噌だれは赤味噌を使っていて、それも田辺大根の甘さを引き立たせる。
大阪地玉子のだし巻きは、味の濃い卵にお出汁が混ざり、なんとも優しい味わいだ。大根おろしが添えられていて、お醤油を少し落としてだし巻き卵と絡めたら、また旨さが強調される。
そうして食事を進めて行くと、箕面ビールのヴァイツェンがすっかりと無くなった。
「若大将さん、飲み物、焼酎で何か作ってもらえますか?」
「ええで。今回は柚子でどうや」
「じゃあそれで」
「はいよ。ちょっと待ってな」
「若大将さん、私は燗酒がいただきたいんやけど、どの日本酒がええやろか」
「そうですねぇ。燗やったら、かたの桜の生もとか、呉春の本丸か。お任せしてもらってもええですか? 一合と二合どっちにします?」
「一合にしとこかなぁ。楽しみやわぁ」
まずはリリコの柚子サイダー酎ハイが出された。透明感のある淡い黄色いに満たされたタンブラーと、柚子と柚子のキャラクターが描かれたラベルの瓶が置かれる。
「お待ちどう」
「ありがとうございます」
リリコはさっそくタンブラーに口を付ける。ほのかな柚子の香りがふわっと鼻を抜け、軽やかな淡い酸味が広がる。リリコは「んん~」と目を細めた。
「美味しい。さっぱりと軽い。香りがええですねぇ」
口当たりも良くてつい飲み過ぎそうになってしまう。リリコは気を付けながらタンブラーを傾けた。
やがてお祖母ちゃんの燗酒も、おちょこを添えられて出された。くびれのある徳利からふわりと独特の香りが上がっている。リリコには嗅ぎ慣れない香りだったが、嫌では無い。
「お待たせしました。秋鹿の山廃無濾過です」
若大将さんは秋鹿の山廃無濾過の一升瓶もカウンタに置いた。和紙に墨文字のラベルの瓶だ。
「ぬる燗にさしてもらいました。あっさりしてて飲みやすい思います」
「ありがとう」
「お祖母ちゃん、注ぐわ」
「あらあら、ありがとう」
徳利からとぽとぽとお猪口にそそぐと、またふぅわりと香りが立ち上がる。リリコはついそれをすぅと嗅ぐ。やはり嫌な匂いでは無い。むしろ良い香りに感じる。軽いものとは言え自分もお酒を飲む様になって、好みなどが変わって来たのだろうか。
お祖母ちゃんは注がれた秋鹿の山廃無濾過をちびりとゆっくり含み、「あらぁ」と表情を綻ばせた。
「美味しいわぁ。ほんの少しやけど酸味? みたいなのを感じてさっぱりと飲みやすいわぁ。せやのにまろやかな感じもするんやねぇ。お米の味がしっかりしてるんやわ」
「気に入ってもらえましたやろか」
「ええ、ええ。美味しいのん選んでくれてありがとうねぇ。次の時には他のもんも飲んでみたいわぁ」
「はい。片野桜も呉春も美味しいですよってに、他にもいろいろ試して欲しいですわ。この秋鹿の山廃無濾過は、徳さんがお気に召して、よう飲んではったんですわ」
「夫が?」
「はい。いつも美味しそうに飲んではりましたよ」
「まぁ」
お祖母ちゃんは知らなかったからか目を見開いたが、次には懐かしそうに顔を和ませる。
「お爺ちゃん、お家ではなんでもええ言うて安い紙パックのお酒飲んでたのにねぇ。お祖父ちゃんのとっておきはここにあったんやねぇ」
「寒さ越したら、徳さんが好きやった冷酒なんかもありますんで、また試してみてください」
「それも楽しみやねぇ」
「ねぇお祖母ちゃん、一口もらってええ?」
リリコが訊くと、お祖母ちゃんは「あらぁ」と目を丸くした。
「そりゃあもちろんええけど、リリちゃん飲めるやろか」
「香りが結構ええなって思って。それにお祖父ちゃんが好きやったお酒飲んでみたい」
「じゃあちょこっと口を付けるぐらいにね。日本酒は熱いのんでも冷たいのんでも、そうぐいぐい飲むもんと違うからねぇ。ゆっくりね」
「うん」
リリコはお祖母ちゃんからお猪口を受け取ると、軽く舐める程度に舌に乗せた。お祖母ちゃんは少し心配げにリリコを見守る。
「あ、美味しいわ」
するとお祖母ちゃんは「あらぁ」と目をぱちくりさせる。リリコも自分から飲んでおきながら驚いて、目を瞬かせた。
「え、美味しい。なんで?」
「ん? リリコちゃん秋鹿飲めたんか?」
若大将さんが顔を上げる。
「は、はい。びっくりしました。なんでやろ。ウィスキーは飲まれへんかったのに」
「日本酒は燗したら少しアルコール飛ぶし、まろやかになるからな。それにウィスキーとは味が全然違うやろ。ウィスキー飲まれへんでも日本酒飲める人おるで」
「そうなんですか?」
「せやで。せやけど気ぃ付けて飲みや。強い酒やからな。悪酔いしてまう」
「はい。今日はこの一口にしときます。平野さんがいろんなお酒一緒に飲むと、ふつか酔いとか悪酔いとかしやすいて言うてはったんで」
「それがええ。日本酒はまた今度ゆっくり飲んだらええわ。他にも飲みやすい大阪の地酒ようけあるから教えたる」
「はい。ありがとうございます!」
また飲めるお酒ができた。リリコはまた楽しみが増えたと嬉しくなる。今度はぜひ冷酒に挑戦したい。所長さんが好きで良く美味しそうに飲んでいるのだ。だからか日本酒は大人のお酒だというイメージが強い。お祖父ちゃんのお好みでもあったし。
「あ、若大将さん、お祝い花の写真、SNSにアップしましたよ」
「ありがとうな。後で見してもらうわ。そういやリリコちゃんの事務所からもご丁寧に送ってもろて。ほんまにありがとうな。事務所にはまたあらためてお礼送るけど、リリコちゃんからもよろしゅう言うといて」
「はい。所長さんたちは、また落ち着いたころに来るて言うてはりました。今日なんかは待ちに待った常連さん方が押し寄せるやろうからって」
「ほんまありがたいことに、満員御礼や。せやからリリコちゃんたちともあんまり話ができひんで済まんなぁ」
「いいえぇ。お客さんたちが皆さん楽しそうなんで何よりです。立ってはる人もおるのに、私らゆっくりさせてもろうて」
「大家さんとそのお孫さんやねんから当たり前や。久実子さんとリリコちゃんのお陰で、前と変わらん家賃でこの店再開できたんやから」
「あらあらぁ、私は好きでここに入ってもろたんやから」
お祖母ちゃんが言うと、若大将さんは「いえ、ほんまに助かりました」と頭を下げる。
「まだばたばたしとるけど、ゆっくりしてってくださいね」
若大将さんはにっと笑顔を残して作業に戻って行った。
「ほらね、リリちゃん、「いちょう食堂」さんに来てもろて良かったやろ?」
お祖母ちゃんは嬉しそうににこにこしている。リリコもそう思う。世界が広がった気がしている。
リリコの世界はまだまだ狭い。学生のころは家と学校、就職しても家と事務所だ。リリコは事務員なのでお客さまとの関わりも少ない。
今はそこに「いちょう食堂」が加わった。それでも広い世界とは言えないだろう。だが自分が住まう大阪で育まれる素晴らしい食材やお酒に触れられたことで、ほんの少しだが成長できた様な、いろいろなことが知れた様な気がしているのだ。
大将さんが言っていた、まずは自分が住まう大阪の美味しいものを、の信念。こうしていろいろな大阪のものに触れたリリコは、それができて本当に良かったと心の底から思うのだ。こんな美味しい地元のものを知らないなんてもったいない。
いちょう食堂にいると、隣に座った常連さんがいろいろなお話をしてくれたりして、それもまたリリコには良い勉強になる。いろんな人がいるのだな、いろんな考え方があるのだな、と感心する。
「うん」
リリコは頷く。それはとても素晴らしいことだと思うのだ。これからも少しずつでも世界を広げて行けたらなと思う。
21時過ぎ、すっかりと満足してご機嫌でお暇する。お祝い花を見るとかなり少なくなっていて、あちらこちらにぽこぽこ穴が空いていた。
「うちらももろて行こうかねぇ」
お祖母ちゃんが言って、まだぴんと伸びているお花に手を伸ばす。
大阪ではこうしたお祝い花をもらって良い文化があるのだ。無くなれば無くなるほど、そのお店は繁盛するすると言われている。さすがに全部は多いが、リリコはお祖母ちゃんと手分けしてお花を引き抜き、両手で持てるほどの花束を作った。赤やピンク、オレンジと色とりどりのバラやガーベラやアリストロメリアなどに、緑と白いかすみ草を添えて。
「綺麗やねぇ」
「ほんまに。花瓶どこにしまったっけ」
「和室の押し入れに大きいのあるよ。居間に飾ろうねぇ」
今のリビングは前の畳敷きと違ってフローリングの洋室なのだが、お祖母ちゃんは居間と呼ぶのが癖になっている様だ。間違っているわけでは無いし、リリコもいちいち訂正しない。
中にはまだたくさんの常連さんがいるので、皆さんによってお祝い花は無くなってくれるだろう。ジンクスは信じれば、きっと良い方に向かう。
リリコは「どうか「いちょう食堂」さんが繁盛します様に」と心の中で手を合わせた。
舌平目のお造りは、上品な甘さを蓄えた白身だ。新鮮だからこそお刺身で食べることができるのだそうだ。淡白そうに見えてしっかりとした旨味が広がる。
菊菜(春菊)のごま和えは渋みやえぐみがほとんど無く、爽やかな香りと、白すりごまをふんだんに使った和え衣との組み合わせが最高である。
なにわ星の豚のローストは、程よいさしが入っていてきらきらと輝いている。脂はあっさりしていて甘みが強く、噛めばぶわっと旨味が広がる。
田辺大根のふろふきは、きめの細かい田辺大根にふくよかなお出汁がしみじみと沁みて、田辺大根そのものの甘さと相まってたまらない旨味が舌に乗る。味噌だれは赤味噌を使っていて、それも田辺大根の甘さを引き立たせる。
大阪地玉子のだし巻きは、味の濃い卵にお出汁が混ざり、なんとも優しい味わいだ。大根おろしが添えられていて、お醤油を少し落としてだし巻き卵と絡めたら、また旨さが強調される。
そうして食事を進めて行くと、箕面ビールのヴァイツェンがすっかりと無くなった。
「若大将さん、飲み物、焼酎で何か作ってもらえますか?」
「ええで。今回は柚子でどうや」
「じゃあそれで」
「はいよ。ちょっと待ってな」
「若大将さん、私は燗酒がいただきたいんやけど、どの日本酒がええやろか」
「そうですねぇ。燗やったら、かたの桜の生もとか、呉春の本丸か。お任せしてもらってもええですか? 一合と二合どっちにします?」
「一合にしとこかなぁ。楽しみやわぁ」
まずはリリコの柚子サイダー酎ハイが出された。透明感のある淡い黄色いに満たされたタンブラーと、柚子と柚子のキャラクターが描かれたラベルの瓶が置かれる。
「お待ちどう」
「ありがとうございます」
リリコはさっそくタンブラーに口を付ける。ほのかな柚子の香りがふわっと鼻を抜け、軽やかな淡い酸味が広がる。リリコは「んん~」と目を細めた。
「美味しい。さっぱりと軽い。香りがええですねぇ」
口当たりも良くてつい飲み過ぎそうになってしまう。リリコは気を付けながらタンブラーを傾けた。
やがてお祖母ちゃんの燗酒も、おちょこを添えられて出された。くびれのある徳利からふわりと独特の香りが上がっている。リリコには嗅ぎ慣れない香りだったが、嫌では無い。
「お待たせしました。秋鹿の山廃無濾過です」
若大将さんは秋鹿の山廃無濾過の一升瓶もカウンタに置いた。和紙に墨文字のラベルの瓶だ。
「ぬる燗にさしてもらいました。あっさりしてて飲みやすい思います」
「ありがとう」
「お祖母ちゃん、注ぐわ」
「あらあら、ありがとう」
徳利からとぽとぽとお猪口にそそぐと、またふぅわりと香りが立ち上がる。リリコはついそれをすぅと嗅ぐ。やはり嫌な匂いでは無い。むしろ良い香りに感じる。軽いものとは言え自分もお酒を飲む様になって、好みなどが変わって来たのだろうか。
お祖母ちゃんは注がれた秋鹿の山廃無濾過をちびりとゆっくり含み、「あらぁ」と表情を綻ばせた。
「美味しいわぁ。ほんの少しやけど酸味? みたいなのを感じてさっぱりと飲みやすいわぁ。せやのにまろやかな感じもするんやねぇ。お米の味がしっかりしてるんやわ」
「気に入ってもらえましたやろか」
「ええ、ええ。美味しいのん選んでくれてありがとうねぇ。次の時には他のもんも飲んでみたいわぁ」
「はい。片野桜も呉春も美味しいですよってに、他にもいろいろ試して欲しいですわ。この秋鹿の山廃無濾過は、徳さんがお気に召して、よう飲んではったんですわ」
「夫が?」
「はい。いつも美味しそうに飲んではりましたよ」
「まぁ」
お祖母ちゃんは知らなかったからか目を見開いたが、次には懐かしそうに顔を和ませる。
「お爺ちゃん、お家ではなんでもええ言うて安い紙パックのお酒飲んでたのにねぇ。お祖父ちゃんのとっておきはここにあったんやねぇ」
「寒さ越したら、徳さんが好きやった冷酒なんかもありますんで、また試してみてください」
「それも楽しみやねぇ」
「ねぇお祖母ちゃん、一口もらってええ?」
リリコが訊くと、お祖母ちゃんは「あらぁ」と目を丸くした。
「そりゃあもちろんええけど、リリちゃん飲めるやろか」
「香りが結構ええなって思って。それにお祖父ちゃんが好きやったお酒飲んでみたい」
「じゃあちょこっと口を付けるぐらいにね。日本酒は熱いのんでも冷たいのんでも、そうぐいぐい飲むもんと違うからねぇ。ゆっくりね」
「うん」
リリコはお祖母ちゃんからお猪口を受け取ると、軽く舐める程度に舌に乗せた。お祖母ちゃんは少し心配げにリリコを見守る。
「あ、美味しいわ」
するとお祖母ちゃんは「あらぁ」と目をぱちくりさせる。リリコも自分から飲んでおきながら驚いて、目を瞬かせた。
「え、美味しい。なんで?」
「ん? リリコちゃん秋鹿飲めたんか?」
若大将さんが顔を上げる。
「は、はい。びっくりしました。なんでやろ。ウィスキーは飲まれへんかったのに」
「日本酒は燗したら少しアルコール飛ぶし、まろやかになるからな。それにウィスキーとは味が全然違うやろ。ウィスキー飲まれへんでも日本酒飲める人おるで」
「そうなんですか?」
「せやで。せやけど気ぃ付けて飲みや。強い酒やからな。悪酔いしてまう」
「はい。今日はこの一口にしときます。平野さんがいろんなお酒一緒に飲むと、ふつか酔いとか悪酔いとかしやすいて言うてはったんで」
「それがええ。日本酒はまた今度ゆっくり飲んだらええわ。他にも飲みやすい大阪の地酒ようけあるから教えたる」
「はい。ありがとうございます!」
また飲めるお酒ができた。リリコはまた楽しみが増えたと嬉しくなる。今度はぜひ冷酒に挑戦したい。所長さんが好きで良く美味しそうに飲んでいるのだ。だからか日本酒は大人のお酒だというイメージが強い。お祖父ちゃんのお好みでもあったし。
「あ、若大将さん、お祝い花の写真、SNSにアップしましたよ」
「ありがとうな。後で見してもらうわ。そういやリリコちゃんの事務所からもご丁寧に送ってもろて。ほんまにありがとうな。事務所にはまたあらためてお礼送るけど、リリコちゃんからもよろしゅう言うといて」
「はい。所長さんたちは、また落ち着いたころに来るて言うてはりました。今日なんかは待ちに待った常連さん方が押し寄せるやろうからって」
「ほんまありがたいことに、満員御礼や。せやからリリコちゃんたちともあんまり話ができひんで済まんなぁ」
「いいえぇ。お客さんたちが皆さん楽しそうなんで何よりです。立ってはる人もおるのに、私らゆっくりさせてもろうて」
「大家さんとそのお孫さんやねんから当たり前や。久実子さんとリリコちゃんのお陰で、前と変わらん家賃でこの店再開できたんやから」
「あらあらぁ、私は好きでここに入ってもろたんやから」
お祖母ちゃんが言うと、若大将さんは「いえ、ほんまに助かりました」と頭を下げる。
「まだばたばたしとるけど、ゆっくりしてってくださいね」
若大将さんはにっと笑顔を残して作業に戻って行った。
「ほらね、リリちゃん、「いちょう食堂」さんに来てもろて良かったやろ?」
お祖母ちゃんは嬉しそうににこにこしている。リリコもそう思う。世界が広がった気がしている。
リリコの世界はまだまだ狭い。学生のころは家と学校、就職しても家と事務所だ。リリコは事務員なのでお客さまとの関わりも少ない。
今はそこに「いちょう食堂」が加わった。それでも広い世界とは言えないだろう。だが自分が住まう大阪で育まれる素晴らしい食材やお酒に触れられたことで、ほんの少しだが成長できた様な、いろいろなことが知れた様な気がしているのだ。
大将さんが言っていた、まずは自分が住まう大阪の美味しいものを、の信念。こうしていろいろな大阪のものに触れたリリコは、それができて本当に良かったと心の底から思うのだ。こんな美味しい地元のものを知らないなんてもったいない。
いちょう食堂にいると、隣に座った常連さんがいろいろなお話をしてくれたりして、それもまたリリコには良い勉強になる。いろんな人がいるのだな、いろんな考え方があるのだな、と感心する。
「うん」
リリコは頷く。それはとても素晴らしいことだと思うのだ。これからも少しずつでも世界を広げて行けたらなと思う。
21時過ぎ、すっかりと満足してご機嫌でお暇する。お祝い花を見るとかなり少なくなっていて、あちらこちらにぽこぽこ穴が空いていた。
「うちらももろて行こうかねぇ」
お祖母ちゃんが言って、まだぴんと伸びているお花に手を伸ばす。
大阪ではこうしたお祝い花をもらって良い文化があるのだ。無くなれば無くなるほど、そのお店は繁盛するすると言われている。さすがに全部は多いが、リリコはお祖母ちゃんと手分けしてお花を引き抜き、両手で持てるほどの花束を作った。赤やピンク、オレンジと色とりどりのバラやガーベラやアリストロメリアなどに、緑と白いかすみ草を添えて。
「綺麗やねぇ」
「ほんまに。花瓶どこにしまったっけ」
「和室の押し入れに大きいのあるよ。居間に飾ろうねぇ」
今のリビングは前の畳敷きと違ってフローリングの洋室なのだが、お祖母ちゃんは居間と呼ぶのが癖になっている様だ。間違っているわけでは無いし、リリコもいちいち訂正しない。
中にはまだたくさんの常連さんがいるので、皆さんによってお祝い花は無くなってくれるだろう。ジンクスは信じれば、きっと良い方に向かう。
リリコは「どうか「いちょう食堂」さんが繁盛します様に」と心の中で手を合わせた。
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