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1章 お祖父ちゃんが遺した縁
15話 和やかな直会
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大将さんと若大将さんはロースだけで無く、バラやモモ、犬鳴豚などもじゃんじゃん焼いてくれる。
野菜もほっくりと焼き上がり、「美味しいわぁ」「旨いなぁ」「たまらん」という皆さんに混じってリリコもそれらを堪能していたのだが。
大将さんと若大将さん、焼いてばかりで全然食べていないでは無いか。今まで気付かなかったなんて迂闊だ。リリコは紙皿と割り箸を簡易テーブルに置くと小走りで網に近付いた。
「大将さん、若大将さん、代わりますから食べてください」
すると大将さんが「いやいや」と首を振る。
「リリコちゃんにそんなことさせられへんわ。じゃんじゃん食べてや」
「いいえぇ。施工主はお祖母ちゃんで、大将さんたちは店子さんになるんです。大将さんたちこそ食べてくれへんと」
リリコは譲らない。すると大将さんは「ありがたいなぁ」と笑う。
「ほな悠太と交代で食べさせてもらいますわ。悠太、お先にいただき」
「いや、親父からよばれぇ」
若大将さんは大将さんの手からトングをそっと奪い取る。
「リリコちゃん、ありがとうさん」
リリコはほっとしてにこっと笑う。若大将さんからトングを受け取ると、並んでお肉を焼き始めた。
家で鉄板焼きをすることもあって、リリコも何度も焼いたことはある。だがプロのタイミングがあるのでは、と若大将さんの手元を見ながらお肉をひっくり返す。
「そうそう。新鮮なええ肉やから、表面しっかり焼いたら大丈夫ですねん」
「そういえば、ステーキでレアって中身ほとんど生ですよね。私あそこまで生っぽいのは苦手で、いつもミディアムレアにするんですけど、それでも中に生っぽいの残ってますよね。あれって食中毒とか大丈夫なんですか?」
「ああ、食中毒の原因の主なん、O157て聞いたことあります?」
「あります。亡くなった人まで出てしもうて、それでお肉の生食ができんくなったんですよね」
「そうそう。基本的にあれは肉の表面に付いとるんですわ。せやから表面しっかり焼いてやればそこは大丈夫ですねん。せやけど時間が経つと菌が中に入って来たりするんで、まぁ好みもありますけど、中まで火を通すんが安心ですわなぁ。ミディアムレアはちゃんと中まで火ぃ通ってるんで大丈夫でっせ。レアも日本やったら大丈夫です」
「生っぽく見えるのに?」
「ほら、ローストビーフも生っぽく見えるでしょ。でもちゃあんと火ぃ通ってますでしょ」
「あ、確かに」
「あれは専用の機械使って、低温で規定の時間火ぃ通してあるんですわ。ステーキも表面にそこそこ強い火通しながら、中にもじわじわ火ぃ通してます。せやから大丈夫なんですわ」
「そうなんですね」
リリコはお祖母ちゃんを手伝ってお料理もするが、家でステーキを焼くことなんてほとんど無く、ローストビーフなども作ったことは無い。勉強になるなぁと和やかに話をしながら、若大将さんとせっせとお肉を焼いて行く。
「せや、若大将さん、あの、良かったらお話する時、敬語っちゅうか、丁寧語やめたって欲しいです」
若大将さんはリリコの申し出に目をぱちくりさせる。
「せやかて、リリコちゃんはお客さんなんやから」
「そうですけど、年上の人に丁寧な言葉使いされるん慣れへんで。これからもこうしていろんなこと教えてもらえたら嬉しいです」
リリコがにっこり笑うと、若大将さんは一瞬ぽかんとし、次には頬を緩ませて「そうか」と言う。
「ほなそうさせてもらおうかな。せやな。これからはお客さんと店員だけやのうて、大家さんのお孫さんと店子の関係にもなるんやもんな。話する機会も増えるやろうし、その方が互いに楽かもな」
「はい。あらためてよろしくお願いしますね」
「おう。よろしゅうな」
リリコがぺこっと小さく会釈をすると、若大将さんは口角を上げた。
「悠太、代わるわ。食わしてもらい」
大将さんが皿を置いてやって来る。クーラーボックスを開けて残りのお肉を取り出した。
「おう」
若大将さんがトングを大将さんに渡す。
「それにしても悠太、えらいリリコちゃんと仲良うなって」
「そうか?」
「そうやろうが。ええ雰囲気やったで~」
大将さんが少しからかう様に言う。リリコはきょとんとしてしまい、若大将さんは「ちょお親父」と渋面を浮かべる。
「リリコちゃんに失礼や無いか」
「はは、いや悪い悪い。なんや微笑ましい思ってなぁ」
すると、そこに鬼の形相の平野さんが飛び込んで来た。
「ちょっと若大将! 俺の許し無しにリリコちゃんにちょっかい出したらあきませんよ!」
リリコと若大将さんは驚いて面食らい、大将さんはおかしそうに「わっはっは!」と大笑いする。
「おいおい平野、なんでお前の許可がいるねん」
所長さんがいつもの様に呆れると、平野さんは「せやかて!」と叫ぶ。
「リリコちゃんに悪い虫が付いたらどうするんです!」
「なんやねん悪い虫て。若大将は悪い虫と違うやろ。お前はほんまに相変わらずやな~」
所長さんが苦笑すると、その場にどっと笑いが沸いた。
リリコは恥ずかしくなってしまい、真っ赤になって俯く。
「若大将さん、なんやすいません……」
「いやいや。ええ先輩やないか」
若大将さんは苦笑し、だがおかしそうに言った。
野菜もほっくりと焼き上がり、「美味しいわぁ」「旨いなぁ」「たまらん」という皆さんに混じってリリコもそれらを堪能していたのだが。
大将さんと若大将さん、焼いてばかりで全然食べていないでは無いか。今まで気付かなかったなんて迂闊だ。リリコは紙皿と割り箸を簡易テーブルに置くと小走りで網に近付いた。
「大将さん、若大将さん、代わりますから食べてください」
すると大将さんが「いやいや」と首を振る。
「リリコちゃんにそんなことさせられへんわ。じゃんじゃん食べてや」
「いいえぇ。施工主はお祖母ちゃんで、大将さんたちは店子さんになるんです。大将さんたちこそ食べてくれへんと」
リリコは譲らない。すると大将さんは「ありがたいなぁ」と笑う。
「ほな悠太と交代で食べさせてもらいますわ。悠太、お先にいただき」
「いや、親父からよばれぇ」
若大将さんは大将さんの手からトングをそっと奪い取る。
「リリコちゃん、ありがとうさん」
リリコはほっとしてにこっと笑う。若大将さんからトングを受け取ると、並んでお肉を焼き始めた。
家で鉄板焼きをすることもあって、リリコも何度も焼いたことはある。だがプロのタイミングがあるのでは、と若大将さんの手元を見ながらお肉をひっくり返す。
「そうそう。新鮮なええ肉やから、表面しっかり焼いたら大丈夫ですねん」
「そういえば、ステーキでレアって中身ほとんど生ですよね。私あそこまで生っぽいのは苦手で、いつもミディアムレアにするんですけど、それでも中に生っぽいの残ってますよね。あれって食中毒とか大丈夫なんですか?」
「ああ、食中毒の原因の主なん、O157て聞いたことあります?」
「あります。亡くなった人まで出てしもうて、それでお肉の生食ができんくなったんですよね」
「そうそう。基本的にあれは肉の表面に付いとるんですわ。せやから表面しっかり焼いてやればそこは大丈夫ですねん。せやけど時間が経つと菌が中に入って来たりするんで、まぁ好みもありますけど、中まで火を通すんが安心ですわなぁ。ミディアムレアはちゃんと中まで火ぃ通ってるんで大丈夫でっせ。レアも日本やったら大丈夫です」
「生っぽく見えるのに?」
「ほら、ローストビーフも生っぽく見えるでしょ。でもちゃあんと火ぃ通ってますでしょ」
「あ、確かに」
「あれは専用の機械使って、低温で規定の時間火ぃ通してあるんですわ。ステーキも表面にそこそこ強い火通しながら、中にもじわじわ火ぃ通してます。せやから大丈夫なんですわ」
「そうなんですね」
リリコはお祖母ちゃんを手伝ってお料理もするが、家でステーキを焼くことなんてほとんど無く、ローストビーフなども作ったことは無い。勉強になるなぁと和やかに話をしながら、若大将さんとせっせとお肉を焼いて行く。
「せや、若大将さん、あの、良かったらお話する時、敬語っちゅうか、丁寧語やめたって欲しいです」
若大将さんはリリコの申し出に目をぱちくりさせる。
「せやかて、リリコちゃんはお客さんなんやから」
「そうですけど、年上の人に丁寧な言葉使いされるん慣れへんで。これからもこうしていろんなこと教えてもらえたら嬉しいです」
リリコがにっこり笑うと、若大将さんは一瞬ぽかんとし、次には頬を緩ませて「そうか」と言う。
「ほなそうさせてもらおうかな。せやな。これからはお客さんと店員だけやのうて、大家さんのお孫さんと店子の関係にもなるんやもんな。話する機会も増えるやろうし、その方が互いに楽かもな」
「はい。あらためてよろしくお願いしますね」
「おう。よろしゅうな」
リリコがぺこっと小さく会釈をすると、若大将さんは口角を上げた。
「悠太、代わるわ。食わしてもらい」
大将さんが皿を置いてやって来る。クーラーボックスを開けて残りのお肉を取り出した。
「おう」
若大将さんがトングを大将さんに渡す。
「それにしても悠太、えらいリリコちゃんと仲良うなって」
「そうか?」
「そうやろうが。ええ雰囲気やったで~」
大将さんが少しからかう様に言う。リリコはきょとんとしてしまい、若大将さんは「ちょお親父」と渋面を浮かべる。
「リリコちゃんに失礼や無いか」
「はは、いや悪い悪い。なんや微笑ましい思ってなぁ」
すると、そこに鬼の形相の平野さんが飛び込んで来た。
「ちょっと若大将! 俺の許し無しにリリコちゃんにちょっかい出したらあきませんよ!」
リリコと若大将さんは驚いて面食らい、大将さんはおかしそうに「わっはっは!」と大笑いする。
「おいおい平野、なんでお前の許可がいるねん」
所長さんがいつもの様に呆れると、平野さんは「せやかて!」と叫ぶ。
「リリコちゃんに悪い虫が付いたらどうするんです!」
「なんやねん悪い虫て。若大将は悪い虫と違うやろ。お前はほんまに相変わらずやな~」
所長さんが苦笑すると、その場にどっと笑いが沸いた。
リリコは恥ずかしくなってしまい、真っ赤になって俯く。
「若大将さん、なんやすいません……」
「いやいや。ええ先輩やないか」
若大将さんは苦笑し、だがおかしそうに言った。
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