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5章 未来のために

第1話 予想外のお客

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 真琴まこと雅玖がくと夫婦になり、迎えられた5人の子どもたちは、この春無事に小学校を卒業した。

 皆身長も高くなり、男の子たちの声変わりはまだなものの、大人っぽくなっていた。壱斗いちとは作詞作曲にも挑戦したいと言い、弐那になはタブレットを使いデジタル作画に挑戦し始めている。三鶴みつるのお勉強内容はますます真琴などにはちんぷんかんぷんになっていた。

 四音しおん景五けいごはお料理の腕をぐんぐん上げ、先日などはふたりだけで筑前煮を作り、夜のあやかしたちに振舞っていた。

 もう真琴がべったり付かなくても、作れるものが増えて行っている。ふたりとも物覚えがとても良く、レシピも最初はメモを取りながらも、数回作れば覚えてしまえる。

 子どもたちの卒業式はもちろん真琴と雅玖、六槻むつきとで参列したのだが、無事に卒業できた喜び、そして成長したその姿に真琴はすっかりと感動してしまい、ハンカチを握り締めてしまったものだ。

 そして六槻。今年のお正月、元旦を迎えて4歳になっていた。もうベビーベッドもゆりかごも必要無くなり、しっかり歩ける様になって、真琴が「まこ庵」にいる間は雅玖にお世話をされながらも、好きに家中をうろついている。

 夜のあやかしタイムには一緒に下に降りて、あやかしたちに可愛がられている。厨房を四音と景五に大分任せられる様になったので、真琴が六槻と触れ合う時間もぐっと増えた。

 六槻もすっかりと大きくなった。来年には小学校1年生。上の子どもたちが真琴と家族になった歳になる。

 六槻はそのころの上の子たちに比べたらまだまだ幼い気がするが、それまであやかしの世界で育った上の子たちと、ほとんどを真琴と雅玖の元で育った六槻とでは環境も違う。差も出てくるのかも知れない。

 しかも、六槻は雅玖の希望もあって、去年から幼稚園に通っている。同い年の子どもたちと関わることで、年相応の感性を持っているのだろう。

 真琴は上の子たちが、真琴と家族になるまでどんな生活をしていたのかを知らない。雅玖は、あやかしたちは人間の世界の習慣にならっていると言ってはいたが、やはり異なることも多いのだと思う。特にあやかしの世界で育てられていたのなら、違いは大きいのでは無いだろうか。

 思えば人間の並みの小学校1年生より大人びていたと思うし、皆自分が将来なりたいものをしっかりと持っていた。だが六槻にはそれらが無い。

 幼稚園で「将来何になりたい?」なんて保育士さんに聞かれたら、「パイロット!」「おまわりさん!」「プロゲーマー!」などと無邪気に応えるだろうが、それは具体的では無く、そのための努力を始める子はきっと少ない。

 良いとか悪いとかの話では無い。ただ育った環境の違いによって出る差異に驚くのだ。いったい上の子たちはあやかしの世界でどんな教育を受けていたのだろうか。

 幸い、上の子たちは真琴にも雅玖にも特に反抗する様なこと無く、素直に良い子に育ってくれていた。これから中学校入学を控え、難しいと言われる年頃になってくる。反抗期だって迎えるかも知れない。

 そんな時に本当の親では無い真琴と雅玖がどれだけ寄り添えるか、どれだけ正面からぶつかれるか。それこそ「ほんまの親や無いくせに!」なんて言われてしまったら、激しく落ち込んでしまうだろう。それに耐えられるか。

 反抗期の程度も個人差があると聞くが、壱斗と三鶴あたりは激しくなりそうな気がするし、今から覚悟をしておかねば、なんて思うのだ。



 夜になり、あやかしたちが「まこ庵」に訪れる。壱斗のスーパーリサイタル、弐那のネーム作成、三鶴のお勉強。四音と景五は厨房で腕を振るってくれている。最近の真琴は随分と楽をさせてもらっていた。

 歳を重ねたというには、真琴もまだ31歳で元気である。お昼の「まこ庵」もあるし、引退なんてとんでも無い。四音と景五にこの「まこ庵」を任せられる様になるまで、しっかりと経営を続けたいと思っている。

 六槻は上の子たちの間をぐるぐると巡り、どの作業も目をきらきらさせて興味深げに見ていた。その中でも特に壱斗のパフォーマンスにかれる様で、観客の狼のあやかしたちを押しのけて最前列で全力で飛び跳ねている。

「ママ! ママもいっしょにおどろ!」

 真琴は六槻に呼ばれ、「はーい」と六槻の元に行って、ゆらゆらと身体を揺らしたりしていた。

 そうして和気藹々わきあいあいと過ごしていると、からんころんとベルを模した機械音がして自動ドアが開いた。真琴は慌ててそちらに向かう。入って来た若い男性は人間の姿なものの時間的にあやかしなはずだが、思い詰めた様な顔をしていた。

「あの?」

 確か初めて見る顔だったはずだ。来ていたとしてもかなり頻度が低く、少なくとも真琴は覚えていなかった。

「ご歓談中に申し訳ありません。僕は猫又の鞠人まりとと申します」

 猫又ということは、景五と同じ種族のあやかしである。どうかしたのだろうかと真琴が怪訝に思うと、厨房から景五が出て来た。

「……鞠人」

「景五、大事な話があるんや」

 気付けば店内は静まり返っている。不穏な気配を感じ取ったのか、皆緊張した様な表情で鞠人さんを見つめていた。

「景五、この方は?」

「鞠人は、俺の世話係やった、あやかしやねん」

 ではかなり景五に近しい人だ。なのに真琴に見覚えが無いなんて。不思議に思うが、今はそんなことを考えている場合では無いのだろうと言うことぐらいは察する。

「真琴さま、申し訳ありません。景五を猫又の里に迎えに参りました」

 どういうことだ。何があったと言うのか。真琴は唖然としてしまったのだった。
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