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5章 ファインダの中の宝物
第4話 小さな一歩
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「丸山は、何を思い付いたんじゃろうのう」
営業が終わったあと、マリコちゃんが余ったお惣菜を口に運びながら言うと、双子は声を揃える。
「どうやろうねぇ」
「そうやろうなぁ」
判らないが、マリコちゃんのご加護が含まれているお赤飯を口にした途端に思い付いたものである。おかしなことでは無いはずなのだが。
「理想は、ええっと、確か詩織さん。彼女の親御さんのご許可をいただいた上で、入賞しはった作品が表に出ることやんね」
「そうやな。作品がどういう形で表に出るんか判らんけど、もし親が見たらびっくりするやろ」
「そうやんねぇ。それこそ喧嘩になりかねんもんねぇ。黙ってたこともそうやし……、厳しそうな親御さんやから」
「そうやな。でもそれこそ丸山さんの腕の見せどころやで」
陽はその場におられない丸山さんを元気付ける様に、右腕でガッツポーズを繰り出すのだが。
「大丈夫なのか? 丸山は人格はともかく、頼り無いんじゃが」
マリコちゃんのはっきりとした指摘に、双子はつい苦笑を浮かべてしまう。
確かに丸山さんはお優しく、お人柄も良い。いつも美味しそうにご飯を食べてくださることも好感が持てる。だが頼り無いと言われてしまえば、確かにその印象は否めない。
あまり強く出ることをされない方なのだ。物腰は柔らかく、いつでも穏やかである。それは確かに素晴らしいことだと思うのだが、それだけでは解決しないこともある。
丸山さんが詩織さんにお電話をした時、詩織さんにご納得いただけなかったのは、きっと丸山さんの人の良さが出てしまったからだろう。押しの弱さと言っても良い。
正論はもちろん大事である。だが説得力も大切だ。多少強く出てでも、お相手に解っていただかなければならない。
お話をお伺いする限り、詩織さんもなかなか頑固、もしくは頑なな様だ。親御さんに叱られたく無いというのも大きいのだろう。
そんな詩織さんの心を解すにはどうしたら良いのか。だがきっと丸山さんが思い付いたことは、それも解決するのだと思う。
またお話を聞かせてくださるだろう。双子とマリコちゃんはそれを待つしか無いのである。
次に丸山さんが来られたのは数日後だった。先日のモデルさん、詩織さんの件が気になっていた双子ではあるが、丸山さんはいつもと変わらないご様子だった。
丸山さんは椅子に掛けられ、お荷物をカウンタ下の棚に押し込んだ。朔が冷たいおしぼりをお渡しすると、気持ち良さげに手を拭かれる。
「今日のお惣菜はっと」
丸山さんはうきうきしたご様子で腰を浮かし、お惣菜の大皿を眺められる。
「よし。ほな卵焼きと、冬瓜と厚揚げの煮物ください。メインに鯖の味噌煮と、お赤飯でお願いします」
今日の卵焼きは青ねぎである。卵の甘さの中に、火を通すことで旨味を増した青ねぎが合わさるのである。
冬瓜は初夏から秋口に掛けての味覚である。硬い緑色の皮に覆われ、丸ままなら冬まで保つということから、冬瓜という名が付けられたらしい。だが冬場あまり店頭で見ることは無い。
淡白な冬瓜の白い身に、厚揚げからの旨味が溶け出した煮汁がじわりと沁み入り、ほっくりとした味わいになるのだ。
「はい。お待ちくださいね」
陽が他のお客さまの牛肉のしぐれ煮を温めていたので、朔は小さなフライパンにすでにできあがっている鯖の味噌煮と煮汁を入れて弱火に掛けた。鯖の味噌煮は一度冷ましたあとに再度火入れをすると、さらに味が沁みて美味しくなるのである。
温めている間にお惣菜を小鉢に盛り付け、お赤飯とお味噌汁をご用意する。今日のお味噌汁はお揚げとわかめである。
「はい、お待たせしました。鯖の味噌煮はお待ちくださいね」
「ありがとうございます」
お料理を受け取られた丸山さんは「いただきます」と手を合わせ、お味噌汁をすすった後、お赤飯をお口に入れて噛み締めた。
「幸せの味がしますね~」
ほっこりとしたご様子でそんなことをおっしゃっていただけるものだから、朔は思わず「あら」と表情を綻ばす。
「ありがとうございます」
「いえいえ。先日もお赤飯を食べた途端に案が浮かんだんですから。ほんまにここのお赤飯は不思議です。考えてみたら、ここでお赤飯を食べた翌日に、なんやええことがあった気がするんですよね」
「それは、丸山さんが努力されてはるからですよ」
丸山さんにマリコちゃんのご加護が届いているということである。だが、丸山さんが日々励んでおられる証拠でもあるのだ。
「それやったら嬉しいんですけど。あ、詩織ちゃんなんですけどね」
「はい」
待ってました! と言ってしまいそうになるところをぐっと抑え、朔は平静を装う。陽もきっと聞き耳を立てていることだろう。
「詩織ちゃんを説得して、親御さんにご挨拶に行くことができました。で、許してもらえて」
「良かったですねぇ」
朔は心から安堵し、ほっと頬を緩めた。本当に何よりである。
「はい。詩織さんに、こう提案したんですよ。雑誌モデルになるための練習として、俺の専属モデルになれへんかって」
「丸山さんの専属、ですか?」
「そうです。コンテストで入賞はできましたが、それで終わりやありません。これからもコンテストに応募して、もっと実績を積んで行かなあきません。そん時のモデルはもちろん、例えばスチールを撮って俺のSNSに上げるとか、そういうこともやって行こうって」
丸山さんはにこやかにそうおっしゃり、またお赤飯を口に運ばれた。咀嚼してごくりと飲み込んで。
「俺のSNSは、言うても端くれとは言え写真家のもんです。詩織ちゃんが個人のSNSに上げるよりは、業界の目に付きやすいんです。そりゃあバズるかどうかの保証はできませんけど、今はSNSきっかけで日の目を見ることかてできる時代です。言うてしまえば、もともと詩織ちゃんがやろうとしとったことを補強する形です。それやったら親御さんのもとで活動できますしね」
「でしたら親御さんもご安心ですね」
「はい。詩織ちゃんにとっては、そう劇的な変化や無いかも知れません。けど今回の肝は、親御さんの許しと挨拶でした。俺が親御さんの許可無しに詩織ちゃんをモデルにしてしもうたことは、俺のミスです。そのお叱りは甘んじて受けて、それを踏まえても、詩織ちゃんが夢を見続けられる様にって」
「でも、親御さんは詩織さんがモデルさんを目指さはること自体を反対してはるんですよね。それはどうなったんですか?」
「今でももちろん許してはりませんよ。でも1番の懸念は、親元離れて上京することなんです。そりゃあまだ中学生やから、親御さんの心配は当たり前です。せやからまずは親元におれる状態で、詩織ちゃんがモデル活動できたらええんや無いかって思ったんです。もちろん学業はこれまで通りちゃんとやることが条件で」
「なるほどです」
確かに、現状ではそれが1番の落とし所なのかも知れない。詩織さんは雑誌モデルさんになりたいのだから、丸山さんのモデルさんを務めるのは少し違うのかも知れない。だが露出することでチャンスが増えるのはその通りだと朔も思う。
「親御さんも今回のことで、詩織ちゃんが本気でモデルになりたいことを思い知らされて、少し軟化したんですよ。これまで詩織ちゃんの「なりたい」と、親御さんの「あかん」の応酬しか無かったみたいで、こう、ちゃんと話をしたことってろくに無かったみたいなんですよね。俺も交えてじっくり話をして、もちろん事務所に所属しても、そんな簡単な世界や無いってことは言いました。それはどっちかっちゅうたら詩織ちゃんに向けて、なんですけど。テレビとか雑誌とか見とっても、表向きのほんの一部しか見えてへんでしょ。それで勘違いしがちなんですけど、ほんま厳しい世界ですよ。競争も激しい。それをあらためて詩織ちゃんには話しました。それでもし詩織ちゃんが折れる様やったら、それはそれでええんです。親御さんとしては安心ですから。でもそれでも詩織ちゃんが挑戦したいって言うんやったら、親御さんは高校を卒業したら、雑誌オーディションを受けてもええって言うてくれました」
「良かったですねぇ!」
朔まで嬉しくなってしまい、ぽんと胸元で両手を合わせた。やはり夢を持った時、親御さんの応援が1番嬉しいものだと思う。心強いとも思うのだ。
「ほんまに。詩織ちゃんは今中3で、実は受験生なんですよ。ちゃんと勉強して高校に入ってもろて。正直、その3年間が冷却期間やと俺は思ってます。俺のモデルをしてもらいながら3年間過ごして、それでも雑誌モデルになりたいっていう思いが続いたら、オーディションを受ける。やっぱり環境が許すんやったら、高校は出といた方がええですし」
「そうですね。アイドルさんとかで中卒の方とかたまに見ますけど、それってその時点で売れてはる方たちですもんね。あら、もしかしたら詩織さん、高校行かずにモデルさんしはろうと思ってはったんですか?」
「モデルになれるんやったらそれでもええと思っとったみたいです。でもそれは、いくらなんでもね。芸能の仕事って、売れへんかったら親御さんに心配掛けるだけですよ。大阪にかてなかなか芽の出ぇへん芸人がごろごろおって、バイトしながら舞台やテレビに出てはる人がほとんどです。モデルかて同じです。専属ならともかく、読者モデルって言われてはる人は無償の場合もありますからね。仕事あってのことです」
「……丸山さんの目から見て、詩織さんは雑誌モデルさんになれそうなんですか?」
朔の基本に返った様な疑問に、丸山さんは「うーん」と唸る。
「正直、欲目もあるとは思うんですけど、悪ぅは無いと思うんですよ。実際にコンテストで入賞できてるわけですから。あれは我ながらええ写真やったと思います。詩織ちゃんがあまり気負わずにできたからっちゅうのも大きいと思います。ええ被写体でおってくれました。でもね、シーンが変わるとどうなるか。そこは未知数ですからね。俺が撮る様な写真と雑誌モデルとは見せるもんがちゃいますから。こればっかりは」
丸山さんは少し困った様に苦笑いを浮かべられた。
営業が終わったあと、マリコちゃんが余ったお惣菜を口に運びながら言うと、双子は声を揃える。
「どうやろうねぇ」
「そうやろうなぁ」
判らないが、マリコちゃんのご加護が含まれているお赤飯を口にした途端に思い付いたものである。おかしなことでは無いはずなのだが。
「理想は、ええっと、確か詩織さん。彼女の親御さんのご許可をいただいた上で、入賞しはった作品が表に出ることやんね」
「そうやな。作品がどういう形で表に出るんか判らんけど、もし親が見たらびっくりするやろ」
「そうやんねぇ。それこそ喧嘩になりかねんもんねぇ。黙ってたこともそうやし……、厳しそうな親御さんやから」
「そうやな。でもそれこそ丸山さんの腕の見せどころやで」
陽はその場におられない丸山さんを元気付ける様に、右腕でガッツポーズを繰り出すのだが。
「大丈夫なのか? 丸山は人格はともかく、頼り無いんじゃが」
マリコちゃんのはっきりとした指摘に、双子はつい苦笑を浮かべてしまう。
確かに丸山さんはお優しく、お人柄も良い。いつも美味しそうにご飯を食べてくださることも好感が持てる。だが頼り無いと言われてしまえば、確かにその印象は否めない。
あまり強く出ることをされない方なのだ。物腰は柔らかく、いつでも穏やかである。それは確かに素晴らしいことだと思うのだが、それだけでは解決しないこともある。
丸山さんが詩織さんにお電話をした時、詩織さんにご納得いただけなかったのは、きっと丸山さんの人の良さが出てしまったからだろう。押しの弱さと言っても良い。
正論はもちろん大事である。だが説得力も大切だ。多少強く出てでも、お相手に解っていただかなければならない。
お話をお伺いする限り、詩織さんもなかなか頑固、もしくは頑なな様だ。親御さんに叱られたく無いというのも大きいのだろう。
そんな詩織さんの心を解すにはどうしたら良いのか。だがきっと丸山さんが思い付いたことは、それも解決するのだと思う。
またお話を聞かせてくださるだろう。双子とマリコちゃんはそれを待つしか無いのである。
次に丸山さんが来られたのは数日後だった。先日のモデルさん、詩織さんの件が気になっていた双子ではあるが、丸山さんはいつもと変わらないご様子だった。
丸山さんは椅子に掛けられ、お荷物をカウンタ下の棚に押し込んだ。朔が冷たいおしぼりをお渡しすると、気持ち良さげに手を拭かれる。
「今日のお惣菜はっと」
丸山さんはうきうきしたご様子で腰を浮かし、お惣菜の大皿を眺められる。
「よし。ほな卵焼きと、冬瓜と厚揚げの煮物ください。メインに鯖の味噌煮と、お赤飯でお願いします」
今日の卵焼きは青ねぎである。卵の甘さの中に、火を通すことで旨味を増した青ねぎが合わさるのである。
冬瓜は初夏から秋口に掛けての味覚である。硬い緑色の皮に覆われ、丸ままなら冬まで保つということから、冬瓜という名が付けられたらしい。だが冬場あまり店頭で見ることは無い。
淡白な冬瓜の白い身に、厚揚げからの旨味が溶け出した煮汁がじわりと沁み入り、ほっくりとした味わいになるのだ。
「はい。お待ちくださいね」
陽が他のお客さまの牛肉のしぐれ煮を温めていたので、朔は小さなフライパンにすでにできあがっている鯖の味噌煮と煮汁を入れて弱火に掛けた。鯖の味噌煮は一度冷ましたあとに再度火入れをすると、さらに味が沁みて美味しくなるのである。
温めている間にお惣菜を小鉢に盛り付け、お赤飯とお味噌汁をご用意する。今日のお味噌汁はお揚げとわかめである。
「はい、お待たせしました。鯖の味噌煮はお待ちくださいね」
「ありがとうございます」
お料理を受け取られた丸山さんは「いただきます」と手を合わせ、お味噌汁をすすった後、お赤飯をお口に入れて噛み締めた。
「幸せの味がしますね~」
ほっこりとしたご様子でそんなことをおっしゃっていただけるものだから、朔は思わず「あら」と表情を綻ばす。
「ありがとうございます」
「いえいえ。先日もお赤飯を食べた途端に案が浮かんだんですから。ほんまにここのお赤飯は不思議です。考えてみたら、ここでお赤飯を食べた翌日に、なんやええことがあった気がするんですよね」
「それは、丸山さんが努力されてはるからですよ」
丸山さんにマリコちゃんのご加護が届いているということである。だが、丸山さんが日々励んでおられる証拠でもあるのだ。
「それやったら嬉しいんですけど。あ、詩織ちゃんなんですけどね」
「はい」
待ってました! と言ってしまいそうになるところをぐっと抑え、朔は平静を装う。陽もきっと聞き耳を立てていることだろう。
「詩織ちゃんを説得して、親御さんにご挨拶に行くことができました。で、許してもらえて」
「良かったですねぇ」
朔は心から安堵し、ほっと頬を緩めた。本当に何よりである。
「はい。詩織さんに、こう提案したんですよ。雑誌モデルになるための練習として、俺の専属モデルになれへんかって」
「丸山さんの専属、ですか?」
「そうです。コンテストで入賞はできましたが、それで終わりやありません。これからもコンテストに応募して、もっと実績を積んで行かなあきません。そん時のモデルはもちろん、例えばスチールを撮って俺のSNSに上げるとか、そういうこともやって行こうって」
丸山さんはにこやかにそうおっしゃり、またお赤飯を口に運ばれた。咀嚼してごくりと飲み込んで。
「俺のSNSは、言うても端くれとは言え写真家のもんです。詩織ちゃんが個人のSNSに上げるよりは、業界の目に付きやすいんです。そりゃあバズるかどうかの保証はできませんけど、今はSNSきっかけで日の目を見ることかてできる時代です。言うてしまえば、もともと詩織ちゃんがやろうとしとったことを補強する形です。それやったら親御さんのもとで活動できますしね」
「でしたら親御さんもご安心ですね」
「はい。詩織ちゃんにとっては、そう劇的な変化や無いかも知れません。けど今回の肝は、親御さんの許しと挨拶でした。俺が親御さんの許可無しに詩織ちゃんをモデルにしてしもうたことは、俺のミスです。そのお叱りは甘んじて受けて、それを踏まえても、詩織ちゃんが夢を見続けられる様にって」
「でも、親御さんは詩織さんがモデルさんを目指さはること自体を反対してはるんですよね。それはどうなったんですか?」
「今でももちろん許してはりませんよ。でも1番の懸念は、親元離れて上京することなんです。そりゃあまだ中学生やから、親御さんの心配は当たり前です。せやからまずは親元におれる状態で、詩織ちゃんがモデル活動できたらええんや無いかって思ったんです。もちろん学業はこれまで通りちゃんとやることが条件で」
「なるほどです」
確かに、現状ではそれが1番の落とし所なのかも知れない。詩織さんは雑誌モデルさんになりたいのだから、丸山さんのモデルさんを務めるのは少し違うのかも知れない。だが露出することでチャンスが増えるのはその通りだと朔も思う。
「親御さんも今回のことで、詩織ちゃんが本気でモデルになりたいことを思い知らされて、少し軟化したんですよ。これまで詩織ちゃんの「なりたい」と、親御さんの「あかん」の応酬しか無かったみたいで、こう、ちゃんと話をしたことってろくに無かったみたいなんですよね。俺も交えてじっくり話をして、もちろん事務所に所属しても、そんな簡単な世界や無いってことは言いました。それはどっちかっちゅうたら詩織ちゃんに向けて、なんですけど。テレビとか雑誌とか見とっても、表向きのほんの一部しか見えてへんでしょ。それで勘違いしがちなんですけど、ほんま厳しい世界ですよ。競争も激しい。それをあらためて詩織ちゃんには話しました。それでもし詩織ちゃんが折れる様やったら、それはそれでええんです。親御さんとしては安心ですから。でもそれでも詩織ちゃんが挑戦したいって言うんやったら、親御さんは高校を卒業したら、雑誌オーディションを受けてもええって言うてくれました」
「良かったですねぇ!」
朔まで嬉しくなってしまい、ぽんと胸元で両手を合わせた。やはり夢を持った時、親御さんの応援が1番嬉しいものだと思う。心強いとも思うのだ。
「ほんまに。詩織ちゃんは今中3で、実は受験生なんですよ。ちゃんと勉強して高校に入ってもろて。正直、その3年間が冷却期間やと俺は思ってます。俺のモデルをしてもらいながら3年間過ごして、それでも雑誌モデルになりたいっていう思いが続いたら、オーディションを受ける。やっぱり環境が許すんやったら、高校は出といた方がええですし」
「そうですね。アイドルさんとかで中卒の方とかたまに見ますけど、それってその時点で売れてはる方たちですもんね。あら、もしかしたら詩織さん、高校行かずにモデルさんしはろうと思ってはったんですか?」
「モデルになれるんやったらそれでもええと思っとったみたいです。でもそれは、いくらなんでもね。芸能の仕事って、売れへんかったら親御さんに心配掛けるだけですよ。大阪にかてなかなか芽の出ぇへん芸人がごろごろおって、バイトしながら舞台やテレビに出てはる人がほとんどです。モデルかて同じです。専属ならともかく、読者モデルって言われてはる人は無償の場合もありますからね。仕事あってのことです」
「……丸山さんの目から見て、詩織さんは雑誌モデルさんになれそうなんですか?」
朔の基本に返った様な疑問に、丸山さんは「うーん」と唸る。
「正直、欲目もあるとは思うんですけど、悪ぅは無いと思うんですよ。実際にコンテストで入賞できてるわけですから。あれは我ながらええ写真やったと思います。詩織ちゃんがあまり気負わずにできたからっちゅうのも大きいと思います。ええ被写体でおってくれました。でもね、シーンが変わるとどうなるか。そこは未知数ですからね。俺が撮る様な写真と雑誌モデルとは見せるもんがちゃいますから。こればっかりは」
丸山さんは少し困った様に苦笑いを浮かべられた。
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