38 / 46
3章 チョコレートコスモスを添えて
第11話 繋がっているからこそ
しおりを挟む
勝川さんの奥さまは表情を曇らせ、ぽつりと言った。
「夫の転勤が決まって、不安なんです。離れることとか、ココナのお世話とか。夫は積極的にココナのお世話をしてくれとったから、その手が無くなったらどうなるんやろうとか。ココナも彼氏と離れたないて言うとったけど、実際は夫がおらんくなったら寂しがるやろうし」
そうだろう。容易に想像できてしまう。お食事中、ココナちゃんの横に座っていたのは奥さまだったが、勝川さんもココナちゃんを気に掛けながらお食事していた。奥さまばかりがココナちゃんのお世話をしていたわけでは無かった。
そしてココナちゃんが帰るとき、勝川さんとふたりで帰ること、奥さまがここに残ることを、嫌がる素振りがまるで無かったのだ。その風景から、ココナちゃんが勝川さんに懐いていることが分かるし、そうなるにはきっと、普段からたっぷりと触れ合っているのだ。
そんな勝川さん、ココナちゃんにとってのお父さんが2年もいなくなるのだ。大阪と東京は飛行機を使えばそう遠くは無いが、そう頻繁に移動できる距離では無い。となると、連休の行き来が現実的だろう。
今やオンラインで、パソコンやスマートフォン、タブレット越しで顔を見て、話すことだってできる。だが直接会って触れ合える喜びには代えられないのでは無いだろうか。
ココナちゃんはおませな子の様だが、まだまだ手も掛かるだろう。勝川さんが期間限定とはいえいなくなることで、奥さまはきっと大変になる。お母さまが助けてくれるそうだが、ご実家が松原市だということだから、そう頻繁な手助けは難しいかも知れない。車でも電車でもそれなりの距離があるのだ。
「2年て、過ぎてみたらあっという間かも知れんですけど、これから2年て思うと長い様に感じて。無事乗り越えられるかなぁって。夫と一緒に行くことも考えました。でも、2年の間に2回引越しって、気忙しいでしょ。いや、東京が好きやないっていうんもあるんですけど」
奥さまは苦笑いを浮かべる。勝川さんも言っていたことだ。奥さまの方便では無かったのだなと、世都は小さく頷く。
「ココナちゃんの幼稚園とかもありますもんね」
「そうなんです。大阪より東京の方が空きが無いイメージがあって。住むとこにもよるんでしょうけど。せやのに不安に感じるなんて、勝手ですよね」
それだけ、勝川さんが奥さまに頼りにされているということなのだろう。そして「家族は一緒にいるべき」の持論を繰り広げた勝川さんも、奥さまとココナちゃんを大事にしているのだろう。
家族のあり方なんて、その家庭ごとなのだろうが、世都の家庭が破綻してしまったこともあって、やはりこういう強い繋がりは素晴らしいものなのだろうなと思う。
ただ、世都は自分の両親を責めようとは思わない。親としてはどうかと思うし呆れてもいるが、ふたりは自分の好きや生き方を貫いただけだ。そしてこの先、それぞれその責任を取ることになる。
「ずっとご家族で寄り添って来はったんでしょ? 不安に感じて当たり前やと思いますよ。私が無責任に言えることや無いんですけど、きっと慣れるときが来るんや無いでしょうか」
「それなんですけど女将さん、あの、夫から聞いたんですけど、こちら、タロット占いをしてくれはるって」
「ああ、はい。完全に趣味の範囲内ですけどね。まぁ、気休めやきっかけにしてもらえたらって」
「私も占ってもろてええですか? 何をどうしたいとか特に無くて、漠然としたもんしか無いんですけど、大丈夫って誰かに言うて欲しいなって思ってしもて。情けないですけど」
奥さまは憂いを帯びた表情で、カウンタの上で両手をぐっと組み合わせる。その手から不安が漏れている様に見えた。世都はふわりと微笑んだ。
「情けないなんて、そんなわけありませんよ。でも私で良かったら、占わせてもらいますね」
奥さまはほっとした様に、頬を緩ませた。
「夫の転勤が決まって、不安なんです。離れることとか、ココナのお世話とか。夫は積極的にココナのお世話をしてくれとったから、その手が無くなったらどうなるんやろうとか。ココナも彼氏と離れたないて言うとったけど、実際は夫がおらんくなったら寂しがるやろうし」
そうだろう。容易に想像できてしまう。お食事中、ココナちゃんの横に座っていたのは奥さまだったが、勝川さんもココナちゃんを気に掛けながらお食事していた。奥さまばかりがココナちゃんのお世話をしていたわけでは無かった。
そしてココナちゃんが帰るとき、勝川さんとふたりで帰ること、奥さまがここに残ることを、嫌がる素振りがまるで無かったのだ。その風景から、ココナちゃんが勝川さんに懐いていることが分かるし、そうなるにはきっと、普段からたっぷりと触れ合っているのだ。
そんな勝川さん、ココナちゃんにとってのお父さんが2年もいなくなるのだ。大阪と東京は飛行機を使えばそう遠くは無いが、そう頻繁に移動できる距離では無い。となると、連休の行き来が現実的だろう。
今やオンラインで、パソコンやスマートフォン、タブレット越しで顔を見て、話すことだってできる。だが直接会って触れ合える喜びには代えられないのでは無いだろうか。
ココナちゃんはおませな子の様だが、まだまだ手も掛かるだろう。勝川さんが期間限定とはいえいなくなることで、奥さまはきっと大変になる。お母さまが助けてくれるそうだが、ご実家が松原市だということだから、そう頻繁な手助けは難しいかも知れない。車でも電車でもそれなりの距離があるのだ。
「2年て、過ぎてみたらあっという間かも知れんですけど、これから2年て思うと長い様に感じて。無事乗り越えられるかなぁって。夫と一緒に行くことも考えました。でも、2年の間に2回引越しって、気忙しいでしょ。いや、東京が好きやないっていうんもあるんですけど」
奥さまは苦笑いを浮かべる。勝川さんも言っていたことだ。奥さまの方便では無かったのだなと、世都は小さく頷く。
「ココナちゃんの幼稚園とかもありますもんね」
「そうなんです。大阪より東京の方が空きが無いイメージがあって。住むとこにもよるんでしょうけど。せやのに不安に感じるなんて、勝手ですよね」
それだけ、勝川さんが奥さまに頼りにされているということなのだろう。そして「家族は一緒にいるべき」の持論を繰り広げた勝川さんも、奥さまとココナちゃんを大事にしているのだろう。
家族のあり方なんて、その家庭ごとなのだろうが、世都の家庭が破綻してしまったこともあって、やはりこういう強い繋がりは素晴らしいものなのだろうなと思う。
ただ、世都は自分の両親を責めようとは思わない。親としてはどうかと思うし呆れてもいるが、ふたりは自分の好きや生き方を貫いただけだ。そしてこの先、それぞれその責任を取ることになる。
「ずっとご家族で寄り添って来はったんでしょ? 不安に感じて当たり前やと思いますよ。私が無責任に言えることや無いんですけど、きっと慣れるときが来るんや無いでしょうか」
「それなんですけど女将さん、あの、夫から聞いたんですけど、こちら、タロット占いをしてくれはるって」
「ああ、はい。完全に趣味の範囲内ですけどね。まぁ、気休めやきっかけにしてもらえたらって」
「私も占ってもろてええですか? 何をどうしたいとか特に無くて、漠然としたもんしか無いんですけど、大丈夫って誰かに言うて欲しいなって思ってしもて。情けないですけど」
奥さまは憂いを帯びた表情で、カウンタの上で両手をぐっと組み合わせる。その手から不安が漏れている様に見えた。世都はふわりと微笑んだ。
「情けないなんて、そんなわけありませんよ。でも私で良かったら、占わせてもらいますね」
奥さまはほっとした様に、頬を緩ませた。
22
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
オレは視えてるだけですが⁉~訳ありバーテンダーは霊感パティシエを飼い慣らしたい
凍星
キャラ文芸
幽霊が視えてしまうパティシエ、葉室尊。できるだけ周りに迷惑をかけずに静かに生きていきたい……そんな風に思っていたのに⁉ バーテンダーの霊能者、久我蒼真に出逢ったことで、どういう訳か、霊能力のある人達に色々絡まれる日常に突入⁉「オレは視えてるだけだって言ってるのに、なんでこうなるの??」霊感のある主人公と、彼の秘密を暴きたい男の駆け引きと絆を描きます。BL要素あり。
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない
鈴宮(すずみや)
恋愛
孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。
しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。
その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
あやかし嫁取り婚~龍神の契約妻になりました~
椿蛍
キャラ文芸
出会って間もない相手と結婚した――人ではないと知りながら。
あやかしたちは、それぞれの一族の血を残すため、人により近づくため。
特異な力を持った人間の娘を必要としていた。
彼らは、私が持つ『文様を盗み、身に宿す』能力に目をつけた。
『これは、あやかしの嫁取り戦』
身を守るため、私は形だけの結婚を選ぶ――
※二章までで、いったん完結します。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる