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3章 チョコレートコスモスを添えて
第11話 繋がっているからこそ
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勝川さんの奥さまは表情を曇らせ、ぽつりと言った。
「夫の転勤が決まって、不安なんです。離れることとか、ココナのお世話とか。夫は積極的にココナのお世話をしてくれとったから、その手が無くなったらどうなるんやろうとか。ココナも彼氏と離れたないて言うとったけど、実際は夫がおらんくなったら寂しがるやろうし」
そうだろう。容易に想像できてしまう。お食事中、ココナちゃんの横に座っていたのは奥さまだったが、勝川さんもココナちゃんを気に掛けながらお食事していた。奥さまばかりがココナちゃんのお世話をしていたわけでは無かった。
そしてココナちゃんが帰るとき、勝川さんとふたりで帰ること、奥さまがここに残ることを、嫌がる素振りがまるで無かったのだ。その風景から、ココナちゃんが勝川さんに懐いていることが分かるし、そうなるにはきっと、普段からたっぷりと触れ合っているのだ。
そんな勝川さん、ココナちゃんにとってのお父さんが2年もいなくなるのだ。大阪と東京は飛行機を使えばそう遠くは無いが、そう頻繁に移動できる距離では無い。となると、連休の行き来が現実的だろう。
今やオンラインで、パソコンやスマートフォン、タブレット越しで顔を見て、話すことだってできる。だが直接会って触れ合える喜びには代えられないのでは無いだろうか。
ココナちゃんはおませな子の様だが、まだまだ手も掛かるだろう。勝川さんが期間限定とはいえいなくなることで、奥さまはきっと大変になる。お母さまが助けてくれるそうだが、ご実家が松原市だということだから、そう頻繁な手助けは難しいかも知れない。車でも電車でもそれなりの距離があるのだ。
「2年て、過ぎてみたらあっという間かも知れんですけど、これから2年て思うと長い様に感じて。無事乗り越えられるかなぁって。夫と一緒に行くことも考えました。でも、2年の間に2回引越しって、気忙しいでしょ。いや、東京が好きやないっていうんもあるんですけど」
奥さまは苦笑いを浮かべる。勝川さんも言っていたことだ。奥さまの方便では無かったのだなと、世都は小さく頷く。
「ココナちゃんの幼稚園とかもありますもんね」
「そうなんです。大阪より東京の方が空きが無いイメージがあって。住むとこにもよるんでしょうけど。せやのに不安に感じるなんて、勝手ですよね」
それだけ、勝川さんが奥さまに頼りにされているということなのだろう。そして「家族は一緒にいるべき」の持論を繰り広げた勝川さんも、奥さまとココナちゃんを大事にしているのだろう。
家族のあり方なんて、その家庭ごとなのだろうが、世都の家庭が破綻してしまったこともあって、やはりこういう強い繋がりは素晴らしいものなのだろうなと思う。
ただ、世都は自分の両親を責めようとは思わない。親としてはどうかと思うし呆れてもいるが、ふたりは自分の好きや生き方を貫いただけだ。そしてこの先、それぞれその責任を取ることになる。
「ずっとご家族で寄り添って来はったんでしょ? 不安に感じて当たり前やと思いますよ。私が無責任に言えることや無いんですけど、きっと慣れるときが来るんや無いでしょうか」
「それなんですけど女将さん、あの、夫から聞いたんですけど、こちら、タロット占いをしてくれはるって」
「ああ、はい。完全に趣味の範囲内ですけどね。まぁ、気休めやきっかけにしてもらえたらって」
「私も占ってもろてええですか? 何をどうしたいとか特に無くて、漠然としたもんしか無いんですけど、大丈夫って誰かに言うて欲しいなって思ってしもて。情けないですけど」
奥さまは憂いを帯びた表情で、カウンタの上で両手をぐっと組み合わせる。その手から不安が漏れている様に見えた。世都はふわりと微笑んだ。
「情けないなんて、そんなわけありませんよ。でも私で良かったら、占わせてもらいますね」
奥さまはほっとした様に、頬を緩ませた。
「夫の転勤が決まって、不安なんです。離れることとか、ココナのお世話とか。夫は積極的にココナのお世話をしてくれとったから、その手が無くなったらどうなるんやろうとか。ココナも彼氏と離れたないて言うとったけど、実際は夫がおらんくなったら寂しがるやろうし」
そうだろう。容易に想像できてしまう。お食事中、ココナちゃんの横に座っていたのは奥さまだったが、勝川さんもココナちゃんを気に掛けながらお食事していた。奥さまばかりがココナちゃんのお世話をしていたわけでは無かった。
そしてココナちゃんが帰るとき、勝川さんとふたりで帰ること、奥さまがここに残ることを、嫌がる素振りがまるで無かったのだ。その風景から、ココナちゃんが勝川さんに懐いていることが分かるし、そうなるにはきっと、普段からたっぷりと触れ合っているのだ。
そんな勝川さん、ココナちゃんにとってのお父さんが2年もいなくなるのだ。大阪と東京は飛行機を使えばそう遠くは無いが、そう頻繁に移動できる距離では無い。となると、連休の行き来が現実的だろう。
今やオンラインで、パソコンやスマートフォン、タブレット越しで顔を見て、話すことだってできる。だが直接会って触れ合える喜びには代えられないのでは無いだろうか。
ココナちゃんはおませな子の様だが、まだまだ手も掛かるだろう。勝川さんが期間限定とはいえいなくなることで、奥さまはきっと大変になる。お母さまが助けてくれるそうだが、ご実家が松原市だということだから、そう頻繁な手助けは難しいかも知れない。車でも電車でもそれなりの距離があるのだ。
「2年て、過ぎてみたらあっという間かも知れんですけど、これから2年て思うと長い様に感じて。無事乗り越えられるかなぁって。夫と一緒に行くことも考えました。でも、2年の間に2回引越しって、気忙しいでしょ。いや、東京が好きやないっていうんもあるんですけど」
奥さまは苦笑いを浮かべる。勝川さんも言っていたことだ。奥さまの方便では無かったのだなと、世都は小さく頷く。
「ココナちゃんの幼稚園とかもありますもんね」
「そうなんです。大阪より東京の方が空きが無いイメージがあって。住むとこにもよるんでしょうけど。せやのに不安に感じるなんて、勝手ですよね」
それだけ、勝川さんが奥さまに頼りにされているということなのだろう。そして「家族は一緒にいるべき」の持論を繰り広げた勝川さんも、奥さまとココナちゃんを大事にしているのだろう。
家族のあり方なんて、その家庭ごとなのだろうが、世都の家庭が破綻してしまったこともあって、やはりこういう強い繋がりは素晴らしいものなのだろうなと思う。
ただ、世都は自分の両親を責めようとは思わない。親としてはどうかと思うし呆れてもいるが、ふたりは自分の好きや生き方を貫いただけだ。そしてこの先、それぞれその責任を取ることになる。
「ずっとご家族で寄り添って来はったんでしょ? 不安に感じて当たり前やと思いますよ。私が無責任に言えることや無いんですけど、きっと慣れるときが来るんや無いでしょうか」
「それなんですけど女将さん、あの、夫から聞いたんですけど、こちら、タロット占いをしてくれはるって」
「ああ、はい。完全に趣味の範囲内ですけどね。まぁ、気休めやきっかけにしてもらえたらって」
「私も占ってもろてええですか? 何をどうしたいとか特に無くて、漠然としたもんしか無いんですけど、大丈夫って誰かに言うて欲しいなって思ってしもて。情けないですけど」
奥さまは憂いを帯びた表情で、カウンタの上で両手をぐっと組み合わせる。その手から不安が漏れている様に見えた。世都はふわりと微笑んだ。
「情けないなんて、そんなわけありませんよ。でも私で良かったら、占わせてもらいますね」
奥さまはほっとした様に、頬を緩ませた。
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