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2章 勿忘草を咲かせるために
第13話 ハッピーウェディング
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相川さんと畠山さんは、約3ヶ月後の9月に結婚した。入籍し、大阪梅田でレストランウェディングを挙げたそうだ。畠山さんのご両親はもちろん、相川さんのお母さまとお相手も列席してくれた。
自分のお母さまにお祝いを言われ、相川さんは面食らったそうだ。畠山さんのお母さまも、この段になればさすがに祝ってくれた。相川さんも畠山さんもほっとしたそう。
お母さまのお相手からご祝儀をもらったそうだが、まずご祝儀袋のサイズと豪華さ、厚みに驚き、中をあらためたらその金額がえげつなく、慌てて聞いていたSNSのアカウントに連絡したら、「気持ちやからね!」と強く押し切られてしまったそうだ。しかも内祝いまで辞退されてしまい、相川さんも畠山さんも恐縮しきりだったと言う。
岡町に無事新居も見付かり、落ち着いた9月末の週末、ふたり揃ってやってきた。
「いらっしゃいませ。畠山さんはお久しぶりですねぇ」
「すっかりご無沙汰してしもて。相川にお願いしても連れて来てくれへんし、せやかてひとりで来るんも、相川に何や悪いしなぁと思って」
「ここは私の隠れ家ですからね。いくら畠山くんでも、そこは譲れません」
「でも僕もこれからは岡町住民ですから、頻繁に来れますよ」
「もちろん私ひとりでも来させてもらいます。私、こちらで女将さんとお話をしながらまったりと過ごすのが好きなんです」
「あら、嬉しいです。いつでもお待ちしておりますね」
世都は微笑むと、ふたりに冷たいおしぼりを渡した。まだ夏の名残りは濃く、蒸し暑い日が続いていた。それでもちらほらと、例えば食べるものでは旬が店頭に並び始めていて、秋の気配を感じられる様になって来た。
ふたりはおしぼりで手を拭いて、おしながきに目を落とす。ふたりであれこれと小声で話しながら。
「あの、僕には伯楽星、相川には宮寒梅ください」
「はい。お待ちくださいね」
伯楽星純米吟醸は、宮城県の新澤醸造店で醸される日本酒だ。爽やかで控えめな香り、そしてフルーティ。ほのかな甘みと酸味を含み、するりと飲めてしまう一品である。
宮寒梅純米吟醸は、こちらも宮城県の寒梅酒造で作られる日本酒である。芳香が強めで、味わいも華やかだ。口当たりはとろりとしている。
「ごはんも食べんとな」
「何しようか。あ、私、筑前煮食べたい」
「ええやん」
相川さんは、素直に自分が食べたいものが言える様になった様だ。多分だが、生活費の財布がふたりでひとつなのだろう。畠山さんにご馳走されるのでは無く、自分たちのお金。だから使える範囲で遠慮が無くなったのだ。
ふたりはこれからも、こうして支え合って仲睦まじく暮らして行くのだと思う。とはいうものの、お付き合いは長いふたりだが、一緒に暮らすとなればこれまで見えていなかった部分も見えて来るものだろう。喧嘩だってするかも知れないが、このふたりならきっと大丈夫だ。
「あ、女将さん、あとでお手すきのとき、占ってもろてええですか? ちょっと揉めてることがあって」
「あら」
相川さんの言葉に、世都は目を丸くする。さっそく喧嘩が勃発したのだろうか。いや、そんな風には見えないが。
「実は、家具とか家電とか、この機に一新したんですよ。畠山くんは実家暮らしやったし、私は祖父母の家で使ってたのをそのまま持って来てたんで、ええ加減年季が入りすぎてて。で、一通りは揃ったんですけど」
「ソファの色で揉めてるんです」
「ソファ……、リビングに置く、でええんですよね?」
「そうです。私はシックな、汎用性の高いもんにしたいと思ってるんですけど。黒とかブラウンとか」
「僕は黄色とか黄緑色とかの、明るいのにしたくて」
「でも、そんな淡い色やったら、汚れとか目立つんちゃうんやろかて思って」
「せやけど、明るい色の方が、リビングが明るなるやん」
「て、平行線になってもて。どっちがええか、占ってもろて、それに従おかって」
おやおや。何とも微笑ましい諍いでは無いか。世都は思わずくすりと笑みを漏らす。
「ええですよ。ほな、お食事のあとで。まずはお腹いっぱいになってくださいね」
「はい」
「はい」
そう応える相川さんも畠山さんも、とても幸せそうだ。こうして家具ひとつで揉めるのも楽しいのだろう。
しかし一大事だ。お家のメインスペースとも言えるリビングのイメージを示すという、大仕事を請け負ってしまった。これはどちらになっても、恨みっこ無しということで。
しかし世都はこっそりと思う。ベーシックなソファを買い、カラフルなマルチカバーでお着替えを楽しんではどうかと。
だがそんなことは決して言わない。だからこっそりと願う。どうか占い結果が、双方納得のいくものになりますようにと。
自分のお母さまにお祝いを言われ、相川さんは面食らったそうだ。畠山さんのお母さまも、この段になればさすがに祝ってくれた。相川さんも畠山さんもほっとしたそう。
お母さまのお相手からご祝儀をもらったそうだが、まずご祝儀袋のサイズと豪華さ、厚みに驚き、中をあらためたらその金額がえげつなく、慌てて聞いていたSNSのアカウントに連絡したら、「気持ちやからね!」と強く押し切られてしまったそうだ。しかも内祝いまで辞退されてしまい、相川さんも畠山さんも恐縮しきりだったと言う。
岡町に無事新居も見付かり、落ち着いた9月末の週末、ふたり揃ってやってきた。
「いらっしゃいませ。畠山さんはお久しぶりですねぇ」
「すっかりご無沙汰してしもて。相川にお願いしても連れて来てくれへんし、せやかてひとりで来るんも、相川に何や悪いしなぁと思って」
「ここは私の隠れ家ですからね。いくら畠山くんでも、そこは譲れません」
「でも僕もこれからは岡町住民ですから、頻繁に来れますよ」
「もちろん私ひとりでも来させてもらいます。私、こちらで女将さんとお話をしながらまったりと過ごすのが好きなんです」
「あら、嬉しいです。いつでもお待ちしておりますね」
世都は微笑むと、ふたりに冷たいおしぼりを渡した。まだ夏の名残りは濃く、蒸し暑い日が続いていた。それでもちらほらと、例えば食べるものでは旬が店頭に並び始めていて、秋の気配を感じられる様になって来た。
ふたりはおしぼりで手を拭いて、おしながきに目を落とす。ふたりであれこれと小声で話しながら。
「あの、僕には伯楽星、相川には宮寒梅ください」
「はい。お待ちくださいね」
伯楽星純米吟醸は、宮城県の新澤醸造店で醸される日本酒だ。爽やかで控えめな香り、そしてフルーティ。ほのかな甘みと酸味を含み、するりと飲めてしまう一品である。
宮寒梅純米吟醸は、こちらも宮城県の寒梅酒造で作られる日本酒である。芳香が強めで、味わいも華やかだ。口当たりはとろりとしている。
「ごはんも食べんとな」
「何しようか。あ、私、筑前煮食べたい」
「ええやん」
相川さんは、素直に自分が食べたいものが言える様になった様だ。多分だが、生活費の財布がふたりでひとつなのだろう。畠山さんにご馳走されるのでは無く、自分たちのお金。だから使える範囲で遠慮が無くなったのだ。
ふたりはこれからも、こうして支え合って仲睦まじく暮らして行くのだと思う。とはいうものの、お付き合いは長いふたりだが、一緒に暮らすとなればこれまで見えていなかった部分も見えて来るものだろう。喧嘩だってするかも知れないが、このふたりならきっと大丈夫だ。
「あ、女将さん、あとでお手すきのとき、占ってもろてええですか? ちょっと揉めてることがあって」
「あら」
相川さんの言葉に、世都は目を丸くする。さっそく喧嘩が勃発したのだろうか。いや、そんな風には見えないが。
「実は、家具とか家電とか、この機に一新したんですよ。畠山くんは実家暮らしやったし、私は祖父母の家で使ってたのをそのまま持って来てたんで、ええ加減年季が入りすぎてて。で、一通りは揃ったんですけど」
「ソファの色で揉めてるんです」
「ソファ……、リビングに置く、でええんですよね?」
「そうです。私はシックな、汎用性の高いもんにしたいと思ってるんですけど。黒とかブラウンとか」
「僕は黄色とか黄緑色とかの、明るいのにしたくて」
「でも、そんな淡い色やったら、汚れとか目立つんちゃうんやろかて思って」
「せやけど、明るい色の方が、リビングが明るなるやん」
「て、平行線になってもて。どっちがええか、占ってもろて、それに従おかって」
おやおや。何とも微笑ましい諍いでは無いか。世都は思わずくすりと笑みを漏らす。
「ええですよ。ほな、お食事のあとで。まずはお腹いっぱいになってくださいね」
「はい」
「はい」
そう応える相川さんも畠山さんも、とても幸せそうだ。こうして家具ひとつで揉めるのも楽しいのだろう。
しかし一大事だ。お家のメインスペースとも言えるリビングのイメージを示すという、大仕事を請け負ってしまった。これはどちらになっても、恨みっこ無しということで。
しかし世都はこっそりと思う。ベーシックなソファを買い、カラフルなマルチカバーでお着替えを楽しんではどうかと。
だがそんなことは決して言わない。だからこっそりと願う。どうか占い結果が、双方納得のいくものになりますようにと。
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