恋に目覚める

恋太郎

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恋に目覚める

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あの頃の私は、浮かれていた。一年生の頃から、かなりもてはやされた。期待の新人として、いきなり選抜メンバーに抜擢され、すぐに成果を出した。初めての試合で得点を挙げ、その後の試合でも立て続けに得点を挙げた。部活中には外野から黄色い歓声も上がった。人伝に恋文をもらったり、アドレスを交換したりして多数の人とやりとりした。バレンタインには校舎の裏に呼ばれたり、昼休みには机の隣に別のクラスの女子がいた。私はちやほやされ続け、見るべきところが見えておらず、感謝すべき相手に感謝していなかった。
サキさんはそんな女子の中の一人だった。一年生のとき、恥ずかしそうにしながら、おずおずとアドレスを聞きに来た。そのあとあまりメールはしなかったが、少しだけ話ししたりするようになった。二年生になった頃、昼休みに頻繁に来るようになった。ずっと遠慮勝ちだったサキさんが少し積極的になった。ある日、私やっぱり諦めないと、突然言った。最初は意味がわからなかったが、サキさんは私に好意を抱いてくれていた。
しかし私は馬鹿野郎だった。いろいろな女子からアプローチをうけ、天狗になっていた。献身的に部室を掃除しているサキさんを、試合後に水を運んでくれるサキさんを、私を新キャプテンに推薦してくれたサキさんを、私のプレーに一番近くで一喜一憂している女性を、私は見落としていた。
やがて三年生になると、新一年のマネージャーが入った。可愛い子だった。彼女は積極的だった。高校3年間で初めて告白を受けた。私は馬鹿みたいに舞い上がり、即OKを出した。
人生で初めて女性と付き合い恥ずかしかった為、周りには隠していたが、やがて噂は広まった。卒業まで半年という頃だった。
その頃のサキさんはこんな私にいつもの笑顔を向けてくれていた。いつもと同じ様に接してくれていた。あの頃は、その笑顔の変化にも気づけない鈍感で馬鹿で恩知らずな人間だった。
部活で卒業写真を撮った日の終わりに、サキさんが私のとこに来てこう告げた。いつもと同じ笑顔で、最期の記念に、と。後輩に頼んで2人で写った写真を1枚だけ撮った。写真できたら送るねと告げ、サキは去っていった。
それ以降、サキさんとは一度も会っていないし、連絡も取っていない。
そんなサキさんの夢を見た。私は高校のグランドでサッカーをしていた。終わるとグランドがよく見える高い山の上の開けたところで、部員と帰り支度をしていた。みんなが帰る頃、ふとグランドを見下ろすと、サキさんがまだ洗濯をしていた。私は帰らずにサキさんが来るのを待つことにした。洗濯を干して、部室を掃除して、汗をかいて、一生懸命だった。サキさんがこっちにくる気配がしたので、私は寝たふりをすることにした。サキさんが寝てる私に気づいた頃合いをみて、いかにも今たまたま起きたようなふりをし、サキさんと目線を合わせた。サキさんは微笑みながら、こんなとこで寝たら風邪ひくよと告げた。私は起き上がりアイスクリームを食べ出した。すると、あの頃の積極的なサキさんは、私の向かいに座り、欲しそうに顔を近づけてきた。私はスプーンでひとすくいし、サキさんの口に運んでやると、目線を外し、恥ずかしそうに食べた。そこで一緒に食べながら、私はあの頃言えなかったことを小さな声で言った、いつも近くで支えてくれてありがとう。なにいってんの、なんて言いながら、サキさんはわざとぶっきらぼうに振舞って見せたが、とても嬉しそうだった。お互い急にこっぱずかしくなって、同時に視線を顔ごとそらして、真っ赤になった。私はサキさんに恋をした。これは夢なんだと気付き、目が覚めた後、あの馬鹿だった頃の自分の行動を酷く後悔した。
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