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第1章

第257話 守護神

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 "悪魔"と称される異界の怪人、怪物群と、かねてから戦闘を繰り返していた異界の甲胄人形ドール、さらには巨大な移民船、陸上を走行する母艦らしき物など・・。

 マーブル迷宮を目指し、凄まじい数の敵が大挙して攻め寄せていた。

天馬ペガサス騎士に告ぐ! 全隊撤収っ! これより制空戦は、龍人部隊が引き継ぐ! 繰り返す! 天馬ペガサス騎士は全隊撤収せよっ!」

 天馬ペガサス騎士を担当している少女が通話器を手に連絡を入れる。

 隣では、医療班として行動している"狐のお宿"三番隊を担当する少女が、優先的に急行する場所を指示していた。


「"竜の巣"全隊、シータエリア第5区に急行願います。大型の悪魔が外壁に取り付きました。数は32体。いずれも新種です」


「"お宿"二番隊、シータエリア第八区の確認をお願いします。侵入の痕跡あり。種族、頭数不明」


「"お宿"一番体、大型の個体はそれで最後です。シータエリア第二区内休憩施設に撤収して下さい。"ガジェット・マイスター"が引き継ぎます」


「"ネームド"リールさん、シータエリア第六、第七区に龍を向かわせて下さい。大型の悪魔、魔王種混成部隊が接近中です」


「現在、シータエリア防衛ラインは完全に機能しています。上空、ガンマエリア内、飛行型悪魔の排除確認。大型移民船、後退を始めました。陸上走行型の基地は前進してきます」


 通話する声が飛び交っているのは、神殿町の学園内、大講堂に設けられた司令室内だった。
 広々とした講堂内が、戦場さながらの騒ぎになっている。

 講義用の長机に沢山の画面と通話器が設置され、その前にずらりと探索者達が座って、各人が専用の画面を見つめながら指示の伝達を行っている。
 その探索者達の元へ、書き付けを握った別の探索者達が駆け寄って指示を書いた紙を手渡していた。

 通話による伝達を担当している探索者達は、レベル100未満の者。エスクードの住人で、前線へ出せない者達が支援に駆けつけていた。

 大本の指示出しは、講堂中央部にいるロシータがジータレイドと即時打合せをしながら行っている。

 神殿町の住人達も、救護班を組織して、治療所の手伝いを行い、食事や薬品の運搬などを率先して手伝っている。

「"ネームド"のリールさんから、ガンマエリア上空に居る真珠色の攻撃が激化しているようです。余波による被害に備えるようにと連絡がありました」

 ロシータを担当している探索者の少女が、ロシータを振り返りながら早口に報告をした。

「了解しました。シータエリア外縁に出ている救護班をベータエリア内へ。万が一、死傷者が出た場合は"ケットシー"を急行させます」

「わかりました!」

 少女が机に向き直って、通話器を手に指示を始める。

「ユア様、ユナ様は大丈夫でしょうか・・もう、2時間近くになります」

 ジータレイドが気遣わしげに呟く。

「ブラージュの相手が出来るのは"ネームド"だけです。そして、ユア様、ユナ様は、この場を守っている探索者の中では最強。私達に出来るのは、2人がブラージュとの戦いに集中できるよう他の敵を討つことです」

 ロシータが厳しい視線を映像へ向けながら言った。

「そうですね・・シュン様がお戻りになるまで、なんとしてでも」

「大丈夫です。ユア様、ユナ様のおかげで、真珠色の攻撃はシータエリアの外壁を削る程度・・時間はこちらに味方します」

 ロシータ達が見守る主映像の中を、黒い水玉柄をしたルドラ・ナイトが右往左往しながら、真珠色の鱗をした龍人の槍を躱し、魔法壁で受け止め、兜の口元から白銀の光を吐いて攻撃をする。

 決して、格好の良い戦い方では無い。

 槍を回避する動きも危なっかしい。音声を消してあるが、おそらく賑やかに悲鳴を上げている。ブラージュの槍は幾度となくルドラ・ナイトを捉えているし、その都度、派手に損壊して吹き飛ばされるが、直ぐさま回復し、1秒と経たない内に修復して舞い戻るのだった。

 初めこそ、五月蠅げに打ち払おうとしていたブラージュが、今では執拗に追い回し、何としてでも仕留めようと躍起になっている。

 ユアとユナのルドラ・ナイトの無尽蔵とも思える回復力、そして侮れない飛空能力、ほぼ嫌がらせのMP5SDによる小粒なダメージの嵐・・。

 ブラージュが強引に接近をしようとすれば、ルドラ・ナイトが黄金光の砲弾を連射し、口元から白銀光を噴射し、ブラージュが嫌がって距離を取れば、またMP5SDを連射して銃弾をばら撒く。

 驚くべきことに、ブラージュの槍"ラウクレア"による破壊光を、ユアとユナは光防壁によって防ぎ切るのだ。
 熱や突風など余波までは防げず、シータエリアの外壁を灼かれていたが、槍の破壊光そのものは完全に封じられていた。

 これは、ブラージュにとっても大きな誤算だったろう。

 何らかの攻撃によって向きを逸らされた経験はあっても、防ぎ止められたのは初めてだったに違いない。
 しかも、一度や二度では無い。
 すでに二桁になろうかという回数、ブラージュは"ラウクレア"による破壊光を放っている。

 真珠色の鱗をした龍人ブラージュと、黒い水玉柄のルドラ・ナイト2体の対決。

 戦いの技量、洗練の度合いは明らかにブラージュの方が圧倒的に上だった。しかし、結果的に互角の戦いになっている。


「"竜の巣"から報告、外壁に取り付いた大型個体の排除を完了・・次の敵を寄越せと騒いでいらっしゃいます」

 伝令役の少女が笑いながらロシータを見た。

「・・クソ猫と言いました?」

 ロシータの双眸に凄みのある笑みが浮かぶ。

「い、いえ・・」

「アレクに伝えて下さい。陸上走行型の基地が目障りだと」

「了解です!」

 少女が大急ぎで駆け去って行った。

「第一波を防ぎ、転移からの奇襲を防ぎ、波状攻撃による防衛も落ち着いて来ました。次はどう出るでしょう?」

 ロシータは、ジータレイドを見た。

「戦力の分散の愚を反省し、全兵力を投じて攻めて来るでしょう。攻め方も見事、退き方も見事・・移民船や甲胄人形中心の部隊と、悪魔中心の部隊を交互に間断なく投入して、籠城側を精神的に追い詰める戦法も理に適っていますが、ここまで余裕を持って押し返されるとは思って居なかったでしょうね」

 ジータレイドが答えた。

「向こうは30万以上、こちらは1500ですからね。こういう時、これの有り難みが分かりますね」

 ロシータは、手首にある神具の紋を指差した。
 いつでも、好きなときに好きなだけ入れるお風呂とお手洗い。"文明の恵み"とはよく言ったものだ。


『ロッシ~ ボッスはまだぁ~?』


『ロッシ~ ボッスはどこぉ~?』


 不意に、ユアとユナの大声が講堂内に響き渡った。

「・・どうしたの?」

「申し訳ありません! 何がどうなっているのか・・故障でしょうか?」

 探索者の少年が首を傾げながら通話器の接続や配線を調べ始める。ユアとユナの声が、全施設向けの緊急放送用の拡声器から流れているのだった。


『ぎゃぁーーーー・・』

『ぎゃぁーーーー・・』


 2人揃って悲鳴を張り上げる。

 主画面で、黒い水玉柄のルドラ・ナイトが、ブラージュの破壊光に包まれて弾け飛んだ。


『ユアは、痛恨のダメージを受けた』

『ユナは、混乱している』


 2発、3発と連続して破壊光を放ったブラージュが槍を手に突進するが、文字通りに体を張って受け止めた黒い水玉柄のルドラ・ナイトが、黄金光を噴き上げながら仁王立ちに立ち塞がる。

 ほとんど捨て身に槍を突き入れたブラージュを迎えて、


『セイクリッドォーー・・』

『パニッシュメントォーー!』


 ぎりぎりの至近距離から、ルドラ・ナイトの両手から黄金の光柱が襲った。
 危うく避けながら、防御光で身を包んだブラージュだったが凄まじい威力に灼かれて大きく仰け反り、無理な体勢から破壊光を放ちながら逃れ出る。


『うははは、なめるな下郎っ!』

『わははは、白トカゲめがっ!』


 黒い水玉柄のルドラ・ナイトが並んで腕組みをする。

『さあ、来るが良い!』

『"ネームド"の守護神が相手だ!』


 強がるユアとユナの声が少し震えていた。


「今のは・・危なかったですね」

「はい。かなり・・」

 ロシータとジータレイドがほっと息を吐いた。

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