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第1章

第239話 あの頃の君

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 アギィァァァァァーーーー・・



 物悲しい絶叫が響く
 正しく魂の悲鳴が神具の秘鏡を通して盛大に聞こえ続ける中、マーブル主神はそっとオグノーズホーンの背中に身を隠した。

「我が主よ・・」

 オグノーズホーンが、背後で身を縮めている少年神に声を掛けた。

『なんだい?』

「あの者をどこでお拾いに?」

『・・シュン君かい?』

「はい」

『ああ・・ボクの世界で孤児になってた子だよ? 規則に従って、迷宮にやって来ただけの普通の孤児』

 マーブル主神が答える。

「明らかに、他の者・・異邦人や原住民とは隔絶した能力を有しております。種として異質なのでは?」

『う~ん、まあねぇ』

「神々の落胤・・という事は?」

 オグノーズホーンが訊ねた。

『いや、シュン君は人間だよ。ボクも、どこかで神の子供とか・・何か魂に混じってるかもって調べた事がある』

「人間でしたか」

 オグノーズホーンが意外そうに小首を傾げた。

『肉体も、魂も・・まっさら』

 マーブル主神が両手を拡げて見せる。

「ふうむ」

『孤児なのも間違いない』

「では、あの力は努力・・鍛錬によるものですか」

 オグノーズホーンが、神具の鏡へ視線を戻した。

『運もあるね』

「運・・そうですな」

『シュン君を育てた里親と狩りの師匠は、どちらも人間の中では頂点に近い力を持っていたし、暮らしていた場所は魔物だらけの山岳地だったからね』

「・・霊法を会得しているという人間ですな?」

『身近に、そういう見本が居るのと居ないのでは全く違うだろう?』



 イギャァァァァァァーーーー・・



「そうですな」

 オグノーズホーンが頷いた。

『後はそうだなぁ・・あぁ、彼は父系に異邦人がいるね。何代前かは知らないけど・・』

「ほう?」

『ボクの世界に連れてきた異邦人と原住民の間に生まれた子供はいっぱいいるからねぇ・・そのさらに子か孫か、そんな感じ』

「何か特殊な能力が?」

『それが無かったんだよね。いや1つだけ・・』

 マーブル主神が、迷宮入口でシュンを見た時の記憶を辿る。

『たぶん、狩人をやっていた時に習得したんだと思うけど・・』

「何かありましたか?」

『気配同化』

「ほう・・」

 オグノーズホーンがマーブル主神を振り返った。

「気配断ちでは無く、同化・・でしたか?」

『うん、同化だったよ。それが面白いから、異邦人と同じ組に混ぜたんだ』



 ゥアァァァァァァーーーー・・



「珍しい能力ですな」

『迷宮に入る人間を"お試し"で闇の迷宮に放り込むんだけど・・』



 ヤメロォォォーー・・ヤメロォォォーーーー・・



「闇で正気を保てるかどうか・・耐えた時間によって授けられる加護が変わるという試練でしたな?」

『うん。シュン君は、あの闇試練をクリアしちゃった』

「・・闇に同化をしましたか」

 オグノーズホーンが微笑を浮かべた。

『放って置いたら、何年でも耐えられそうだったから、途中で切り上げたんだけどね』

「他の者との大きな差違が生まれる根源は、闇の試練でしたか」

『・・決定的だったのは、多分・・ディメンション・イーターだなぁ。ちょっとした不具合というか、やたらと炎に弱い特性があってさ。シュン君が都合良く、牛鬼の炎具足を持っててさ。あれは拙かったなぁ・・もう修正したんだけど』

 マーブル主神が頭を掻いた。

「ディメンション・イーターですか。攻撃力はそれなりですが、再生力が極めて高い魔物ですな。迷宮に入ったばかりの人間の手に負えるとは思えませんが?」

『それが・・炎で灼かれていると、再生できなくなっちゃうって、致命的な弱点を持ってて・・』

「なんと・・」

 オグノーズホーンが軽く眼を見開く。

『偶々なんだろうけど、牛鬼の炎鎧で灼き続ける状態になって、後はひたすら攻撃をして・・とうとう斃しちゃったんだよねぇ』

「・・それで"運"ですか]

『あの事があってから、迷宮の魔物を全体的に見直して、強くしたんだけど、あっちを弄ればこっち、こっちを弄ればあっち・・不具合が頻発しちゃってね。その間に、シュン君とあの婚約者ちゃんが次から次にやらかして・・』

 マーブル主神が腕組みをして唸る。

「しかし、随分とレベルが低いようですが?」

 オグノーズホーンが、神具の鏡に映るシュンを見つめた。

『・・ぁ・・また忘れてた。後でこっそり上げておこう』

「何か約束事が?」

『毎月1レベルアップの約束をしてたんだ』

 マーブル主神が焦った様子で、四角い箱状の神具を取り出し何やら確かめ始めた。

「妙に少ないですね。あれほどの働きをする者です。もっと引き上げてやっても良いのではありませんか?」

『やめてよ・・世界が終わっちゃいます』

「しかし・・主神様の使徒という身で低レベル過ぎるのは如何なものかと」

 オグノーズホーンが窘める口調で言った。

『うぅ・・』

 マーブル主神が視線を逸らす。

「あれは、良い若者です。力を与えたところで、力に溺れるような愚かな行いはしないでしょう」

『う、うん・・そこは信じてるよ。じゃないと使徒にしないし? でもねぇ、本人に悪気が無くても、事故ってあるじゃん? 巻き込まれ事故って言うの? 余波みたいなので、どかぁ~んとか』



 ガァァァァァーーーー・・



「しかし・・」

 オグノーズホーンが、神具の鏡をちらと見た。

『なぁに?』

「もう、今更・・でしょう?」

『・・そう思う?』

「はい。あの者が本気を出したなら、すでに儂の手には負えませぬ」

『・・やっぱり?』

「数ヶ月くらいは互角にやり合えましょう。しかし、儂の方が先に体力を失って圧されるでしょうな」

 オグノーズホーンが淡々とした口調で言う。

『そっかぁ・・まったく、とんでもない子だね』

「ですが・・主神様を裏切るような男ではありませぬ」

 オグノーズホーンが微笑を浮かべた。

『うん、そこはボクも心配してないよ』

 マーブル主神も笑う。

「それに、めを連れ戻すには、あの者の協力が不可欠でしょう?」

『・・そうだね。まあ、闇ちゃんの事は元々シュン君にお願いするつもりだったんだ』

「ならば・・」

『うむむ・・よし、うだうだ言ってないで、パパってレベルを上げちゃおう。と言っても、まあ・・レベル75くらいかな』

 マーブル主神が大きく息をついて頷いた。

「・・そうですね。そのくらいあれば、見栄えとして悪くありません」



 キィィィアァァァァァーーーー・・



『あ・・』

 マーブル主神が、神具の鏡へ顔を向けた。

「尋問が終わったようですな」

 オグノーズホーンが、鏡に映し出された光景を見て苦笑を浮かべた。

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