222 / 316
第1章
第222話 宣戦布告?
しおりを挟む「宣戦布告?」
シュンは、マーブル主神を見た。
『そう、宣戦布告』
マーブル主神が頷いた。
「数と位置は?」
『・・ああ、その前に、君・・ボクに報告する事があるんじゃない?』
「報告? 異界の移民船の事ですか?」
『移民船?』
「こちらの世界に、何億という数の・・頭を運んでいたそうです。魂の数をカーミュが数えたようですから・・大きな差違は無いと思います」
『異界の神めぇ・・やりたい放題だな』
「こちらへ侵入した船を1隻、向こうの世界で7隻破壊しました。他にも侵入しているとは思いますが・・」
異変が起こる前提で、迷宮を中心にした防衛の準備を念入りに整えていたところだった。魔王種用の探知器は予定数の埋設を終え、巨大迷路シータエリアの外縁部から1キロメートルほど離れた位置に防塁を築いてある。
"竜の巣"と"狐のお宿"が踏破した迷宮は、どちらも30階程度と、階層が浅かったため、罠を設置の上、最上階にはリールの合成獣を放ってある。
『君の強さを知って、それでも戦いを挑んできたってことか。異界神・・合理的な判断をする感じだったし、それなりに根拠があるのかな?』
マーブル主神が宙に漂いながら唸った。
「異界の神が宣戦布告を?」
『異界神が太陽神達と結託した。独立するんだってさ』
「独立?」
マーブル主神が創造した世界で、独立とは・・? どこかの異界にでも旅立つのだろうか?
『地上世界を全部寄こせって言って来たよ』
マーブル主神が嘆息した。
「・・主神様の世界を?」
正気とは思えない話だった。シュンの眉間に皺が寄った。
『うん』
「アルマドラ・ナイトの封印を解いて下さい」
『解除手段は与えるけど・・使うと世界が滅ぶから、ようく考えてね?』
「・・時と場所は選びます」
シュンは頷いた。
『そうしてよ。本当の・・最後の手段にして』
「約束します」
『今回の争乱はボクの責任が大きい。仮に・・もしもだよ? 君が世界を滅ぼしちゃっても恨みはしない。それは約束する。でもね・・それでも、ボクはこの世界が好きなんだ。消滅させたく無いんだよ』
マーブル主神が俯きがちに呟いた。
「大丈夫です」
シュンにしても、世界を滅ぼして迷宮を失うことは避けたい。アルマドラ・ナイトの封印解除は、他に手が無くなった場合の最終手段だ。
『さっきも言ったけど・・向こうは、相応の対抗手段を手に入れたと思う。異界神は知らないけど、太陽神は勝てない喧嘩をやる奴じゃ無い』
「そうでしょう。喧嘩は、勝てる算段がついた側から仕掛けるものですからね」
シュンは大きく頷いた。
『う・・うん、まあね。ああ、そういう意味では、朗報が1つある』
「朗報が?」
『風の女神が、こちらの陣営についてくれる事になった』
「風の・・」
『ずうっと昔から中立だった女神だ。さすがに、今回の異界神の動きは腹に据えかねたらしい』
「なるほど・・ところで、輪廻の女神様はどちらに?」
シュンとしては、よく分からない風の女神より、強力な戦力だと確認ができている輪廻の女神の方が重要だ。
『闇ちゃんは、凶神を追って行ったままなんだよ。未だに連絡がつかないんだ。ちょっと、ややこしい空間に入り込んじゃってるみたいでさ』
マーブル主神が唸った。
「アルマドラ・ナイトの封印を解除した状態で、どのくらい活動できるでしょう?」
シュンは訊ねた。脈絡も何も無い、いきなりの質問である。
『へっ? なんで、いきなり? 使う前提なの?』
マーブル主神が怯えた顔を見せる。
「いいえ。ただ、万が一にも使わざるを得ない状況に追い込まれた時、どの程度なら安全に使用できるのか・・それを把握しておきたいのです。こればかりは、試しただけでも問題が起こりそうですので」
『確実な事はボクにも分からないよ。ただ・・5分を超えない範囲だろうね。安全を見て、3分以内かなぁ』
マーブル主神が首を傾げた。
「3分ですか・・ちなみに、その後、通常の活動に支障が出ますか?」
いちいちラグカル病になって寝込むようでは、使い物にならないのだが・・。
『君の回復力なら問題無いでしょ。まあ・・何十秒か、動けなかったりするかも? でも、1分も経たずに元通りだと思うよ』
「・・ありがとうございます。そういう事であれば、数の不利を補えると思います」
シュンはほっと息をついた。
『えっ? いやいやいやいや、使う前提だよね? 使うつもりになってるよね? なんで、事後の心配とかしちゃってんの?』
マーブル主神が、恐怖に顔を歪めてシュンに詰め寄る。
「瞬間的に解除、そして送還をすれば問題無いのでしょう?」
『・・まあ、理屈の上ではね? でも、本当に何が起こるか分からないからね? 世界が割れちゃったり、時空が歪んじゃったり・・太陽が消し飛んでも驚かないよ?』
「逆に、期待したほどの破壊力では無い可能性だってありますよね?」
一番困るのは、身体の変調を覚悟して封印解除をしたものの、期待した成果を得られない事だ。
『それは無い! 君の・・普通のアルマドラ・ナイトだって、ヤバいでしょ? ぶっちゃけ、おかしいよね? アルマドラ・ナイトの大きさに合わせて、"魔神殺し"まで巨大化しちゃってるし・・他の神は、アルマドラ・ナイトの事ばっかり言ってるけど、本当にヤバいのは"魔神殺し"とテンタクル・ウィップだからね? いや違った! 君がヤバい! それを使えちゃう、君が一番ヤバい!』
マーブル主神が、シュンの顔を指さして断定した。
「ところで、独立ということでしたが・・どのような勢力分布図になるのでしょう? 私が把握した迷宮の位置とのすり合わせを行いたいのですが、そういった情報は頂けますか?」
『・・本当に、ヤバいよね?』
「私がですか?」
シュンは驚いた表情でマーブル主神を見た。
『・・いいけどさ。もう、こうなったら、じゃんじゃん情報を出しちゃうよ。味方になってくれた神様の情報も必要でしょ? 共闘するんだし・・』
「無いよりはあった方が良いですね」
シュンの反応が薄い。
『あれ? 無くても良いの?』
「私が知りたいのは、敵の位置です」
『味方の位置は?』
「後から、そこに味方が居たのかと分かる程度で結構です」
『・・ちょっと待って? 何なの? 君、まさか味方まで消し飛ばすつもり?』
マーブル主神の顔が不安で曇る。
「ああ・・それは違います」
シュンは首を振った。
『何が違うの?』
「敵か味方か・・それは、その時々によって違うでしょう?」
『どういう意味?』
「こちら側が優勢なら、味方は増えるでしょうし、劣勢なら味方は減るでしょう? 結果として戦いが終わった時に結論が出ると思います」
誰が味方で、誰が敵なのか、考えるだけ無駄なのだ。
『あのねぇ、そんな事を言っていたら、せっかく味方だと言ってくれている神々まで造反しちゃうよ? そりゃあ、数は少ないけども・・ボクに味方するって言ってくれるんだから、大事にしなくちゃ駄目でしょ?』
「しかし、今、この瞬間にも向こう側についているかも知れませんよ?」
『・・なんで?』
「太陽神は慎重なのでしょう? 一柱でも多く味方にしようとして、当初から画策を続けているのではありませんか?」
『・・うぅ、そうかも。いやっ・・違う! こんな時だからこそ、信じなきゃ! 疑っていたら、きりが無いよ!』
マーブル主神が声を張り上げた。
「そうですね。ちなみに、現状で敵側になっている神々は何柱で、所在は何処になるのでしょう?」
『ああ、それは・・すぐに記録した物を送るよ。ポイポイに放り込んでおくから戻ったら確認してね』
「ありがとうございます。ちなみに、夢幻の女神についてですが・・」
シュンは次の話題に移行した。
『えっ? ああ、忘れてた。魂石?』
「これを、アルマドラ・ナイトの強化に使えませんか?」
『ぉぉぉ・・』
マーブル主神が妙な声を漏らした。
「妙な事に、中から出てきた別のものを斃した際に別の魂石を落としました。この2つを使えば、かなりの強化ができると思うのです」
『ええと・・前にも言ったけど、膂力と防御力とか・・その辺の強化だけだよ? ルドラ・ナイトだっけ? 甲冑人形の数は増えるけど』
「広域で戦いが起きるなら、ルドラ・ナイトを増やす必要があります。あれがあれば、私のレギオンの人間なら、龍人や神々とも互角以上に戦えますから」
『ふむ・・まあ、君の当然の権利だし、あの女神はボクもよく知らないから良いかも・・いや、待てよ? あの女神、夢幻回廊を生み出せるんだったよね?』
「はい」
『ふうむ・・やっぱり、強化に使うのは1つだけにして、女神の魂石は保管しておいてよ』
「何か使い道が?」
『あるかもしれない・・まあ、使い道が無ければ、後で強化に使えば良いでしょ?』
「・・なるほど」
マーブル主神の提案にシュンは頷いた。
「次の案件ですが・・」
『まだあるの?』
マーブル主神が嘆息した。元々は、マーブル主神がシュンを呼び出したのだが・・。
「こちらの世界と異界を往き来する手段はありませんか? できれば安全に、大々的に」
『異界か・・本来なら揉め事の種になるから駄目なんだけど、宣戦布告して来てるし・・』
「可能なのですね?」
シュンの問いかけに、マーブル主神が頷いて見せる。
『可能だね。ボクが前に創った玩具を貸してあげるよ。君の悪霊君がやったように、空間に穴を開けて固着させる事ができる。昔、あっちの世界に遊びに行った事があるんだ。紫色の太陽が2つあったでしょ?』
「ありました」
『・・もしかして、あっちに攻め込むの? 移民船はもう墜としたんでしょ?』
マーブル主神が訊ねた。
「向こうで使徒から攻撃を受けました。位置を特定できましたので討伐に向かおうと思います」
『おぉ・・異界神の使徒? ってことは、向こうの神界かい?』
「神界というより、空に浮かぶ島のような場所ですね」
リールの小悪魔が、使徒を追跡して突き止めたのだ。追跡に気付かれているかどうかは五分五分だとリールが言っていたが・・。空振りでも構わない。敵として戦う事になる相手なのだ。試しに一当てやっておくべきだろう。
『あれ? 異界神は、まだこっちに来て居ないのかな? 宣戦布告をしておいて、のんびりしてるね』
マーブル主神が首を捻った。
「あるいは使徒だけ残しているのかもしれません」
『ふむ。まあ、どうせ滅びる世界でしょ? 好きにやったら良いよ』
「そのつもりです」
シュンは頷いた。
0
お気に入りに追加
515
あなたにおすすめの小説
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
夫から国外追放を言い渡されました
杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。
どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。
抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。
そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……
妹がいなくなった
アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。
メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。
お父様とお母様の泣き声が聞こえる。
「うるさくて寝ていられないわ」
妹は我が家の宝。
お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。
妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜
福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。
彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。
だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。
「お義姉さま!」 . .
「姉などと呼ばないでください、メリルさん」
しかし、今はまだ辛抱のとき。
セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。
──これは、20年前の断罪劇の続き。
喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。
※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。
旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』
※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。
※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる