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第1章
第213話 夢幻の罠
しおりを挟む「ディガンドの爪を出しておけ」
シュンは背後の2人に声を掛けた。右手に"魔神殺しの呪薔薇"を握り、左手には騎士楯を持っていた。
「アイアイ」
「ラジャー」
ユアとユナがすぐさま、ディガンドの爪を浮かべ、黒い棍棒を手に握った。
武器の書・銃、武器の書・刀剣、魔法の書で与えられたものが封じられていた。それが、回廊による効果なのか、襲って来る敵によるものなのかは不明だ。
魔法を封じられているため、ユアとユナが得意とする神聖魔法の大半は使用できない。
『マリンは避けるのが上手なのです』
カーミュが上方へ視線を向けながら呟いた。
「任せて大丈夫か?」
シュンは前方へ眼を向けたままだ。上方でマリンが交戦している魔物とは別に、回廊の前方から何かが近付いて来ている。
『相手も素早いのです。でも・・マリンが勝つのです』
カーミュが見つめている先で、白い鹿のような大型の獣がマリンを追って空中を走り、角から無数の雷撃を放って攻撃をしている。マリンの張り巡らせた水霊糸を、白い鹿の雷撃が焼き切って消しているようだった。
無数に奔る雷光を潜り、マリンがするすると逃げ回る。うかつに近付けば、白い鹿が雷光を全身に纏って攻撃をしてくるため、マリンは近付かずく事が出来ずに駆け回っていた。
「来るぞ」
シュンはゆっくりと前に進み出た。
回廊は一本道だ。幅が15メートル程度の白く光る道の上を金色の狼が走ってくる。体高が2メートル近い金狼だった。
「・・3頭か」
金毛の大きな狼が一列になって迫って来ている。
「ジェルミー」
シュンに呼ばれて、女剣士が現れた。
「これを使え」
シュンはムジェリ作の長刀を手渡した。以前、同じような状況を経験した後、自分用には長剣と大剣を、ジェルミー用には長刀と短刀を用意してある。
距離にして10メートルまで接近したところで、先頭の金狼が口から紅蓮の炎を吐いた。
「左を」
シュンの指示に、ジェルミーが小さく首肯しながら左へ進み出る。同時にシュンは右へ走って"魔神殺しの呪薔薇"を振り抜いた。
正面から吐いた炎を目眩ましにして、後続の金狼が右と左に別れて回り込もうとしていたのだ。
左を駆け抜けようとした金狼が、ジェルミーの一刀を浴び、首から上を失って光る道から落ちていく。右へ回り込んだ金狼は、激しい殴打音と共に圧壊して床上で肉片と化した。
残る金狼をシュンが右から、ジェルミーが左から襲って、ほぼ同時に金狼の胴と首を切断した。
直後、シュンは騎士楯を前に出して腰を落とした。
ゴッ・・ゴンッ!
重たい衝突音が楯を震動させ、傾けた楯の表面を2本の金色の矢が斜め上へと逸れて飛び去る。
「前進する。距離を維持して続け」
「アイアイ」
「ラジャー」
ユアとユナの返事に、
『矢が戻って来たです!』
カーミュの声が重なった。
直後、ユアとユナが手にした黒い棍棒で金色に光る矢を叩き落とした。
さらに、床の上に転がった金色の矢めがけて、2人が棍棒を振り下ろす。
「指導っ!」
「成敗っ!」
ユアとユナの棍棒で叩き潰された金色の矢が、みるみる形を変えて金色に輝く大蛇になっていた。
「蛇じゃん」
「化け蛇っ!」
ユアとユナが黒い棍棒で滅多打ちにして金色の大蛇を仕留める。
「収納しておけ」
シュンの指示に頷いて、2人がポイポイ・ステッキで金蛇を収納した。
ヴアァァーー・・
上方で獣の鳴き声が聞こえた。
『ごしゅじん~』
マリンが元気に駆け下りて来た。
「仕留めたか?」
ちらと見上げると、頭と四肢を失った白い鹿が、水霊糸で宙吊りになっていた。
『マリンのかち~』
自慢げに尻尾を振り立てるマリンの頭を撫でつつ、シュンは前方へ視線を向けた。
「ジェルミー、最後尾につけ。前進する」
まだ姿は確認できていないが、この敵は神だ。マーブル主神が与えた力を封じるほどの神が居る。
妙な獣を操って遠隔攻撃を仕掛けてくるのは、こちらの力を測っていると考えるべきか。神の与えた武器や魔法を使えない状態で、こちらにどの程度の力が残ってるのか試しているのだろう。
同じ回廊の中に存在するのなら、このまま進めば遭遇する。別の回廊から空間を越えて攻撃をしているなら、捜し出すまでに手間と時間がかかる。
「向こうは魔法を使える?」
「向こうは銃器を使える?」
ユアとユナが小声で囁き合っている。
「そのつもりでいろ」
"ネームド"を知っていて奇襲を仕掛けてきたのなら、そのくらいの事は考えているだろう。
周囲を警戒しながら、白く光る道を進んでいると、
ヴィィー・・ヴィィー・・ヴィィー・・
耳障りな音が鳴り響いた。
全魔王種に告げる!
探索者"ロシータ"と"アレク"によって"夢喰いの魔王"が殺された!
戦いに備えよ!
防備を怠るな!
仇敵は強大なり!
脆弱な人や獣を喰って満足するな!
全ての魔王種よ、さらなる高みを目指せ!
ヴィィー・・ヴィィー・・ヴィィー・・
「ロッシが晒された」
「アレクが暴れてる」
今の回廊へ入ってから"護耳の神珠"が使えず、アレク達と連絡が取れていない。
向こうは向こうで、魔王種の攻撃を受けていたようだ。
「・・さて」
あまり時間を掛けると、アレク達だけでなく、霊気機関車のリール達まで騒ぎ始める。
『姿を現さないのです。狡いのです』
カーミュが前方を見たまま不快そうに呟いた。
白い鹿や金色の狼をけしかけてきた敵が姿を隠したままだ。一本道である。こちらが近付いただけ、向こうが離れているという事だろう。
「回廊の仕組みは把握した。マリンの糸とは違うが・・」
シュンは、右手に握った"魔神殺しの呪薔薇"を逆手に握り直すと光る床めがけて突き下ろした。
「目覚めろ、テロスローサ」
大剣に静かに語りかけたシュンの全身から、白銀色に輝く霊気が噴き上がった。
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