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第1章

第212話 回廊渡り

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ヴィィー・・ヴィィー・・ヴィィー・・


 耳障りな音が鳴り響いた。



 全魔王種に告げる!

 忌々しい神の使徒によって"白鎧の魔王"が殺された!

 戦いに備えよ!

 防備を怠るな!

 仇敵は強大なり!

 脆弱な人や獣を喰って満足するな!

 全ての魔王種よ、さらなる高みを目指せ!



ヴィィー・・ヴィィー・・ヴィィー・・



「マリン、追いかけろ!」

『はいです~』

 シュンの合図で、マリンが放たれた矢のごとく走り出した。

 マリンが走る前を青白い霊体が浮かんで進んでいる。

「・・祟られる」

「・・お祓いする」

 シュンの背中にユアとユナが隠れて小さくなっていた。

 理由は、マリンが追いかけている霊体だ。
 マーブル主神によって"探知ちゃん"・・と暫定的に名付けられた魔法の杖から放たれたは、どう見ても、人型の・・どこか女性的な姿をしている。
 俗に言うところの幽霊と言われる存在が、こういうものなのかもしれない。透けて見えるものがマリンよりも少し早いくらいの速度で迷い無く飛んで行く。

 マーブル主神の説明では、神とは真逆の属性を有する魔王種の生きた霊が、神具の在処を探知する力になるのだという。

「どう見ても呪具」

「ボス、後で手を洗う」

 ぶつぶつと2人が言っている。

 マリンの水霊糸で捉えられた白っぽい女のような形の魔王種や蜘蛛のような魔王種から、マーブル主神が霊魂を取り出して、神珠の中に封じ込めたのだ。
 完成したのは、ムジェリに作って貰った魔王種を探知する魔導具・・あれの逆で、神や神具を探知できる神具だった。

『別の回廊に通じたです』

 カーミュがシュンの耳元で囁いた。

「マリンは糸を?」

『繋げたです』

「よし・・」

 シュンは、背中に隠れてぶつぶつ言っている2人を振り返った。

「向こうの回廊へ移るぞ」

「・・アイアイ」

「・・ラジャー」

 シュンの上着の裾を握ったまま、ユアとユナが頷いた。

 マリンの水霊糸を辿り、別空間に存在する別の夢幻回廊へ渡る。
 これを繰り返して、ロシータとアレクが居る回廊を目指すのだ。

『きえたぁ~』

 マリンが駆け戻って来た。
 飛んでいた霊体が霧散したらしい。

「案内してくれ」

『はいです~』

 駆けて来たマリンが、くるりと身を翻して元来た道を駆け戻って行く。後ろを、シュンを戦闘にユアとユナが追いかける。

 足元は白々と光る床、周囲は光を吸う黒々とした空間だ。

『こっち~』

 不意に、マリンが宙へ駆け上がって何も無い場所へと飛び込んで行く。

「カーミュ」

『任せるです』

 カーミュがマリンが消えた辺りに向けて、白炎を円を描くように噴射した。
 どういう理屈なのか、空中が円形に灼かれて炎の輪が生み出される。

『飛び込むです』

 カーミュがシュン達を振り返った。

「・・サーカスでゴザル」

「・・火の輪くぐりでゴザル」

 ユアとユナがぴょんぴょんと身軽く跳んで炎輪の内へと頭から飛び込んだ。後ろをシュンが続く。

 似たような白く光る床の上から3メートルほどの高さに出た。シュンは、周囲を見渡しながら着地すると、待ちかねてソワソワしているマリンの前で、手にした神具の杖を前へ突き出した。

「神具が2つ存在する回廊を探せ」

 杖に命じると、杖の先に填め込まれた赤黒い珠から青白い霧状のものが生み出されて、恨めしげにシュンの方を見る。途端、ユアとユナが大急ぎでシュンの背中に隠れた。

「行け」

 シュンに促され、青白く透ける霊体がゆっくりと辺りを見回してから、すぐに1つの方向を見つめると飛翔を開始した。

「マリン、追いかけろ」

『はいです~』

 掛け声を待ちかねていたマリンが、右へ左へ白い稲妻のように身軽く跳びながら霊体を追いかけて走り始めた。

「行くぞ?」

「・・もう少し距離を取る」

「・・祟りがある」

 ユアとユナがシュンの上着を引っぱった。

「そう言うな。アレクとロシータを待たせている」

 "護耳の神珠"を使って、アレクとロシータの2人には警戒しながら待機するよう伝えてある。

「・・そうだった」

「・・失礼した」

 ユアとユナが青ざめた顔のまま頷いた。

『マリンが糸で繋いだです』

 カーミュが姿を現した。

「よし・・」

 シュンは2人を見た。

「大丈夫」

「覚悟した」

 聖女で教皇・・悪霊の天敵のような天職を持っている2人が決死の形相で頷いた。

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