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第1章

第207話 降下セヨ~!

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 ポォォォォォォーーーー・・


 ポォォォォォォーーーー・・


 ポォォォォォォーーーー・・



 のんびりとした大きな音が、澄み切った青空に響き渡る。

 地上でその音を聴いたのは、半死半生で座り込んでいる兵士達だった。
 城壁で囲まれた城塞都市・・崩れかかった城壁に背を預け、生に絶望した兵士達が座り込み、疲弊して項垂れている。その頭上を、黄金光に包まれた何かが奔り抜けて行った。

 ほんの一瞬の、瞬きをするほどの間の出来事だった。
 光の奔流は遙かな西の空へと消え去っていた。まともに眼で終えた者は居ない。ただ、光に包まれた何かが過ぎ去ったことは認知していた。

 何か悪いことが起きる予兆かと、不安げに空を見上げた兵士達の上に、黄金色の光粒がキラキラと輝きを放ちながら降って来た。その光粒に触れた者は裂傷が癒え、毒気が消え、疲労困憊した身体に生気が漲るのだった。城内の兵士達からは見えないが、城壁外では、魔王種がダメージを負って苦鳴をあげながら身を震わせている。

 降ってきた光る粒は、上空を通過した霊気機関車U3号を護っていた聖光膜の残滓である。U3号が高速で移動する際、こぼれ落ちた聖光の粒が、熟練の治癒魔法使いでしか成し得ないほどの"奇跡"をもたらしたのだった。

 地上の兵士達が祈りを捧げる間もなく、高速で空を走り抜けた霊気機関車U3号では、これから行われる作戦のために、最後の打ち合わせが行われたところだ。

 今回の作戦の参加者は、

 霊気機関車の護りとして、ユキシラ、リール、ミリアム、ジニー、ディーン。

 強襲要員として、シュン、ユア、ユナ、アレク、ロシータ。

 以上の10名である。
 打合せが終わると同時に、アレク、ロシータは後部車両へ向かった。

「見えました」

 観測していたユキシラが報告すると同時に、指揮車正面に、地上の様子が拡大表示された。
 霊気機関車U3号は、高度1万メートルに停車中だ。
 丁度、真上から目的地を見下ろしている。

 夢幻の迷宮は、地下へ続く迷宮だった。
 地上には転移門を兼ねた祠があり、ある程度の強者しか入れないようレベル判定による制限が設けられていたそうだ。
 しかし、本来なら女神の祠があっただろう場所には、巨大な城壁に囲まれた大きな城が建っていた。

「これが魔王城か」

 城壁は二重になっており、内側は黒っぽい沼地・・中央部分に覇王樹サボテンのような構造物が建っていた。まだ霊気機関車U3号に気が付いていないのか、魔王城には動きは見られない。大きな羽虫らしき魔物が飛んでいるが、ゆったりと舞うようにして行き交っているだけだった。

「ユア、ユナ」

 シュンは、指示を待っている2人に声を掛けた。

「アイアイ」

「ラジャー」

 ユアとユナが頷いて、小走りにユキシラの座席近くへ行くと、2列に並んだ12個の小さな突起を次々に上へ持ち上げていく。

「右列コンペイトウ、準備ヨ~シ」

「左列コンペイトウ、準備ヨ~シ」

 大きな声で言って、2人がちらりとシュンを振り返る。正面画面の下部に、U3号の最後尾に連結された長方形の特殊車両が映し出される。車両の底面から円筒形の物が2列12本、突き出していた。

「やってくれ」

「右列、投下っ!」

「左列、投下っ!」

 すかさず、ユアとユナが手元の把手を引き下ろした。

 操作すると同時に、筒先から円錐状の突起が沢山ついた金属玉が落ちて行った。突起を含めず、直径が2メートルある金属球だ。

 重い物を高い位置から落とす。それだけの武器だった。毒を撒くわけでも、火を噴くわけでも無い。ただの硬い金属の塊だ。

 遙かな上空、高度1万メートルから投下された金属球はそのほとんどが途中で逸れて、魔王城の城壁を粉々に破砕しただけだった。
 12個の"コンペイトウ"の内、3個だけが覇王樹サボテンのような構造物に当たった。

「強風?」

「停車位置が悪い?」

 ユアとユナが首を捻る。

「妙な突起がついているからだろう」

 シュンは苦笑した。完全な球体の方が真っ直ぐ落下しそうだ。

「トゲトゲはロマン」

金平糖コンペイトウじゃ無くなる」

 ユアとユナが唇を尖らせてぶつぶつと言っている。

 覇王樹サボテンのような構造物に大きな穴が開き、薄く煙のような物が立ち上っている。無数の虫が飛び出し、大きな混乱が起きているようだった。建物に穴を開けるという目的は達成できた。
 奇襲の効果としては十分だろう。

「ユア、行きます」

「ユナ、行きます」

 2人が円筒の転移室へ駆け込んだ。
 外に出て聖水の雨ホーリーレインを降らせるのだ。穴の開いた巣穴に大量の聖水を流し込んで、魔王種に嫌がらせをする作戦だった。もちろん、立案者はユアとユナである。
 今の2人なら、滝のような聖水雨を降らせる事が可能だ。

「アレク、準備はどうだ?」

 シュンは"護耳の神珠"で呼び掛けた。

『おう! 妙な感じだが行けそうだぜ!』

 アレクの銅鑼どら声が返る。

「ロシータ、どうだ?」

『行けます。まだ慣れませんが・・』

 ロシータの方は、やや緊張気味だ。

「すぐに慣れる」

『はい。やってみます』

 ロシータが答えた。

「アレク、ロシータを撃つなよ?」

『わはは! あのクソ猫に銃向けたら、こっちがハチの巣にされちまうぜ!』

 アレクが笑い声を立てる。

『それより、大将っ! まだか?』

「今降りると溺れるぞ」

 シュンは苦笑しつつ画面を見た。

 画面の中で、ユアとユナが小さな黒翼を背に生やして魔王城の上を飛び回り、聖水の雨を盛大に降らせている。かなり大型の魔王種が周囲を飛び交っているのだが、聖水を浴びて煙を上げながら次々に落ちていた。

 すでに、城壁の内側は聖水が溜まって湖のようになっていた。しかし、崩れた覇王樹のような構造物はよほど中が広いのか、注がれた聖水が外へ溢れ出てくる気配が無い。

「リール、側面開閉扉を開けてくれ」

 シュンはリールに指示をしながら、"護耳の神珠"に指を触れた。リールが手元の操作板上に並んだ小さな摘まみを捻ると、画面上につるりとして凹凸の無い濃緑色をした車両が映し出された。車両の側面に、大きな数字が「1」から「9」まで白色の塗料で描かれている。この数字は、車両の逆側にもある。

「ユア、撤収」

「ユナ、撤収」

 続けざまに指示をして、

「アレク、出番だ。開くぞ?」

『待ちかねたぜ! アレク、ルドラ・ナイト、行くぜぇっ!』

「ロシータ、開閉扉が開く」

『了解です』

 ロシータの返事と同時に、格納車両の側面が下から上へ跳ね上がった。
 開いたのは「5」と「6」が描かれた部分だ。
 長方形に開いた大きな開口部の奥で、さらにもう一枚扉が開いて、白銀色の甲冑騎士が姿を見せた。マーブル主神によって生み出されたルドラ・ナイトである。

 ルドラ・ナイトは、アルマドラ・ナイトをやや細身にし、猛禽類の嘴のように尖った兜の形状をしていた。「5」から出て来たルドラ・ナイトは、兜と両肩装甲、膝頭、爪先が深紅ルビー色に塗られている。

 「6」から現れたのは、同じ形状の甲冑騎士だが、頭部と両肩、膝頭、爪先が翠玉エメラルド色をしていた。

 5番扉から出て来た紅頭が、アレク。6番扉の翠頭がロシータだ。アレクのルドラ・ナイトは、MGL140という回転弾倉式の擲弾銃。ロシータのルドラ・ナイトは、M240Gという重機関銃を握っていた。どちらも、身の丈は15メートル。それに合わせて銃器も巨大化している。

『アレク、行くぜっ!』

『ロシータ、行きます』

 ユアとユナによって指導された通りに宣言をして、2体のルドラ・ナイトが大空へ飛び出して行った。

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