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第1章

第204話 準備

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 魔王種の探知機埋設作業及び魔王種の駆除を"狐のお宿"へ引き継ぎ、リールとユキシラが戻って来たのは、アンナ達との食事会を終えた3日後のことだった。

 予想していたことだが、ムジェリの造った探知機は予定されていた以上の広範囲を探知し、中継器としての機能も問題が無かった。
 迷宮に設置してある親機の画面には、すでに多くの朱点が点滅して表示されていた。
 探知機は、シュン達の迷宮から北東方向に確認されている別の迷宮までを直線で結んだ線上に埋設した。続いて、"狐のお宿"が西南方面を担当することになっている。

「北東の迷宮は・・」

 と言いかけ、シュンは口を噤んだ。
 こうも迷宮が増えると、それぞれに名称をつけて呼び分けなければ不便だった。

「番号を振る」

「向きと番号」

 ユアとユナが提案し、採用となった。

 北東の迷宮は、北東1号。以降、順番に番号が振られることになる。

「北東1号の周辺は魔王種が少ない。対抗できているようだ」

 迷宮の周辺に朱点は無く、離れた場所に点々と散っている。まだ、一直線に探知機を埋設しただけだ。これから、環状に埋設作業を行っていかなければならない。

「妾の小悪魔インプに作業を学習させた。位置決めさえ間違わなければ小悪魔インプに作業をさせることが可能じゃ」

 リールが球状の魔法珠を手元に浮かべて微笑した。

「優秀だな。細かい作業までこなせるのか?」

 シュンは素直に感心した。

「その辺の土人形と一緒にされては困る」

「そうだな。同時に操れる数はどの程度だ? お前の負担は?」

 シュンに訊かれて、リールが軽く眼を見張った。

「ずいぶんと急いでおるようじゃな?」

「今、魔王種以外の生き物を探知する魔導具製作をムジェリに依頼している」

「ふむ。人間の町を探すのじゃな?」

「そうだ。人間の町、洞窟人の町、森の妖精の町・・それらの町の支援を行う」

「無条件にか?」

「相応の対価と恭順の姿勢は必須だ。最低でも、アリテシア教の教会は建築してもらう」

「・・なるほど」

 リールが笑みを浮かべた。

「妾が同時に操れる小悪魔インプは、5000匹程度じゃな。命令を与えれば自立して動くから、妾の負担はさほどでも無い」

「よし・・迷宮が無いとされる北西側に探知機を埋設したい。ユキシラ、5000ヶ所を選定し、地図上に示せ」

 シュンの指示に、ユキシラが頷いた。

「1時間ほど頂きます」

「頼む。その間に、神殿町のジータレイドに会ってくる。リールも来てくれ」

 シュンはユアとユナを見た。

「探知機の残数は1万ちょっと」

「ムーちゃんにさらなる増産を頼む」

 2人が帳面を見せながら言った。足されたり引かれたりした数字が、幾列にも渡って記されている。

「よし、神殿町の後でムジェリの里へ行こう」

「主殿・・」

「なんだ?」

「妾はマージャの巣窟はちょっと・・遠慮したいのじゃが?」

 リールが俯きがちに言う。

「まだ苦手か?」

「・・うむ。どうも慣れぬのじゃ」

「分かった」

 シュンは苦笑しつつ頷いた。

「それなら、19階のアレク達の様子を見に行ってくれ。新種の魔物が居るらしい。迷宮内のポップか、別の場所から紛れ込んでいるのかを調べたい」

「そちらは妾向きじゃな」

 リールがほっと安堵の表情を浮かた。

 ユキシラは等間隔に探知機を設置する場所の割り出しに取り掛かり、リールは19階の調査へ、そしてシュンとユア、ユナは神殿町へと向かった。連絡を取り合っていたロシータと合流し、ジータレイドと学園の学園長室で面会することになった。アオイも同席している。

 使徒だと称する者が、もう一度接触してきたらしい。
 場所は、迷宮から西南方面へ300キロほどの地点。
 哨戒途中で魔王種と遭遇戦になっていた天馬騎士達に声を掛けてきて、前回の返事を聴かせろとしつこかったそうだ。
 天馬騎士は、ジータレイドから指示されていた通り、アルダナ公国の公主を連れてくるか、肉筆の手紙を持ってくるよう申し入れたそうだ。

「今回は、ルクーネが率いる部隊に接触をしてきましたので・・」

 ジータレイドが手描きの人物画を差し出した。

「鳥の翼じゃない」

「蝙蝠っぽい」

 細緻に描かれた絵を見ながらユアとユナが首を傾げた。
 顔立ちからすると、二十歳前後か。もう少し上か。秀麗に整った容貌は男のものだろう。重甲冑姿で、腰に長剣、背に大型の楯を背負っている。

「この甲冑は、ジータレイドの・・アルダナ公国の物か?」

 シュンは人物画を返しながら訊ねた。

「私もルクーネも知らない甲冑です。少なくとも騎士団の鎧ではありません」

「・・そうか」

 神から与えられた物だろうか?

「人間だったか?」

 念のため訊いてみる。

「それが分からいようです。翼があるから人外だと言いたいところですが・・」

 ジータレイドがシュン達を見る。

「そうだな。翼があるからと言って人間では無いと断定はできないか」

 シュンは頷いた。横で、ユアとユナも頷いている。

「カーミュ」

 シュンは白翼の美少年を呼び出した。

『ご主人?』

「あの絵に描かれた人物に心当たりは?」

 シュンに言われて、カーミュがジータレイドが持っている人物画を眺める。しかし、すぐに首を振った。

『知らない顔なのです』

「そうか。しかし、本当に使徒なら俺を訪ねて来るべきだろう。迷宮の使徒に会わせろ、天馬騎士を返せ・・と要求してくると思うが?」

「私もそう考えます。そもそも、天馬騎士に接触しておきながら、一度として、私の名を口にしておりません。少なくとも、アルダナ公国の人間なら、私の名を口にするはずです」

 ジータレイドが言った。

「天馬騎士にだけ接触をしてくる理由が分からないな。外を回っていたリールやユキシラには接触が無かったようだ」

「そうなると、やはり・・アルダナを知る者ということになるのでしょうか? こそこそと外回りの者を見つけて接触を繰り返すなど、あまり良い気分がしません」

 ジータレイドが顔をしかめる。

「・・神界の騒動はひとまず落ち着いた。これからは魔王種の駆除をしながら、外の世界で生き残っている者達への支援、交流を行っていくつもりだ。神殿の司は、ロシータ。学園の司は、アオイ。神殿町の司を、ジータレイドにお願いしたい」

 シュンは、ロシータ、アオイ、ジータレイドの3者を見ながら言った。
 わずかに戸惑いを見せたのはジータレイド一人だったが、すぐに思い決めた様子で頷いた。

「"狐のお宿"に行ってもらっている探知機の埋設を終えた後は、"ネームド"のリールが残る探知機の設置を引き受ける。代わりに、発見した魔王種の駆除を行ってもらうことになる。その過程で、魔王種に対抗して生き残っている者を見つけた場合は、アリテシア教として支援、あるいは保護をする。それから、シータエリアの外に、改宗を拒む者が逗留するための町を造る。次に・・」

 シュンは自分の考えを順番に話し、細部の調整や修正をロシータ、アオイ、ジータレイドに依頼した。

「神殿町に、腕の良い鍛冶師が住むことになった。素材があれば神刀を打てる職人だ。天馬騎士の甲冑から武器、馬具など、何でも相談すると良い」

「それは助かります。これまでは、スコット殿にお願いをしていたのですが、少し・・問題がありましたので・・」

「スコットは迷宮の外へ出た。世界を旅するそうだ」

「あぁ、それは・・」

 ジータレイドだけでなく、護衛に立っていた女騎士達の表情が晴れる。ロシータやアオイも表情を明るくしてシュンを見ている。

「迷惑を掛けたことは謝罪する。金物職人としての腕だけは良い男だったが・・今後"ガジェット・マイスター"のリーダーはミリアムだ。ジニーとディーンはそのまま残る」

 シュンが伝えると、ロシータとアオイが頷いた。2人とも、色々と思うところがあったのだろう。

「町に冒険者協会を作る。これは、ロシータが希望していた金の巡り、素材の巡りを生み出す仕組み作りの一環だ。いずれ外との商取引の窓口になるだろう。資金の管理は"ケットシー"が行ってくれ」

「ありがとうございます」

 ロシータが喜色を浮かべる。

「協会は、辺境で冒険者協会を運営していた3人に、こちらの意をくむ形で運営してもらうつもりだ」

「エラード様、キャミ様、ミト様・・ですね?」

「そうだ。3人とも信頼できる人物だ。どんどん仕事を押しつけて・・任せて良い」

「畏まりました」

 ロシータが微笑した。

「さて・・これまでの話を神様に報告し、許可を取るつもりだが、ついでに何か頼みたいことはあるか?」

 シュンはジータレイド、ロシータ、アオイ・・そして、ユアとユナを見た。

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