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第1章
第152話 女神の寝所
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「ガラクタ置き場?」
「産廃場?」
ユアとユナが腕組みをして唸っている。
女神の部屋は、ゴミで埋まっていた。
ひっくり返って金銀宝石が流れ出た財宝箱、奇怪な形状の杖や魔導具が散乱し、瓶に入った花や何かの植木、案山子のような人形、干涸らびた死骸・・。
大扉を入って左側は全てゴミで埋まっていた。右側もゴミで埋まっていた。扉から真っ直ぐに進んだ先に、天蓋の付いた寝台が一つ、寝台横に鏡が一つ・・それだけだ。
「これは酷い」
シュンは顔をしかめて呟いた。
「種別に分別収納しましょう。よく分からない品も多いようですが、シュン様達のステッキなら適切な容器に封入できると思います」
サヤリが腰に手を当てて部屋のゴミを見上げている。
「そうだな。触れたら危険そうな品もあるようだ。サヤリは貴金属、宝石類を選り分けてくれ」
「はい」
サヤリが頷いて部屋の左右に積み上げられたゴミを見回した。得体の知れない品々が、天井ぎりぎりまで積み上がっている。
「ユアとユナは武器防具や装飾品。俺は樹や死骸のような生物を収納する。他の品は一旦放置だ」
「アイアイサー」
「ラジャー」
ユアとユナが敬礼をした。
『ごしゅじん、まりんもやる~』
真っ白な精霊獣が宙空に姿を現して、シュンの肩に乗った。
「マリンは、崩れないように糸で支えておいてくれ」
『わかったぁ~』
マリンがふわりと浮かび上がって、上方で大きく尾を振り始めた。部屋中に透明な水霊糸を張り巡らせて崩落寸前の"ゴミ"を支えるのだ。
「・・やるか!」
シュンは、ポイポイ・ステッキを握ると、自身を鼓舞するように声を出した。3人が返事をして、それぞれ収納を開始する。
各人が担当する品だけを選んで収納していくので、当然、虫食いのようにゴミ山の下や中層などに空洞ができるが、マリンの水霊糸が隙間から入り込んで崩落を防ぎ止める。
多少、種別を間違えて収納しても構わない。おおよその分別収納をしておいて後の精査を楽にしようという準備作業のようなものだったが・・。
開始から6時間ほどかかって、シュン達は部屋の床が見えるほどに片付け、さらに2時間かけて全ての"ゴミ"を完全収納した。
代わりに、シュン達は酷い状態に陥っていた。どれかの品により、HPが削られ、何かによってMPが吸われ、正体不明の病気に冒されて、吐き気と発熱に苦しめられている。
ユアとユナの神聖術、さらにはシュンの秘薬の数々を投入して、やっと小康状態になったところである。
今の"ネームド"をここまで苦しめるとは怖ろしい品々であった。魔神や悪魔との戦闘よりもダメージを受けてしまっていた。
呪詛が暴発した呪具、開けようとすれば猛毒が噴出する宝石箱、無数の針を射出し続ける植物、幻惑の呪眼と凶歌を使い続ける女の子の人形・・。
「酷い財宝があったものだな」
シュンは嘆息交じりに苦笑しながら床に座り込んでいた。
「久しぶりにMPが枯渇」
「ゴミ掃除で死にかけた」
ユアとユナが女神の寝台に俯せに倒れ込んでいる。
「久しぶりの死闘でした」
サヤリが再生した腕の具合を確かめながら呟いた。
『ごしゅじん、これ、おぼえたぁ~』
真っ白な精霊獣が空中を漂いながら、無数の水泡を出現させている。
「その泡は・・毒か何かか?」
シュンの危険感知に強い反応が出ている。
『さっき、ごしゅじん、さしたやつ~』
マリンが長い尾を一振りすると、無数に浮かんだ水泡が爆ぜながら針を飛ばして消えていった。思わず身構えたシュンだったが、水針は泡から1メートルほど飛んだところで消えていた。届く距離は短いようだが・。
「まさか、同じ威力なのか?」
シュンが受けた植物の針は、ディガンドの爪を易々と貫通し、双子が付与した防御魔法を霧散させてシュンの体に刺さったのだ。おまけに、刺さった針からは、麻痺毒と強酸、呪毒が流し込まれた。あれと同じ威力だとすれば怖ろしい攻撃手段になるが・・?
『う~ん、わかんなぁ~い』
マリンがくるくると宙を駆け回り、何かを追いかけ始めた。
「なんだ?」
『眠りの精なのです』
カーミュが姿を現した。
「眠りの?」
『眠たくなくても眠くできるです』
「・・睡眠を誘うわけか」
寝台のある部屋だ。そうした精が居ても不思議は無いのかもしれない。
『2度と目覚めなくなるです』
「・・え?」
『何かの暗示で眠ると、暗示を解かないと眼が覚めないです』
カーミュがマリンを眼で追いながら言う。
「暗示というのは?」
『最初に、眠りの精に暗示の言葉や行為を伝えておくです』
「・・誰が?」
『あれは、闇の精霊が使役するです』
「つまり、輪廻の女神様が・・」
いったい、どういう暗示を吹き込んであるのか。知らない方が良さそうだ。
『食べちゃったです』
シュンがくすくす笑った。
見ると、マリンが何かを口に入れてもぐもぐと咀嚼していた。
その時、女神の寝台に寝転んでいた2人が、引き攣った顔で走ってきた。
「どうした?」
特に何かに追われている様子は無いが?
「よい子は見ちゃダメ」
「あのベッドは毒々しい」
ユアとユナが深刻な顔で呻くように言っている。
「ベッド・・あそこに何か?」
立ち上がろうとするシュンを2人が左右から引っ張って抑えた。
「ボスが汚れる」
「精神汚染地帯」
ユアとユナが真剣な顔で訴える。
「何かの精神攻撃か? 呪具でもあったのか?」
「最凶の呪具」
「果てしない闇」
2人が顔を真っ赤にして言うが、ここまで言われるとシュンとしても気になってくる。
なおも色々と頑張っていた2人を半ば引きずるようにして、シュンは女神の寝台に近付くと台座を見回し、先ほどまでユアとユナが俯せに倒れていた敷具を確かめた。
「これといって何も・・」
首を傾げながら、ふと寝台の上の天蓋を見上げて、シュンはしばらくの間呼吸を忘れた。
部屋の扉に彫刻されていた絵画の完成版とでも言うべき芸術が、天蓋の内側に刺繍されていた。
「"ネームド"・・リターン・エスクード!」
感情を押し殺したシュンの声が女神の部屋を震わせた。
「産廃場?」
ユアとユナが腕組みをして唸っている。
女神の部屋は、ゴミで埋まっていた。
ひっくり返って金銀宝石が流れ出た財宝箱、奇怪な形状の杖や魔導具が散乱し、瓶に入った花や何かの植木、案山子のような人形、干涸らびた死骸・・。
大扉を入って左側は全てゴミで埋まっていた。右側もゴミで埋まっていた。扉から真っ直ぐに進んだ先に、天蓋の付いた寝台が一つ、寝台横に鏡が一つ・・それだけだ。
「これは酷い」
シュンは顔をしかめて呟いた。
「種別に分別収納しましょう。よく分からない品も多いようですが、シュン様達のステッキなら適切な容器に封入できると思います」
サヤリが腰に手を当てて部屋のゴミを見上げている。
「そうだな。触れたら危険そうな品もあるようだ。サヤリは貴金属、宝石類を選り分けてくれ」
「はい」
サヤリが頷いて部屋の左右に積み上げられたゴミを見回した。得体の知れない品々が、天井ぎりぎりまで積み上がっている。
「ユアとユナは武器防具や装飾品。俺は樹や死骸のような生物を収納する。他の品は一旦放置だ」
「アイアイサー」
「ラジャー」
ユアとユナが敬礼をした。
『ごしゅじん、まりんもやる~』
真っ白な精霊獣が宙空に姿を現して、シュンの肩に乗った。
「マリンは、崩れないように糸で支えておいてくれ」
『わかったぁ~』
マリンがふわりと浮かび上がって、上方で大きく尾を振り始めた。部屋中に透明な水霊糸を張り巡らせて崩落寸前の"ゴミ"を支えるのだ。
「・・やるか!」
シュンは、ポイポイ・ステッキを握ると、自身を鼓舞するように声を出した。3人が返事をして、それぞれ収納を開始する。
各人が担当する品だけを選んで収納していくので、当然、虫食いのようにゴミ山の下や中層などに空洞ができるが、マリンの水霊糸が隙間から入り込んで崩落を防ぎ止める。
多少、種別を間違えて収納しても構わない。おおよその分別収納をしておいて後の精査を楽にしようという準備作業のようなものだったが・・。
開始から6時間ほどかかって、シュン達は部屋の床が見えるほどに片付け、さらに2時間かけて全ての"ゴミ"を完全収納した。
代わりに、シュン達は酷い状態に陥っていた。どれかの品により、HPが削られ、何かによってMPが吸われ、正体不明の病気に冒されて、吐き気と発熱に苦しめられている。
ユアとユナの神聖術、さらにはシュンの秘薬の数々を投入して、やっと小康状態になったところである。
今の"ネームド"をここまで苦しめるとは怖ろしい品々であった。魔神や悪魔との戦闘よりもダメージを受けてしまっていた。
呪詛が暴発した呪具、開けようとすれば猛毒が噴出する宝石箱、無数の針を射出し続ける植物、幻惑の呪眼と凶歌を使い続ける女の子の人形・・。
「酷い財宝があったものだな」
シュンは嘆息交じりに苦笑しながら床に座り込んでいた。
「久しぶりにMPが枯渇」
「ゴミ掃除で死にかけた」
ユアとユナが女神の寝台に俯せに倒れ込んでいる。
「久しぶりの死闘でした」
サヤリが再生した腕の具合を確かめながら呟いた。
『ごしゅじん、これ、おぼえたぁ~』
真っ白な精霊獣が空中を漂いながら、無数の水泡を出現させている。
「その泡は・・毒か何かか?」
シュンの危険感知に強い反応が出ている。
『さっき、ごしゅじん、さしたやつ~』
マリンが長い尾を一振りすると、無数に浮かんだ水泡が爆ぜながら針を飛ばして消えていった。思わず身構えたシュンだったが、水針は泡から1メートルほど飛んだところで消えていた。届く距離は短いようだが・。
「まさか、同じ威力なのか?」
シュンが受けた植物の針は、ディガンドの爪を易々と貫通し、双子が付与した防御魔法を霧散させてシュンの体に刺さったのだ。おまけに、刺さった針からは、麻痺毒と強酸、呪毒が流し込まれた。あれと同じ威力だとすれば怖ろしい攻撃手段になるが・・?
『う~ん、わかんなぁ~い』
マリンがくるくると宙を駆け回り、何かを追いかけ始めた。
「なんだ?」
『眠りの精なのです』
カーミュが姿を現した。
「眠りの?」
『眠たくなくても眠くできるです』
「・・睡眠を誘うわけか」
寝台のある部屋だ。そうした精が居ても不思議は無いのかもしれない。
『2度と目覚めなくなるです』
「・・え?」
『何かの暗示で眠ると、暗示を解かないと眼が覚めないです』
カーミュがマリンを眼で追いながら言う。
「暗示というのは?」
『最初に、眠りの精に暗示の言葉や行為を伝えておくです』
「・・誰が?」
『あれは、闇の精霊が使役するです』
「つまり、輪廻の女神様が・・」
いったい、どういう暗示を吹き込んであるのか。知らない方が良さそうだ。
『食べちゃったです』
シュンがくすくす笑った。
見ると、マリンが何かを口に入れてもぐもぐと咀嚼していた。
その時、女神の寝台に寝転んでいた2人が、引き攣った顔で走ってきた。
「どうした?」
特に何かに追われている様子は無いが?
「よい子は見ちゃダメ」
「あのベッドは毒々しい」
ユアとユナが深刻な顔で呻くように言っている。
「ベッド・・あそこに何か?」
立ち上がろうとするシュンを2人が左右から引っ張って抑えた。
「ボスが汚れる」
「精神汚染地帯」
ユアとユナが真剣な顔で訴える。
「何かの精神攻撃か? 呪具でもあったのか?」
「最凶の呪具」
「果てしない闇」
2人が顔を真っ赤にして言うが、ここまで言われるとシュンとしても気になってくる。
なおも色々と頑張っていた2人を半ば引きずるようにして、シュンは女神の寝台に近付くと台座を見回し、先ほどまでユアとユナが俯せに倒れていた敷具を確かめた。
「これといって何も・・」
首を傾げながら、ふと寝台の上の天蓋を見上げて、シュンはしばらくの間呼吸を忘れた。
部屋の扉に彫刻されていた絵画の完成版とでも言うべき芸術が、天蓋の内側に刺繍されていた。
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