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第1章

第150話 円卓ミーティング

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「ロッシは原住民?」

「どこの国?」

 ユアとユナがロシータの前にチョコレートの詰まった箱を差し出す。

「バーズという村。ずっと北にある雪原の出身です」

 ロシータが銀紙に包まれた楕円形のチョコレートを選んだ。

「家が貧しくて、7人の子供の内、下の4人が売られました。不作の年になると人買いが回って来る土地でしたから、世間的には珍しくない事なのですが・・」

 ロシータがチョコレートを口へ放り込んだ。
 当時14歳だったロシータは酷い疱瘡を患っていて眼も開かないほどだった。気味悪がった奴隷商が、売りに出さずに1年間生かした後、迷宮へ送り込んだらしい。里親としての手当を貰える分、殺してしまうよりお金になるからだ。

「そういうわけで、見た目も酷く、今にも死にそうな私には、同時期に迷宮入りした他の探索者の方も近寄らず・・しばらくは1人でした。どうせ帰る場所はありませんから、生を諦めていましたが・・神聖術と瞳術に適性があったおかげで、死にかけながらも何とか生き延びることができたのです」

 神聖術で疱瘡を治せると気付いてからも、しばらくは治療をしなかった。

「大勢の女の子が酷い目にあっていました。力が無いことが罪、騙される方が悪い・・異邦の男性は乱暴なことをする人が多かった。私のような原住民は、異邦人にとって狩りの獲物でしか無かったのです。原住民の男は次々に殺されて迷宮人に堕ち、女の子は暴行を受けて・・」

 だから、醜い顔のまま治療せずに居た。しっかりと力を付けて、自分の身を自分で護れると思えるようになるまで、他の探索者には近付かなかった。

「ロッシ、バリバリ君をあげよう」

「幻のクロクマも進呈する」

 ユアとユナがロシータにアイスを手渡す。

「・・ふふ、こんな湿った話なんかしている時ではありませんね。少し可哀相な身の上を話して、同情を引こうという策略です。外の世界には、こういう女が沢山いますからね。どうか、お気を付け下さい」

 ロシータが笑いながらバリバリ君を収納し、クロクマの蓋をとった。

「ああ・・そこのアレクさんは、やる事、なす事、考える事、何もかもが粗暴な筋肉ですが、女の子を力尽くでどうこうしたり、暴力で従わせようとはしません。それだけは信じてあげて下さい。どうしようもない馬鹿ですけどね」

「おう! 表に出ろやっ! クソ猫がぁっ!」

 アレクが青筋をたてて声をあげる。

「これ、凄く美味しいですわ!」

 ロシータがスプーンを手に声をあげて双子を見る。

「ユアさん、ユナさん、お金はお支払いします。そこの筋肉さんの頭を冷やして差し上げたいのですが・・」

「む?」

「むむ?」

 ロシータの提案に、ユアとユナが顔を見合わせて腕組みをした。それから、低く唸りながら考え込む。

「ボス、また創作する?」

「ボス、せっせと作る?」

 ユアとユナがシュンをじっと見つめる。

「・・ああ、任せておけ」

 シュンは苦笑した。大量に在庫を抱えているくせに、一個二個を出し渋るとは・・。

「ならば、アレク君に進呈しよう!」

「秘蔵の一品、ビッグカップ・バニラ味だ!」

 しぶしぶ取り出したアイスのカップとスプーンをアレクの前に置いた。
 青筋を立てていたアレクがテーブルに置かれたカップアイスを見つめ、ちらとロシータの手元にあるカップを見る。明らかに別物である。

「さあ、味わいたまえ!」

「涙するが良い!」

 2人が尊大に胸を反らしてアレクを見る。

「む・・う」

 アレクが無言で椅子に座り直し、素直にカップアイスの蓋をとった。当然ながらバニラ一色である。

 チョコレートとフローズンフルーツを乗せたスプーンを口に含みながら、ロシータがアレクの憮然とした顔を見て目尻を下げた。

 その時、

「統括」

 髪を短く切った羽根妖精が部屋に入って来た。

「カリナか」

 シュンは手帳を取り出し、書き留める用意をしながら迎えた。

「イルフォニア神殿並びに、セルフォニア聖王国について報告します」

 羽根妖精がテーブルに舞い降りた。
 シュン達がエスクードに戻った後も、消滅したイルフォニア神殿跡地やセルフォニア聖王城の様子を調べていたのだ。

「イルフォニア神教の本殿を、クローネという町の神殿に移すそうです。まだ次期教皇は定まっていないと話しておりました」

「そうか」

 教皇と、その血縁の司教が居なくなった後、どういう人間が後を継ぐのか。普段なら興味のかけらも無い話題だが・・。

「セルフォニア聖王家に世継ぎはおりません。血の繋がった貴族の中から聖王を選ぶ方向で決まったようです」

「・・まあ、そうなるか」

 シュンと羽根妖精の話を、円卓の面々が興味深そうに聴いている。

「強制転移に使用した魔導具は破損しておりましたが、回収して参りました」

「鏡は?」

 神殿跡地の地下から王城へ抜けた姿鏡のような魔導具があった。

「はい。"通路鏡"も回収済みです。後ほど、ホームへ届けます」

「よし・・今後は、下層迷宮の維持と同時に、輪廻の女神を崇める宗教を立ち上げることになる。迷宮に侵入する魔神や悪魔については、今まで通りに俺達"ネームド"が討伐するが、同時に探索者に向けた常設の討伐依頼を出しておこう。報酬は、魔核か魂石と引き換えに、銃のアタッチのような武具、秘薬、あるいは菓子類だ。手続きを頼む」

「畏まりました」

 羽根妖精が一礼をして透き通るように姿を消した。

「お、おいっ・・今の話は本当かよ? 斃せば報酬で、武具を貰えるんだな?」

 アレクが食い付いた。

「秘薬が手に入るのですね?」

 アオイがシュンを見る。

「このような品も」

 ロシータが空になったクロクマのカップを見た。

「悪魔や魔神、さらには魔憑きとなった人間も魔核や魔に浸蝕された魂石を遺す。査定は・・カーミュ」

 シュンの呼び掛けに、白翼の美少年が姿を現した。

「俺の守護霊が行う。カーミュは公平だ。きちんと価値を計ってくれるだろう」

 シュンの言葉に、白翼の美少年が笑みを浮かべてお辞儀をして見せた。

「SP薬はいくらあっても足りません。是非とも欲しいところですね」

 タチヒコが呟いた。

「報酬とは別に、ここにいるレギオンには試作の秘薬類を提供する。今回渡せる品は、1種類だが・・」

 シュンは、テーブルの上に小さな薬瓶を1つ置いた。
 全員の眼が瓶に集中する。
 青みがかった液体が瓶の中で光っていた。

「HP継続回復の薬を作っている中で派生した。これは、HPを継続的に回復するだけでなく、万一、服用者が死亡した場合には、光壁で体を包んで護りながら蘇生させる・・はずの品だ。回復効果があるのは間違いない。良かったら試してみてくれ」

 シュンは青い液体が入った瓶を10本ずつ、全員に配った。自分で飲んで回復効果は実感できたのだが、蘇生の方は未実証である。

「シュン様」

 ロシータが近付いて来た。

「宗教の事ですが、私達"ケットシー"にもお手伝いさせて下さい」

「希望者を募るつもりでいたが、良いのか?」

 シュンはロシータを見た。

「当面は100階層から上には行けそうもありませんし、悪魔や魔神の侵入もそこまで頻繁には起こらないでしょう?」

「そうだな」

「100階層でのレベル上げをやりながら、迷宮内の見廻り・・それだけでは、少し物足りませんもの。外の世界が面白いことになるというのなら、是非この眼で見てみたいのです。それに、シュン様の創る宗教というものにも興味がございます」

 ロシータが艶然と微笑んだ。
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