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第1章

第115話 一刀両断

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『あ~あ・・』

 神様が声を漏らして肩を落とした。

 視線の先に、戦乙女が転がっていた。
 背の翼を引き千切られ、両手両足に大きな黒い穴が穿たれている。神様が手を叩いた一瞬の出来事だった。

『う~ん、魂を引き抜かれちゃったなぁ』

 神様が頭を掻きながら、周囲を見回して軽く手を振った。近くに立っていた双子とジェルミー共々、白い空間で包み込まれた。

「ボス、いきなりああなった」

「ドンッて音がして空から落ちて来た」

 双子がシュンの後ろから覗き見ながら囁く。

「後で説明するが・・まあ、罰を受けたようだ」

 声だけで姿を見せなかった死国の女がやったのだろう。どうやったのかは、まったく見当が付かないが、神様が手を叩いた一瞬で戦乙女を半死半生の有様にしていた。

『ご主人、みんな帰ったです。白の砂海が消えるです』

 カーミュが言ったが、シュン達は神様の白い空間の中だ。外の様子は分からない。

『死の国に喧嘩を売ったようなものだからねぇ・・命を奪われなかっただけでも運が良かったかな』

 神様がひらひらと手を舞わせて、戦乙女に黄金の光粒を振りかけている。
 戦乙女の体が淡い金光に包まれて、手足の黒穴が消えたが、千切れた白翼が元のように戻らない。

『命はあるけど、これじゃあ、人形と変わらないねぇ』

 神様が腕組みをして戦乙女を見下ろす。

『さて・・エスクードは無事のようだし、これでイベントとしては終幕だ。ネームドはもちろん、戦闘に参加した探索者には褒美を考えないといけないな。突発だったから何も考えて無かったけど』

「これも、正式なイベントになるのですか?」

 シュンは訊いた。

『もちろん! うん、まあ通常のイベント報酬と同じで良いかな。1レベルアップとお金だね。イレギュラー君はまた物騒な物を貰ったみたいだし・・良かったじゃん?』

「これですか?」

『うん、もう君に懐いちゃっているし・・またヤバイ子が増えたなぁ。君のところ、どうなっちゃうんだろうね』

「・・懐く?」

 シュンは抱えている水色の珠を見た。これで、生き物なのだろうか?

『詳しい事は、そっちのヤバイ子に訊いたらいい』

『カーミュはヤバく無いです!』

 白翼の美少年が即応する。

『・・お願いだから、死国に手紙を書くときはよく考えてね?』

『カーミュは悪く無いです』

『うん・・いや、悪いとか悪く無いとかじゃなくて、大変な騒ぎになるから。今回だって、死鬼兵だけで助かったけど、あの将軍達が介入してたらエスクードは滅んでたでしょ? 君のご主人は、そんなことを望んでいないと思うよ?』

 神様が諭すように白翼の美少年に言い聞かせた。

『・・ご主人?』

 カーミュがやや不安げにシュンを見る。

「水霊珠について、教えてくれないか?」

 シュンは抱えている珠をカーミュに見せた。

『ちょっ、今それっ!?』

『任せるのです!』

 愕然と眼を見開いた少年神を無視して、カーミュがにこやかにシュンの傍らへ舞い降りる。

『ちょっと、イレギュラー君?』

 神様が大急ぎでシュンの前に飛んだ。

「はい?」

『なに、流れをぶった切ってんの? 今、結構良い話をしてたよね? 世界の良識ってやつを教えている素敵な場面だったでしょ?』

 少年神が両腰に手を当ててシュンの顔を覗き込む。

「そうなんですか?」

『・・あれ? 聞いて無かった?』

「私に関係した話でした?」

『おぅ・・凄いよ、この子・・どうすんのこれ?』

 少年神が、双子の方を見る。

「いつも通り」

「不変にして不動」

 ユアとユナがにっこりと笑う。

『そう? いつもこうなの?』

 信じがたいといった顔で少年神が訊き返す。

「揺るぎない」

「ザ・ボスでゴザル」

 双子が視線を向けた先で、シュンがカーミュから何やらレクチャーを受けていた。

『ところで・・どうして銃を向けてるの?』

 神様が双子に訊いた。
 ユアとユナのMP5SDが、地面に踞って動かない戦乙女に向けられているのだ。

「きっと気のせい」

「何かの偶然」

 2人が微笑を浮かべる。しかし、銃口は変わらず戦乙女を捉えたままだった。

『これ、もう、人形も同然だよ? 魂抜かれてゴレムみたいなものなんだけど? 撃っちゃうの? 別に良いけど・・』

「攻撃行動を感知したら」

「ぴくりとでも動いたら」

 双子がじろりと戦乙女を見る。

『う~ん、戦乙女も嫌われたもんだね』

「神様も気付かない?」

「知ってて黙ってる?」

『うん? 何を言って・・』

 訝しげに訊き返しかけ、少年神はふと口を噤んで戦乙女を見た。すぐに眉間に皺が刻まれる。

『・・いつから?』

「イベントに来た時から」

「なんか違う気配だった」

『入れ替わった・・いや、入り込んだのか?』

 少年神が人差し指を立てて文字を描くように宙空へ走らせる。それだけで、戦乙女の全身を黄金の鎖が幾重にも縛っていった。

『死国のお姉さん、これに気付いてたかな』

 少年神が苦く笑う。

『デミアの眼は誤魔化せないです。ずうっと戦乙女を観察してたです』

 白翼の美少年が言った。

『参ったな。ボクも鈍ったものだね。こんな身近に潜まれて気が付かないなんて・・』

 少年神が頭を掻いた。

『炎に灼かれて修行したら良いのです』

『それ、なんの修行?』

 少年神が嫌そうに顔をしかめる。

『精神を鍛える荒行なのです』

 カーミュが澄ました顔で言った。

『体がこんがり灼けちゃうよね?』

『我慢したら涼しくなるです』

『いや、我慢してもしなくても灼けるから。火傷まったなしだから』

 神様が声を上げる後ろで、

「なるほど・・確かに精神のようなものを感じる。水霊・・そういうことか」

 シュンが揺れる水霊の珠を見ながら呟いている。

『いやっ、そこっ! はい、注目っ! 大変な事が起きてるんだからね?』

「・・神様?」

『ほらっ、この戦乙女に変なのが憑きかけてるから! あっ!?』

 少年神が眼と口を大きく開いた。
 いきなり"金剛力"で身体を強化したシュンが、"魔神殺しの呪薔薇テロスローサ"を大上段に構えるなり、止める間もなく戦乙女を叩き斬ってしまったのだ。

『えぇぇ・・』

「ゴッド、どんまい」

「ゴッド、泣いちゃダメ」

 双子が満面の笑顔を見せながら、MP5SDの引き金を引いた。
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