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第1章
第90話 神様は回る!
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いつもの水玉模様の半ズボン姿で、少年神が舞い降りてきた。
「今日は、どうされました?」
シュンは神様に訊ねつつ、双子やサヤリ、ジェルミーを見た。このメンバー全員で同時に神の空間に招かれたのは初めてだった。
『・・やっぱり、自覚ないよね?』
「はい。今回は何も・・特別な魔物は居なかったと思いますが?」
シュンの視線を受けて、双子とサヤリ、ジェルミーも首を振った。毒蜘蛛相手に掃討戦をやっていた最中だったのだ。いきなりレベルアップするような要因に心当たりは無い。
『この72階って、大きな毒蜘蛛ばかりで、経験値はしょぼいし、ドロップ品は安っすい繊維と糸でしょ? なのに、無限かってくらい蜘蛛がポップし続けて、斃せば斃しただけ蜘蛛の口が死霊になって降って来るよね?』
「・・はい」
神様が何を言いたいのか良く分からないまま、シュン達は頷いた。
『大きな強い魔物がぽつぽつ出る73階より、毒蜘蛛が延々と襲ってくる72階の方が死亡率が高いんだよ』
「そうなのですか?」
炎の魔法などで焼き続けていれば良いだけのような気がするが?
『MPが続かないんだよ。だってキリが無いじゃん? 斃しても斃しても、15秒でリポップだよ? うっかり進めば、前からも後ろからも上からも毒蜘蛛が押し寄せて来て周囲を埋め尽くしちゃうんだから』
少年神があぐらを組んだまま、上下逆さまに浮かんで漂う。
『今はエスクード内で情報が出回って、ほとんどのパーティが72階をスキップして、73階から上を狙うよね?』
「そうらしいですね」
『・・まあ、細かい話はいいや。72階の階層主を斃したパーティが1日以内に72階を再訪すると、低確率でボーナス蜘蛛が出現するって裏設定があるんだよ』
「ボーナス蜘蛛? もしかして、レベルが上がったのは?」
『1匹で1レベルアップ確定のボーナス蜘蛛ちゃんさ』
「・・なるほど」
シュンは左手甲を見た。レベルは25になっている。直前までレベル23だったから、蜘蛛を2匹斃したという事だろう。
(72回の階層主は、蜘蛛女だったな? あれを斃してから1日以内・・)
55階から順に上って73階の階層主を斃してから折り返し、また55階まで降りようとしているところだった。
(・・なるほど)
確かに、73階に上がってから72階に戻るまで1日経っていない。まったくの偶然だが、規則に沿った恩恵を受けられたということだ。
『隠し要素だし? リポップ・ルーレットは低確率だし? 0~2匹のポップなんだけど・・きっちり2匹引き当てるし? もうね・・君達だからね』
「思わぬところで、レベル25になれました。ありがとうございます」
シュンは神様に礼を言って頭を下げた。
『ははは・・』
少年神が空虚な笑いを漏らした。心なしか顔色が良くないように見える。
「神様?」
『いやぁ、規則通りにご褒美をあげたり、ボーナスポイントをあげたり・・色々しなくちゃいけないんだけども・・いや、規則だからね。神としてルールを破ることは出来ないし? 君達って、本当に、全く、これっぽっちも狡してないんだし?』
最近よく見かける、動揺と諦めが混在した様子で少年神が自問自答をやっていた。
「お疲れのようですね」
『いかにも、お疲れさっ!』
空中でくるりと向きを変えて、足を組んで座った姿勢のままシュンの前に飛んで来る。
『ねぇ・・練度ってさぁ、普通はどんなに頑張っても限界ってやつが邪魔するわけよ? 上限ってやつね? もう、それ以上はどんなに修行したって成長しないって限界点ね?』
「リミットですね?」
もうすっかりお馴染みの単語だ。
『その通り。そして、リミットを突破するためには、神の試練なんかを超えていかなければならないのさ』
「何度かリミット・ブレイクをしましたね」
『そう・・何度か、じゃなくって、何度も何度も、ブレイクしたよね? もう限界突破って言葉が虚しいよね? 知ってた? この世界じゃ、1つの技能を鍛え上げて限界まで達した人を達人って呼ぶんだよ? 簡単に限界超えちゃったら、達人の立場が無くなるじゃん!』
少年神がぐいぐいと迫ってくる。
「・・なるほど。斃したボーナス蜘蛛に、何か練度に関するものがあるのですね?」
シュンは事のあらましを理解できた気がした。
『・・ど真ん中に突っ込んで来るね?』
少年神が後方へ離れた。
「1度お訊きしたかったのです。どの技能、どの魔法がどの程度の練度で・・身体については、何の練度が上がっているのかと。その数字はどのようにして計算されているのか、教えて頂けないでしょうか?」
『うぅ・・』
「もちろん、規則で許されている範囲の事で構いません。もし理屈が理解できれば、そうした練度などが数値で見えるような魔導具を製作できるかもしれません」
『あぁ・・う~ん、君は本当にいつか作っちゃいそうだよね』
少年神が腕組みをして、上下逆さまになったり、戻ったりと回転を始めた。
『いや・・その手の魔導具っていうか、似たような神具はあるんだ。レベル25になったら支給されるようになってる。まあ、君が想像しているものとは少し違うんだけど』
「そうなのですね」
そういうことなら、シュン達もレベル25になったから神具を入手できるわけだ。しかし、ユキシラはそんな物を持っている様子は無いが?
『ファミリア・カードの機能を拡張するんだ。自分についての能力を数字で把握できるようにする機能さ。内容は持ち主にしか見えないから、盗み見られる心配は無い。ああ・・前にも言ったけど、そうした相手の能力を見透すような鑑定魔法は存在しないから、本人が黙っていれば誰にも本当の数値は知られない』
「嘘を見破る魔導具などを用意して質問すれば、ある程度の情報を把握できますよね?」
『その通り。そういうのを得意にしている人間なら幾通りもの質問を投げかけて情報を引き出していくことが可能だね』
少年神が腕組みをしたまま頷いて見せる。
「しかし・・」
『ぶっちゃけ、知ったところで意味が無いんだよねぇ・・特に、君達みたいに極端に振り切れちゃった人間の情報なんてさ。知ったところで、どうにもならないよ』
「そうですか?」
他者の能力の把握は重要な気がするが・・。
『10人が10人、こう言うよ? 嘘だろってさ? そして、誰も信じないよ。それに、今から同じ事をやろうとしたって無理なんだもん』
「確かに、色々と幸運に助けられた部分が大きかったです。同じ事をもう一度やる自信はありません」
『繰り返そうにも、ディメンション・イーターには修正入れたから、もう序盤にテンタクル・ウィップを手に入れる事は不可能です。というより、最初の"刀剣"選択で分銅鎖を選ぶ人が何人いるのかな? ランゴンは君達がムジェリと一緒に食べちゃったし?』
「なるほど・・」
そもそも、"刀剣"の選択にどうして分銅鎖があったのか問い質したいが・・。
『ええと・・色々言っていると、何を言いたかったのか忘れちゃうね』
少年神が腕組みをして考え込んだ。
シュンは、ユアやユナを見た。2人とも自分の口の前で人差し指をクロスさせて首を振っている。発言をする気は無いらしい。
サヤリを見ると、当然のように沈黙を保って、すべてをシュンに委ねている。
『まず・・そうだね。エリミナル・スパイダー討伐報酬からだ。あのボーナス蜘蛛を斃したからレベルが25になったんだからね』
ぶつぶつと呟いて、少年神が何かを確認するように視線を左右すると、シュンや双子、ジェルミーやサヤリに向けて、ひらひらと手を振った。その手から光る粉のようなものが舞い散って、シュン達の体が淡い光に包まれた。
『これは、通常の・・普通の異邦者を想定したボーナス。レベル上げだけやって練度が足りてないような、ちょっと残念な人を対象にした救済ポイントなんだ。ズバリ! 練度不足者救済ボーナスさ!』
「・・練度不足者の救済?」
『ほとんどの人がエスクードに来るまでは練度上げをやってないんだ。多少無理をしてでも最速でレベル25を目指す人ばかりなのさ』
レベル25になれば、迷宮の外に出ることができる。それを目標にして頑張ってレベルを上げる者がほとんどらしい。
『ところが、練度というのは大切でね。君達が体験しているように、HPやMPの増加量は、通常のレベルアップによる増加値に、練度によるボーナス補正値が加味された結果なんだ』
少年神が説明したことは、体験済みの"ネームド"にとっては驚くような情報では無い。
『練度値は、レベルアップ時に上昇する各種能力値の算定式にボーナスを与える』
「算定?」
シュンはちらと双子を見た。ユアとユナが小刻みに頷いている。どうやら2人には理解できる内容らしい。異邦人にとっては常識なのだろうか?
『もう分かったと思うけど、レベル1から2、2から3へと順番にレベルが上がっていく過程で、練度によって算定基礎値が増加した人と、すっぴんの人の差はどんどん開いていくよ?』
「・・ユア、ユナ?」
「大丈夫」
「完全理解」
「・・そうか」
シュンは安堵の息をついた。
『そして、これはHPやMPのように数字で目に見えるものだけじゃない。筋力や敏捷さ、頑強さ、持久力、視力、動体視力・・身体の能力全般についても同じように上昇補正が行われるんだ』
「・・なるほど」
『レベル25になるまで、意識をして練度を上げ続けていた君達と、通常のレベルアップの中でわずかばかり練度が上がっただけの他の人とでは、それはもう絶望的なくらいに差があるのさ』
少年神が深々とした息をついた。
『そこのユキシラ・サヤリが良い例だね。レベルは君達より高いのに、身体能力は君達にまったく敵わないでしょ?』
「確かに・・」
『一応、アルヴィだった時の能力を引き継いでるから、同レベルの異邦人より身体の基礎値は高いんだけどね』
少年神が言うには、アルヴィに進化すると身体の基礎値が大幅に上昇するらしい。
『種族に関係無く、身体の基礎能力についての練度が上がるのはレベル25までなんだ。ここから先は、今の補正幅がずうっと適用される。つまり、レベル25になってから慌てて練度を上げようとしても手遅れってことだね』
なるほど、レベル25までに練度を上げておいた事が、今後のレベルアップ時に有利に働くことは分かった。
「しかし・・仮に異邦人がレベルを1000、2000と上げればどうなります? 私達はレベルアップが遅いですから、練度の差をレベルの差でひっくり返せませんか?」
練度の差は、レベルの差で埋めることができるのではないか? レベル25以降、身体の能力値が上がらなくなったわけでは無い。練度が低いと、レベルアップした時に能力値の上がり幅が少ないというだけだ。逆に、練度が高いシュン達は能力値の上がり幅が大きいが、練度が高いため取得経験値は激減した。同じ期間内なら、シュン達がレベルアップの恩恵を受ける回数はかなり少ない。結果的に、何度もレベルアップを繰り返した異邦人達の方がHPなども増え、身体能力も高くなるのではないか?
『あはは・・君はまったく・・真ん中を見失わないというか・・間違えないね』
「すると?」
『できるさ。阿呆みたいにレベルを上げまくれば、練度モンスターな君達を能力値で上回る存在になれるよ。一時的に・・だけどね』
少年神が小さく笑みを浮かべた。
『ちなみに今の君達を練度底辺の子が追い抜こうとするなら、レベル180前後が必要だね。武技、魔法、武装込みとなると、ちょっと数字にできない差があるな』
「・・180ですか」
それなりに差があると思っていたが、まさかそれだけの差違があるとは思ってもみなかった。
『でもね。レベルにだって上限があるんだよ? 無限に上がるわけじゃないんだ』
「それは・・どのくらいです?」
『原住民はレベル100が上限。異邦人はレベル200。アルヴィはレベル300・・これが種族における限界値』
「100・・」
あまりにも低い数値だ。レベル100以降、シュンのような原住民は、技や魔法の練度を上げていくしか強くなる方法が無いということか。
『外の世界じゃ、剣聖だって言われている人でも、レベル70そこそこだよ? 原住民で、レベル100になった人間はいません。まあ、寿命があるからね』
「なるほど」
確かに、寿命というのは大きな限界点だ。
『レベルアップの他に、ボーナス蜘蛛ちゃんの褒賞は2つだ。1つ、この先ずっと、レベルアップ時には身体能力の練度ボーナスによる補正値が倍になる。もう1つは、レベル上限値を種族に関係無く、500まで上昇させるんだ。なので、蜘蛛のボーナスで今すぐに強くなったりするわけじゃ無い。無いんだけども、これを取得しちゃったのが君達ってことは・・つまり、とっても大きな争乱の種って言うか・・何やってくれちゃったんだ的な?』
「よく分かりませんが?」
『だってさぁ、どんなに時間がかかってもレベル上げちゃうでしょ? 君達、寿命が無いんだし・・』
「もちろんです」
シュンは大きく頷いた。
『レベル25だから、180相当で済んでるのに、これがレベル500とかになったら・・どうなるの?』
少年神が引き攣った笑顔を浮かべて、くるくると前方宙返りを始めた。
「神様・・」
『はい?』
「エリミナル・スパイダーは2匹斃したはずですが?」
シュンが訊ねると、神様が無言で後方宙返りを始めた。
「今日は、どうされました?」
シュンは神様に訊ねつつ、双子やサヤリ、ジェルミーを見た。このメンバー全員で同時に神の空間に招かれたのは初めてだった。
『・・やっぱり、自覚ないよね?』
「はい。今回は何も・・特別な魔物は居なかったと思いますが?」
シュンの視線を受けて、双子とサヤリ、ジェルミーも首を振った。毒蜘蛛相手に掃討戦をやっていた最中だったのだ。いきなりレベルアップするような要因に心当たりは無い。
『この72階って、大きな毒蜘蛛ばかりで、経験値はしょぼいし、ドロップ品は安っすい繊維と糸でしょ? なのに、無限かってくらい蜘蛛がポップし続けて、斃せば斃しただけ蜘蛛の口が死霊になって降って来るよね?』
「・・はい」
神様が何を言いたいのか良く分からないまま、シュン達は頷いた。
『大きな強い魔物がぽつぽつ出る73階より、毒蜘蛛が延々と襲ってくる72階の方が死亡率が高いんだよ』
「そうなのですか?」
炎の魔法などで焼き続けていれば良いだけのような気がするが?
『MPが続かないんだよ。だってキリが無いじゃん? 斃しても斃しても、15秒でリポップだよ? うっかり進めば、前からも後ろからも上からも毒蜘蛛が押し寄せて来て周囲を埋め尽くしちゃうんだから』
少年神があぐらを組んだまま、上下逆さまに浮かんで漂う。
『今はエスクード内で情報が出回って、ほとんどのパーティが72階をスキップして、73階から上を狙うよね?』
「そうらしいですね」
『・・まあ、細かい話はいいや。72階の階層主を斃したパーティが1日以内に72階を再訪すると、低確率でボーナス蜘蛛が出現するって裏設定があるんだよ』
「ボーナス蜘蛛? もしかして、レベルが上がったのは?」
『1匹で1レベルアップ確定のボーナス蜘蛛ちゃんさ』
「・・なるほど」
シュンは左手甲を見た。レベルは25になっている。直前までレベル23だったから、蜘蛛を2匹斃したという事だろう。
(72回の階層主は、蜘蛛女だったな? あれを斃してから1日以内・・)
55階から順に上って73階の階層主を斃してから折り返し、また55階まで降りようとしているところだった。
(・・なるほど)
確かに、73階に上がってから72階に戻るまで1日経っていない。まったくの偶然だが、規則に沿った恩恵を受けられたということだ。
『隠し要素だし? リポップ・ルーレットは低確率だし? 0~2匹のポップなんだけど・・きっちり2匹引き当てるし? もうね・・君達だからね』
「思わぬところで、レベル25になれました。ありがとうございます」
シュンは神様に礼を言って頭を下げた。
『ははは・・』
少年神が空虚な笑いを漏らした。心なしか顔色が良くないように見える。
「神様?」
『いやぁ、規則通りにご褒美をあげたり、ボーナスポイントをあげたり・・色々しなくちゃいけないんだけども・・いや、規則だからね。神としてルールを破ることは出来ないし? 君達って、本当に、全く、これっぽっちも狡してないんだし?』
最近よく見かける、動揺と諦めが混在した様子で少年神が自問自答をやっていた。
「お疲れのようですね」
『いかにも、お疲れさっ!』
空中でくるりと向きを変えて、足を組んで座った姿勢のままシュンの前に飛んで来る。
『ねぇ・・練度ってさぁ、普通はどんなに頑張っても限界ってやつが邪魔するわけよ? 上限ってやつね? もう、それ以上はどんなに修行したって成長しないって限界点ね?』
「リミットですね?」
もうすっかりお馴染みの単語だ。
『その通り。そして、リミットを突破するためには、神の試練なんかを超えていかなければならないのさ』
「何度かリミット・ブレイクをしましたね」
『そう・・何度か、じゃなくって、何度も何度も、ブレイクしたよね? もう限界突破って言葉が虚しいよね? 知ってた? この世界じゃ、1つの技能を鍛え上げて限界まで達した人を達人って呼ぶんだよ? 簡単に限界超えちゃったら、達人の立場が無くなるじゃん!』
少年神がぐいぐいと迫ってくる。
「・・なるほど。斃したボーナス蜘蛛に、何か練度に関するものがあるのですね?」
シュンは事のあらましを理解できた気がした。
『・・ど真ん中に突っ込んで来るね?』
少年神が後方へ離れた。
「1度お訊きしたかったのです。どの技能、どの魔法がどの程度の練度で・・身体については、何の練度が上がっているのかと。その数字はどのようにして計算されているのか、教えて頂けないでしょうか?」
『うぅ・・』
「もちろん、規則で許されている範囲の事で構いません。もし理屈が理解できれば、そうした練度などが数値で見えるような魔導具を製作できるかもしれません」
『あぁ・・う~ん、君は本当にいつか作っちゃいそうだよね』
少年神が腕組みをして、上下逆さまになったり、戻ったりと回転を始めた。
『いや・・その手の魔導具っていうか、似たような神具はあるんだ。レベル25になったら支給されるようになってる。まあ、君が想像しているものとは少し違うんだけど』
「そうなのですね」
そういうことなら、シュン達もレベル25になったから神具を入手できるわけだ。しかし、ユキシラはそんな物を持っている様子は無いが?
『ファミリア・カードの機能を拡張するんだ。自分についての能力を数字で把握できるようにする機能さ。内容は持ち主にしか見えないから、盗み見られる心配は無い。ああ・・前にも言ったけど、そうした相手の能力を見透すような鑑定魔法は存在しないから、本人が黙っていれば誰にも本当の数値は知られない』
「嘘を見破る魔導具などを用意して質問すれば、ある程度の情報を把握できますよね?」
『その通り。そういうのを得意にしている人間なら幾通りもの質問を投げかけて情報を引き出していくことが可能だね』
少年神が腕組みをしたまま頷いて見せる。
「しかし・・」
『ぶっちゃけ、知ったところで意味が無いんだよねぇ・・特に、君達みたいに極端に振り切れちゃった人間の情報なんてさ。知ったところで、どうにもならないよ』
「そうですか?」
他者の能力の把握は重要な気がするが・・。
『10人が10人、こう言うよ? 嘘だろってさ? そして、誰も信じないよ。それに、今から同じ事をやろうとしたって無理なんだもん』
「確かに、色々と幸運に助けられた部分が大きかったです。同じ事をもう一度やる自信はありません」
『繰り返そうにも、ディメンション・イーターには修正入れたから、もう序盤にテンタクル・ウィップを手に入れる事は不可能です。というより、最初の"刀剣"選択で分銅鎖を選ぶ人が何人いるのかな? ランゴンは君達がムジェリと一緒に食べちゃったし?』
「なるほど・・」
そもそも、"刀剣"の選択にどうして分銅鎖があったのか問い質したいが・・。
『ええと・・色々言っていると、何を言いたかったのか忘れちゃうね』
少年神が腕組みをして考え込んだ。
シュンは、ユアやユナを見た。2人とも自分の口の前で人差し指をクロスさせて首を振っている。発言をする気は無いらしい。
サヤリを見ると、当然のように沈黙を保って、すべてをシュンに委ねている。
『まず・・そうだね。エリミナル・スパイダー討伐報酬からだ。あのボーナス蜘蛛を斃したからレベルが25になったんだからね』
ぶつぶつと呟いて、少年神が何かを確認するように視線を左右すると、シュンや双子、ジェルミーやサヤリに向けて、ひらひらと手を振った。その手から光る粉のようなものが舞い散って、シュン達の体が淡い光に包まれた。
『これは、通常の・・普通の異邦者を想定したボーナス。レベル上げだけやって練度が足りてないような、ちょっと残念な人を対象にした救済ポイントなんだ。ズバリ! 練度不足者救済ボーナスさ!』
「・・練度不足者の救済?」
『ほとんどの人がエスクードに来るまでは練度上げをやってないんだ。多少無理をしてでも最速でレベル25を目指す人ばかりなのさ』
レベル25になれば、迷宮の外に出ることができる。それを目標にして頑張ってレベルを上げる者がほとんどらしい。
『ところが、練度というのは大切でね。君達が体験しているように、HPやMPの増加量は、通常のレベルアップによる増加値に、練度によるボーナス補正値が加味された結果なんだ』
少年神が説明したことは、体験済みの"ネームド"にとっては驚くような情報では無い。
『練度値は、レベルアップ時に上昇する各種能力値の算定式にボーナスを与える』
「算定?」
シュンはちらと双子を見た。ユアとユナが小刻みに頷いている。どうやら2人には理解できる内容らしい。異邦人にとっては常識なのだろうか?
『もう分かったと思うけど、レベル1から2、2から3へと順番にレベルが上がっていく過程で、練度によって算定基礎値が増加した人と、すっぴんの人の差はどんどん開いていくよ?』
「・・ユア、ユナ?」
「大丈夫」
「完全理解」
「・・そうか」
シュンは安堵の息をついた。
『そして、これはHPやMPのように数字で目に見えるものだけじゃない。筋力や敏捷さ、頑強さ、持久力、視力、動体視力・・身体の能力全般についても同じように上昇補正が行われるんだ』
「・・なるほど」
『レベル25になるまで、意識をして練度を上げ続けていた君達と、通常のレベルアップの中でわずかばかり練度が上がっただけの他の人とでは、それはもう絶望的なくらいに差があるのさ』
少年神が深々とした息をついた。
『そこのユキシラ・サヤリが良い例だね。レベルは君達より高いのに、身体能力は君達にまったく敵わないでしょ?』
「確かに・・」
『一応、アルヴィだった時の能力を引き継いでるから、同レベルの異邦人より身体の基礎値は高いんだけどね』
少年神が言うには、アルヴィに進化すると身体の基礎値が大幅に上昇するらしい。
『種族に関係無く、身体の基礎能力についての練度が上がるのはレベル25までなんだ。ここから先は、今の補正幅がずうっと適用される。つまり、レベル25になってから慌てて練度を上げようとしても手遅れってことだね』
なるほど、レベル25までに練度を上げておいた事が、今後のレベルアップ時に有利に働くことは分かった。
「しかし・・仮に異邦人がレベルを1000、2000と上げればどうなります? 私達はレベルアップが遅いですから、練度の差をレベルの差でひっくり返せませんか?」
練度の差は、レベルの差で埋めることができるのではないか? レベル25以降、身体の能力値が上がらなくなったわけでは無い。練度が低いと、レベルアップした時に能力値の上がり幅が少ないというだけだ。逆に、練度が高いシュン達は能力値の上がり幅が大きいが、練度が高いため取得経験値は激減した。同じ期間内なら、シュン達がレベルアップの恩恵を受ける回数はかなり少ない。結果的に、何度もレベルアップを繰り返した異邦人達の方がHPなども増え、身体能力も高くなるのではないか?
『あはは・・君はまったく・・真ん中を見失わないというか・・間違えないね』
「すると?」
『できるさ。阿呆みたいにレベルを上げまくれば、練度モンスターな君達を能力値で上回る存在になれるよ。一時的に・・だけどね』
少年神が小さく笑みを浮かべた。
『ちなみに今の君達を練度底辺の子が追い抜こうとするなら、レベル180前後が必要だね。武技、魔法、武装込みとなると、ちょっと数字にできない差があるな』
「・・180ですか」
それなりに差があると思っていたが、まさかそれだけの差違があるとは思ってもみなかった。
『でもね。レベルにだって上限があるんだよ? 無限に上がるわけじゃないんだ』
「それは・・どのくらいです?」
『原住民はレベル100が上限。異邦人はレベル200。アルヴィはレベル300・・これが種族における限界値』
「100・・」
あまりにも低い数値だ。レベル100以降、シュンのような原住民は、技や魔法の練度を上げていくしか強くなる方法が無いということか。
『外の世界じゃ、剣聖だって言われている人でも、レベル70そこそこだよ? 原住民で、レベル100になった人間はいません。まあ、寿命があるからね』
「なるほど」
確かに、寿命というのは大きな限界点だ。
『レベルアップの他に、ボーナス蜘蛛ちゃんの褒賞は2つだ。1つ、この先ずっと、レベルアップ時には身体能力の練度ボーナスによる補正値が倍になる。もう1つは、レベル上限値を種族に関係無く、500まで上昇させるんだ。なので、蜘蛛のボーナスで今すぐに強くなったりするわけじゃ無い。無いんだけども、これを取得しちゃったのが君達ってことは・・つまり、とっても大きな争乱の種って言うか・・何やってくれちゃったんだ的な?』
「よく分かりませんが?」
『だってさぁ、どんなに時間がかかってもレベル上げちゃうでしょ? 君達、寿命が無いんだし・・』
「もちろんです」
シュンは大きく頷いた。
『レベル25だから、180相当で済んでるのに、これがレベル500とかになったら・・どうなるの?』
少年神が引き攣った笑顔を浮かべて、くるくると前方宙返りを始めた。
「神様・・」
『はい?』
「エリミナル・スパイダーは2匹斃したはずですが?」
シュンが訊ねると、神様が無言で後方宙返りを始めた。
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