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第1章
第59話 チョコ!?
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「石・・なのか?」
シュンは船の甲板の上で足下の床を指で擦った。
「石みたい?」
「でも木みたいな?」
つるりとして黒曜石のような感じだが、まだ海水の残る上を歩いても滑る感じはしない。不思議な素材でできた船だった。
船尾側に少し高い上甲板があり階段で登るようになっていた。
「球」
「たま」
「・・球だな」
シュンは、真っ黒い球体を覗き込んだ。
上甲板の中央に荊が絡み合った鳥の巣のような台座があり、高さ1メートルほどの硬質の球体が置かれていた。
「水晶かな?」
表面は冷たく、滑らかだった。
船上には、他に何も無い。船縁はユア、ユナの背丈ほどもある壁で囲われていて、少々揺れたくらいでは落水しないだろう。
船室、船倉への入口も見当たらないが、これほどの大きな船で甲板だけしか人の居場所が無いのだろうか。
「周囲に動きは?」
「アリンコもいない」
「生き物がいない」
風魔法で索敵をやっていた双子が首を振る。
「なら、ここで休憩しようか。魚も来なくなったからな」
シュンは夜闇に揺れて見える海原を見回して、球の置かれた上甲板に登るための階段に腰を下ろした。
ポイポイ・ステッキの中身を表示させて、収納したものの名称を確認していく。
・ランサーイール
・シュザーガード
・ランゴン
最近増えたのは、この3つ。
名前からして、槍のように飛んで来ていた魚の名前がランサーイールだろう。
シュザーガードが海老のようなやつ。
ランゴンというのが、口や顎から触腕を生やした巨老人だろう。
(あれも、後で解体しないとな)
怪老人はともかく、シュザーガードとランサーイールは食用になりそうだ。
ふと気が付くと、両隣にユアとユナが座ってシュンの手元を覗き込んでいた。
「見えるのか?」
こうしたステータス表示は他人には目視できないと本には書いてあったが・・。
「見えない」
「心の眼で見る」
双子が澄ました顔で言う。いつも通りの2人だった。
「槍のような魚は、ランサーイール。大きな海老がシュザーガード。蛸を頭にしたような巨人はランゴンというらしい」
「もうお宝探さない?」
「サルベージしない?」
双子が左右から訊いて来る。
「いや、さっきからやっている。ただ、めぼしい物には触れないな」
シュンのテンタクル・ウィップは海中へ伸びたままだった。海水を疑似的な触手として延伸しているので、触手そのもの感覚ほど鋭敏ではないが、大まかには把握できている。
ユアとユナの魔法を浴びて多くの魔物が斃れたのだろう。それでもなお生き残っていた魔物が、シュンのテンタクル・ウィップを使った攻撃を浴びた事で消えずに形を遺したわけだ。
「魔石拾う」
「石拾い」
双子がせがむ。
「魔石? 沢山沈んでいるみたいだけど・・」
「どんどん拾う」
「時間で消える」
「・・そうだな。まあ、いくつか拾っておくか」
魔石も錬金の素材にはなる。将来的には別の使い道が見つかるかもしれない。
シュンは、ユアとユナにせがまれるまま、海底に触手を伸ばして意識を向けた。大量の遺物が沈んでいる。水魔法で延伸した海水の触手で包むようにして取り込み、そのまま船の上まで運んで甲板上に放出する。ガラガラと音を立てて大量のドロップ品が積み上げられた。
「わはぁぁぁーー」
「やはぁぁぁーー」
双子が歓喜の声を上げて、ポイポイ・ステッキを手に回収にかかる。
「好きなだけ回収しておけ。価値が無さそうなら後で捨てれば良いから」
シュンはもう一度海底へテンタクル・ウィップを差し伸ばした。
「ボス、宝石っぽい」
「ボス、貰って良い?」
「何でも好きなだけ収納しろ。早くしないと次の収集分を出すぞ」
「ぎゃー、急げ」
「急げ、急げ」
双子が楽しそうにキャーキャー大騒ぎをやりつつ収納する。
そこへ、第2便が到着した。今度は少し重たい物、大きな物が多かった。
「もう十分だろう?」
第2便だけで船が傾きそうなくらいの量だ。
「イェス、マイロード!」
「ハートを捧げる!」
双子が眼を輝かせている。大小の魔石に、金銀の塊、武器や防具に巨大な鱗、牙や角などが山と積まれていた。全てが大魔法の連射によって斃れた魔物のドロップ品だった。
「ボスも回収」
「ボスもポイポイ」
「分かった。何かに使えるかもしれないからな」
2人が取りこぼしている品を中心に、シュンもポイポイ・ステッキで収納していった。
そんな騒動の最中、
ポォォォーーーー
いきなり、どこかで音が鳴り響いた。
弾かれたように、3人が銃を構えて周囲を警戒する。
『まもなく出航します。お見送りのお客様はお気を付け下さい』
どこからともなく、落ち着いた男の声が聞こえ、
ポォォォーー・・・ポォォォーー・・・ポォォォーー
繰り返し3度、大きな音が鳴った。
「船が動く」
「動いた?」
双子が身を低くして周囲を見回す。
「錨が巻き上げられた。凄い仕組みだな」
シュンは船縁から船首や船尾を見回しながら感心していた。海に沈んでいた船とは思えない安定感のある動きだった。
『ご乗船ありがとうございます。当船は、モズダール内海周遊船です。次は、リンバウミ群島。所要時間は3時間を予定しております。湾内を出ますと、船内へご案内致します。安全のため、航行中は甲板上には戻れませんので、所用がおありの方はお早めにお済ませ下さい』
「ボス、周遊船だって」
「違う島に行くみたい」
「乗りかかった船というやつだな。何処へでも行ってみよう。それより、湾内を出る前に回収しないと無くなりそうだぞ?」
シュンはドロップ品の山を指差した。
「そうだった」
「これは急務」
双子が慌てる。
シュンは、遠ざかる塔や浜辺を振り返っていた。まだ南端側しか踏破していない島が離れて行く。
(迷宮人の船・・では無いよな?)
気球とは別物の高度な作り物だった。
「ボス、手が止まってる」
「どしどし回収する」
「ああ、分かった」
シュンは苦笑しつつ、まだまだ残っているドロップ品の山にポイポイ・ステッキを当てて収納していった。
ポォォォーー・・
『まもなく湾外航行に移ります。ご乗船のお客様は点滅している魔法扉から船内へお入り下さい』
「ぎゃーー」
「無念」
「あそこだ。入ってみよう」
何もなかった黒い甲板上に、光る扉が出現していた。
シュンとしては、ドロップ品の収集より、この船の仕組みの方に興味を唆られる。
「行こう。また魔物を斃せば良いじゃないか」
「イチゴ~」
「イチエ~」
未練タラタラなユア、ユナを引きずって扉から入ってみた。
「へぇ・・」
思わず声が漏れる。
おそらく、黒い甲板の真下。広々とした船内だった。天井高は3メートル近いだろう。今シュン達が立っている通路を中心に左右に座席が並び、奥には文明の恵みにあるような自動販売機らしき物が並んでいた。
「ほおぉぉ」
「わわわわ」
双子がそわそわと周囲を見回す。
「ここまで手の込んだ罠は考えられない。自由に過ごしてくれ」
シュンは2人に指示をしながら、壁際に掛けられた地図を見に行った。
航路を示した物らしい。島が7つ描いてあり、それぞれの島を破線が繋いでいる。
(さっきの島が、ここか)
島の南端に航路が接しているのは、中央に描かれた島だけだった。なるほど、双子が言っていた通り瓢箪のような形をしていた。
(向かっているのは・・どっちだ?)
航路を示しているのだろう破線が何本か交錯して分かりにくい。同じような距離に2つ島があったし、どちらも小さな島に囲まれている。
(まあ、船任せか)
シュンは自動販売機前で騒いでいるユア、ユナを横目に、船腹だろう部屋の外縁に置かれた長椅子に腰を下ろした。
(薬でも作ろう)
浜辺での大魔法連射で、MP回復薬の上級を12本消費した。補充しておいた方が良いだろう。
ダークグリフォンの知識を得てから、シュンにとっては調合が娯楽の一つになっていた。素材は様々な物で代用できる。調合方法は何通りもある。おまけに、作成した薬をポイポイ・ステッキで収納すれば、丁度いい容器に収まっている。これは、ポイポイ・ステッキ(シュン)だけの特別な能力らしく、双子のポイポイ・ステッキでは容器などに入る事は無かった。なので、体液などの収納は、専らシュンの役回りである。
「"砕断"・・"乾燥"・・"粉砕"・・"浄化水混合"・・"溶解"・・"分離"・・"鎮静"・・"霊水混合"・・"高速撹拌"・・"鎮静"・・」
10の工程のために、10種類の魔法陣を出現させ、流れ作業で作り上げてはポイポイ・ステッキ(シュン)で収納する。
手に入りやすい牛鬼の霊歯を磨り潰した物、大鬼の胆嚢を乾燥させた物を使い、時間さえかければ作り出せる霊水を多く使用する。
性能を上げるコツは、高速撹拌が終わった直後に急速に鎮静化させる事だ。希少な素材を使わない代わりに、作業時間を短くしなければ回復値が落ちていく。なにより、作業場を水魔法による清浄領域で包んでいないと、不純物が混じって大幅に性能が落ちる。
シュンは、持ち前の集中力を発揮して次々に回復薬を作り出して収納していった。
「・・どうした?」
気がつくと、両隣にユアとユナが来ていた。
「探検終了」
「退屈になった」
「ついでだ。作りたてのMP回復薬を渡しておこう」
シュンは収納したばかりの回復薬を取り出して、それぞれに3本ずつ手渡した。
「前のより出来が良いと思う。霊水の精製に慣れてきた」
「ついに5万超え?」
「サヨナラ5万?」
「超えたと思うけど、使ってみないと分からないな」
手に入りやすい素材で作れるMP回復薬としては、今のところこれ以上の品は無理そうだ。ちなみに、5万というのは、双子が使うシャイニング・バーストカノンの消費MPだ。双子からは、10万ポイント回復するMP回復薬を作るよう頼まれている。
(ん? 向きを変えたか?)
船が大きく向きを変えたようだった。地図にある破線に沿って動いているのか、あるいは図に関係無く航行しているのか。
(また新しい魔物がいるかもしれないな)
カラミティ・ストライクが使える場所なら良いが、あれは閉所や天井がある場所では使えない。毒や酸を撒き散らすので近くに味方が居たら使い難い。何より、海のように大量の水が利用できないと発動させられない。
本来ならMP5万ポイントで発動できるような魔法では無い。水魔法で膨大な呪水を発生させる必要があるのだが、海水を利用する事でカラミティ・ストライクもどきとして発現させているだけだった。恐らく、本来のものより威力も低いはずだ。
水棲の魔物が相手では、シュンの水魔法は相性が良いとは言えないし、魔法を防御してくる相手には水渦弾の効果は薄い。今練習中の水で切断する技が形になれば、少しはマシになるのだが・・。
(水楯から撃ち出せる水渦弾は便利だけど、威力がもう少し欲しいな)
水渦弾は届く距離も短いし、MPを消費する割に威力が物足りない。即発動できる点とある程度広い範囲にばら撒けるのが利点だ。
(VSSより遠くを貫ける魔法を覚えたいな)
ユアとユナは、神聖魔術による防御と回復が主で、火・風・土を補助的に使える程度。攻撃に使える魔法は限られる。2人共に優れたEX技を持っているが、EXだけでは連戦が苦しくなる。
シュンのEX技は単体攻撃に特化していて、魔物の大群を追い払うような使い方は出来ない。
(俺の魔法は、水・・それと光と影)
光魔法、影魔法共に適性は高くない。どちらも、直接的な攻撃というよりは補助的なものばかりで、目眩ましであったり、視覚にズレを与えるような魔法だった。
(組み合わせを考えないとな)
「ボスっ!?」
「バチバチいってる!」
「え?」
左右から袖を引かれてシュンは我に返った。目の前に展開している10種類の創作魔法陣が異様な輝きを放って、小さな雷光のような物を放って回転していた。
「た、待避っ?」
「シェルター?」
ユアとユナが大急ぎでシュンの背中へ隠れる。
「いや・・嫌な感じはしない」
シュンはそのまま創作の魔法陣を見守った。
賑やかに明滅していた光が鎮まり、魔法陣の回転が止まる。
しん・・と静まった中、
パンパカパ~~ン♪ ヒューヒュードンドンドン♪
妙な楽器の音が鳴った。
「ふぁんふぁーれ?」
「おめでたい?」
シュンの背中に隠れていた双子が顔を覗かせた。
「なんだ、これ?」
シュンの目の前に、見慣れない小箱が落ちていた。白銀色の装飾が鮮やかな、見るからに豪奢な感じがする箱だ。手に取ってみると、木製らしいことが分かる。
「玉手箱?」
「ミミック?」
双子がシュンの背から半身を覗かせて何やら言っている。
開けてみると、絹の布が敷かれた中に、焦げ茶色の小さな塊が9つ並んで納められていた。
「ちょっ・・」
「チョコーー!?」
ユアとユナの絶叫が響き渡った。
シュンは船の甲板の上で足下の床を指で擦った。
「石みたい?」
「でも木みたいな?」
つるりとして黒曜石のような感じだが、まだ海水の残る上を歩いても滑る感じはしない。不思議な素材でできた船だった。
船尾側に少し高い上甲板があり階段で登るようになっていた。
「球」
「たま」
「・・球だな」
シュンは、真っ黒い球体を覗き込んだ。
上甲板の中央に荊が絡み合った鳥の巣のような台座があり、高さ1メートルほどの硬質の球体が置かれていた。
「水晶かな?」
表面は冷たく、滑らかだった。
船上には、他に何も無い。船縁はユア、ユナの背丈ほどもある壁で囲われていて、少々揺れたくらいでは落水しないだろう。
船室、船倉への入口も見当たらないが、これほどの大きな船で甲板だけしか人の居場所が無いのだろうか。
「周囲に動きは?」
「アリンコもいない」
「生き物がいない」
風魔法で索敵をやっていた双子が首を振る。
「なら、ここで休憩しようか。魚も来なくなったからな」
シュンは夜闇に揺れて見える海原を見回して、球の置かれた上甲板に登るための階段に腰を下ろした。
ポイポイ・ステッキの中身を表示させて、収納したものの名称を確認していく。
・ランサーイール
・シュザーガード
・ランゴン
最近増えたのは、この3つ。
名前からして、槍のように飛んで来ていた魚の名前がランサーイールだろう。
シュザーガードが海老のようなやつ。
ランゴンというのが、口や顎から触腕を生やした巨老人だろう。
(あれも、後で解体しないとな)
怪老人はともかく、シュザーガードとランサーイールは食用になりそうだ。
ふと気が付くと、両隣にユアとユナが座ってシュンの手元を覗き込んでいた。
「見えるのか?」
こうしたステータス表示は他人には目視できないと本には書いてあったが・・。
「見えない」
「心の眼で見る」
双子が澄ました顔で言う。いつも通りの2人だった。
「槍のような魚は、ランサーイール。大きな海老がシュザーガード。蛸を頭にしたような巨人はランゴンというらしい」
「もうお宝探さない?」
「サルベージしない?」
双子が左右から訊いて来る。
「いや、さっきからやっている。ただ、めぼしい物には触れないな」
シュンのテンタクル・ウィップは海中へ伸びたままだった。海水を疑似的な触手として延伸しているので、触手そのもの感覚ほど鋭敏ではないが、大まかには把握できている。
ユアとユナの魔法を浴びて多くの魔物が斃れたのだろう。それでもなお生き残っていた魔物が、シュンのテンタクル・ウィップを使った攻撃を浴びた事で消えずに形を遺したわけだ。
「魔石拾う」
「石拾い」
双子がせがむ。
「魔石? 沢山沈んでいるみたいだけど・・」
「どんどん拾う」
「時間で消える」
「・・そうだな。まあ、いくつか拾っておくか」
魔石も錬金の素材にはなる。将来的には別の使い道が見つかるかもしれない。
シュンは、ユアとユナにせがまれるまま、海底に触手を伸ばして意識を向けた。大量の遺物が沈んでいる。水魔法で延伸した海水の触手で包むようにして取り込み、そのまま船の上まで運んで甲板上に放出する。ガラガラと音を立てて大量のドロップ品が積み上げられた。
「わはぁぁぁーー」
「やはぁぁぁーー」
双子が歓喜の声を上げて、ポイポイ・ステッキを手に回収にかかる。
「好きなだけ回収しておけ。価値が無さそうなら後で捨てれば良いから」
シュンはもう一度海底へテンタクル・ウィップを差し伸ばした。
「ボス、宝石っぽい」
「ボス、貰って良い?」
「何でも好きなだけ収納しろ。早くしないと次の収集分を出すぞ」
「ぎゃー、急げ」
「急げ、急げ」
双子が楽しそうにキャーキャー大騒ぎをやりつつ収納する。
そこへ、第2便が到着した。今度は少し重たい物、大きな物が多かった。
「もう十分だろう?」
第2便だけで船が傾きそうなくらいの量だ。
「イェス、マイロード!」
「ハートを捧げる!」
双子が眼を輝かせている。大小の魔石に、金銀の塊、武器や防具に巨大な鱗、牙や角などが山と積まれていた。全てが大魔法の連射によって斃れた魔物のドロップ品だった。
「ボスも回収」
「ボスもポイポイ」
「分かった。何かに使えるかもしれないからな」
2人が取りこぼしている品を中心に、シュンもポイポイ・ステッキで収納していった。
そんな騒動の最中、
ポォォォーーーー
いきなり、どこかで音が鳴り響いた。
弾かれたように、3人が銃を構えて周囲を警戒する。
『まもなく出航します。お見送りのお客様はお気を付け下さい』
どこからともなく、落ち着いた男の声が聞こえ、
ポォォォーー・・・ポォォォーー・・・ポォォォーー
繰り返し3度、大きな音が鳴った。
「船が動く」
「動いた?」
双子が身を低くして周囲を見回す。
「錨が巻き上げられた。凄い仕組みだな」
シュンは船縁から船首や船尾を見回しながら感心していた。海に沈んでいた船とは思えない安定感のある動きだった。
『ご乗船ありがとうございます。当船は、モズダール内海周遊船です。次は、リンバウミ群島。所要時間は3時間を予定しております。湾内を出ますと、船内へご案内致します。安全のため、航行中は甲板上には戻れませんので、所用がおありの方はお早めにお済ませ下さい』
「ボス、周遊船だって」
「違う島に行くみたい」
「乗りかかった船というやつだな。何処へでも行ってみよう。それより、湾内を出る前に回収しないと無くなりそうだぞ?」
シュンはドロップ品の山を指差した。
「そうだった」
「これは急務」
双子が慌てる。
シュンは、遠ざかる塔や浜辺を振り返っていた。まだ南端側しか踏破していない島が離れて行く。
(迷宮人の船・・では無いよな?)
気球とは別物の高度な作り物だった。
「ボス、手が止まってる」
「どしどし回収する」
「ああ、分かった」
シュンは苦笑しつつ、まだまだ残っているドロップ品の山にポイポイ・ステッキを当てて収納していった。
ポォォォーー・・
『まもなく湾外航行に移ります。ご乗船のお客様は点滅している魔法扉から船内へお入り下さい』
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「無念」
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シュンとしては、ドロップ品の収集より、この船の仕組みの方に興味を唆られる。
「行こう。また魔物を斃せば良いじゃないか」
「イチゴ~」
「イチエ~」
未練タラタラなユア、ユナを引きずって扉から入ってみた。
「へぇ・・」
思わず声が漏れる。
おそらく、黒い甲板の真下。広々とした船内だった。天井高は3メートル近いだろう。今シュン達が立っている通路を中心に左右に座席が並び、奥には文明の恵みにあるような自動販売機らしき物が並んでいた。
「ほおぉぉ」
「わわわわ」
双子がそわそわと周囲を見回す。
「ここまで手の込んだ罠は考えられない。自由に過ごしてくれ」
シュンは2人に指示をしながら、壁際に掛けられた地図を見に行った。
航路を示した物らしい。島が7つ描いてあり、それぞれの島を破線が繋いでいる。
(さっきの島が、ここか)
島の南端に航路が接しているのは、中央に描かれた島だけだった。なるほど、双子が言っていた通り瓢箪のような形をしていた。
(向かっているのは・・どっちだ?)
航路を示しているのだろう破線が何本か交錯して分かりにくい。同じような距離に2つ島があったし、どちらも小さな島に囲まれている。
(まあ、船任せか)
シュンは自動販売機前で騒いでいるユア、ユナを横目に、船腹だろう部屋の外縁に置かれた長椅子に腰を下ろした。
(薬でも作ろう)
浜辺での大魔法連射で、MP回復薬の上級を12本消費した。補充しておいた方が良いだろう。
ダークグリフォンの知識を得てから、シュンにとっては調合が娯楽の一つになっていた。素材は様々な物で代用できる。調合方法は何通りもある。おまけに、作成した薬をポイポイ・ステッキで収納すれば、丁度いい容器に収まっている。これは、ポイポイ・ステッキ(シュン)だけの特別な能力らしく、双子のポイポイ・ステッキでは容器などに入る事は無かった。なので、体液などの収納は、専らシュンの役回りである。
「"砕断"・・"乾燥"・・"粉砕"・・"浄化水混合"・・"溶解"・・"分離"・・"鎮静"・・"霊水混合"・・"高速撹拌"・・"鎮静"・・」
10の工程のために、10種類の魔法陣を出現させ、流れ作業で作り上げてはポイポイ・ステッキ(シュン)で収納する。
手に入りやすい牛鬼の霊歯を磨り潰した物、大鬼の胆嚢を乾燥させた物を使い、時間さえかければ作り出せる霊水を多く使用する。
性能を上げるコツは、高速撹拌が終わった直後に急速に鎮静化させる事だ。希少な素材を使わない代わりに、作業時間を短くしなければ回復値が落ちていく。なにより、作業場を水魔法による清浄領域で包んでいないと、不純物が混じって大幅に性能が落ちる。
シュンは、持ち前の集中力を発揮して次々に回復薬を作り出して収納していった。
「・・どうした?」
気がつくと、両隣にユアとユナが来ていた。
「探検終了」
「退屈になった」
「ついでだ。作りたてのMP回復薬を渡しておこう」
シュンは収納したばかりの回復薬を取り出して、それぞれに3本ずつ手渡した。
「前のより出来が良いと思う。霊水の精製に慣れてきた」
「ついに5万超え?」
「サヨナラ5万?」
「超えたと思うけど、使ってみないと分からないな」
手に入りやすい素材で作れるMP回復薬としては、今のところこれ以上の品は無理そうだ。ちなみに、5万というのは、双子が使うシャイニング・バーストカノンの消費MPだ。双子からは、10万ポイント回復するMP回復薬を作るよう頼まれている。
(ん? 向きを変えたか?)
船が大きく向きを変えたようだった。地図にある破線に沿って動いているのか、あるいは図に関係無く航行しているのか。
(また新しい魔物がいるかもしれないな)
カラミティ・ストライクが使える場所なら良いが、あれは閉所や天井がある場所では使えない。毒や酸を撒き散らすので近くに味方が居たら使い難い。何より、海のように大量の水が利用できないと発動させられない。
本来ならMP5万ポイントで発動できるような魔法では無い。水魔法で膨大な呪水を発生させる必要があるのだが、海水を利用する事でカラミティ・ストライクもどきとして発現させているだけだった。恐らく、本来のものより威力も低いはずだ。
水棲の魔物が相手では、シュンの水魔法は相性が良いとは言えないし、魔法を防御してくる相手には水渦弾の効果は薄い。今練習中の水で切断する技が形になれば、少しはマシになるのだが・・。
(水楯から撃ち出せる水渦弾は便利だけど、威力がもう少し欲しいな)
水渦弾は届く距離も短いし、MPを消費する割に威力が物足りない。即発動できる点とある程度広い範囲にばら撒けるのが利点だ。
(VSSより遠くを貫ける魔法を覚えたいな)
ユアとユナは、神聖魔術による防御と回復が主で、火・風・土を補助的に使える程度。攻撃に使える魔法は限られる。2人共に優れたEX技を持っているが、EXだけでは連戦が苦しくなる。
シュンのEX技は単体攻撃に特化していて、魔物の大群を追い払うような使い方は出来ない。
(俺の魔法は、水・・それと光と影)
光魔法、影魔法共に適性は高くない。どちらも、直接的な攻撃というよりは補助的なものばかりで、目眩ましであったり、視覚にズレを与えるような魔法だった。
(組み合わせを考えないとな)
「ボスっ!?」
「バチバチいってる!」
「え?」
左右から袖を引かれてシュンは我に返った。目の前に展開している10種類の創作魔法陣が異様な輝きを放って、小さな雷光のような物を放って回転していた。
「た、待避っ?」
「シェルター?」
ユアとユナが大急ぎでシュンの背中へ隠れる。
「いや・・嫌な感じはしない」
シュンはそのまま創作の魔法陣を見守った。
賑やかに明滅していた光が鎮まり、魔法陣の回転が止まる。
しん・・と静まった中、
パンパカパ~~ン♪ ヒューヒュードンドンドン♪
妙な楽器の音が鳴った。
「ふぁんふぁーれ?」
「おめでたい?」
シュンの背中に隠れていた双子が顔を覗かせた。
「なんだ、これ?」
シュンの目の前に、見慣れない小箱が落ちていた。白銀色の装飾が鮮やかな、見るからに豪奢な感じがする箱だ。手に取ってみると、木製らしいことが分かる。
「玉手箱?」
「ミミック?」
双子がシュンの背から半身を覗かせて何やら言っている。
開けてみると、絹の布が敷かれた中に、焦げ茶色の小さな塊が9つ並んで納められていた。
「ちょっ・・」
「チョコーー!?」
ユアとユナの絶叫が響き渡った。
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セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。
──これは、20年前の断罪劇の続き。
喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。
※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。
旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』
※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。
※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。
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ファンタジー
国名や主人公たちの名前も決まってないふわっとした世界観です。書きたいとこだけ書きました。一応、ざまぁものですが、厳しいざまぁではないです。誰も不幸にはなりませんのであしからず。本編は女主人公視点です。*前編+中編+後編の三話と、メモ書き+おまけ、で完結。*カクヨム様にも投稿してます。
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