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第1章

第58話 黒船

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「ボス、あと30分」

「日付変更」

 双子が騒音に負けじと声を上げる。槍のような魚が大量に飛来し続けて、リビング・ナイトの楯に衝突音を響かせ続けているのだ。

「撃って良いぞ!」

 シュンは水楯を展張しながら大魔法の使用許可を出した。
 途端、ユアとユナが歓声をあげて手を叩き合い、綺麗に揃った動きを見せて並び立つと、それぞれ半身に構えて右手を頭上へ掲げた。

「シャイニングゥーー」

「バーストカノン!!」

 並んで立った双子の頭上に、それぞれ黄金色の魔法陣が浮かび上がった。
 双子が助走を付けて走るなり、軽く跳び上がりながら海に向けて右手を振り下ろした。
 直後、それぞれの魔法陣から光り輝く大きな砲弾が撃ち出され、大海原めがけ閃光を残して飛翔して着弾する。一瞬の静寂の後、海が引き裂けたかのような爆発が起こった。
 すぐさま、双子がMP回復薬を一気飲みする。

「シャイニングゥーー」

「バーストカノン!!」

 再び、大海原が閃光と共に引き裂け、海底までが覗き見える。
 双子が次のMP回復薬を飲み干した。

「シャイニングゥーー」

「バーストカノン!!」

 三度目の災害が海面を撃ち貫き、爆発を巻き起こした。
 3本目のMP回復薬を空にして、双子がやりきった顔でリビング・ナイトの後ろへ戻って来る。

「ボス、ほかほかです」

「ボス、暖めておきました」

 双子が良い笑顔で言った。次はシュンの番だ。

「テンタクル・ウィップ」

 シュンは左手を頭上に向けて振りかぶって止める。黒い触手が夜空に溶け込むように生え伸びて拡がった。

「カラミティ・・」

 水が触手に巻き付くように出現し、太く大きく長く伸びていく。

「ストライク!」

 左手が前方の大海原めがけて振り下ろされ、海が12に引き裂けて海底に亀裂が走る。遅れて海水が大量に蒸発して立ち昇り、凄まじい強酸の刺激臭が押し寄せて来た。
 致死毒、麻痺毒、呪毒、そして強酸が海を灼いていた。
 衝撃で爆ぜ失せた海水が周囲から補充され押し寄せるが、沈殿した毒素が攪拌かくはんされて海の魔物達が次々に浮かび上がって海面を埋め尽くす。
 続けて、

「カラミティ・・ストライク!」

 2度目の災害が大海原を襲った。
 そして、

「カラミティ・・・ストライク!」

 無慈悲な一撃が海に死を撒き散らした。夜闇のお陰で海の様子がよく見えない事を感謝するべきだろう。

「ボス、食材が死滅」

「ボス、海が死ぬ」

 双子が楽しそうに囃し立てる。

「ボス、魚が来ない」

「ボス、漁師さんに謝るべき」

「なんだ、無限にポップしているんじゃ無かったのか?」

「ポップ即死亡」

「生まれてすぐ毒死」

「毒の効果は30分で消える。その後にポップする魔物が襲ってくるな」

 シュンは空を見上げた。
 夜空を無数の稲光が往来し、青紫の閃光で埋め尽くしていた。今度はジェルミーの大魔法だ。

 ジェルミーが姿を現し、右手を空へ向けている。
 その手がゆっくりと振り下ろされた。
 直後、夜空を瞬かせていた雷光が一斉に海上めがけて降り注いだ。

 見渡す限り・・そう言っても言い過ぎでは無いほどの広範囲を雷撃が埋め尽くし、海全体が雷撃を呑み込み発光していた。大きな爆発や衝撃は無いまま雷の渦が海上を、海中を荒れ狂った。

「これを」

 リーダーがMP回復薬をジェルミーに手渡す。
 再び、そして三度、海は雷撃に灼き払われた。

「リビング・ナイト」

 シュンは送還していた漆黒の重騎士を再召喚して護りにつかせる。息の合った流れ作業のように、"霧隠れ"がメンバー全員を包み、ユア、ユナが防御の魔法を2種類かけ直した。ジェルミーの魔法の余波でまだ夜の海全体が青紫に発光している。

「うははは、最高!」

「むははは、ビューティフォー!」

 ユアとユナがご機嫌だ。横で、シュンが懐中時計で時間を確認し、周囲へ警戒の眼を向けた。もうじき日付けが変わる。

「斃した魔物をいくつか海から引き揚げる」

 シュンはテンタクル・ウィップを海中へ伸ばした。
 さほど時がかからず、夜闇に揺らぐ海面を盛り上げて大きなものが引きずり揚げられる。例によって、働き者のリビング・ナイトが引っ張り、小山どころか、島かと見紛う巨大なものがゆっくりと砂浜へ上がって来る。

「大きさの割に軽いな」

 リーダーが呟いていた。

「伊勢海老?」

「ザリガニ?」

 甲殻に海藻や貝らしき物が着き、蟹の死骸が引っかかっている。まだ頭部しか海上に出ていないが、全長は300メートル近いだろう。

「引きずり揚げる場所に困るな。一旦、このまま収納しておくか」

 シュンが言って、収納の魔道具ポイポイ・ステッキで消し去った。

「もう一つ・・」

 続いて海面に現れたのは、水棲だろう姿の巨人だった。老人のような禿頭、目は4つ。口元から蛸の触腕を想わせる無数の触手が生えていた。異様に長い首から下は撫で肩の人間の上半身、両顎の脇には鰓らしい裂け目が見える。

「ボス、動いた」

「ボス、ウネウネ」

 双子が巨老人の触腕らしきものが動いたと騒ぎ出し、

「サウザンド・フィアー」

 シュンがEX技を使用した。巨大な蚊が怪人の頭部に降りて来て口器を突き刺した。9999という非常識なダメージ数字が延々と出続け、不意に表示されなくなった。虫の息だったところで、ついに絶命したのだろう。

「これも一旦収納だな」

 怪巨人が消え去る。

「金属・・木もあるな」

 シュンがぶつぶつ言いつつ、黒い触手で海中を探っている。一体、どこまで伸びているのか? 前に訊いた時は100メートル程度だと教えられたが、到底、そんな長さでは無いだろう。

「ボス、なんで届くの?」

「ボス、何処から引っ張ってる?」

 双子が興味津々夜の海に眼を凝らしている。

「テンタクル・ウィップを水魔法で延伸している。水が豊富な海だから出来る事だな」

 シュンの水魔法とテンタクル・ウィップの融合魔法と言った感じだ。シュンが覚えている水魔法は防御や幻惑、治療など、攻撃に向いたものは少ない。銃以外はテンタクル・ウィップに頼っている。

「見えた」

「また大きい」

 双子が背伸びしながら言う。
 遮る物の無い浜辺なので、背伸びをする意味は無い気がしたが・・。

「船っ!」

「海賊船っ!」

 ユアとユナがきゃーきゃーと賑やかに騒ぎ始めた。

「ほとんど傷んでいない?・・海中に沈んでいたのに?」

 シュンは首を捻った。

 かなり大型の帆船だった。
 いや、帆船のような形をしているのに、マストは見当たらない。折れているわけでも無さそうだ。暗くて見えにくいが、黒い人型の船首像が船首に付いているようだった。

「座礁しない?」

「底擦らない?」

 急深の浜辺では無い。せいぜいが5メートルちょっとの深さがしばらく続く遠浅の海だ。大型の船が傾かずに浮かぶほどの深さは無いはずだが・・。

「座礁どころか、この船・・勝手に海水を外に出しているぞ」

 シュンが呟いた。

「まさかのエンジン付き?」

「動力は何?」

 双子が接岸を待ちきれず右へ左へちょろちょろ走っている。

「動かなくなったな」

 シュンは首を傾げた。
 船は、浜辺から50メートルほど沖で浮かんだままである。

「あ・・」

「あ・・」

 双子が指さした。
 船首近くにあった錨が重たげな鎖音を鳴らしながら海中へと落ちて行った。

「勝手に投錨したぞ?」

 シュンは眉根を寄せた。
 どう見ても、船が勝手に動いている。船上には人影は無いのに・・。

「行ってみようか」

 シュンが提案し、双子が即座に同意した。
 双子は黒い小翼で、シュンはリビング・ナイトに乗って、海上に浮かんだ船へと乗り込んだ。
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