上 下
19 / 316
第1章

第19話 小金持ち

しおりを挟む
 巨鳥の羽根は、1枚が10デギン。聖印銀貨10枚になった。双子は合わせて聖印銀貨50枚の収入である。
 シュンは、8枚持ち帰ったから、80デギン。聖印銀貨80枚だ。

「ふおぉぉぉぉ・・」

「おほぉぉぉぉ・・」

 双子が奇怪な声を漏らして、聖印銀貨を握り締めている。

「まだ買い取れるか?」

 シュンは素材屋の老人に訊いた。

「おうよ。あの羽根は外でいくらでも売れる。あるだけ持って来てくれて構わねぇ」

 素材屋の老人が破顔した。

「行くぞ」

 シュンは素材屋から綱と背負子を借りて、双子に声を掛けた。

「がってん!」

「アイサー」

 双子がいそいそと後ろについてくる。


 結局、5往復したところで夕闇が迫って来て、それ以上は断念した。双子も頑張った。最初3枚と2枚しか持ってなかった羽根を、それぞれが5枚ずつ抱える頑張りようだった。
 シュンは、背負子に15枚を結びつけて背負い、左肩に10枚を担いだ。

「疲れたろう?」

 シュンは双子に声を掛けた。

「やりきった」

「悔い無し」

 どっちがユアでユナなのか分からないが、とにかく2人が全力だったのは間違い無い。何しろ、2人合わせて、聖印銀貨500枚の収入を得たのだ。

「あれ、珍しい組み合わせだね?」

 宿の女主人が食堂に入ってきた。

「ああ、ちょっと狩り場で・・」

「弟子入りした」

「お仕えする」

 ぐったりと机に突っ伏しているくせに口だけは回っている。

「あはは・・もう食事にするかい?」

 女主人が笑いながら、先にお茶を出してくれた。

「まだ居るのかい?」

「明日には迷宮に行くよ」

 シュンはお茶を手に言った。途端、双子が身を起こした。大きな黒い瞳をきらきらと輝かせながらシュンに詰め寄ってくる。

「御館様っ!」

「御大将っ!」

「・・なに?」

 シュンはそっと視線を逸らした。今日の夕食は何だろうか。ちらと宿の女主人を見る。

「一度行って翌日には戻るかも知れない。宿の予約をお願い」

「分かったよ。どうせ、がらがらだからね」

 女主人が笑いながら厨房へと入っていく。

「助けて欲しい」

「見捨て無いで欲しい」

「どうして、他の異邦人と一緒に行かなかったんだ?」

「肉の楯にされる」

「肉の壁にされる」

 双子が物騒なことを言い始める。しかし、そういう手もあるのか?

「・・考えすぎだろう」

「今の間は?」

「少し考えた?」

「俺が訊くことに総て正直に答えるつもりはあるか?」

 シュンは2人の顔を見た。

「赤裸々上等」

「全ゲロ約束」

「・・・今の最大HPとMP、SPは?」

「上から、23・609・603」

「上から、23・609・603」

 双子が並んで答えた。
 野兎に蹴られたら死ぬだろうHPの少なさだ。MPは多い。SPはまあ・・駄目かな。

「EXは訊かない?」

「EXもあるよ?」

「それが何か、俺は知らないんだ」

 シュンは苦笑した。

「異邦人だけ?」

「ニホン人だけ?」

「いや、俺もあるみたいだけど・・これって、何なんだ?」

「特別な力」

「起死回生」

「魔法なのか?」

 そもそも、どうやって使うのだろう?

「ユアは聖なる楯」

「ユナは聖なる剣」

「楯?」

「使うと光る楯が出て護ってくれる」

「使うと光る剣が出て斬ってくれる」

「・・ふむ?」

「しかも、全回復」

「しかも、広範囲」

「ふむ?」

 まるで理解が追いつかない。

「10分に1回」

「10分に1回」

「・・なんか凄いんだな」

 シュンのEXは、30分に1回だ。

「どうやって使うんだ?」

「ここでは危険」

「迷惑千万」

 双子が口の前に人差し指を立てる。

「使い方だけ教えて欲しい」

「技の名前を念じる」

「技の名前を叫ぶのもアリ」

「技の名前はどうすれば分かるんだ?」

「ここの、EXを指でオス」

「説明が出る」

 双子が手の甲にある表示を指さした。

 新情報である。
 言われなければ、そんなことは思い付かなかった。

「これを指で・・」

 シュンが自分の左手甲に浮かんだEXの文字に触れると、くるりと文字が回転して消え、代わりに『ハンドレッド・フィアー』の文字が出た。

「ハンドレ・・」

 呟きかけたシュンの口を、双子が飛びつくようにして手で押さえた。

「要注意っ!」

「殺人未遂っ!」

 双子の顔が青ざめている。

「ごめん」

 シュンは謝った。念じたり、叫んだり・・で、使う技なら、呟くのも危ないのかもしれない。先ほど、双子は技名を口にしていた気がするが・・。

「とにかく、これで・・俺は30分に1回、特別な力が使用できるのか」

「赤飯炊く」

「だるま開眼」

 双子が祝福めいたことを言ったが、シュンには意味が全く分からなかった。

「しかし、2人ともHPが少ないから怖いな」

「不意討ち危険」

「即死確定」

「不意討ちじゃなければ大丈夫なのか?」

 どうであれ、何かの攻撃が触れたら終わりそうだが・・。

「EX連打」

「EX頼み」

「・・・駄目じゃ無いか」

 10分に一度の技に頼ってどうするのか。

「見捨てちゃイヤ」

「靴だって舐める」

「魔物を爆発させてただろ?」

 シュンは平原で双子がやったらしい爆発の光景を思い出して言った。

「あれは危険」

「自分が危険」

「どんな技・・武器か?」

「XM84」

「MK3A2」

「なんだ、それ?」

「手榴弾」

「ドカン!」

「ああ、そういうのを手榴弾というのか」

「しばらく眼が見えない。耳が遠くなる」

「半径2メートルは衝撃死」

「・・凄いな」

「自分も危険」

「とても危険」

「いや・・それは使い方だろう」

 シュンは愁眉を開く思いで双子を見ていた。非常に有効な武器を持っている。

(これ・・神様、これを見越して、この魔法陣をくれたのか)

 シュンは、右手首の内側に並べた魔法陣へ眼を向けた。眼を護る"護目の神鏡" 耳を護る"護耳の神珠"の2つは、正しく双子が選んだ爆弾のための防護魔法だった。

「俺がリーダーで良いなら、パーティを組もう」

 シュンは双子との連携を考えながら言った。

「親分素敵っ!」

「親分最高っ!」

 双子が握った拳を突き上げた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私が公爵の本当の娘ではないことを知った婚約者は、騙されたと激怒し婚約破棄を告げました。

Mayoi
恋愛
ウェスリーは婚約者のオリビアの出自を調べ、公爵の実の娘ではないことを知った。 そのようなことは婚約前に伝えられておらず、騙されたと激怒しオリビアに婚約破棄を告げた。 二人の婚約は大公が認めたものであり、一方的に非難し婚約破棄したウェスリーが無事でいられるはずがない。 自分の正しさを信じて疑わないウェスリーは自滅の道を歩む。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

夫から国外追放を言い渡されました

杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。 どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。 抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。 そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

処理中です...