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第二章
第162話 マーニャの報告
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『上手くやったわね!』
2頭身の"マーニャ"の頭上に吹き出しが浮かんだ。
(すみません)
レンは、視界の"マーニャ"に向かって頭を下げた。
"マーニャ"が医療用の寝台に横たわっていた。包帯を大袈裟に巻いた手足を補助具に吊られ、点滴らしきものを受けている。
無論、実体を持たない"マーニャ"が、それらしく創作した姿だったが……。
『あれは仕方がないわ。でも、よく私が判別できたわね? どうやったの?』
"白"だと識別をして送られてきた暗号文は、ゼインダに改ざんされた偽の暗号文だったのだ。
(勘です)
レンは、視覚で捉えたものを撃っただけだ。最初から識別を諦めていた。
0.4秒という時間内に、3つの対象から2つを選んで撃つこと自体は難しくない。だが、赤や青、白などという色による識別は危うい。置かれた環境で色は変化をする。"ゼインダ"や"魔王ルテン"でも色を変えるくらいできるだろう。
だから、捉えた対象全てを撃った。動いているもの、止まっているもの、構わずに全てを狙って全方位射撃を行った。
レンも、待ち構えていたらしい相手側の攻撃を浴びている。
結果、レンは相手の攻撃に耐え、"ゼインダ"と"魔王ルテン"は、かなりのダメージを負ったはずだ。
"マーニャ"が軽傷で済んだのは、ぎりぎりでレンが狙いを逸らしたからだ。"マーニャ"は大袈裟な包帯姿で、うんうん唸っているようだが……。
(……たぶん、仕留めきれなかったですよね?)
認識できた"存在"のど真ん中を撃ち抜いたはずだが、相手が消滅した感じはしなかった。
『そうね。でも、決定的な一撃だったわ!』
"マーニャ"が、いつものビジネススーツに白衣を羽織った姿で浮かび上がった。
(……大丈夫そうですね)
『ちょっと掠めただけだから』
"マーニャ"が笑みを浮かべる。
(魔王ルテンの行き先は分かりますか? 今から転移をして追撃すれば……)
『"ゼインダ"と融合して消滅を免れたようね。こちらとは断絶した空間へ逃げ込んじゃったわ』
(ゼインダと魔王ルテンが?)
『まあ、細々としたところは省いて、ざっくりと説明するわ!』
"マーニャ"がホワイトボードらしきものを出現させ、指し棒を握った。
①創造装置に"マーニャ"が作った自壊プログラムを仕込む。
②世界改変の基礎情報に、キララから預かった仮想世界の"理"を押し込む。
③世界改変のために歪みを生じた空間が破綻しないように保護する。
④"ゼインダ"によって重力を改変されかけていた地球を元の状態に戻す。
『①と②が終わったところで、私の介入に気が付いた"ルテン"が攻撃をしてきたの。相手をしている時間が無かったから……そのまま、③と④をやっているところに"ゼインダ"が参戦してきたのよ』
白板に書かれた"ゼインダ"と"ルテン"の文字を、"マーニャが"手にした指し棒でビシビシと叩く。
(大丈夫なんですか?)
『マイチャイルドに撃たれる前に、もう傷だらけだったのよ。特に、ゼインダの奴が厄介だったわ……まあ、それでも①から④まで、ミッションコンプリートしたわ!』
"マーニャ"が拳を握って突き上げた。
(そうなると……どうなるんです?)
『とりあえず、いきなり地球環境が激変することは無いわね。装置を自壊させたから、もう世界改変を行うことができないわ』
(魔王ルテンが、創造装置のコピーを隠し持っているかも?)
『元々壊れた装置よ。あれの複製があっても意味は無いわ。今回の改変騒動も、"ゼインダ"の保有するエネルギーを利用しなければ実現不可能だったのよ』
(そのゼインダと魔王ルテンが融合した?)
『マイチャイルドに撃たれて消滅しかかった者同士がひっついて存在格を保ったのね。能力を大幅に減損した上に、異物同士が融合したから、まともな状態ではいられないわね』
(創造装置は、どうなったんでしょう?)
『世界改変を完了後か、あるいは途中でエネルギーが尽きて崩壊するわ』
(世界改変……どんなことが起こるんでしょうか?)
『分からないわ。君のお友達が提供してくれた仮想世界の"仕様書"を押し込んだ時点で、"ルテン"の世界創造がかなり進行していたからね』
2頭身のマーニャが腕組みをして首を傾げる。
(キララさんの仮想世界と混ざったから……魔王ルテンにも、どうなるか分からないんですね)
『これから明らかになるでしょう。大枠の地球環境は保護したから、後は……』
不意に、"マーニャ"の頭上に浮かんだ吹き出しが消えた。
(どうかしましたか?)
『掛かったわ!』
(えっ?)
『"鏡"に設置したホイホイよ!』
(……ああ! まさか、魔王ルテンが?)
『違うわ。ゾーンダルク側から地球へ侵入しようとした何かよ!』
(他にも魔王が残っていました?)
『ルテンで最後のはずなのだけど……隠していた分体でも喚んだのかしらね?』
"マーニャ"が首を捻る。
(どこの"鏡"ですか?)
『ポトシにある"鏡"ね』
(ポトシ?)
レンの疑問に応じて、補助脳が情報を表示する。
(南米……ボリビアの町)
レンは表示された静止画像を見て顔をしかめた。
荒涼として見える褐色の大地の上に、赤黒い色をした巨大なヒトデが鎮座していた。近くに軍用の車両が写っている。
("鏡"は?)
『これの中みたい』
補助脳の代わりに、2頭身の"マーニャ"が答えた。手にした指し棒で、静止画を指し示す。
(これ……って)
棒の先は、ヒトデを指していた。
(ヒトデが"鏡"を呑み込んじゃったんですか?)
『どうなっているのかは分からないわ。ただ、"鏡"はヒトデの中央部分に存在しています』
"マーニャ"が断言するのだ。間違いないのだろう。
(大氾濫は、ヒトデの中で起きているんでしょうか?)
大量に発生するモンスターはどうなっているのだろう。
『別空間かしら? 物理的に封鎖しているわけではなさそうよ』
(別空間? それが可能なら……)
『でも、これはナンシーが動くわね』
(ナンシーさんが?)
『大氾濫のモンスターが、地球とは別の場所に移動させられるのよ? あの"理"の守護者が動かないはずがないわ』
(でも、地球側には手を出さないと言っていました)
『ナンシー自身は越界できないようだけれど……使徒? あれがいるじゃない?』
(ああ……いますね)
レンは顔をしかめた。
ナンシーとは違って、まったく話が通じない存在だ。レンは、あの"使徒ちゃん"が苦手だった。
(あれ? もしかして……)
『どうしたの?』
(ホイホイに掛かったの、"使徒ちゃん"なんじゃありませんか?)
『使徒? "鏡"の罠についてはナンシーに伝えてあるわよ?』
ナンシーの使者が罠の存在を知らないはずがない。
(でも、"使徒ちゃん"のような気がします)
『そうなの? マイチャイルドが言うなら、そうなのかしら? ちょっと理解できないのだけれど……見てくるわね』
そう言うと、"マーニャ"が視界から消えた。
(絶対、"使徒ちゃん"だ。あいつ、人の話聞かないから)
レンは口元に笑みを浮かべつつ、人の気配を感じて目を向けた。
「レンさん」
昇降機の前で、ユキが小さく手を振っている。
「マーニャさんと話をしてたんだ」
「そうだろうと思いました。体……大丈夫ですか?」
ユキが戦闘服姿のレンの全身を見回す。
「うん、直撃はしなかったから……」
「かなり変色していました」
「機人が?」
「はい。赤黒くなっていました」
ユキが昇降機の操作ボタンを押して扉を閉じる。
「どういう攻撃だったのか、よく分からないんだ。もう……本当に一瞬だったから」
刹那の撃ち合いだった。ただ、ほんの少しだけ相手より速く、相手より正確に撃つことができた。
「どんな敵でした?」
「それが……それもよく分からなかった」
"マーニャ"の説明では、空間に干渉をして、0.4秒間だけレンが敵の存在を知覚できるようにしたのだという。非常に疲れるため、何度もできる芸当では無いそうだが……。
「転移先で、0.4秒以内に敵を撃てというオーダーだった」
レンは"マーニャ"から暗号で伝えられた内容や、"マーニャ"が説明してくれた①~④のミッションについて話して聞かせた。
「後は、人の手で何とかできそうですね」
ユキが呟く。
「魔王とキララさんの新世界がどんなのか……それ次第かなぁ」
レンが苦笑した時、昇降機が1階に到着して扉が開いた。
「おかえり!」
「おかえりなさい」
アイミッタとミルゼッタが笑顔で出迎えてくれた。
======
マーニャ&レンが頑張った!
G-ホイホイに、何かが掛かった!
2頭身の"マーニャ"の頭上に吹き出しが浮かんだ。
(すみません)
レンは、視界の"マーニャ"に向かって頭を下げた。
"マーニャ"が医療用の寝台に横たわっていた。包帯を大袈裟に巻いた手足を補助具に吊られ、点滴らしきものを受けている。
無論、実体を持たない"マーニャ"が、それらしく創作した姿だったが……。
『あれは仕方がないわ。でも、よく私が判別できたわね? どうやったの?』
"白"だと識別をして送られてきた暗号文は、ゼインダに改ざんされた偽の暗号文だったのだ。
(勘です)
レンは、視覚で捉えたものを撃っただけだ。最初から識別を諦めていた。
0.4秒という時間内に、3つの対象から2つを選んで撃つこと自体は難しくない。だが、赤や青、白などという色による識別は危うい。置かれた環境で色は変化をする。"ゼインダ"や"魔王ルテン"でも色を変えるくらいできるだろう。
だから、捉えた対象全てを撃った。動いているもの、止まっているもの、構わずに全てを狙って全方位射撃を行った。
レンも、待ち構えていたらしい相手側の攻撃を浴びている。
結果、レンは相手の攻撃に耐え、"ゼインダ"と"魔王ルテン"は、かなりのダメージを負ったはずだ。
"マーニャ"が軽傷で済んだのは、ぎりぎりでレンが狙いを逸らしたからだ。"マーニャ"は大袈裟な包帯姿で、うんうん唸っているようだが……。
(……たぶん、仕留めきれなかったですよね?)
認識できた"存在"のど真ん中を撃ち抜いたはずだが、相手が消滅した感じはしなかった。
『そうね。でも、決定的な一撃だったわ!』
"マーニャ"が、いつものビジネススーツに白衣を羽織った姿で浮かび上がった。
(……大丈夫そうですね)
『ちょっと掠めただけだから』
"マーニャ"が笑みを浮かべる。
(魔王ルテンの行き先は分かりますか? 今から転移をして追撃すれば……)
『"ゼインダ"と融合して消滅を免れたようね。こちらとは断絶した空間へ逃げ込んじゃったわ』
(ゼインダと魔王ルテンが?)
『まあ、細々としたところは省いて、ざっくりと説明するわ!』
"マーニャ"がホワイトボードらしきものを出現させ、指し棒を握った。
①創造装置に"マーニャ"が作った自壊プログラムを仕込む。
②世界改変の基礎情報に、キララから預かった仮想世界の"理"を押し込む。
③世界改変のために歪みを生じた空間が破綻しないように保護する。
④"ゼインダ"によって重力を改変されかけていた地球を元の状態に戻す。
『①と②が終わったところで、私の介入に気が付いた"ルテン"が攻撃をしてきたの。相手をしている時間が無かったから……そのまま、③と④をやっているところに"ゼインダ"が参戦してきたのよ』
白板に書かれた"ゼインダ"と"ルテン"の文字を、"マーニャが"手にした指し棒でビシビシと叩く。
(大丈夫なんですか?)
『マイチャイルドに撃たれる前に、もう傷だらけだったのよ。特に、ゼインダの奴が厄介だったわ……まあ、それでも①から④まで、ミッションコンプリートしたわ!』
"マーニャ"が拳を握って突き上げた。
(そうなると……どうなるんです?)
『とりあえず、いきなり地球環境が激変することは無いわね。装置を自壊させたから、もう世界改変を行うことができないわ』
(魔王ルテンが、創造装置のコピーを隠し持っているかも?)
『元々壊れた装置よ。あれの複製があっても意味は無いわ。今回の改変騒動も、"ゼインダ"の保有するエネルギーを利用しなければ実現不可能だったのよ』
(そのゼインダと魔王ルテンが融合した?)
『マイチャイルドに撃たれて消滅しかかった者同士がひっついて存在格を保ったのね。能力を大幅に減損した上に、異物同士が融合したから、まともな状態ではいられないわね』
(創造装置は、どうなったんでしょう?)
『世界改変を完了後か、あるいは途中でエネルギーが尽きて崩壊するわ』
(世界改変……どんなことが起こるんでしょうか?)
『分からないわ。君のお友達が提供してくれた仮想世界の"仕様書"を押し込んだ時点で、"ルテン"の世界創造がかなり進行していたからね』
2頭身のマーニャが腕組みをして首を傾げる。
(キララさんの仮想世界と混ざったから……魔王ルテンにも、どうなるか分からないんですね)
『これから明らかになるでしょう。大枠の地球環境は保護したから、後は……』
不意に、"マーニャ"の頭上に浮かんだ吹き出しが消えた。
(どうかしましたか?)
『掛かったわ!』
(えっ?)
『"鏡"に設置したホイホイよ!』
(……ああ! まさか、魔王ルテンが?)
『違うわ。ゾーンダルク側から地球へ侵入しようとした何かよ!』
(他にも魔王が残っていました?)
『ルテンで最後のはずなのだけど……隠していた分体でも喚んだのかしらね?』
"マーニャ"が首を捻る。
(どこの"鏡"ですか?)
『ポトシにある"鏡"ね』
(ポトシ?)
レンの疑問に応じて、補助脳が情報を表示する。
(南米……ボリビアの町)
レンは表示された静止画像を見て顔をしかめた。
荒涼として見える褐色の大地の上に、赤黒い色をした巨大なヒトデが鎮座していた。近くに軍用の車両が写っている。
("鏡"は?)
『これの中みたい』
補助脳の代わりに、2頭身の"マーニャ"が答えた。手にした指し棒で、静止画を指し示す。
(これ……って)
棒の先は、ヒトデを指していた。
(ヒトデが"鏡"を呑み込んじゃったんですか?)
『どうなっているのかは分からないわ。ただ、"鏡"はヒトデの中央部分に存在しています』
"マーニャ"が断言するのだ。間違いないのだろう。
(大氾濫は、ヒトデの中で起きているんでしょうか?)
大量に発生するモンスターはどうなっているのだろう。
『別空間かしら? 物理的に封鎖しているわけではなさそうよ』
(別空間? それが可能なら……)
『でも、これはナンシーが動くわね』
(ナンシーさんが?)
『大氾濫のモンスターが、地球とは別の場所に移動させられるのよ? あの"理"の守護者が動かないはずがないわ』
(でも、地球側には手を出さないと言っていました)
『ナンシー自身は越界できないようだけれど……使徒? あれがいるじゃない?』
(ああ……いますね)
レンは顔をしかめた。
ナンシーとは違って、まったく話が通じない存在だ。レンは、あの"使徒ちゃん"が苦手だった。
(あれ? もしかして……)
『どうしたの?』
(ホイホイに掛かったの、"使徒ちゃん"なんじゃありませんか?)
『使徒? "鏡"の罠についてはナンシーに伝えてあるわよ?』
ナンシーの使者が罠の存在を知らないはずがない。
(でも、"使徒ちゃん"のような気がします)
『そうなの? マイチャイルドが言うなら、そうなのかしら? ちょっと理解できないのだけれど……見てくるわね』
そう言うと、"マーニャ"が視界から消えた。
(絶対、"使徒ちゃん"だ。あいつ、人の話聞かないから)
レンは口元に笑みを浮かべつつ、人の気配を感じて目を向けた。
「レンさん」
昇降機の前で、ユキが小さく手を振っている。
「マーニャさんと話をしてたんだ」
「そうだろうと思いました。体……大丈夫ですか?」
ユキが戦闘服姿のレンの全身を見回す。
「うん、直撃はしなかったから……」
「かなり変色していました」
「機人が?」
「はい。赤黒くなっていました」
ユキが昇降機の操作ボタンを押して扉を閉じる。
「どういう攻撃だったのか、よく分からないんだ。もう……本当に一瞬だったから」
刹那の撃ち合いだった。ただ、ほんの少しだけ相手より速く、相手より正確に撃つことができた。
「どんな敵でした?」
「それが……それもよく分からなかった」
"マーニャ"の説明では、空間に干渉をして、0.4秒間だけレンが敵の存在を知覚できるようにしたのだという。非常に疲れるため、何度もできる芸当では無いそうだが……。
「転移先で、0.4秒以内に敵を撃てというオーダーだった」
レンは"マーニャ"から暗号で伝えられた内容や、"マーニャ"が説明してくれた①~④のミッションについて話して聞かせた。
「後は、人の手で何とかできそうですね」
ユキが呟く。
「魔王とキララさんの新世界がどんなのか……それ次第かなぁ」
レンが苦笑した時、昇降機が1階に到着して扉が開いた。
「おかえり!」
「おかえりなさい」
アイミッタとミルゼッタが笑顔で出迎えてくれた。
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マーニャ&レンが頑張った!
G-ホイホイに、何かが掛かった!
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