カオスネイバー(s)

ひるのあかり

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第二章

第100話 再開

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「思ったより重いわ」
 
 キララが溜息を吐いた。
 試作した箱形の通信装置を背負っている。船に積んでいる魔導式の通信装置を小型化したものだが、それでも7キロ弱の重量があった。
 
「こんなの背負ってたら走れないよぉ」
 
 マイマイも同じ物を背負っていた。
 ケインやユキ、レンも試作通信装置を背負っている。島外でのテストを行っている最中だったが、通信性能を試す前に重量が問題になっている。
 
『熱源が出現しました』
 
 補助脳のメッセージが視界に浮かんだ。
 視界右上に表示されている周辺図に、赤い光点が次々に点っていく。それまで何も居なかったはずの場所に、生き物が出現したらしい。

(……60匹か)

 探知と同時に、"赤色"が点灯したということは、過去に敵対種として遭遇したモンスターだということだ。
 
「モンスターです」
 
 レンは、首に掛けているネックバンド型のマイクに向かって囁いた。
 
「私にはまだ……」
 
 隣にいるユキがレンを見る。ユキの【アラート】では捕捉できない距離だった。
 
「この方向……約3キロ先で扇状に展開中」
 
 レンは、右手前方を指差した。
 
「3キロ……」
 
 ユキがレンの指し示す方向に眼を凝らす。
 だが、高さが3メートル前後の木々が生い茂っていて見通すことはできなかった。
 
(あれがゴブリンの小隊なら……)
 
 レンは、対物狙撃銃を取り出しながら、上空に意識を向けた。
 
 
 - 9,902m
 
 
『未確認飛行物体が接近中』
 
 補助脳のメッセージと共に、視界上空に黄色の △ が表示された。同時に小枠が開いて、対象が拡大表示される。
 
「上空に飛行型のモンスターです」
 
 レンは、喉元のマイクに向かって囁いた。
 
 ややって、微かにノイズが入り……。
 
『レポートにあったトンボ型?』
 
 キララの声が耳元で聞こえた。
 
「いえ、初めて見るモンスターです」
 
 未だ補助脳が対象を識別できていない。
 
『船に戻るか?』
 
 ケインが訊ねてくる。
 
「アイミル号の係留方向にはモンスターがいませんが……連絡だけは入れておいて下さい」
 
 レンは、地面に置いた戦闘背嚢の上に対物狙撃銃を乗せた。地面に腰を下ろし、銃に角度を付ける。
 
『外形を表示します』

 補助脳のメッセージと共に、捕捉した対象の描画が始まった。
 トンボではなく、ハチに似通っていた。ファゼルダの飛空兵より小柄で、脚部が長いように感じる。
 
 
 - 9,005m
 
 
(移動速度は遅いな。まだこちらを見つけていないのか?)
 
 レンは、視界右上のマップを確かめた。散開したモンスターの光点が、そのまま動いていない。
 
(連携していない?)
 
 試練の時は、飛行型のモンスターから位置情報を受けたゴブリン達が迫撃を行ってきたのだが……。
 
(武装は分からないな)
 
 似たような機銃を持っていると考えるべきだろう。
 
「レンさん?」
 
「ハチだ。全長1メートルほど……前のスズメバチとは少し違う」
 
 レンは、"ハチ"を対物狙撃銃の照準器に捉えた。ここで時間を掛けるわけにはいかない。
 
「撃ちます」
 
 伝えながら、レンは引き金に触れた人差し指をじわりと絞っていった。
 
 
 ダァーーン!
 
 
 射撃音と同時に、視界下部に見えているオーバーヒートゲージが赤くなって伸びる。
 
『命中確認』
 
(……普通に撃っても良かったけど)
 
 通常射撃で初弾を弾かれると、狙撃の優位性を失ってしまう。
 頭部が内側から爆ぜた"ハチ"が落ちていく。どうやら、一発で仕留めることができたらしい。


 ポーン……


 久しぶりに聞く電子音だった。

(あれ? 邪魔だから、鳴らないようにしたんじゃなかった?)

『設定がリセットされたようです』

 改変の際、音が鳴るように修正されてしまったらしい。
 レンの眼の前に銀色に光る大きな文字が浮かび上がった。


******

 バンディット [ スカウト・ワスプ ] を討伐しました!

******


(バンディット?)

 微かに首を傾げたレンの前で、銀色の文字が花火が散るように消えていき、続いて獲得ポイントが浮かび上がった。


******

 討伐ポイント:5
 異能ポイント:1
 技能ポイント:1
 採取ポイント:2

******


 [ワスプの顎 :2]


(やけに少ないな)

 取得アイテムの表示と共に、どこからともなく小さなカードが浮かび上がり、エーテル・バンク・カードに吸い込まれていった。
 久しぶりに見る討伐表示に、ケイン達が歓声をあげているが……。

(この表示、カットできる?)

 戦闘中は、視界を邪魔されて煩わしいだけだった。

『設定します』
 
「今の銃声で、モンスターが動き始めました」
 
 レンは、喉元のマイクに向かって囁いた。 
 周辺マップ上の光点が右往左往している。いくつかは、レン達に向かって移動し始めたようだった。
 
 
 ピピピピピピピ……
 
 
 警報音が鳴った。しかし、避難誘導線は表示されない。
 
『迫撃砲弾……3』
 
「モンスターが迫撃砲を撃ちました。3発です」
 
『えぇっ! ど、どこぉ~!?』
 
『こっちが見えているの?』
 
「そのまま動かないで。命中弾はありません」
 
 レンは、上空へ視線を巡らせた。
 当てずっぽうに撃っただけだ。迫撃砲弾は、レン達から見て左方に大きく逸れて飛んでいく。
 
『ゴブリンガンナーが使用していた迫撃砲と同型です』
 
(ゴブリンか。ここ、"始まりの島"じゃないな?)
 
 初渡界の場所に、銃を持ったモンスターがぞろぞろ出てくるとは思えない。"始まりの島"とは別の新しく生成された島なのだろう。
 
『不明です』
 
 補助脳が答える。
 
「撃っているのは、ゴブリンタイプ。こちらの位置が分からずに適当に撃っています」
 
 レンは、喉元のマイクに囁いた。
 小さな声でも明瞭に聞こえるらしく、
 
『どうしたらいい? こっちに飛んで来るんじゃない?』
 
 キララが訊ねてくる。
 
「あの迫撃砲弾では、フェザーコートは撃ち抜けません。直撃しても大丈夫です」
 
『そうなんだぁ』
 
 マイマイの安堵する声が聞こえる。
 
「僕とユキが先行。ケインさん達は後ろをついてきて下さい。回避が必要な時は指示します」
 
 そう言って、レンはユキを見た。
 
「了解です」
 
 ユキがHK417を手に頷く。
 
『索敵範囲のモンスター数に変化なし』
 
 それぞれの光点に番号が振られた。
 
(41番から狙う。距離2000、狙撃地点に誘導して)
 
『推奨地点が7カ所あります』
 
(……3番、7番にする)
 
『地点3へ誘導します』
 
 レンの視界に、青い破線が浮かび上がった。狙撃地点へ誘導する線である。
 
「狙撃地点へ移動します」
 
 小声で囁いてから、レンは小走りに移動を開始した。すぐ後ろをユキが、そしてケイン達が追って来る。
 
 レン達が探索しているのは、空中の浮遊地ではなく、海上に大きく隆起した島だった。
 上空から確認した島の表面積は、600平方キロメートルほど。楕円形をした島で、中央には山頂が雪に覆われた山が聳えている。
 "神の大地"の他に陸地が存在しなかった世界に、新たに生成された陸地らしい。
 レン達は、"始まりの島"である可能性を念頭に置いて、島の探索を行っていた。
 同時に、改変後の身体能力やスキルの効果などを確認しつつ、土や植物の採取を行っている。
 
『あぁ……なんか、もう駄目っぽいぃ~』
 
 マイマイの嘆き声が聞こえてきた。
 ほぼ同時に、ネックバンドから雑音が聞こえ始め、やがて静かになった。
 
(魔力が切れた?)
 
 背負っている箱の中に、充電池のように魔力を貯めておく物がある。どうやら、駆動するための魔力が尽きてしまったようだ。
 こうなると、ただの重たい箱である。
 
 レンは狙撃地点への移動を止めて、全員が追いついてくるまで待った。
 
「魔力が無くなったわ」
 
「31分かぁ」
 
 キララとマイマイが近づいて来た。
 
「ミルゼッタ達のように魔力を使えたらいいんだがな」
 
 ケインがぼやきながら、背負っていた魔導式通信装置を地面に下ろした。
 
「ここで待機していて下さい。僕とユキは狙撃地点に移動します。狙撃終了後、ピクシーメールで連絡します」
 
 レンは、通信装置を地面に置いた。隣で、ユキも背負っていた通信装置を下ろす。
 
「2人だけで大丈夫?」
 
 訊ねるキララに頷いて見せ、レンはユキを促して狙撃地点へ向かった。
 
(ほとんど移動していないな)
 
 モンスターは数メートル移動しただけで、迫撃砲の射撃を止めて集まっていた。適当に迫撃砲を撃った後は、集まって周囲を警戒しているようだ。
 
(別の索敵モンスターは?)
 
『索敵範囲内のモンスター数に変化はありません』
 
 補助脳のメッセージが浮かぶ。

(なんか、ゴブリンの動きが鈍いな?)

 試練で対戦したゴブリンに比べると、ずいぶんと反応が鈍い気がする。索敵役を失った時点で、距離を詰めてくるか、距離を取って山へ入るか、はっきりとした対応をとるべきだ。
 内心首を傾げつつ、補助脳の観測情報を見る。
 
「距離2000で、2カ所に分かれて狙撃をする。気温11℃、湿度43%、風速0.72m/s、ほぼ向かい風。対象はすべてゴブリンタイプ」
 
 ユキに、補助脳の観測情報を伝えた。
 
「了解です。開始は?」
 
 頷いたユキが対物狙撃銃を取り出して二脚を拡げた。
 簡単ではない距離だったが、レンもユキも問題なく命中させられる。射線が通っていれば、もっと遠くからでも狙撃可能だった。
 
「僕の初弾を合図にしようか」
 
 言い置いて、レンは自分の狙撃地点へ向かった。
 
 
 
 
======
 
新しい陸地を発見した!
 
モンスターの動きが鈍い気がする!
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