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第一章
第84話 フレンズ
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(……そんな大変なことになるかな?)
ケインとキララから、"神の啓示"が引き起こすだろう問題を列挙されて、レンは首を傾げていた。おぼろげながら面倒なことになりそうだとは分かるのだが……。
(さすがに、他の国に誘拐されたり? そんなことは無いんじゃないかな?)
大氾濫の猶予期間を90日にした渡界者を世界が放っておかない。友好国からは日本政府に協力要請があり、あまり友好的では無い国は日本政府を通さずに直接レンに接触してくるだろうと……。
(スパイ映画みたいだ)
さすがに大袈裟すぎるだろうと思いつつ聞いていたが、ケイン達の深刻な表情を見ていると、もしかして……という不安も湧き起こってくる。
「レン君? ほぼ確実に起こることばかりよ? 心配させないように、最悪の可能性については口にしていないわ」
キララがレンを見ながら言った。
「……最悪の?」
レンは、やや青ざめて見えるキララの顔を見上げた。
「レン君の家族……親戚や友達を人質にされる可能性よ」
「僕の……」
レンの脳裏に、叔母や従姉妹の顔が浮かんだ。
「周辺の国から突き上げを食らえば、日本政府はレン君の説得を始めるぜ。どうか、日本の立場を理解して協力して欲しいってな? 無理のない範囲で良いから、他国の渡界者に協力してくれないか……アドバイスをするだけでも良いからと……最初のアプローチは、そんなところだな」
「……それで、嫌だと言ったら人質ですか?」
さすがに、そこまで滅茶苦茶なことはしないと思う。
「レン君を協力させるために他の国の工作員が、親族を人質にする可能性がある。だから、日本政府が保護しておく……どう? そう言われたら、断れないでしょう? レン君が断っても、その親戚の人達が説得に応じるかもしれないし……」
「保護するという話は、まず間違いなくあると思うぜ。最初は、本当に身辺警護かもしれねぇが……そういうのは、政府の都合で簡単にひっくり返る。昨日までは身辺警護をしてくれていた連中が、次の日の朝には銃口を向けてくることだってあるんだぜ?」
実際、ケイン達も似たようなことを体験したそうだ。
「プライベートで月面までロケットを飛ばしただけでも、そういうことが起きるのよ? レン君なんて、ワールドアナウンスで世界中に晒されちゃったんだから……」
「叔母達に迷惑が掛かる……ということですか」
レンは俯いて唇を噛みしめた。
「そこで、プランCよ!」
マイマイが壁に貼った大きな紙に文字を書き始めた。
「情報を……公開?」
マイマイが書いた文字を読みつつ、レンは首を傾げた。
「レン君じゃなくても、情報……攻略法を知っていれば問題ないんだって思わせるのが狙いよ!」
キララが言った。
「試練の戦い方ですか?」
「試練を受けるためのプロセス、試練で登場するモンスターについての詳細な情報、使用した武器とか……装備についての情報なんかを提出するべきね。それから、エンカウンターカメラの映像ね。マーニャ先生にお願いして、ゴブリン戦のみに限定した映像にしてもらいましょう。延々とゴブリンを狩って時間を稼いだことにしたいわ。あの時、レン君は特殊なスキルを使っていたでしょう? あれを見せるわけにはいかないからね」
「レン君は特別じゃない。この情報を知っていれば誰でもやれる……そう思わせるってことだな」
ケインが頷いた。
「猜疑心の塊みたいな連中がいるから簡単じゃないけど……やってみるべきよ。攻略法さえ分かれば誰でもできる! そういう風潮にしてしまえば、レン君の身辺は落ち着くはずよ」
キララの説明に、レンは小さく頷いた。
「九号島についての報告はどうするぅ? 拠点にしたいから政府に渡せって言ってくるんじゃなぁい?」
マイマイがキララを見た。
「報告するわ。でも……ステーションのゲートから島へ転移できるのは、私達だけですよね?」
キララがマーニャに訊いた。
『今回の修正で、ゲートのランダムジャンプは廃止されて、利用実績のあるゲートを行き先に選べるようになるわ! 第九号島のポータルゲートからステーションに移動しないと、目的地に"第九号島"は出てこないわよ!』
一度、第九号島のポータルゲートからステーションへ転移しないと、ステーション側からの転移先リストに、"第九号島"が現れない仕組みになっているらしい。
「なら、島のことを言っちゃっても問題ないねぇ~」
マイマイが紙に書き加えた。
「追加のボードメニューはどうでした? どれか許可がでましたか?」
キララが訊いた。
『【ゼロウェイスト】の派生メニューに【クリーンボディ】が登録されたわ!』
「やったぜぇ~!」
マイマイが拳を突き上げる。
「他は、何か承認されました?」
キララが訊ねた。
『【キュアボディ】と【スクリーンショット】【マーキング】【メッセージボード】【支援要請(パーティメンバー)】の4つが承認されたわ! すべて、ボード上からポイント交換で追加できるわよ!』
「支援が許可されるなんて……予想外だわ」
キララが目を見開いた。
『それから、シーカーズギルド内に、渡界者が自由に書き込める"ログボード"が設置されるわ。これは、どこのギルドからでも閲覧可能よ』
「特異装甲はどうでした?」
『トリガーハッピーの中に、ゾーンダルクに滞在した時間数が1000時間を超えた渡界者だけが入れる専用工房が設置されるそうよ』
キララの質問に、マーニャが遅滞なく答えていく。
『持ち運べるポータルゲートは却下されたわ。カード化された素材の利用は、ゾーンダルク内にある特殊な施設へ行かないと駄目みたいよ。ゲームの仕様らしいわ』
「なるほど……じゃあ、今は使えないことが正常なんですね」
『それから、あなた達の質問にあった物質世界ゾーンダルクについてなのだけど……』
マーニャが空中に"惑星"を表示した。青々とした水に覆われた惑星だった。
『これが、異世界"ゾーンダルク"よ』
「この星の表面積は?」
『地球の230倍らしいわ』
「えぐぅ~」
マイマイが呻いた。
「地球上の"鏡"の位置と、ゾーンダルク側のゲートは同じような位置関係になってる?」
キララの問いに、マーニャが首を振った。
『位置に関係性は無いそうよ』
「あら、そうなの?」
『"鏡"の数だけ、ゾーンダルクで"神の大地"と呼ばれている陸地が存在するらしいわ』
マーニャが手を振ると、青い惑星の上に小さな陸地が点々と表示されていった。
「私達みたいに、こっちの世界で浮遊島を手に入れた渡界者はいるのかなぁ?」
『まだいないそうよ』
「あらら……でも、そうよねぇ~」
『でも、船を手に入れた渡界者はいるらしいわ』
大地の恵みを求めて着陸していた船を襲撃して奪った渡界者がいるらしい。
「おおぅ~、船持ちがいるんだぁ」
「あら? でも、どうやって飛ばしてるんだろ? 渡界者だけじゃ、魔導具は扱えないんでしょ?」
キララが疑問を口にする。
「現地人に協力してもらったんだろ。まあ……どういうやり方かは知らねぇが」
ケインが呟いた。
「富士からの渡界者?」
『別の"鏡"からの渡界者だと言っていたわ!』
マーニャが、表示していた"惑星"を消した。
「ふうん……どこの国だろ?」
キララがマイマイを見る。
「軍隊かなぁ?」
『マイマイから提案のあった、異界探索協会とシーカーズギルドの連携については、検討して連絡するそうよ』
「おおぅ、あれも検討してもらえるんだぁ」
マイマイが喜色を浮かべる。
『あなた達の提唱した"よりゲームらしく"という修正案は、ナンシーの創造主の設計思想と合致すると言っていたわ。たぶん、前向きな解答があるんじゃない?』
「銃で戦うFPS……MMORPGって感じになるのかなぁ~?」
マイマイが腕組みをして唸る。
「これまでのギミックを考えると、渡界者に何らかの役割を与えている感じがするし、ロールプレイングゲームでしょう」
キララが頷いた。
「啓示で言っているTLGナイトメアというのは、実在するゲームなのか?」
ケインの問いかけに、マイマイが首を振った。
「まったく同じ物は無いらしいよぉ。それらしいゲームはあったけど……結局、全然違ったもんねぇ~」
マーニャとケイン達の会話を聞きながら、レンは田代の叔母と香奈のことを考えていた。
2度目の渡界時に、半ば縁を切るようにしてあの家を出てきたのだが……。
(人質に……?)
本当に、そんなことが起こるのだろうか?
渡界の動機は自分自身のためだった。しかし、ナンシーの試練を受けたのは、少しでも大氾濫の猶予時間を引き延ばそうと思ったからだ。自分のためだけに戦ったんじゃない。
(せっかく、90日にすることができたのに……それで、叔母達に迷惑がかかるのか? そんな馬鹿なことがあるのか?)
自分が目立つことをしてしまったために?
「……レンさん?」
「えっ?」
軽く肩を揺すられて、レンは我に返った。
「怖い顔をしています」
ユキが気遣わしげな表情で見つめていた。
「えっ……ああ、そうだった?」
レンは、自分の顔を手で覆って軽く撫でた。
「ケインさん達は、あえて一番悪い予想を教えて下さっただけです。そうならない可能性の方が高いと思います」
ユキの双眸が、レンを真っ直ぐに捉える。
「……うん」
それは、起こる可能性があるということだ。
「私を呼んで下さい」
「……ユキ?」
何が言いたいのか分からなかった。
「これだけ苦労をして、一生懸命に頑張ったレンさんが、堂々と日本に帰れないなんて間違っています!」
ユキの双眸が怒気で尖っている。
「私は、家族も親戚も居ません。ずうっと病院だったから友人もいません。もしも、レンさんが困ることがあったら、すぐに私を呼んで下さい。相手がどんな人でも、警察や軍隊が来ても絶対に負けません!」
「あ……ああ、うん、なんか……ありがとう」
怒りを露わにしているユキを前に、レンは気圧されながら頷いた。
「ああ……レン君、ちょっと良いか?」
ケインが隣に来た。
いつの間にか、キララ達が会話を止めて沈黙している。
「さっき言ったことが、必ず起こるってわけじゃねぇぞ? そうならねぇように、おれ達は考えられる手を打つ。世界中に仲間がいるからな。使える伝手は全部使って、レン君を守るつもりだ」
「そうよぉ~、うるさい事を言ったら月じゃない所にロケット打ち込んでやるんだから」
「万が一、レン君の……親族に何かが起こった時には、とことんやってやるわ! こっちが火薬庫だって教えることも立派な抑止力だからね」
マイマイとキララが危険な笑みを浮かべる。
「こいつらの言っていることは、ただの意気込みなんかじゃねぇぞ? ただ……まあ、そうなる前に、穏便にやれねぇかって話をするつもりだ。相手さんが、どこになるのかは分からねぇが……」
ケインがレンの肩に手を置いた。
「忘れちまってるだろうが、今回の渡界はおれ達が言い出しっぺだぜ? 何があっても、レン君を渡すような真似はやらねぇよ」
『あら、楽しそうね! 喧嘩をするなら手を貸すわ! 地球の電子機器を全て乗っ取ることもできるわよ? コンピュータ? コンピュータ言語? あれを全て消去しちゃおうか? 深層域まで含めても14秒くらいで全消去できるわよ?』
両手を腰に当てたマーニャが、レンの顔を覗き込んだ。
======
色々と心配事が増えてしまった!
レンの"お友達"がとても剣呑です!
ケインとキララから、"神の啓示"が引き起こすだろう問題を列挙されて、レンは首を傾げていた。おぼろげながら面倒なことになりそうだとは分かるのだが……。
(さすがに、他の国に誘拐されたり? そんなことは無いんじゃないかな?)
大氾濫の猶予期間を90日にした渡界者を世界が放っておかない。友好国からは日本政府に協力要請があり、あまり友好的では無い国は日本政府を通さずに直接レンに接触してくるだろうと……。
(スパイ映画みたいだ)
さすがに大袈裟すぎるだろうと思いつつ聞いていたが、ケイン達の深刻な表情を見ていると、もしかして……という不安も湧き起こってくる。
「レン君? ほぼ確実に起こることばかりよ? 心配させないように、最悪の可能性については口にしていないわ」
キララがレンを見ながら言った。
「……最悪の?」
レンは、やや青ざめて見えるキララの顔を見上げた。
「レン君の家族……親戚や友達を人質にされる可能性よ」
「僕の……」
レンの脳裏に、叔母や従姉妹の顔が浮かんだ。
「周辺の国から突き上げを食らえば、日本政府はレン君の説得を始めるぜ。どうか、日本の立場を理解して協力して欲しいってな? 無理のない範囲で良いから、他国の渡界者に協力してくれないか……アドバイスをするだけでも良いからと……最初のアプローチは、そんなところだな」
「……それで、嫌だと言ったら人質ですか?」
さすがに、そこまで滅茶苦茶なことはしないと思う。
「レン君を協力させるために他の国の工作員が、親族を人質にする可能性がある。だから、日本政府が保護しておく……どう? そう言われたら、断れないでしょう? レン君が断っても、その親戚の人達が説得に応じるかもしれないし……」
「保護するという話は、まず間違いなくあると思うぜ。最初は、本当に身辺警護かもしれねぇが……そういうのは、政府の都合で簡単にひっくり返る。昨日までは身辺警護をしてくれていた連中が、次の日の朝には銃口を向けてくることだってあるんだぜ?」
実際、ケイン達も似たようなことを体験したそうだ。
「プライベートで月面までロケットを飛ばしただけでも、そういうことが起きるのよ? レン君なんて、ワールドアナウンスで世界中に晒されちゃったんだから……」
「叔母達に迷惑が掛かる……ということですか」
レンは俯いて唇を噛みしめた。
「そこで、プランCよ!」
マイマイが壁に貼った大きな紙に文字を書き始めた。
「情報を……公開?」
マイマイが書いた文字を読みつつ、レンは首を傾げた。
「レン君じゃなくても、情報……攻略法を知っていれば問題ないんだって思わせるのが狙いよ!」
キララが言った。
「試練の戦い方ですか?」
「試練を受けるためのプロセス、試練で登場するモンスターについての詳細な情報、使用した武器とか……装備についての情報なんかを提出するべきね。それから、エンカウンターカメラの映像ね。マーニャ先生にお願いして、ゴブリン戦のみに限定した映像にしてもらいましょう。延々とゴブリンを狩って時間を稼いだことにしたいわ。あの時、レン君は特殊なスキルを使っていたでしょう? あれを見せるわけにはいかないからね」
「レン君は特別じゃない。この情報を知っていれば誰でもやれる……そう思わせるってことだな」
ケインが頷いた。
「猜疑心の塊みたいな連中がいるから簡単じゃないけど……やってみるべきよ。攻略法さえ分かれば誰でもできる! そういう風潮にしてしまえば、レン君の身辺は落ち着くはずよ」
キララの説明に、レンは小さく頷いた。
「九号島についての報告はどうするぅ? 拠点にしたいから政府に渡せって言ってくるんじゃなぁい?」
マイマイがキララを見た。
「報告するわ。でも……ステーションのゲートから島へ転移できるのは、私達だけですよね?」
キララがマーニャに訊いた。
『今回の修正で、ゲートのランダムジャンプは廃止されて、利用実績のあるゲートを行き先に選べるようになるわ! 第九号島のポータルゲートからステーションに移動しないと、目的地に"第九号島"は出てこないわよ!』
一度、第九号島のポータルゲートからステーションへ転移しないと、ステーション側からの転移先リストに、"第九号島"が現れない仕組みになっているらしい。
「なら、島のことを言っちゃっても問題ないねぇ~」
マイマイが紙に書き加えた。
「追加のボードメニューはどうでした? どれか許可がでましたか?」
キララが訊いた。
『【ゼロウェイスト】の派生メニューに【クリーンボディ】が登録されたわ!』
「やったぜぇ~!」
マイマイが拳を突き上げる。
「他は、何か承認されました?」
キララが訊ねた。
『【キュアボディ】と【スクリーンショット】【マーキング】【メッセージボード】【支援要請(パーティメンバー)】の4つが承認されたわ! すべて、ボード上からポイント交換で追加できるわよ!』
「支援が許可されるなんて……予想外だわ」
キララが目を見開いた。
『それから、シーカーズギルド内に、渡界者が自由に書き込める"ログボード"が設置されるわ。これは、どこのギルドからでも閲覧可能よ』
「特異装甲はどうでした?」
『トリガーハッピーの中に、ゾーンダルクに滞在した時間数が1000時間を超えた渡界者だけが入れる専用工房が設置されるそうよ』
キララの質問に、マーニャが遅滞なく答えていく。
『持ち運べるポータルゲートは却下されたわ。カード化された素材の利用は、ゾーンダルク内にある特殊な施設へ行かないと駄目みたいよ。ゲームの仕様らしいわ』
「なるほど……じゃあ、今は使えないことが正常なんですね」
『それから、あなた達の質問にあった物質世界ゾーンダルクについてなのだけど……』
マーニャが空中に"惑星"を表示した。青々とした水に覆われた惑星だった。
『これが、異世界"ゾーンダルク"よ』
「この星の表面積は?」
『地球の230倍らしいわ』
「えぐぅ~」
マイマイが呻いた。
「地球上の"鏡"の位置と、ゾーンダルク側のゲートは同じような位置関係になってる?」
キララの問いに、マーニャが首を振った。
『位置に関係性は無いそうよ』
「あら、そうなの?」
『"鏡"の数だけ、ゾーンダルクで"神の大地"と呼ばれている陸地が存在するらしいわ』
マーニャが手を振ると、青い惑星の上に小さな陸地が点々と表示されていった。
「私達みたいに、こっちの世界で浮遊島を手に入れた渡界者はいるのかなぁ?」
『まだいないそうよ』
「あらら……でも、そうよねぇ~」
『でも、船を手に入れた渡界者はいるらしいわ』
大地の恵みを求めて着陸していた船を襲撃して奪った渡界者がいるらしい。
「おおぅ~、船持ちがいるんだぁ」
「あら? でも、どうやって飛ばしてるんだろ? 渡界者だけじゃ、魔導具は扱えないんでしょ?」
キララが疑問を口にする。
「現地人に協力してもらったんだろ。まあ……どういうやり方かは知らねぇが」
ケインが呟いた。
「富士からの渡界者?」
『別の"鏡"からの渡界者だと言っていたわ!』
マーニャが、表示していた"惑星"を消した。
「ふうん……どこの国だろ?」
キララがマイマイを見る。
「軍隊かなぁ?」
『マイマイから提案のあった、異界探索協会とシーカーズギルドの連携については、検討して連絡するそうよ』
「おおぅ、あれも検討してもらえるんだぁ」
マイマイが喜色を浮かべる。
『あなた達の提唱した"よりゲームらしく"という修正案は、ナンシーの創造主の設計思想と合致すると言っていたわ。たぶん、前向きな解答があるんじゃない?』
「銃で戦うFPS……MMORPGって感じになるのかなぁ~?」
マイマイが腕組みをして唸る。
「これまでのギミックを考えると、渡界者に何らかの役割を与えている感じがするし、ロールプレイングゲームでしょう」
キララが頷いた。
「啓示で言っているTLGナイトメアというのは、実在するゲームなのか?」
ケインの問いかけに、マイマイが首を振った。
「まったく同じ物は無いらしいよぉ。それらしいゲームはあったけど……結局、全然違ったもんねぇ~」
マーニャとケイン達の会話を聞きながら、レンは田代の叔母と香奈のことを考えていた。
2度目の渡界時に、半ば縁を切るようにしてあの家を出てきたのだが……。
(人質に……?)
本当に、そんなことが起こるのだろうか?
渡界の動機は自分自身のためだった。しかし、ナンシーの試練を受けたのは、少しでも大氾濫の猶予時間を引き延ばそうと思ったからだ。自分のためだけに戦ったんじゃない。
(せっかく、90日にすることができたのに……それで、叔母達に迷惑がかかるのか? そんな馬鹿なことがあるのか?)
自分が目立つことをしてしまったために?
「……レンさん?」
「えっ?」
軽く肩を揺すられて、レンは我に返った。
「怖い顔をしています」
ユキが気遣わしげな表情で見つめていた。
「えっ……ああ、そうだった?」
レンは、自分の顔を手で覆って軽く撫でた。
「ケインさん達は、あえて一番悪い予想を教えて下さっただけです。そうならない可能性の方が高いと思います」
ユキの双眸が、レンを真っ直ぐに捉える。
「……うん」
それは、起こる可能性があるということだ。
「私を呼んで下さい」
「……ユキ?」
何が言いたいのか分からなかった。
「これだけ苦労をして、一生懸命に頑張ったレンさんが、堂々と日本に帰れないなんて間違っています!」
ユキの双眸が怒気で尖っている。
「私は、家族も親戚も居ません。ずうっと病院だったから友人もいません。もしも、レンさんが困ることがあったら、すぐに私を呼んで下さい。相手がどんな人でも、警察や軍隊が来ても絶対に負けません!」
「あ……ああ、うん、なんか……ありがとう」
怒りを露わにしているユキを前に、レンは気圧されながら頷いた。
「ああ……レン君、ちょっと良いか?」
ケインが隣に来た。
いつの間にか、キララ達が会話を止めて沈黙している。
「さっき言ったことが、必ず起こるってわけじゃねぇぞ? そうならねぇように、おれ達は考えられる手を打つ。世界中に仲間がいるからな。使える伝手は全部使って、レン君を守るつもりだ」
「そうよぉ~、うるさい事を言ったら月じゃない所にロケット打ち込んでやるんだから」
「万が一、レン君の……親族に何かが起こった時には、とことんやってやるわ! こっちが火薬庫だって教えることも立派な抑止力だからね」
マイマイとキララが危険な笑みを浮かべる。
「こいつらの言っていることは、ただの意気込みなんかじゃねぇぞ? ただ……まあ、そうなる前に、穏便にやれねぇかって話をするつもりだ。相手さんが、どこになるのかは分からねぇが……」
ケインがレンの肩に手を置いた。
「忘れちまってるだろうが、今回の渡界はおれ達が言い出しっぺだぜ? 何があっても、レン君を渡すような真似はやらねぇよ」
『あら、楽しそうね! 喧嘩をするなら手を貸すわ! 地球の電子機器を全て乗っ取ることもできるわよ? コンピュータ? コンピュータ言語? あれを全て消去しちゃおうか? 深層域まで含めても14秒くらいで全消去できるわよ?』
両手を腰に当てたマーニャが、レンの顔を覗き込んだ。
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