カオスネイバー(s)

ひるのあかり

文字の大きさ
6 / 232
第一章

第6話 赤い鳥

しおりを挟む
 レンが岩山だと思ったものは、巨大なトカゲだった。
 もしかしたら、恐竜と呼んでも良いのかもしれない。岩のようにゴツゴツとした硬くて分厚い鎧を背負った大きなトカゲだ。
 その巨大なトカゲが喰われていた。
 真っ赤な色をした大きな鳥が、片足で岩山を押さえ付けて転がし、大きな嘴でバリバリとトカゲの腹部を粉砕して中の肉をついばんでいる。
 悪夢のような光景だった。

(これって……現実なんだよな?)

 呆然となりながらも、レンはなんとか平静さを保っていた。
 恐怖もある。焦りもある。だが、頭のどこかが冷静に状況を把握し、分析し続けていた。

(岩山みたいなトカゲの全長が25メートルくらい? あんな化け物も……赤い鳥にとったら餌なのか)

 大きさ自体はさほど変わらないが、力の強さが段違いらしい。
 巨鳥の爪のある足で押さえ付けられて、巨大なトカゲが手足を力無く動かして足掻いている。その腹底へ、真っ赤な巨鳥が大きな嘴を突き入れ、中身を毟り取っていた。
 レンの位置からでは、鳥の姿全体は見えなかったが、鷲や鷹のような体型に見える。

(あの岩山みたいなのが、食べられる側? どうなってるんだ、この森……)

 レンは、改めて周囲へ視線を巡らせた。
 警戒だけは続けておかないと危ない。"怪獣"に気を取られている間に、別の何かが迫って来ているかも知れなかった。


 ギィィア! ギィィア!


 不意に、大きな鳥の声が響いた。
 慌てて眼を向けると、どうやら満足したらしい真っ赤な巨鳥が、岩山のようなトカゲを捨てて飛び立つところだった。
 わずかに遅れて突風が吹き荒れ、周囲の巨樹が軋み音を鳴らした。

(あんな化け物、小銃なんかで撃っても、どうにもならないな)

 レンは、頭を抱えて岩片交じりの突風をやり過ごすと、周囲を警戒しながら捕食の現場へ向かった。

(まだ動いてる?)

 腹の中身をゴッソリと抜き取られた岩山のようなトカゲが、ひっくり返ったまま弱々しく四肢を動かしていた。鳥の好みなのか、内臓だけをついばんでいて、肉などはそのまま残している。

(……切って焼けば食べられるかな?)

 巨鳥が開けた腹の穴から、綺麗な赤い肉が見えていた。
 切り取って持っておけば、焼くか、燻すかして食べられそうな気がする。
 戦闘糧食を支給されていたが、数には限りがある。
 しばらく考えて、レンは意を決して横倒しになった巨大トカゲによじ登ると大きく開いた腹部から中へ入り込んだ。
 胃酸が散ったのか眼に染みる刺激臭がしたが、レンから見て上側の骨に付いた肉などは綺麗そうに見えた。

(あれは何だろう?)

 背骨らしき太い骨に沿って青白い管が伸び、喉に近い辺りで玉のような塊になっていた。人の頭よりは大きい塊だが、トカゲの巨体からしたら小さなものだ。

(あれも、臓器なのかな?)

 レンは、64式小銃に取り付けた銃剣の先で青白い玉を突いてみた。

(思ったより柔らかい?)

 力を込めれば貫けそうな感じがした。

(やってみようか)

 レンは、体液が飛び散ることを予想して、少し体を引き気味に銃剣で突き刺してみた。
 予想とは違い、塊から淡い光粉が噴出してレンの体に吹き付けた。

 途端、

『高濃度ナノマテリアルを摂取しました』

 いきなり、目の前に光る文字が浮かび上がった。

(う……わあっ!?)

 思わず身を引いたレンの目の前で、文字が表示され続けている。

(なんだ? ナノマテリアル?)

 狼狽えながら、レンはきょろきょろと周囲を見回し、すぐに、今銃剣で突き刺したもののことだと気が付いた。

(青白い光が出ているけど……これが?)

 ナノマテリアルが目視できるはずはないと思いつつも、レンはそっと手を伸ばして刺し傷から漏れ出ているものに触れてみた。

『高濃度ナノマテリアルの摂取により、不足しているナノマテリアルを補填できます』

 また、目の前に浮かぶ文字が変化した。
 視界の中に、吹き出しが追加され、青白いものを指して"高濃度ナノマテリアル"と表示している。

(どうなってるんだ、僕の眼……いや、これって、ここの仕様? ゲームみたいな? こっちの世界のシステム?)

 "ボード"と同じような何かのギミックなのだろうか?
 このARのような表示は、"偽神"によるものなのか?
 多少気味悪く感じながらも、とにかく悪い状況ではないらしいと見極めて、レンは青白い光を手で受け続けた。


 ポーン……


 不意の電子音に、レンは身を震わせた。

(なっ、なんだよ!?)

 焦った自分に腹を立てるレンの前に、


******

 岩山龍 [ アビオドロス ] を討伐しました!

******


 銀色に光る大きな文字が浮かび上がった。

(は?)

 これまで視界に浮かんでいた無機質な文字とは異なる、飾り文字による大きな表示だった。
 呆然と見守るレンの前で、銀色の文字が花火が散るように細かく爆ぜて消えていき、続いて別の表示が浮かび上がった。


******

 討伐ポイント:500
 異能ポイント:5
 技能ポイント:9
 採取ポイント:28

******


(これが、ポイント? でも、なんか種類がいっぱいあるみたいだけど?)

 固まったまま見つめるレンの目の前で、先ほどと同様に銀色の文字が飛び散って消えていった。討伐ポイントだけだと思っていたが、どうやら他にも種類があるらしい。


[ドロスの泪 :3]

[鉄山鉱   :9]

[真鉄山鉱  :2]

[アビオード :1]

[岩龍の頬肉 :2]

[岩龍の背脂 :1]

[岩龍の大腰筋:2]

[ドロスの歯 :8]


 今度は、小さなカード状のものが8枚、レンの正面に並んで浮かび上がった。
 応じるように、レンの手元からステーションで作ってもらったエーテル・バンク・カードが浮かび上がる。

(なんだこれ?)

 見る間に、レンのエーテル・バンク・カードに、8枚のカードが吸い込まれて消えていった。

『高濃度ナノマテリアルの摂取を完了しました』

(それって……)

『不足していたナノマテリアルを吸収したことで、補助脳の機能不全が解消されます』

(はい? 補助脳って、マーニャが言ってたやつ? 今まで機能してなかったのか?)

『周辺の探知を開始します』

 視界に、簡潔な文字が浮かんで消えた。

(ええと……じゃあ、こっちの表示は別口?)

 レンは、目の前に浮かんだ銀色の文字列を見ながら嘆息した。
 どうやら、ナノマテリアルがどうこうという表示は、マーニャがレンの脳内に施した補助脳が表示するARっぽい"何か"らしい。
 銀色の文字は、このゾーンダルクの世界特有の"何か"だろう。

(……なんか、"何か" ばっかりだなぁ)

 不確かなことがいっぱいありすぎて笑えてくる。
 レンは苦笑を漏らしながらも、当初の目的を思い出して、肋骨らしき骨と骨の間にある肉へ銃剣を突き入れた。肉が食用になるかどうかは分からないが……。

『警告します! ナノマテリアルを内包した物体が多数接近して来ます!』

 視界に、赤色の文字が浮かび上がった。

「なんだって?」

 警告の表示が意味するところを察し、レンは慌てて岩山龍の死骸から飛び降りると、近くの巨樹へ身を隠した。

『マーカーによる識別表示を行いますか?』

「……お願い」

 レンは、64式小銃を手に周囲へ視線を巡らせた。
 途端、視界の中に、無数の光点が現れた。
 補助脳が、レンの視界内に対象物の位置を表示したらしい。

 レンから見て右手側の木々の間を、83個のオレンジ色をした光点が迫ってくる。恐ろしく移動が速い。
 今から逃げようにも、見つかればたちまち追いつかれてしまうだろう。
 レンは、64式小銃のセレクターを"レ"の位置へ動かした。念の為、初弾が装填されているかどうかを確かめ、大きく息を吸い込み、そしてゆっくりと吐き出した。

『赤外線照準追尾を開始します』

(それ、小銃なのに意味ある?)

 レンは、巨樹の裏側に身を潜めたまま、視界を忙しなく左右する光点に注意を向けた。
 思ったほど大きくは無い。
 一つ一つは、中型犬くらいだ。

『形状測定できました』

 声と共に、視界左上に、四角い枠が開き、対象の輪郭が表示された。

(ネズミ……)

 大きさはともかく、姿形は地球産のネズミにそっくりだった。

(岩山龍の死骸が目当てだったのか)

 樹の裏に隠れているレンには見向きもせず、大きなネズミたちは岩山龍の裂けた腹めがけて飛び込んでいた。

(もう、あの肉は駄目だな)

 ネズミが群がった後の肉なんか怖くて食べられない。

(これで全部?)

 巨樹の裏からでも、レンの視界には岩山龍の輪郭と、その腹の中へ群がった大ネズミの群れが見えていた。オレンジ色の ▼ マークが全て集まっている。

『探知範囲内の全個体が集合しました』

(……了解)

 レンは、64式小銃を肩に担ぐと、戦闘服のポケットから破片手榴弾を2つ取り出した。

(ネズミくらいにしか使い道が無さそうだし……)

 レンは、木陰を出て大胆に近付くと、破片手榴弾のピンを抜いて、岩山龍の腹の中で一心不乱に食事をしている大ネズミの集団めがけて放り込んだ。さらに、もう一個同じように放ってから巨樹の裏へ待避した。

 大きな爆発が連続して起こった。
 いきなりの轟音と衝撃で、パニックになった大ネズミが何匹か飛び出して来る。閉所に集まっていたため、かなりの数を巻き込むことができた。
 外に飛び出したネズミ達も重傷を負っていたり、大音で衝撃を受けていて、まともに動けていない。

(ネズミって顔が怖いな)

 レンは、64式小銃を構えて引き金を絞った。








======

レンは、岩山龍アビオドロス×1を討伐した!

レンは、毒爪鼠チェロス×83を討伐した!

しおりを挟む
感想 116

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

処理中です...