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第4話 時代と共に
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少年の付喪神と化したラジオ。彼の望む昭和の時代に帰りたいという願いをなんとか叶えるため、風子は駄菓子屋に案内するが、ラジオの心が満たされることはなかった。
「付喪神神ぃ……」
「その様子じゃ上手く行ってないみたいっすね……」
付喪神神は、ボサボサの銀髪を掻きながら、ベンチに座っている風子の隣の地面にしゃがんだ。風子は、ベンチの横で俯いているラジオに心を痛めながら、付喪神神に本音を吐露し始める。
「やっぱり私には無理だよ……」
「私が神社の娘なのは本当だけど、でも巫女なんて言える力はないし……。頼まれることを断れない優柔不断な性格なだけ……」
「……巫女さん」
「巫女さんは、まだ“こっちの世界”に慣れてないっす。誰だって慣れないうちはよく分からないもんっす」
「俺が巫女さんに頼んだのは、力があるからだけじゃないっす」
「……え?」
「この人は相談しやすそう。この人なら、きっと話を真面目に聞いてくれる。巫女さんには、なんだかそう思わせる物があるんすよ」
「うぅ~ん……そうかな……」
「そうっす」
静かに風子に語り掛ける付喪神神。その声色を聞いていると、風子の気持ちは不思議と心地よくなり、少しずつ落ち着きを取り戻していた。
「しかし、時代の移り変わりってのは残酷っすね……。元の時代に戻りたくても戻れないというのは……」
「それでも、人間達は新しい時代と共に生きてるんすから、逞しいっすよ」
「そうだね……」
「うん……? ちょっと待てよ……?」
「どうしたっすか……?」
付喪神神の話を聞いていた風子は、何か引っ掛かることがある様子だった。そして、おもむろにベンチから立ち上がると、ラジオの前に向き直った。
「ねぇ、ラジオくん。お姉ちゃんともう少し遊んで行かない?」
「ふぇ……?」
ラジオの手を握り、ベンチから立ち上がらせると、風子は足早にどこかへと彼を連れ出した。
「ふふ……。何か気付いたことでもあったんすかね……」
遠ざかる風子とラジオを、付喪神神は微笑みながらその姿が見えなくなるまで見つめていた。
「ほら、ラジオくん! これが最近流行ってるハギワラくんだよ!」
「ハギワラくん……?」
風子がラジオを連れて訪れたのは、色とりどりの布で作られた藁人形のぬいぐるみという、奇妙なキャラクターで埋め尽くされた店だった。店内は、若い女性のお客さんで賑わっていた。
「ほら! 可愛いでしょ?」
「え……えっと……」
「ここに並んでるハギワラくんは、全部違う布で作られてるの! どれも世界にひとつしかない! そこから、自分好みのハギワラくんを見つけるのが醍醐味なのよ!」
「あ、あうぅ……?」
「あ。よく分かんないか……! じゃ次行こう! 次!」
「え、えぇ……?」
ハギワラくんを軽く紹介するとすぐ次の場所に向かおうとする風子。ラジオは訳も分からず風子に連れ回されていた……。
「このスイーツはめっちゃ映えるってSNSで話題になってるの!」
「わ、わぁ……」
次に風子たちは、パンケーキにソフトクリームが入ったコーンが直に突き刺さっている奇抜なスイーツを堪能していた……。
「こういう面白い物の写真を撮って、ネットでいろんな人に見てもらうのが最近の楽しみ方なの!」
(私はあんまりフォロワーとかいないんだけど……)
「へぇ……」
「これ食べ終わったら次は映画観に行こう!」
「ふ、ふえぇ……?」
困惑するラジオを余所に、映えるスイーツを食べ終えた風子は、ラジオを連れ映画館へと直行した。
「じゃじゃーん! ほら! これは3Dメガネよ!」
「これを付けてると、なんと映画が立体に見えるって訳よ!」
「ふ、ふぅん……?」
3Dメガネを掛け、風子とラジオは3D映画を堪能し始めた。
「おおおおおお……!?」
3D映画のあまりの臨場感に驚いているラジオ。の隣では風子がさらに驚いていた……。
(わ、私も観るの初めてだから! まさかこんなに凄まじいとは……!?)
上映終了後。
「お姉ちゃん……だ、大丈夫……?」
「うおおぅ……大丈夫大丈夫……」
3D映画で満身創痍になり、映画館の片隅でうずくまる風子。ラジオは心配そうに風子の背中をさすっていた。
「よし! 次はゲーセン行こう!」
「ふえぇっ!?」
映画のダメージを気合で吹き飛ばし、風子はラジオと今時の遊びをひたすら堪能するのであった。ひとしきり遊んだ2人は、公園で一息ついていた。
「ふーっ! 遊んだ遊んだ!」
「どうだったラジオくん? ……楽しかった?」
不安げにラジオの反応を見る風子。ラジオは控えめに頷いていた。
「そっか。良かった……! お姉ちゃん、実はね。今日行ったの全部初めて行く場所だったから不安だったんだ……!」
「えぇ……!?」
「でも、私も楽しかった……!」
「……!」
「自分の知ってる物とか、場所が無くなっちゃったり変わっちゃったりするのは寂しいことだと思うけど」
「でも、新しい物もこんなに楽しいで溢れてる。私は、君にそれを知ってもらいたかったんだ」
「お姉ちゃん……」
「いやぁ。良いこと言うっすね」
「うわっ!?」
突然、背後から男の声が聞こえ飛び上がって驚く風子。声の正体は、付喪神神であった。
「ちょ、ちょっと! 突然出て来ないでよ!!」
「す、すんませんっす……。タイミングが分からなくて……」
付喪神神は風子に頭を下げると、隣に座っているラジオのことをジロジロと見回し始めた。ラジオは落ち着かない様子で、ただただ付喪神神の怪しい視線に耐えている……。
「うん! 良い感じに安定してきたっすね……! これなら付喪神としてやっていけそうっす」
「よ、良かったぁ……!」
ラジオを救うことが出来て安堵の溜め息を漏らす風子。すると付喪神神は、おもむろに乗ってきていた軽トラの荷台にラジオを持ち上げ乗せた。
「それでは、この子は俺が責任を持って付喪神の国へ送り届けるっす」
「お、お姉ちゃ~ん……」
「だ、大丈夫。そのお兄さん、悪い人じゃないから……たぶん」
荷台に乗せられ涙目で風子を見つめるラジオ。そのシュールな絵面に風子の不安はぶり返していた……。
「お世話になりましたっす。これはバイト代っす」
「えっ!? いや私そんなつもりじゃ……」
風子に茶封筒を差し出す付喪神神。風子はぶんぶんと両手を振って封筒を拒もうとするが、付喪神神は強引にその手に封筒を握らせた。
「お手伝いしてもらっておいてタダ働きなんて、そんなの廃品回収業者の名が泣くっす」
(神の名じゃなくて廃品回収業者の名が泣くのか……)
「そんじゃ、次困った時もどうかよろしくお願いしますっす」
「あ、それが目的か……」
「あははは」
笑って誤魔化す付喪神神。彼は軽トラに乗り込むとエンジンを吹かし始めた。
「巫女さん。今日は本当にありがとうございましたっす」
「巫女じゃなくて風舞風子」
「あ、これは失礼しましたっす。じゃ、ついでに自分のことはツクモとでも呼んでくださいっす」
付喪神神改めツクモは、晴れやかな笑顔で手を振りながら軽トラを発進させた。荷台では、ラジオが涙目で風子を見つめたままだった……。
「……あれ本当に大丈夫か?」
風子は不安な表情で、子供を乗せた不審な軽トラのことを見送っていた……。
「付喪神神ぃ……」
「その様子じゃ上手く行ってないみたいっすね……」
付喪神神は、ボサボサの銀髪を掻きながら、ベンチに座っている風子の隣の地面にしゃがんだ。風子は、ベンチの横で俯いているラジオに心を痛めながら、付喪神神に本音を吐露し始める。
「やっぱり私には無理だよ……」
「私が神社の娘なのは本当だけど、でも巫女なんて言える力はないし……。頼まれることを断れない優柔不断な性格なだけ……」
「……巫女さん」
「巫女さんは、まだ“こっちの世界”に慣れてないっす。誰だって慣れないうちはよく分からないもんっす」
「俺が巫女さんに頼んだのは、力があるからだけじゃないっす」
「……え?」
「この人は相談しやすそう。この人なら、きっと話を真面目に聞いてくれる。巫女さんには、なんだかそう思わせる物があるんすよ」
「うぅ~ん……そうかな……」
「そうっす」
静かに風子に語り掛ける付喪神神。その声色を聞いていると、風子の気持ちは不思議と心地よくなり、少しずつ落ち着きを取り戻していた。
「しかし、時代の移り変わりってのは残酷っすね……。元の時代に戻りたくても戻れないというのは……」
「それでも、人間達は新しい時代と共に生きてるんすから、逞しいっすよ」
「そうだね……」
「うん……? ちょっと待てよ……?」
「どうしたっすか……?」
付喪神神の話を聞いていた風子は、何か引っ掛かることがある様子だった。そして、おもむろにベンチから立ち上がると、ラジオの前に向き直った。
「ねぇ、ラジオくん。お姉ちゃんともう少し遊んで行かない?」
「ふぇ……?」
ラジオの手を握り、ベンチから立ち上がらせると、風子は足早にどこかへと彼を連れ出した。
「ふふ……。何か気付いたことでもあったんすかね……」
遠ざかる風子とラジオを、付喪神神は微笑みながらその姿が見えなくなるまで見つめていた。
「ほら、ラジオくん! これが最近流行ってるハギワラくんだよ!」
「ハギワラくん……?」
風子がラジオを連れて訪れたのは、色とりどりの布で作られた藁人形のぬいぐるみという、奇妙なキャラクターで埋め尽くされた店だった。店内は、若い女性のお客さんで賑わっていた。
「ほら! 可愛いでしょ?」
「え……えっと……」
「ここに並んでるハギワラくんは、全部違う布で作られてるの! どれも世界にひとつしかない! そこから、自分好みのハギワラくんを見つけるのが醍醐味なのよ!」
「あ、あうぅ……?」
「あ。よく分かんないか……! じゃ次行こう! 次!」
「え、えぇ……?」
ハギワラくんを軽く紹介するとすぐ次の場所に向かおうとする風子。ラジオは訳も分からず風子に連れ回されていた……。
「このスイーツはめっちゃ映えるってSNSで話題になってるの!」
「わ、わぁ……」
次に風子たちは、パンケーキにソフトクリームが入ったコーンが直に突き刺さっている奇抜なスイーツを堪能していた……。
「こういう面白い物の写真を撮って、ネットでいろんな人に見てもらうのが最近の楽しみ方なの!」
(私はあんまりフォロワーとかいないんだけど……)
「へぇ……」
「これ食べ終わったら次は映画観に行こう!」
「ふ、ふえぇ……?」
困惑するラジオを余所に、映えるスイーツを食べ終えた風子は、ラジオを連れ映画館へと直行した。
「じゃじゃーん! ほら! これは3Dメガネよ!」
「これを付けてると、なんと映画が立体に見えるって訳よ!」
「ふ、ふぅん……?」
3Dメガネを掛け、風子とラジオは3D映画を堪能し始めた。
「おおおおおお……!?」
3D映画のあまりの臨場感に驚いているラジオ。の隣では風子がさらに驚いていた……。
(わ、私も観るの初めてだから! まさかこんなに凄まじいとは……!?)
上映終了後。
「お姉ちゃん……だ、大丈夫……?」
「うおおぅ……大丈夫大丈夫……」
3D映画で満身創痍になり、映画館の片隅でうずくまる風子。ラジオは心配そうに風子の背中をさすっていた。
「よし! 次はゲーセン行こう!」
「ふえぇっ!?」
映画のダメージを気合で吹き飛ばし、風子はラジオと今時の遊びをひたすら堪能するのであった。ひとしきり遊んだ2人は、公園で一息ついていた。
「ふーっ! 遊んだ遊んだ!」
「どうだったラジオくん? ……楽しかった?」
不安げにラジオの反応を見る風子。ラジオは控えめに頷いていた。
「そっか。良かった……! お姉ちゃん、実はね。今日行ったの全部初めて行く場所だったから不安だったんだ……!」
「えぇ……!?」
「でも、私も楽しかった……!」
「……!」
「自分の知ってる物とか、場所が無くなっちゃったり変わっちゃったりするのは寂しいことだと思うけど」
「でも、新しい物もこんなに楽しいで溢れてる。私は、君にそれを知ってもらいたかったんだ」
「お姉ちゃん……」
「いやぁ。良いこと言うっすね」
「うわっ!?」
突然、背後から男の声が聞こえ飛び上がって驚く風子。声の正体は、付喪神神であった。
「ちょ、ちょっと! 突然出て来ないでよ!!」
「す、すんませんっす……。タイミングが分からなくて……」
付喪神神は風子に頭を下げると、隣に座っているラジオのことをジロジロと見回し始めた。ラジオは落ち着かない様子で、ただただ付喪神神の怪しい視線に耐えている……。
「うん! 良い感じに安定してきたっすね……! これなら付喪神としてやっていけそうっす」
「よ、良かったぁ……!」
ラジオを救うことが出来て安堵の溜め息を漏らす風子。すると付喪神神は、おもむろに乗ってきていた軽トラの荷台にラジオを持ち上げ乗せた。
「それでは、この子は俺が責任を持って付喪神の国へ送り届けるっす」
「お、お姉ちゃ~ん……」
「だ、大丈夫。そのお兄さん、悪い人じゃないから……たぶん」
荷台に乗せられ涙目で風子を見つめるラジオ。そのシュールな絵面に風子の不安はぶり返していた……。
「お世話になりましたっす。これはバイト代っす」
「えっ!? いや私そんなつもりじゃ……」
風子に茶封筒を差し出す付喪神神。風子はぶんぶんと両手を振って封筒を拒もうとするが、付喪神神は強引にその手に封筒を握らせた。
「お手伝いしてもらっておいてタダ働きなんて、そんなの廃品回収業者の名が泣くっす」
(神の名じゃなくて廃品回収業者の名が泣くのか……)
「そんじゃ、次困った時もどうかよろしくお願いしますっす」
「あ、それが目的か……」
「あははは」
笑って誤魔化す付喪神神。彼は軽トラに乗り込むとエンジンを吹かし始めた。
「巫女さん。今日は本当にありがとうございましたっす」
「巫女じゃなくて風舞風子」
「あ、これは失礼しましたっす。じゃ、ついでに自分のことはツクモとでも呼んでくださいっす」
付喪神神改めツクモは、晴れやかな笑顔で手を振りながら軽トラを発進させた。荷台では、ラジオが涙目で風子を見つめたままだった……。
「……あれ本当に大丈夫か?」
風子は不安な表情で、子供を乗せた不審な軽トラのことを見送っていた……。
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