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第71話 食前酒で乾杯
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ドナーテル夫妻と、息子と娘の四人が店内に入ってきてテーブル席に着いたので、カイルが席まで挨拶にいった。
「いらっしゃいませ、本日はようこそおいでくださいました、この店にはメニューがございませんので、お好みをおっしゃっていただければ、それに沿ったものをお出し致します、ご希望をお申しつけ下さい。
又、本日のお勧めといたしまして、コース料理もご用意しておりますが、いかがいたしましょうか?」
「ふうむ、では、そのコース料理というのをいただこうかな、特に好き嫌いはないのだが、ミノタウロスのステーキをカイル様のお屋敷でいただいた時に大変美味だったことを、何度も話をしてしまったのでな、それがいただけるのであれば、お願いしたいのだが、どうだろうか?」
「かしこまりました、ドナーテル様がカイル様のお屋敷で召し上がられたミノタウロスのステーキでございますね、ご用意出来ますので、お待ちくださいませ。他には何かご希望はございますか?」
お目当てのステーキが食べれると聞き、子供達と妻が嬉しそうに顔を見合わせ目を輝かせている。
「いや、特にはないがお前たちは何か希望があるか?」
「急に言われてもな、俺達は試食会もお屋敷での食事もいただいてないから、何がいいのかなんてわからないよ、お店のお任せでいいんじゃないかな」
「そうよ、お父様しか美味しいお食事を味わっていないのですもの、選べないわよ」
娘にいたずらっぽく睨まれては、苦笑するしかないドナーテルだった。
「そうね、だからこそお父様はかなり早くからこの店に来られるよう依頼をかけてくださってたのよ、あなた達を連れてきたかったらね、この街のお食事は美味しいのですから、お父様にお任せしましょう」
「一番は子供達より、妻であるお前と一緒に来たかったのだよ」
「はいはい、お父様のお母様好きは、良ーくわかってますよ、私達はついででも全然かまわないわ、ね、お兄様」
微笑ましい家族のやり取りをききながら、厨房に戻ってきたカイル、さてと、準備にとりかかろうとしたら、ドナーテルさんがカウンター越しに声をかけてきた。
「ご店主、ちょっとよろしいかな?」
「はい、なんでしょうか」
「私がお屋敷でいただいた、ステーキがどのようなものかご存じなのかな?」
「はい、カイル様からレシピも教わっておりますので、ご安心下さい」
「そうですか、ではお任せいたします」
なんだろう、そんなに美味しかったのかな? それはそれで嬉しいけど同じ俺が作るから安心していいよ。
「では、お館様、先日と同じようなもてなしを期待しておりますぞ」
はい? なんで、どうしてばれた? カウンター席のナナミ達もびっくりしてドナーテルさんの顔を見ている。
「これしきで、驚きが顔に出てしまうようでは、まだまだですな、姿がどれだけ変わってもお声が元のままですぞ」
にやりと渋い笑いを残しながら、席に戻るドナーテル、前世の年齢と足してもまだ子供のようなカイルではドナーテルにいいようにあしらわれてしまったようだ。
この国で五本の指に入るであろう、大商人のドナーテルの目はまだまだ鋭い。
姿替えの魔法は、かなりの高度な術式と魔力量がいるときいているが、お館様の魔力量はいかほどのものなのだろうか、その膨大な魔力量を使ってまで、このような店を始められるとは何をお考えになられているのか、まことに興味が尽きぬ御方であられるな。
顔がにやけそうになりながら、ドナーテルが席に戻りしばらくすると、アリサが二組目のお客様が来店した。
「いらっしゃいませ」
アリサが二組目のお客様をテーブルに案内し、若い冒険者とその連れの女性が椅子に座る。
カイルが同じように挨拶をするが、若い冒険者ヴィルドは、もじもじとして、どこか落ち着かない、初めてのデートでちょっと緊張してるのかな? ミハルから既に情報を仕入れていたカイルは前世が30オーバーなので、微笑ましくその様子を見て返事を待っている。
ヴィルドは緊張もしていたが、店内の客層を見て、場違いなところに来てしまったのではないか、果たして持ち金で足りるのだろうかと、メニュー表が無い事にかなり不安になっていたのだ。
「あ、あの、俺は、こんな店に来るのは初めてなんで、良くわからないし、その、あ、あんまり持ち金も無いんで……」
ああ、もう一組がドナーテルさん達で、カウンターにいるのも、シンさん、サファイルさん、ナナミも(黙ってれば)上流階級って感じの見た目だしな、ミハルは、まあ、あれだ、なんていうか、異次元キャラ? 今日の衣装はゴスロリチックな衣装でピンク髪をツインテールにしている。
前世では、コスプレにもはまっていたらしいが、この世界でそのコスチュームは異常に目立つ! が、オタク道に信念を持つミハルには何を言っても無駄なのだ、今生こそは死ぬ時に「我が人生に一片の悔いなし!」と言って、死ぬ目標を立てているらしい。
うーん、確かに客層濃いよね。
「お客様、ここは居酒屋なのでコース料理もありますが、予算をおっしゃていただければ、そちらでご用意させていただきますので、ご安心下さい、もちろん、一品料理でも大丈夫ですよ」
「えっ、ここって居酒屋なの?」
「はい、そうです、庶民の味方、美味しいものをお手軽に楽しんでいただく居酒屋です」
「えっ、でも、」
「居酒屋です!」
そこは、曲げないからな! ここは居酒屋!
高級レストランじゃないからな!
「そうですね、飲み物は銀貨5~6枚程、お食事も一皿で純銀貨で1枚程度、軽いおつまみでしたら銀貨3枚程ですから、御一人様、純銀貨5枚程あれば十分にお召し上がりいただけますよ」
「その程度でいいんですか? 俺、金貨2~3枚位で済めばいいなあ、と思ってたんですけど」
「ドナーテル様には、ミノタウロスのステーキのコース料理をお選びいただきましたので、そちらですと御一人様、純銀貨5枚程になりますね、お客様はいかがなされますか?」
「じゃ、じゃあ、こっちもそれでお願いします」
「かしこまりました、お嫌いなものとか、食べてみたいものはございますか?」
「別に、俺は特には無いけど、 マリーナは何かある?」
「ううん、私も特に好き嫌いはないので大丈夫よ、楽しみね」
「そうだね、あっ、そうだ、じゃあ、彼女の喜びそうなものでお願いします!」」
「それ、無茶ぶりじゃないの、ふふっ」
「かしこまりました、では、女性の方にも飲みやすい食前酒はいかがですか?」
「お願いします!」
運ばれてきたカクテルは、アップルタイザーにシャンパンを少し加え、見た目は淡く透き通るゴールドにふつふつと炭酸がはじける様が美しい飲み物だった。
「どうぞ、こちらはリゴーネの果実水にこのダンジョンで作られた弾けるような口当たりの炭酸というものを加え、発砲したワインを少しだけ入れてあります。初めての口当たりとなりますでしょうから、最初はゆっくりとお飲み下さい」
淡く色づいた液体の中で、立ち上る気泡をしばらく見つめて、言われたとおりにゆっくりと口に含むマリーナ。
「美味しい! とても綺麗だし酒精もきつくないのでとても飲みやすいわ!」
マリーナの笑顔にようやく肩の力を抜いたヴァイスも口に含む。
「本当だ、すごく飲みやすいし、おいしいね」
それを見ていたドナーテルの娘が堪らず、父にお願いする。
「お父様、私もあれを飲んでみたいわ、ねえ、よろしいでしょう」
娘の食いつきっぷりにやや苦笑しながら、ドナーテルが自分達のテーブルにも同じものを四つと注文し、すぐに運ばれてきた。
「まあ、リゴーネにこんな飲み方があったなんて知らなかったわ」
「本当に、爽やかでほのかな甘みと、この弾けるような口当たりがとても合うわね」
「王都でも、こんな飲みものは味わえないな」
「私には酒精が軽すぎるようだが、確かに女性には好まれそうだな、だが、このような飲み物があるのならば先に勧めてくれても良かったのではないかな?」
「これは、あちらのお客様がお連れ様が喜ぶようなものをとのご注文をいただきましたので、お出ししたものです、女性方に好まれるような飲み物をとご注文いただければ、同じようにご希望に沿ったものをご提供させていただきます」
「なるほど、気が回らない私が悪かったということか?」
また、にやりとドナーテルが笑う。
「いいえ、ただ、今回はあちらの方が、女性の方に喜んで欲しいと思ったことが思わずそのまま言葉になったようですよ、マナーや気遣いというよりも純粋な想いが勝ったというところでしょうか」
そう言われて、隣のテーブルを見ると楽しそうにグラスを傾ける二人の姿が映り、ドナーテルは目立たぬように二人に向けグラスを持ち上げて、半分程を一気に飲み干した。
「いらっしゃいませ、本日はようこそおいでくださいました、この店にはメニューがございませんので、お好みをおっしゃっていただければ、それに沿ったものをお出し致します、ご希望をお申しつけ下さい。
又、本日のお勧めといたしまして、コース料理もご用意しておりますが、いかがいたしましょうか?」
「ふうむ、では、そのコース料理というのをいただこうかな、特に好き嫌いはないのだが、ミノタウロスのステーキをカイル様のお屋敷でいただいた時に大変美味だったことを、何度も話をしてしまったのでな、それがいただけるのであれば、お願いしたいのだが、どうだろうか?」
「かしこまりました、ドナーテル様がカイル様のお屋敷で召し上がられたミノタウロスのステーキでございますね、ご用意出来ますので、お待ちくださいませ。他には何かご希望はございますか?」
お目当てのステーキが食べれると聞き、子供達と妻が嬉しそうに顔を見合わせ目を輝かせている。
「いや、特にはないがお前たちは何か希望があるか?」
「急に言われてもな、俺達は試食会もお屋敷での食事もいただいてないから、何がいいのかなんてわからないよ、お店のお任せでいいんじゃないかな」
「そうよ、お父様しか美味しいお食事を味わっていないのですもの、選べないわよ」
娘にいたずらっぽく睨まれては、苦笑するしかないドナーテルだった。
「そうね、だからこそお父様はかなり早くからこの店に来られるよう依頼をかけてくださってたのよ、あなた達を連れてきたかったらね、この街のお食事は美味しいのですから、お父様にお任せしましょう」
「一番は子供達より、妻であるお前と一緒に来たかったのだよ」
「はいはい、お父様のお母様好きは、良ーくわかってますよ、私達はついででも全然かまわないわ、ね、お兄様」
微笑ましい家族のやり取りをききながら、厨房に戻ってきたカイル、さてと、準備にとりかかろうとしたら、ドナーテルさんがカウンター越しに声をかけてきた。
「ご店主、ちょっとよろしいかな?」
「はい、なんでしょうか」
「私がお屋敷でいただいた、ステーキがどのようなものかご存じなのかな?」
「はい、カイル様からレシピも教わっておりますので、ご安心下さい」
「そうですか、ではお任せいたします」
なんだろう、そんなに美味しかったのかな? それはそれで嬉しいけど同じ俺が作るから安心していいよ。
「では、お館様、先日と同じようなもてなしを期待しておりますぞ」
はい? なんで、どうしてばれた? カウンター席のナナミ達もびっくりしてドナーテルさんの顔を見ている。
「これしきで、驚きが顔に出てしまうようでは、まだまだですな、姿がどれだけ変わってもお声が元のままですぞ」
にやりと渋い笑いを残しながら、席に戻るドナーテル、前世の年齢と足してもまだ子供のようなカイルではドナーテルにいいようにあしらわれてしまったようだ。
この国で五本の指に入るであろう、大商人のドナーテルの目はまだまだ鋭い。
姿替えの魔法は、かなりの高度な術式と魔力量がいるときいているが、お館様の魔力量はいかほどのものなのだろうか、その膨大な魔力量を使ってまで、このような店を始められるとは何をお考えになられているのか、まことに興味が尽きぬ御方であられるな。
顔がにやけそうになりながら、ドナーテルが席に戻りしばらくすると、アリサが二組目のお客様が来店した。
「いらっしゃいませ」
アリサが二組目のお客様をテーブルに案内し、若い冒険者とその連れの女性が椅子に座る。
カイルが同じように挨拶をするが、若い冒険者ヴィルドは、もじもじとして、どこか落ち着かない、初めてのデートでちょっと緊張してるのかな? ミハルから既に情報を仕入れていたカイルは前世が30オーバーなので、微笑ましくその様子を見て返事を待っている。
ヴィルドは緊張もしていたが、店内の客層を見て、場違いなところに来てしまったのではないか、果たして持ち金で足りるのだろうかと、メニュー表が無い事にかなり不安になっていたのだ。
「あ、あの、俺は、こんな店に来るのは初めてなんで、良くわからないし、その、あ、あんまり持ち金も無いんで……」
ああ、もう一組がドナーテルさん達で、カウンターにいるのも、シンさん、サファイルさん、ナナミも(黙ってれば)上流階級って感じの見た目だしな、ミハルは、まあ、あれだ、なんていうか、異次元キャラ? 今日の衣装はゴスロリチックな衣装でピンク髪をツインテールにしている。
前世では、コスプレにもはまっていたらしいが、この世界でそのコスチュームは異常に目立つ! が、オタク道に信念を持つミハルには何を言っても無駄なのだ、今生こそは死ぬ時に「我が人生に一片の悔いなし!」と言って、死ぬ目標を立てているらしい。
うーん、確かに客層濃いよね。
「お客様、ここは居酒屋なのでコース料理もありますが、予算をおっしゃていただければ、そちらでご用意させていただきますので、ご安心下さい、もちろん、一品料理でも大丈夫ですよ」
「えっ、ここって居酒屋なの?」
「はい、そうです、庶民の味方、美味しいものをお手軽に楽しんでいただく居酒屋です」
「えっ、でも、」
「居酒屋です!」
そこは、曲げないからな! ここは居酒屋!
高級レストランじゃないからな!
「そうですね、飲み物は銀貨5~6枚程、お食事も一皿で純銀貨で1枚程度、軽いおつまみでしたら銀貨3枚程ですから、御一人様、純銀貨5枚程あれば十分にお召し上がりいただけますよ」
「その程度でいいんですか? 俺、金貨2~3枚位で済めばいいなあ、と思ってたんですけど」
「ドナーテル様には、ミノタウロスのステーキのコース料理をお選びいただきましたので、そちらですと御一人様、純銀貨5枚程になりますね、お客様はいかがなされますか?」
「じゃ、じゃあ、こっちもそれでお願いします」
「かしこまりました、お嫌いなものとか、食べてみたいものはございますか?」
「別に、俺は特には無いけど、 マリーナは何かある?」
「ううん、私も特に好き嫌いはないので大丈夫よ、楽しみね」
「そうだね、あっ、そうだ、じゃあ、彼女の喜びそうなものでお願いします!」」
「それ、無茶ぶりじゃないの、ふふっ」
「かしこまりました、では、女性の方にも飲みやすい食前酒はいかがですか?」
「お願いします!」
運ばれてきたカクテルは、アップルタイザーにシャンパンを少し加え、見た目は淡く透き通るゴールドにふつふつと炭酸がはじける様が美しい飲み物だった。
「どうぞ、こちらはリゴーネの果実水にこのダンジョンで作られた弾けるような口当たりの炭酸というものを加え、発砲したワインを少しだけ入れてあります。初めての口当たりとなりますでしょうから、最初はゆっくりとお飲み下さい」
淡く色づいた液体の中で、立ち上る気泡をしばらく見つめて、言われたとおりにゆっくりと口に含むマリーナ。
「美味しい! とても綺麗だし酒精もきつくないのでとても飲みやすいわ!」
マリーナの笑顔にようやく肩の力を抜いたヴァイスも口に含む。
「本当だ、すごく飲みやすいし、おいしいね」
それを見ていたドナーテルの娘が堪らず、父にお願いする。
「お父様、私もあれを飲んでみたいわ、ねえ、よろしいでしょう」
娘の食いつきっぷりにやや苦笑しながら、ドナーテルが自分達のテーブルにも同じものを四つと注文し、すぐに運ばれてきた。
「まあ、リゴーネにこんな飲み方があったなんて知らなかったわ」
「本当に、爽やかでほのかな甘みと、この弾けるような口当たりがとても合うわね」
「王都でも、こんな飲みものは味わえないな」
「私には酒精が軽すぎるようだが、確かに女性には好まれそうだな、だが、このような飲み物があるのならば先に勧めてくれても良かったのではないかな?」
「これは、あちらのお客様がお連れ様が喜ぶようなものをとのご注文をいただきましたので、お出ししたものです、女性方に好まれるような飲み物をとご注文いただければ、同じようにご希望に沿ったものをご提供させていただきます」
「なるほど、気が回らない私が悪かったということか?」
また、にやりとドナーテルが笑う。
「いいえ、ただ、今回はあちらの方が、女性の方に喜んで欲しいと思ったことが思わずそのまま言葉になったようですよ、マナーや気遣いというよりも純粋な想いが勝ったというところでしょうか」
そう言われて、隣のテーブルを見ると楽しそうにグラスを傾ける二人の姿が映り、ドナーテルは目立たぬように二人に向けグラスを持ち上げて、半分程を一気に飲み干した。
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