57 / 79
第57話 祭りの後
しおりを挟む
「さあ、みんな待たせたわね、最後の勝負にふさわしいとっておきのお酒を用意したわよ。」
なんだ、あの丸い樽は? あれが酒なのか? 初めて見るぞ、どうやって飲むんだ?
「これはこのダンジョンでしか飲むことの出来ないお酒、”タルザケ”という酒神の恵みなのよ。」
会場がどよめき、ますますいい気になったナナミは気持ち良さそうに口上を続ける。
「味わいは深く豊潤にして、キレのある、あと口と香り高いこの酒は、正に至高の一品! 神の名を宿すにふさわしい!」
・・・・・ナナミ、いつから、日本の樽酒が酒神の恵みになったんだよ? しかも取って付けたような説明で、・・・なんか受けてるし。
いつの間にか、木槌を抱えてナナミの横に立つのは、ヨコヅナくんか?
猫又達は、さり気なく、抜かりなく、控えめだけど、優秀なのだ。
「さあ、両陣営の勇者は、前に!」
おおおおおっ、スゲー勝負だ、今日ここに来れて良かったぜ! ホントだよな、めったに見れねーよ、こんな試合、 会場のテンションは高まっていく。
武闘会じゃあるまいし、なんなんだよ、この盛り上がりは・・・・・・・・・・
ただ、一人を除いてだが。
今では、顔を赤らめた商人達も集まり始め、会場の注目はこの場に集まっている。
負けるなよ、負けたら一週間、酒飲ませねーぞ、 応援とも野次ともつかない言葉が飛び交い、ドワーフからは、長老のガンドック、蛇人族からは、サファイルの息子、イブルがテーブルに着き、ナナミが木槌でカッコーン、と気持ちのいい音を立て樽酒の封を空けた。
「用意、始め!」
掛け声とともに、ガッと樽酒を抱え込み、両社ともに豪快に持ち上げて、ゴキュ、ゴキュ、ゴキュ と軽快に喉が動き、飲み干していく。
ほぼ同時かと思えたが、体格の差か、一度息継ぎをしたドワーフよりも、一息に飲み干した蛇人族のイブルのほうが早かった。
「いやあ、負けてしもうたわい、 年には勝てんな、」
とカラカラと陽気に笑うガンドックに、
「単に体格の差でしょうな、私のほうがこれだけ体が大きいのに、ほんのひと息しか違わなかったではないか、真の勝者は、そなたであろう。」
とガンドックの手を高々とあげて、勝利を称える二人に会場中から拍手が沸き起こっている。
「ここは、我らドワーフの間では、伝説の鍛冶師と言われる、ボルディアンの住居だったのじゃ、ここでこのような善き酒に出会えるとは、何かの導きでもあるのかもしれぬな。」
「そうであったのか、我らも始祖様の導きによりこの地に参ったのじゃ、お主の言うように縁があるやもしれぬ、よろしく頼む。」
「こちらこそじゃ。」
ガシッ、と固い握手が交わされ、再び拍手が沸き起こる。
・・・・もう、思い悩むのはやめよう、事態は既に俺の手を離れている、あるがままに受け入れろ、オレ、・・・結果良ければ全てよし、・・・・・そうだ、結果オーライじゃないか。
この地に暮らすドワーフと蛇人族が仲良くなるのは、良いことなのだから、そう、自分に言い聞かせていると、シンさんが近づいてきた。
「主様、ドワーフと蛇人族の距離が近くなったようですな、日常ではあまり交わることはないやもしれませぬが、頑固なドワーフとプライドの高い蛇人族があのように、楽し気に一緒に居るなど、主様のご威光のおかげです。」
「オレは、何もしてないよ、役に立ったのは樽酒とナナミじゃね? 」
「この試食会を執り行ったのは、主様ではありませぬか? このような場所が無ければ両者は別々に暮らすだけであったかと思われます、改めて、主様のご慧眼、ご明察に感服いたします。」
「本当よね、イブルが役に立ったようで良かったわ、ねえ、ご主人様、」
いつの間にか、サファイルさんも近くにきていて、・・近いから・・・顔、胸も押し付けないで下さいね、・・ちょっと、・・どこ触ってんですか・・。
「サファイル、はしたない真似をするでない。」
シンさんが、・・・・・・まともだ。
「んん、ちょっと、お酒に酔っちゃたかも・・・」
酔う訳ないですよね、樽酒一気飲みする方のお母様でしょ。
「主様にしなだれかかるでないわ、我も我慢しておるのじゃ、それに、ナナミが言っておったじゃろう? 主様にはグイグイ責めるより、雰囲気を作ってその気にさせるほうが効果的だと。」
何言ってんの? いや、教育的指導がおかしくない?
そもそも、根本がずれてるよね、 ・・・・・それでも前よりはマシだと思えばいいのか?
ともあれ、試食会は大盛況のうちに終了した。
冒険者ギルドは、食材メインのダンジョンではあまり稼げないかも・・・と、やや下向きに寄りがちだった気持ちも大分持ち直したし、商人達は、既に皮算用をはじき、利が出ると睨み、商人ギルドを通じて、買い付けをどのようにするか、相談している。
余談になるが、煮卵はこの地の名物となり、おにぎりはドワーフ達が仕事の合間に食べるのが静かなブームとなっていた、片手で食べられ、パンよりも腹持ちがいいと評判らしい。
煮卵は常温でも数日待つし、大量に作っても蛇人族が喜んで買っていくので、全部買われないよう制限をかけなければいけない程だったので、ゆで卵でもいいんじゃないかと思ったカイルがシンさんに聞いてみたら、全然違うものだと言われてしまった。
居酒屋を経営しているカールとアリス、元冒険者のニールはカイルの屋敷で料理人として雇われることになり、カールの妻のネーシュも移り住むために準備をしている。
そして、一週間後に、ダンジョンの階層が大幅に変更されるであろうと、カイルから冒険者ギルドに知らせが入り、ギルマスのアダムは、アリサの笑顔の監視下に置かれて、もっと楽な仕事のはずだったのにとのぼやきは、誰にも届かない。
なんだ、あの丸い樽は? あれが酒なのか? 初めて見るぞ、どうやって飲むんだ?
「これはこのダンジョンでしか飲むことの出来ないお酒、”タルザケ”という酒神の恵みなのよ。」
会場がどよめき、ますますいい気になったナナミは気持ち良さそうに口上を続ける。
「味わいは深く豊潤にして、キレのある、あと口と香り高いこの酒は、正に至高の一品! 神の名を宿すにふさわしい!」
・・・・・ナナミ、いつから、日本の樽酒が酒神の恵みになったんだよ? しかも取って付けたような説明で、・・・なんか受けてるし。
いつの間にか、木槌を抱えてナナミの横に立つのは、ヨコヅナくんか?
猫又達は、さり気なく、抜かりなく、控えめだけど、優秀なのだ。
「さあ、両陣営の勇者は、前に!」
おおおおおっ、スゲー勝負だ、今日ここに来れて良かったぜ! ホントだよな、めったに見れねーよ、こんな試合、 会場のテンションは高まっていく。
武闘会じゃあるまいし、なんなんだよ、この盛り上がりは・・・・・・・・・・
ただ、一人を除いてだが。
今では、顔を赤らめた商人達も集まり始め、会場の注目はこの場に集まっている。
負けるなよ、負けたら一週間、酒飲ませねーぞ、 応援とも野次ともつかない言葉が飛び交い、ドワーフからは、長老のガンドック、蛇人族からは、サファイルの息子、イブルがテーブルに着き、ナナミが木槌でカッコーン、と気持ちのいい音を立て樽酒の封を空けた。
「用意、始め!」
掛け声とともに、ガッと樽酒を抱え込み、両社ともに豪快に持ち上げて、ゴキュ、ゴキュ、ゴキュ と軽快に喉が動き、飲み干していく。
ほぼ同時かと思えたが、体格の差か、一度息継ぎをしたドワーフよりも、一息に飲み干した蛇人族のイブルのほうが早かった。
「いやあ、負けてしもうたわい、 年には勝てんな、」
とカラカラと陽気に笑うガンドックに、
「単に体格の差でしょうな、私のほうがこれだけ体が大きいのに、ほんのひと息しか違わなかったではないか、真の勝者は、そなたであろう。」
とガンドックの手を高々とあげて、勝利を称える二人に会場中から拍手が沸き起こっている。
「ここは、我らドワーフの間では、伝説の鍛冶師と言われる、ボルディアンの住居だったのじゃ、ここでこのような善き酒に出会えるとは、何かの導きでもあるのかもしれぬな。」
「そうであったのか、我らも始祖様の導きによりこの地に参ったのじゃ、お主の言うように縁があるやもしれぬ、よろしく頼む。」
「こちらこそじゃ。」
ガシッ、と固い握手が交わされ、再び拍手が沸き起こる。
・・・・もう、思い悩むのはやめよう、事態は既に俺の手を離れている、あるがままに受け入れろ、オレ、・・・結果良ければ全てよし、・・・・・そうだ、結果オーライじゃないか。
この地に暮らすドワーフと蛇人族が仲良くなるのは、良いことなのだから、そう、自分に言い聞かせていると、シンさんが近づいてきた。
「主様、ドワーフと蛇人族の距離が近くなったようですな、日常ではあまり交わることはないやもしれませぬが、頑固なドワーフとプライドの高い蛇人族があのように、楽し気に一緒に居るなど、主様のご威光のおかげです。」
「オレは、何もしてないよ、役に立ったのは樽酒とナナミじゃね? 」
「この試食会を執り行ったのは、主様ではありませぬか? このような場所が無ければ両者は別々に暮らすだけであったかと思われます、改めて、主様のご慧眼、ご明察に感服いたします。」
「本当よね、イブルが役に立ったようで良かったわ、ねえ、ご主人様、」
いつの間にか、サファイルさんも近くにきていて、・・近いから・・・顔、胸も押し付けないで下さいね、・・ちょっと、・・どこ触ってんですか・・。
「サファイル、はしたない真似をするでない。」
シンさんが、・・・・・・まともだ。
「んん、ちょっと、お酒に酔っちゃたかも・・・」
酔う訳ないですよね、樽酒一気飲みする方のお母様でしょ。
「主様にしなだれかかるでないわ、我も我慢しておるのじゃ、それに、ナナミが言っておったじゃろう? 主様にはグイグイ責めるより、雰囲気を作ってその気にさせるほうが効果的だと。」
何言ってんの? いや、教育的指導がおかしくない?
そもそも、根本がずれてるよね、 ・・・・・それでも前よりはマシだと思えばいいのか?
ともあれ、試食会は大盛況のうちに終了した。
冒険者ギルドは、食材メインのダンジョンではあまり稼げないかも・・・と、やや下向きに寄りがちだった気持ちも大分持ち直したし、商人達は、既に皮算用をはじき、利が出ると睨み、商人ギルドを通じて、買い付けをどのようにするか、相談している。
余談になるが、煮卵はこの地の名物となり、おにぎりはドワーフ達が仕事の合間に食べるのが静かなブームとなっていた、片手で食べられ、パンよりも腹持ちがいいと評判らしい。
煮卵は常温でも数日待つし、大量に作っても蛇人族が喜んで買っていくので、全部買われないよう制限をかけなければいけない程だったので、ゆで卵でもいいんじゃないかと思ったカイルがシンさんに聞いてみたら、全然違うものだと言われてしまった。
居酒屋を経営しているカールとアリス、元冒険者のニールはカイルの屋敷で料理人として雇われることになり、カールの妻のネーシュも移り住むために準備をしている。
そして、一週間後に、ダンジョンの階層が大幅に変更されるであろうと、カイルから冒険者ギルドに知らせが入り、ギルマスのアダムは、アリサの笑顔の監視下に置かれて、もっと楽な仕事のはずだったのにとのぼやきは、誰にも届かない。
0
お気に入りに追加
246
あなたにおすすめの小説
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
神々に天界に召喚され下界に追放された戦場カメラマンは神々に戦いを挑む。
黒ハット
ファンタジー
戦場カメラマンの北村大和は,異世界の神々の戦の戦力として神々の召喚魔法で特殊部隊の召喚に巻き込まれてしまい、天界に召喚されるが神力が弱い無能者の烙印を押され、役に立たないという理由で異世界の人間界に追放されて冒険者になる。剣と魔法の力をつけて人間を玩具のように扱う神々に戦いを挑むが果たして彼は神々に勝てるのだろうか
猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る
マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・
何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。
異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。
ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。
断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。
勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。
ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。
勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。
プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。
しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。
それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。
そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。
これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
初期スキルが便利すぎて異世界生活が楽しすぎる!
霜月雹花
ファンタジー
神の悪戯により死んでしまった主人公は、別の神の手により3つの便利なスキルを貰い異世界に転生する事になった。転生し、普通の人生を歩む筈が、又しても神の悪戯によってトラブルが起こり目が覚めると異世界で10歳の〝家無し名無し〟の状態になっていた。転生を勧めてくれた神からの手紙に代償として、希少な力を受け取った。
神によって人生を狂わされた主人公は、異世界で便利なスキルを使って生きて行くそんな物語。
書籍8巻11月24日発売します。
漫画版2巻まで発売中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる