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第57話 祭りの後

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「さあ、みんな待たせたわね、最後の勝負にふさわしいとっておきのお酒を用意したわよ。」

 なんだ、あの丸い樽は? あれが酒なのか?  初めて見るぞ、どうやって飲むんだ?

「これはこのダンジョンでしか飲むことの出来ないお酒、”タルザケ”という酒神クヴァシルの恵みなのよ。」

 会場がどよめき、ますますいい気になったナナミは気持ち良さそうに口上を続ける。

「味わいは深く豊潤にして、キレのある、あと口と香り高いこの酒は、正に至高の一品! 神の名を宿すにふさわしい!」

 ・・・・・ナナミ、いつから、日本の樽酒が酒神クヴァシルの恵みになったんだよ?  しかも取って付けたような説明で、・・・なんか受けてるし。

 いつの間にか、木槌を抱えてナナミの横に立つのは、ヨコヅナくんか?  
 猫又達は、さり気なく、抜かりなく、控えめだけど、優秀なのだ。

「さあ、両陣営の勇者は、前に!」

 おおおおおっ、スゲー勝負だ、今日ここに来れて良かったぜ! ホントだよな、めったに見れねーよ、こんな試合、 会場のテンションは高まっていく。

 武闘会じゃあるまいし、なんなんだよ、この盛り上がりは・・・・・・・・・・
ただ、一人を除いてだが。

 今では、顔を赤らめた商人達も集まり始め、会場の注目はこの場に集まっている。

 負けるなよ、負けたら一週間、酒飲ませねーぞ、 応援とも野次ともつかない言葉が飛び交い、ドワーフからは、長老のガンドック、蛇人族からは、サファイルの息子、イブルがテーブルに着き、ナナミが木槌でカッコーン、と気持ちのいい音を立て樽酒の封を空けた。

「用意、始め!」

 掛け声とともに、ガッと樽酒を抱え込み、両社ともに豪快に持ち上げて、ゴキュ、ゴキュ、ゴキュ と軽快に喉が動き、飲み干していく。

 ほぼ同時かと思えたが、体格の差か、一度息継ぎをしたドワーフよりも、一息に飲み干した蛇人族のイブルのほうが早かった。

「いやあ、負けてしもうたわい、 年には勝てんな、」  
 とカラカラと陽気に笑うガンドックに、

「単に体格の差でしょうな、私のほうがこれだけ体が大きいのに、ほんのひと息しか違わなかったではないか、真の勝者は、そなたであろう。」

 とガンドックの手を高々とあげて、勝利を称える二人に会場中から拍手が沸き起こっている。

「ここは、我らドワーフの間では、伝説の鍛冶師と言われる、ボルディアンの住居だったのじゃ、ここでこのような善き酒に出会えるとは、何かの導きでもあるのかもしれぬな。」

「そうであったのか、我らも始祖様の導きによりこの地に参ったのじゃ、お主の言うように縁があるやもしれぬ、よろしく頼む。」

「こちらこそじゃ。」

 ガシッ、と固い握手が交わされ、再び拍手が沸き起こる。

 ・・・・もう、思い悩むのはやめよう、事態は既に俺の手を離れている、あるがままに受け入れろ、オレ、・・・結果良ければ全てよし、・・・・・そうだ、結果オーライじゃないか。

 この地に暮らすドワーフと蛇人族が仲良くなるのは、良いことなのだから、そう、自分に言い聞かせていると、シンさんが近づいてきた。

「主様、ドワーフと蛇人族の距離が近くなったようですな、日常ではあまり交わることはないやもしれませぬが、頑固なドワーフとプライドの高い蛇人族があのように、楽し気に一緒に居るなど、主様のご威光のおかげです。」

「オレは、何もしてないよ、役に立ったのは樽酒とナナミじゃね? 」

「この試食会を執り行ったのは、主様ではありませぬか? このような場所が無ければ両者は別々に暮らすだけであったかと思われます、改めて、主様のご慧眼、ご明察に感服いたします。」

「本当よね、イブルが役に立ったようで良かったわ、ねえ、ご主人様、」

 いつの間にか、サファイルさんも近くにきていて、・・近いから・・・顔、胸も押し付けないで下さいね、・・ちょっと、・・どこ触ってんですか・・。

「サファイル、はしたない真似をするでない。」

 シンさんが、・・・・・・まともだ。  

「んん、ちょっと、お酒に酔っちゃたかも・・・」

 酔う訳ないですよね、樽酒一気飲みする方のお母様でしょ。

「主様にしなだれかかるでないわ、我も我慢しておるのじゃ、それに、ナナミが言っておったじゃろう? 主様にはグイグイ責めるより、雰囲気を作ってその気にさせるほうが効果的だと。」

 何言ってんの?   いや、教育的指導がおかしくない? 
 そもそも、根本がずれてるよね、 ・・・・・それでも前よりはマシだと思えばいいのか?   

 ともあれ、試食会は大盛況のうちに終了した。

 冒険者ギルドは、食材メインのダンジョンではあまり稼げないかも・・・と、やや下向きに寄りがちだった気持ちも大分持ち直したし、商人達は、既に皮算用をはじき、利が出ると睨み、商人ギルドを通じて、買い付けをどのようにするか、相談している。

 余談になるが、煮卵はこの地の名物となり、おにぎりはドワーフ達が仕事の合間に食べるのが静かなブームとなっていた、片手で食べられ、パンよりも腹持ちがいいと評判らしい。

 煮卵は常温でも数日待つし、大量に作っても蛇人族が喜んで買っていくので、全部買われないよう制限をかけなければいけない程だったので、ゆで卵でもいいんじゃないかと思ったカイルがシンさんに聞いてみたら、全然違うものだと言われてしまった。

 居酒屋を経営しているカールとアリス、元冒険者のニールはカイルの屋敷で料理人として雇われることになり、カールの妻のネーシュも移り住むために準備をしている。

 そして、一週間後に、ダンジョンの階層が大幅に変更されるであろうと、カイルから冒険者ギルドに知らせが入り、ギルマスのアダムは、アリサの笑顔の監視下に置かれて、もっと楽な仕事のはずだったのにとのぼやきは、誰にも届かない。


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