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第38話 断罪は心が苦しかった
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「さてと、後片付けしないとね。ハットリくんは、ダイチを呼んできてもらえるかな?」
「お安い御用なのにゃん。」
無駄に後方3回転を決めながら、ダイチを迎えに走っていく。出番がまるで無かったのがちょっぴり寂しかったのだ。
怪我人の手当てをしていると、使用人達も集まりだした。見慣れぬ蛇人や大怪我をしているジェドに驚きながらも、フェルミーナの指示によりてきぱきと動き始める。
ひとまず、怪我人の手当ては屋敷の者たちに任せて、邪魔にならないように一部屋を貸してもらい、そこでダイチ達を待つことにした。
「なあ、そう言えばあの女、あのままでいいのか、アンデッドになるとか言ってなかったか?」
その言葉に、強張った顔でイルガーを見て、無言で部屋を出て行くサイゾーくん、しばらくして部屋に戻り、
「もう、大丈夫なのにゃ、心配いらないのにゃ。」
いい笑顔でサムズアップを決める。
マジで危ないやつだったのか? はったりかと思ってたけど、さっきの引き攣った顔は、マジ、だよな?
元より、上位種族である猫又には、敬意を払ってきたつもりだが、今後は決して逆らわないようにしようと密かに心に誓った。
それからしばらくして、ダイチがやってきたが、まだどうすればいいのか決めかねているようで、強張った表情のまま、ナナミ達が待つ部屋に入ってきた。
「ナナミ、ありがとう、オレ、なんか昨日は寝ちゃったみたいで、さっき起こされてさ、全部、聞いたよ、自分の家のことなのに、何も出来なくて、・・・」
「うん、しょうがないよ、薬で眠らされてたみたいだし、ダイチが一番、命の危険があったから、勝手に私達だけで動いちゃったんだ、こっちこそごめんね。それに、さ、本当はここ、来たくなかったんでしょう?」
「ああ、でも、さすがに全部人任せってわけには、いかないよ。」
くしゃりと笑う、その顔は少しだけ寂しそうに見える。
一度は放り出した貴族としての義務、それに向かい合わなければならないのだ、ナナミや猫又達、ミハル、タイガーヴァイスの面々と一緒に過ごした日々が楽しかっただけに、貴族に戻ることが気が進まないのだ。
だが、甘えた子供のままではいられない、一度深呼吸をして、ゆっくりと目を開けた。
「じゃあ、行ってくるね。」
「どこへ行くの?」
「もちろん家族のところへだよ。」
「ダイチ、いいえ、カイル、あなたがこのシュバーツェン男爵の当主なのよ、あなたが出向くのではなく、あなたの下へ出向くように命じなさい。それが貴族よ。
そして、たとえ相手があなたの家族でも罪を犯したことを忘れてはいけないわ。」
凛としたナナミの言葉には、高位貴族としてのふさわしい立ち振る舞いが自然と身についていた。改めて自分よりも3つ年下の少女を見て思った。
ナナミなのかフレイア様なのか、どちらでもあり、どちらでもないように思えたが、些細なことだと思い直した。自分も前世の記憶を持っている、日本人でもあり、アスガルド人でもあるのだから。
呼び鈴を鳴らし、メイドを呼んだ。
すぐにメイドがやってきて、カイルの顔を見て、はっとした顔をしたが、すぐに表情を戻し、かしこまりました、お待ち下さいませ。と一礼して下がって行った。
部屋の中には、カイル、そのすぐ後ろにナナミ、壁際にイルガー、ドローウィッシュ、猫又達が並んでいる。会話の流れを読んで、無言でただ、控えていた。
ほどなくして、ノックの音が聞こえ、入ってくるように伝える。
青ざめたフェルミーナと、手当てを受けたものの傷跡が痛々しいジェフリードだ。
カイルの前に跪き、無言で頭を下げる。
まだ、血が滲む包帯で体を折るジェドを見て、椅子に座るよう勧めたくなるが、ナナミの言葉を思い出しなんとかこらえた。
「お義母様、ジェド、久しぶりですね。」
2人から返る言葉も無く、カイルもかける言葉が見つからず、沈黙が続く。
意を決したように、ジェドが顔を上げた。
「義兄上、この度の事、誠に申し訳ございませんでした。どうか、相当の処分をお願いいたします。ただ、叶いますならばどうか、どうか、母の命だけは・・・」
言葉を詰まらせながら、傷ついた体を不自由そうに体を折り曲げ、母の命乞いをする義弟のジェド、そんな姿を見たかったんじゃない、そう、声をかけたいのに、うまく言葉が出てこない。
「カイル様、暗示をかけられていたとはいえ、お命に手を掛けようとしたのはジェドではなく、この私です。
私が申しあげるのも僭越(せんえつ)ではありましょうが、ジェドは幼い頃よりカイル様をお慕い申し上げ、エリナの暗示があっても決して、カイル様に仇なすような真似はいたしませんでした。
どうか、どうか、ジェドにお慈悲を、お願い申しあげます。」
ポロポロと涙を零し、その場にひれ伏し子の命乞いをする義母、フェルミーナ。
静まり帰った部屋の中で、誰もがカイルの言葉を待っていた。
「サイゾー、この二人は呪術にかけられていた、間違いないか?」
「間違いありませんのにゃ。」
「今は、この二人にかけられた呪術は一切無いのか?」
「ありませんのにゃ。屋敷全体にかけられた呪術もあと少しで解呪できますのにゃ。」
サイゾーの代わりにハットリが答えた。
「わかった、二人には今回の責任を取ってもらう。フェルミーナ、貴方は我がシュバーツェン男爵の乗っ取りを企てた、相違ないか?」
「間違い、ござい、ません。」
カイルが初めて、義母を名前で呼んだ。その事に気がついた二人は静かに全てを受け入れた。
せめて潔く罪を償い誇りを失わないことが、カイルに捧げる唯一のものだからと。涙をこらえ、次の言葉を待つ。
「二人共、私に異を唱える事は許さない。よろしいか?」
「「どうぞ、御心のままに。」」
「フェルミーナ・アンガス・フォン・シュバーツェン、並びにジェフリード・アンガス・フォン・シュバーツェン、両名は男爵家乗っ取りを企て、嫡子である私、カイルの殺害未遂の罪により、これより領主代行を命じる。期間は定めない。」
にっこりとカイルが笑って、言葉を続ける。
「ほら、ジェド、早く椅子に座って、あーもう、お義母様もですよ、ほら、早く、怪我人がいつまで床に居るの? ちゃんと罪を償うため、早く体治さないとダメだからね。」
「お安い御用なのにゃん。」
無駄に後方3回転を決めながら、ダイチを迎えに走っていく。出番がまるで無かったのがちょっぴり寂しかったのだ。
怪我人の手当てをしていると、使用人達も集まりだした。見慣れぬ蛇人や大怪我をしているジェドに驚きながらも、フェルミーナの指示によりてきぱきと動き始める。
ひとまず、怪我人の手当ては屋敷の者たちに任せて、邪魔にならないように一部屋を貸してもらい、そこでダイチ達を待つことにした。
「なあ、そう言えばあの女、あのままでいいのか、アンデッドになるとか言ってなかったか?」
その言葉に、強張った顔でイルガーを見て、無言で部屋を出て行くサイゾーくん、しばらくして部屋に戻り、
「もう、大丈夫なのにゃ、心配いらないのにゃ。」
いい笑顔でサムズアップを決める。
マジで危ないやつだったのか? はったりかと思ってたけど、さっきの引き攣った顔は、マジ、だよな?
元より、上位種族である猫又には、敬意を払ってきたつもりだが、今後は決して逆らわないようにしようと密かに心に誓った。
それからしばらくして、ダイチがやってきたが、まだどうすればいいのか決めかねているようで、強張った表情のまま、ナナミ達が待つ部屋に入ってきた。
「ナナミ、ありがとう、オレ、なんか昨日は寝ちゃったみたいで、さっき起こされてさ、全部、聞いたよ、自分の家のことなのに、何も出来なくて、・・・」
「うん、しょうがないよ、薬で眠らされてたみたいだし、ダイチが一番、命の危険があったから、勝手に私達だけで動いちゃったんだ、こっちこそごめんね。それに、さ、本当はここ、来たくなかったんでしょう?」
「ああ、でも、さすがに全部人任せってわけには、いかないよ。」
くしゃりと笑う、その顔は少しだけ寂しそうに見える。
一度は放り出した貴族としての義務、それに向かい合わなければならないのだ、ナナミや猫又達、ミハル、タイガーヴァイスの面々と一緒に過ごした日々が楽しかっただけに、貴族に戻ることが気が進まないのだ。
だが、甘えた子供のままではいられない、一度深呼吸をして、ゆっくりと目を開けた。
「じゃあ、行ってくるね。」
「どこへ行くの?」
「もちろん家族のところへだよ。」
「ダイチ、いいえ、カイル、あなたがこのシュバーツェン男爵の当主なのよ、あなたが出向くのではなく、あなたの下へ出向くように命じなさい。それが貴族よ。
そして、たとえ相手があなたの家族でも罪を犯したことを忘れてはいけないわ。」
凛としたナナミの言葉には、高位貴族としてのふさわしい立ち振る舞いが自然と身についていた。改めて自分よりも3つ年下の少女を見て思った。
ナナミなのかフレイア様なのか、どちらでもあり、どちらでもないように思えたが、些細なことだと思い直した。自分も前世の記憶を持っている、日本人でもあり、アスガルド人でもあるのだから。
呼び鈴を鳴らし、メイドを呼んだ。
すぐにメイドがやってきて、カイルの顔を見て、はっとした顔をしたが、すぐに表情を戻し、かしこまりました、お待ち下さいませ。と一礼して下がって行った。
部屋の中には、カイル、そのすぐ後ろにナナミ、壁際にイルガー、ドローウィッシュ、猫又達が並んでいる。会話の流れを読んで、無言でただ、控えていた。
ほどなくして、ノックの音が聞こえ、入ってくるように伝える。
青ざめたフェルミーナと、手当てを受けたものの傷跡が痛々しいジェフリードだ。
カイルの前に跪き、無言で頭を下げる。
まだ、血が滲む包帯で体を折るジェドを見て、椅子に座るよう勧めたくなるが、ナナミの言葉を思い出しなんとかこらえた。
「お義母様、ジェド、久しぶりですね。」
2人から返る言葉も無く、カイルもかける言葉が見つからず、沈黙が続く。
意を決したように、ジェドが顔を上げた。
「義兄上、この度の事、誠に申し訳ございませんでした。どうか、相当の処分をお願いいたします。ただ、叶いますならばどうか、どうか、母の命だけは・・・」
言葉を詰まらせながら、傷ついた体を不自由そうに体を折り曲げ、母の命乞いをする義弟のジェド、そんな姿を見たかったんじゃない、そう、声をかけたいのに、うまく言葉が出てこない。
「カイル様、暗示をかけられていたとはいえ、お命に手を掛けようとしたのはジェドではなく、この私です。
私が申しあげるのも僭越(せんえつ)ではありましょうが、ジェドは幼い頃よりカイル様をお慕い申し上げ、エリナの暗示があっても決して、カイル様に仇なすような真似はいたしませんでした。
どうか、どうか、ジェドにお慈悲を、お願い申しあげます。」
ポロポロと涙を零し、その場にひれ伏し子の命乞いをする義母、フェルミーナ。
静まり帰った部屋の中で、誰もがカイルの言葉を待っていた。
「サイゾー、この二人は呪術にかけられていた、間違いないか?」
「間違いありませんのにゃ。」
「今は、この二人にかけられた呪術は一切無いのか?」
「ありませんのにゃ。屋敷全体にかけられた呪術もあと少しで解呪できますのにゃ。」
サイゾーの代わりにハットリが答えた。
「わかった、二人には今回の責任を取ってもらう。フェルミーナ、貴方は我がシュバーツェン男爵の乗っ取りを企てた、相違ないか?」
「間違い、ござい、ません。」
カイルが初めて、義母を名前で呼んだ。その事に気がついた二人は静かに全てを受け入れた。
せめて潔く罪を償い誇りを失わないことが、カイルに捧げる唯一のものだからと。涙をこらえ、次の言葉を待つ。
「二人共、私に異を唱える事は許さない。よろしいか?」
「「どうぞ、御心のままに。」」
「フェルミーナ・アンガス・フォン・シュバーツェン、並びにジェフリード・アンガス・フォン・シュバーツェン、両名は男爵家乗っ取りを企て、嫡子である私、カイルの殺害未遂の罪により、これより領主代行を命じる。期間は定めない。」
にっこりとカイルが笑って、言葉を続ける。
「ほら、ジェド、早く椅子に座って、あーもう、お義母様もですよ、ほら、早く、怪我人がいつまで床に居るの? ちゃんと罪を償うため、早く体治さないとダメだからね。」
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