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美月のあ参上!

消えたかれん

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 東江戸川署へ入ると、のんのは何人かの署員から拍手を浴びた。若い署員たちにはド派手なビルからの飛び降りがかっこよかったらしい。
 それが倉橋課長には気に入らないらしい。ますます不機嫌になってゆく。

「おい、山根。さっきの車の中の話、小娘から調書をとっておけ」

 倉橋課長はそれだけ言うと、署長室へ報告へ向かった。あれだけ署長から念を押されていたのに、のんのをマスコミに囲まれてしまい、どうやって失敗を悟られないか、それが一番気になるらしい。

「課長、さすがに逮捕は無理ですよ、ね?」

 山根がそれとなく伺いを立てると、倉橋課長は苦虫を噛み潰したような顔で、

「わかっとるわい」

と言い捨てて行ってしまったのだった。

 山根はのんのとかれんの二人を連れて取調室ではなく会議室へ向かう。確かにかれんにより騒ぎは起こったが、逮捕、という事案ではない。
 のんのはいつまでも宇宙少女の格好をしているわけにもいかないので、先に着替えに行くという。騒動でのんののコスプレよく見る暇もなかった山根は、その時になって初めてゆっくりと見た。

 ——か、可愛い。

 どうやら、のんのは山根にとって破壊力抜群のビジュアルらしい。目からハートマークが飛び出すような目で見つめていた山根であった。

 さて、のんのが着替えに行っている最中、山根はかれんの取り調べに入った。

「で、さっきの続きなんですが」

 山根が話を向けると、かれんは、

「あのおっさんは? あたし、喋んないよ」

とまだ不機嫌な様子だ。

 山根はなかなか喋ろうとしないかれんを、自腹でジュースを買い、なだめすかしてやっと調書を取れたのだった。

 しばらくして、倉橋が顔を覗かせた。どうやら署長は不在だったらしい。課長と目が合ったとたんにかれんの機嫌が悪くなったので、課長と山根は一旦ドアの外に出ることにした。

「おい、山根。何か新しい情報はあったのか」
「はい。どうやら、クスリの取引のことも聞いたようで」

 そう言いながら、取ったばかりの調書を見せながら山根が報告する。

「彼女の話では、ガールズバーで使用されているクスリの海外ルートの取引きが近々あるらしいのですが、それが毎月最初の日曜日の秋葉原の歩行者天国らしいんです」
「日曜日の秋葉原だ? そんな人通りの多いとこで取引きなんかやるやついるか? ガセじゃないのか」
「自分もなんか府に落ちないんですが……」
「組織ってのは?」
「はっきりとはわからないのですが、東南アジア系のマフィアの息のかかった、最近あの辺で大きくなりつつある半グレの集団ではないかと思われます」
「わかった。その辺は刑事課の方に情報入れておこう。場合によっては所轄だけではどうもならん、でかいヤマになるかもしれんしな。それに」
「それに?」
「日暮の件で明日は署長から大目玉食うかも知れんが、そんな大ネタを最初に入れておけば、署長も少しは機嫌良くなるかもしれんしな」

 倉橋がニヤリと笑ったところへ、総務課の女性警察官が生活安全課へ飛び込んできた。

「倉橋課長、宇宙少女のコスプレをした女性を出せとマスコミが何社か来て、玄関で押し問答をしています。総務課長が生活安全課がやったことだから、そっちで対応させろと言って帰っちゃいました。なんとかしてください」

と泣きそうな顔だ。再び倉橋課長の顔色が悪くなる。

「くそっ、なんで俺が!」
「しかし課長、ここは穏便に収めておかないと明日署長からなんと言われるかわ刈りませんよ」

 山根がさりげなく課長の顔色を伺う。

「わかっとるわい! くそっ、あの小娘ら覚えておけ」

と頭に血が上ったところへ、いつの間にかのんのがそばに来ていた。

「あの……、私が行きましょうか」
と、のんのが言うが、さすがにのんのをマスコミの前に出したら、それこそ火に油、署長から明日叱責されるのは目に見えている。

「いや、それには及びませんです。私が行きますので、もうそっと裏口から目立たないように帰ってくれ。詳しいことは明日です」

と倉橋課長はまた妙な丁寧語混じりの言葉でのんのを追い返した。

「わかりましたあ。じゃ、帰りまーす」
と課長の憂鬱にも全然ためらうことも無く、のんのはコスプレ衣装の入っていると思われるでかい袋を担いで裏口へ向かって行く。

 そのとき、ふと気になった山根が会議室のドアを開けて中を覗く。だが、もうそこには誰もいなかった。さっきまでそこにいたかれんは忽然と消えたのだった。
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