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8 蒼白い焔が
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『イゼルさん、お元気ですか?
お仕事、大変ですか?
俺は今日、もとの世界の夢を見ました。なつかしかったです。
イゼルさんは以前俺に、とにかく2年間がんばれと言いましたね。
2年がんばったら楽になるって。
この世界で働きはじめて、今週でちょうど2年になります。
でも俺、ちっとも楽になりません。
最近は吐いてばかりいて、仕事がつらいです。
イゼルさん、会いたいです。
イゼルさん、 』
そこまで書いて、俺はペンを持つ手を止めた。
こんな手紙を出したら、きっとすごく困らせてしまう。
いつもは1週間に1通程出す手紙を、もう3週間出せていない。
書かなければと思うけれど、ろくな内容を書けなくて、書いては破り、丸めては捨てて。
・・・・今日も出せそうにない。
昼までには仕事に行かないと、宿の人が迎えに来てしまう。
おととい、あまりにも身体が辛くて、一日か二日休みがほしいと願い出てみたのだが、休むことは許可されなかった。かわりに昼から深夜までの勤務だけでいいと言われた。
ふらつく身体を叱咤して身支度し、部屋を出る。
どうして俺はこの世界に落とされたのだろう。
俺は無力で、何もできない。
ただの小さな虫けらのようだ。この世界に貪られ吸い取られ、すり減ってゆくだけなんだ。
イゼルさん、どうしてあの森で俺を助けたの。
俺は森で彷徨って、あのまま魔物に喰われてしまえばよかったよ。
そうしたらこんな苦労はなかったし、こんなふうに。
「やっ、ぁ、ぁ・・・っ」
シャツをはだけられ押し倒された豪華なベッドの上で、知らない太った金持ちに組み敷かれ。
俺は穏便に逃れる方法を探して焦りながら、汚いキスを身体に受けた。
俺の身体は吸われた痕が無数についていて、
「ふん。けがらわしいビッチめ」
大商人らしき壮年の男は、侮蔑の籠った声で呟きながら俺の胸ばかりをいじる。
だけどもうそろそろ限界だ。
「す、すみません。サービスはここまでです。俺、もう行かないと」
「何を言っている。あの男はいいと言ったぞ」
髭の商人はそう言いながら、自分のベルトを外しズボンの前を寛げはじめた。
「あの男・・・・?」
「この宿の支配人の男だ。チップを3倍に弾むと言ったら了承したぞ。どうせいつもそうやって稼いでいるんだろう」
男の手が俺のズボンの前ボタンに掛かって、俺は必死に防御した。
「違います。俺っ、こんな、こんなことまではしませんっ」
途端に強く喉元を押さえ付けられ、ベッドに沈められた。息が詰まる。
弱っている身体で抵抗するのはひどく疲れた。簡単に抑え込まれる。
「オレは宿に3ベリのチップを払ったんだぞっ。少しぐらいサービスを弾め」
3ベリの金。
そんなものの対価が俺なのか。
どうせ俺の手には入らない金。
まとめて掴まれベルトで縛り上げられた両手首が、ミシミシ痛んで目の前が滲む。
下着ごとズボンを下ろされ、露わになった場所をまさぐられた。
悲鳴は、口を塞ぐ大きな掌にかき消され、それでも身を捩るとバシンと頬を張られた。
一瞬目の前が暗くなって、鼻血が口に入ってくる。
そうしている間に脚を開かされた。
疲れた。
何もかも。もう、どうでもいい。
どうせ抵抗したってどうにもならない。俺はこうして悪い方へと引き擦られてゆくだけなんだ。
トロトロとした冷たい液体で後ろを濡らされ、醜いものをあてがわれて、俺はぼんやりと視線を暗い窓の方へと向けた。
イゼルさん。
涙がぽろりとシーツに落ちた。
イゼルさん。
無理矢理押し広げられる予感に鳥肌が立つ。
イゼルさん、イゼルさん、イゼルさん・・・・っ。
「ぅ、ああっ、ヤだっ、こんなの嫌だ・・・っ、たすけて・・・・っ、イゼルさん・・・・!」
ゴオオオッ・・・!!
地響きのような音がして、宿がぐらぐらと大きく揺れた。
地震だろうか。
さすがの醜い男も驚いて、
「な、なんだ・・・・?」
挿入を一旦諦め部屋の中を見渡した。
俺は涙の滲む目で、窓の外に見える景色に視線をやり、たちまち言葉を失くして魅入られた。
蒼白い美しい焔が、アーチ形の大きな窓の外一面を、埋め尽くしている。
ここは3階なのに。
もの凄い音を立て、風を渦巻かせ、勢いよく中空を燃え盛る炎がある。
「うわあああっ」
でっぷりとした腹を震わせ商人はベッドから転がり落ちた。腰を抜かしたようで窓の外を見ながら叫んでいる。
焔でがたがたと鳴る窓が、バンッと勢いよく両側に開いた。
熱風がゴオォと吹き込んで、男がさらに悲鳴を上げる。
燃え盛る蒼白い窓辺には、すらりと美しいシルエットが昏く浮かび上がった。
俺は縛られたままの不自由な手でシーツを掻き寄せ肌を隠し、ベッド上を後ずさった。
見られたくない。
俺はすごく汚れている。
こんな姿、とても見せられない。
・・・・イゼルさん。
お仕事、大変ですか?
俺は今日、もとの世界の夢を見ました。なつかしかったです。
イゼルさんは以前俺に、とにかく2年間がんばれと言いましたね。
2年がんばったら楽になるって。
この世界で働きはじめて、今週でちょうど2年になります。
でも俺、ちっとも楽になりません。
最近は吐いてばかりいて、仕事がつらいです。
イゼルさん、会いたいです。
イゼルさん、 』
そこまで書いて、俺はペンを持つ手を止めた。
こんな手紙を出したら、きっとすごく困らせてしまう。
いつもは1週間に1通程出す手紙を、もう3週間出せていない。
書かなければと思うけれど、ろくな内容を書けなくて、書いては破り、丸めては捨てて。
・・・・今日も出せそうにない。
昼までには仕事に行かないと、宿の人が迎えに来てしまう。
おととい、あまりにも身体が辛くて、一日か二日休みがほしいと願い出てみたのだが、休むことは許可されなかった。かわりに昼から深夜までの勤務だけでいいと言われた。
ふらつく身体を叱咤して身支度し、部屋を出る。
どうして俺はこの世界に落とされたのだろう。
俺は無力で、何もできない。
ただの小さな虫けらのようだ。この世界に貪られ吸い取られ、すり減ってゆくだけなんだ。
イゼルさん、どうしてあの森で俺を助けたの。
俺は森で彷徨って、あのまま魔物に喰われてしまえばよかったよ。
そうしたらこんな苦労はなかったし、こんなふうに。
「やっ、ぁ、ぁ・・・っ」
シャツをはだけられ押し倒された豪華なベッドの上で、知らない太った金持ちに組み敷かれ。
俺は穏便に逃れる方法を探して焦りながら、汚いキスを身体に受けた。
俺の身体は吸われた痕が無数についていて、
「ふん。けがらわしいビッチめ」
大商人らしき壮年の男は、侮蔑の籠った声で呟きながら俺の胸ばかりをいじる。
だけどもうそろそろ限界だ。
「す、すみません。サービスはここまでです。俺、もう行かないと」
「何を言っている。あの男はいいと言ったぞ」
髭の商人はそう言いながら、自分のベルトを外しズボンの前を寛げはじめた。
「あの男・・・・?」
「この宿の支配人の男だ。チップを3倍に弾むと言ったら了承したぞ。どうせいつもそうやって稼いでいるんだろう」
男の手が俺のズボンの前ボタンに掛かって、俺は必死に防御した。
「違います。俺っ、こんな、こんなことまではしませんっ」
途端に強く喉元を押さえ付けられ、ベッドに沈められた。息が詰まる。
弱っている身体で抵抗するのはひどく疲れた。簡単に抑え込まれる。
「オレは宿に3ベリのチップを払ったんだぞっ。少しぐらいサービスを弾め」
3ベリの金。
そんなものの対価が俺なのか。
どうせ俺の手には入らない金。
まとめて掴まれベルトで縛り上げられた両手首が、ミシミシ痛んで目の前が滲む。
下着ごとズボンを下ろされ、露わになった場所をまさぐられた。
悲鳴は、口を塞ぐ大きな掌にかき消され、それでも身を捩るとバシンと頬を張られた。
一瞬目の前が暗くなって、鼻血が口に入ってくる。
そうしている間に脚を開かされた。
疲れた。
何もかも。もう、どうでもいい。
どうせ抵抗したってどうにもならない。俺はこうして悪い方へと引き擦られてゆくだけなんだ。
トロトロとした冷たい液体で後ろを濡らされ、醜いものをあてがわれて、俺はぼんやりと視線を暗い窓の方へと向けた。
イゼルさん。
涙がぽろりとシーツに落ちた。
イゼルさん。
無理矢理押し広げられる予感に鳥肌が立つ。
イゼルさん、イゼルさん、イゼルさん・・・・っ。
「ぅ、ああっ、ヤだっ、こんなの嫌だ・・・っ、たすけて・・・・っ、イゼルさん・・・・!」
ゴオオオッ・・・!!
地響きのような音がして、宿がぐらぐらと大きく揺れた。
地震だろうか。
さすがの醜い男も驚いて、
「な、なんだ・・・・?」
挿入を一旦諦め部屋の中を見渡した。
俺は涙の滲む目で、窓の外に見える景色に視線をやり、たちまち言葉を失くして魅入られた。
蒼白い美しい焔が、アーチ形の大きな窓の外一面を、埋め尽くしている。
ここは3階なのに。
もの凄い音を立て、風を渦巻かせ、勢いよく中空を燃え盛る炎がある。
「うわあああっ」
でっぷりとした腹を震わせ商人はベッドから転がり落ちた。腰を抜かしたようで窓の外を見ながら叫んでいる。
焔でがたがたと鳴る窓が、バンッと勢いよく両側に開いた。
熱風がゴオォと吹き込んで、男がさらに悲鳴を上げる。
燃え盛る蒼白い窓辺には、すらりと美しいシルエットが昏く浮かび上がった。
俺は縛られたままの不自由な手でシーツを掻き寄せ肌を隠し、ベッド上を後ずさった。
見られたくない。
俺はすごく汚れている。
こんな姿、とても見せられない。
・・・・イゼルさん。
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