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その後の話
8 びっくりした!
しおりを挟む「ジョゼ、もしかして妊娠したのか?」
ある日の夜ふけ。
ロイクさんに後ろから抱きしめられながらベッドの上でイチャイチャしていたぼく達。
大きな手がぼくのお腹を優しく撫でる。
「え? いつのまに⁉︎ でもぼく最近太っただけじゃないのかな……?」
毎日ロイクさんに合わせたたっぷりの食事と、甘くておいしいデザートをよくお土産にもらうから、全体的にお肉がついたんだと思うけど……。
「ジョゼは太ってなんかいない。ふっくらして可愛いよ」
「ロイクさんの目にも、ぼく太ってみえるんですね」
このまま食べ続けたら起き上がれなくなるかもしれない。
「いや、そうじゃない。そうじゃなくて、お腹に俺達の子供がいるんじゃないかと思うんだが」
「…………」
「まさかと思うが、鳥が赤ちゃんを運んでくることはないぞ……?」
「……さすがに知ってますよ! 嫌だなぁ、ロイクさん! 小さい頃は野菜畑で赤ちゃんが生まれるって、信じてましたけど」
「そうか……」
「野菜って茹でただけでもおいしいのに、半熟卵をソースみたいに絡めて食べるのが好きです……なんだか食べたくなっちゃいました」
「よし、今すぐ作ってやる」
ロイクさんがガバッと起き上がって言った。
「お腹すいたし食べたいですけど、もう眠る時間ですから」
「お腹すいたなら食べてもいいだろう。きっとお腹の中の子が食べたいって言っているんだ」
「そうかなぁ」
本当にお腹に赤ちゃんいるのかな?
ロイクさんと一緒にお腹を撫でてみるけど、全然わからない。
「ジョゼに似たらすごく可愛いだろうな。男でも女でも……可愛い」
「ロイクさん。気が早い……ぼく、太っただけかも」
「それでもいい。ただ、想像しているだけでも幸せな気持ちになるよ」
ロイクさんがそういってもう一度ぼくを抱きしめて静かに息を吐くから、ぎゅっと、抱きついた。
「ぼくはロイクさんに似たら嬉しいです。きっと格好いい男の子になるから」
「男の子か? 俺はジョゼに似た女の子もいいと思っている」
「ロイクさんに似た女の子は強くて、優しくて、美人さんになるかも……ぼくどっちでもいいです!」
「あぁ、俺もどっちでもいいな。俺達の子供なんだ、可愛いよ」
「ロイクさん、気が早いです」
とにかく冷やさないように、ってロイクさんがブランケットを引っ張り出して私を包み込む。ぐるぐると。
「ロイクさん……ぼく。熱い」
ハッとした顔をして、困ったように笑った。
「すまない、つい……。明日、休みだから病院に行ってみるか? 確かいい先生がいるって聞いたんだ」
「はい! 本当に赤ちゃんがお腹の中にいるのか調べてもらったほうが安心しますね。……えへへ、ただ太っただけでも、ロイクさん笑わないでくださいね!」
病院まで行って、そうだったらすごく恥ずかしい。
「笑うわけないよ。ジョゼの健康診断だと思えばちょうどいい」
そう言って、いつもより優しく抱きしめる。おそるおそるって、こういう時に使うのかも。
「ロイクさん、大好き」
もうお腹に赤ちゃんがいると思っているみたい。ぼくは何にも感じないし、まだ違うんじゃないかなぁって思ったけど、ロイクさんの気遣いが嬉しくてこっちからも抱きついた。
「おめでとうございます。奥さん、オメデタですね」
小柄なリス獣人の先生が笑顔を浮かべてそう言った。
「先生! ありがとうございます!」
ロイクさんが先生の手を握ってブンブン振る。
「いえ……まだ何も。そうですね、二ヶ月をだいぶ過ぎたところでしょうか。シロクマ獣人と人間なんですよね。……そうですね、クマ獣人ならもう産まれてもおかしくはないのですよ。小さく産んで大事に育てますから。奥さんが人間なので……それでもあと三ヶ月ほどで産まれてくるでしょうね」
ぼくもロイクさんもびっくりしてポカンと口を開ける。
「まだ何も準備していないのに」
そう言ったのはロイクさんで、いてもたってもいられないような顔をしている。
先生が用意するものリストをくれたから、二人でのぞきこんだ。
「大丈夫ですよ、リス獣人の妊娠期間は一ヶ月ほどですが、私の妻も人間で、五ヶ月ほどで出産しました。それでも準備は間に合いましたから」
いろいろな種族が住むこの街で、先生は妊娠期間を的確に当てることができるらしい。
ロイクさんはぼくが人間だから、人間同士の妊娠期間くらいの時間に余裕があると思ったみたい。
「特に問題がなければ、半月後に来てください。それまでにも何か心配ごとがあれば遠慮なくどうぞ」
病院を出て、まだ実感がわかないままロイクさんと帰りにあれこれ買った。
運良くじいちゃんと会えたから、赤ちゃんを授かったことを報告すると、足りないものや欲しいものは全部用意して家まで運んでくれるって!
「じいちゃん、ありがとう! すごく嬉しい」
「わしも長生きするもんじゃな。ジョゼ、おめでとう」
「ヨアンさん、ここで会えて本当に助かりました。ありがとうございます」
ロイクさんがようやくほっとした顔をした。その後、家に着いて二人きりになると、ロイクさんがぼくを抱きしめて言う。
「ジョゼ……俺はかなり驚いている」
「ぼくが妊娠してるって言ったのはロイクさんなのに」
病院へ行こうって言ったのも。
「あぁ、それは確信していたんだ。だが、子供がジョゼのお腹の中で育っていく時間を一緒に楽しみたかったから、思ったよりその時間が短くて……残念だ」
ぼくのお腹にたくさん話しかけて、ぼく達の絵姿を絵描きさんに描いてもらって、ぼくが快適に過ごせる服を買って、部屋の改装もして、それから……なんだかたくさんしたいことがあったみたい。
「今からロイクんがやりたいこと、どんどんやりましょう! ぼくも驚いたけど、早く赤ちゃんと会えるのが嬉しいです! すっごく楽しみ」
ロイクさんが、ハッとしたような顔をしてぼくの顔にいっぱいキスをした。
それから少しふくらんだお腹にそっと手を当てる。
「そうだな、ジョゼの言う通りだ。すぐに俺達の元へやってくる」
「はい! 三か月なんてあっという間ですね! ぼく、お母さんになるんだ……ロイクさんがお父さん……ぼく、なんだか……」
想像したら胸がいっぱいになって、わけもなく涙があふれた。
ぼく達の子供。
じーんとして、言葉が出てこない。
そしたら、ロイクさんも泣きながらぼくの顔をぬぐってくれる。
「幸せだな……」
ぼくもロイクさんの涙をぬぐって、しばらくお互いを抱きしめ合った。
******
お読みくださりありがとうございます。
この世界の妊娠期間は、夫婦それぞれの種族の妊娠期間を足して二で割ったくらいとしてみました。クマは四百グラムくらいで産むらしいです。
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