27 / 29
その後の話
7 隣の島へ
しおりを挟む新婚旅行の五日目、早起きして部屋から見えた小さな島に船で渡ることになった。
ロイクさんは、船が初めてのぼくが船酔いするんじゃないかってちょっと心配そうに見つめてくる。
揺れるのも足元がふらつくのも不思議でおもしろい。
「ロイクさん、ぼく大丈夫ですよ。とっても楽しいです!」
「そうか……それならよかった」
甲板に立って潮風を感じていると酔っている暇もないと思うんだけどな。
それに時々水しぶきが飛んできて、気持ちいい。
「船って、本当に水に浮かんでいるんですね。すごい! やっぱり本で見るより本物は迫力あります。はぁ……ぼく、毎日が楽しくてこの時間がずっと続けばいいなって……休みが終わってほしくないです」
ぎゅっと抱きしめると、ロイクさんも同じように抱きしめ返してくれる。
もちろん、旅行が終わったらいつもの日常が始まるのはわかっているし、それがいやなわけじゃないけど今が楽し過ぎた。
「ごめんな。あと一週間休めなくて」
ロイクさんがちょっと悲しそうに言う。
ずっと一緒にいるのにロイクさんとはまだ一度も喧嘩したことがなくて、もしかしてぼくすごくわがまま言った?
ロイクさんにとんでもなく我慢させているかもしれない!
「ぼく、わがまま言った時はダメって叱ってくださいね。ずっと一緒にいられて幸せだから、思ったことすぐ口に出しちゃっていけないのかな……気をつけます」
ロイクさんを困らせてシュンとしちゃう。
だけど、ロイクさんは穏やかな顔のままでぼくの頬をむにむに触る。
「ジョゼはもっとわがままを言ってもいいよ。足りないくらいだ。そのままのジョゼがいい」
「ロイクさんも思ったことは言ってください」
優しすぎてじーんとする。
ロイクさんを見つめていると嬉しそうに笑った。
「……俺もこのまま時間が止まってほしい。二人でずっとこのまま……」
「あ! ロイクさん、あそこ見てくださいっ! あれって木の実かな? でもちょっと大きいみたい」
小さい島に見えたけど、近づいてみたら思ったより大きい。
それに見たことのない木に目が釘づけになった。
枝がほとんどなくて、とても高いところに葉っぱと実がなっている。
もう一度ロイクさんを見ると、なんだかちょっと困ったように笑っていてぼくは首をかしげた。
そんなぼくの、風でくしゃくしゃになった髪を整えるように撫でながら言う。
「あれは……ココヤシの実かな。あとでジュースを飲もう」
「ジュース? 木の実なのに……? うわぁ、どんな味がするのか楽しみです」
「あまり期待しすぎないほうがいいが……」
そんな話をしているうちに、船を降りることになった。
陸に着いたらなぜが脚がふわふわする。
なんでかな?
「さっきまで揺れていたからな。おいで」
ロイクさんが抱っこしようとするから、腕にしがみついた。
「ぼく、ロイクさんと一緒に歩きたい! だって今日は島を一周するんでしょう? その後はお肉をいっぱい食べるって。だから、たくさん歩いていっぱい食べます」
そう言うと、ロイクさんが笑って手をつなぎ直してゆっくり歩き出した。
「わかった。昼ごはんはこの島名産のヴァーヴェ・キュでとてもおいしいから、たくさん歩いてお腹を減らそう」
「ヴァーヴェ・キュ? ぼく高級なお店は緊張して食べられないかもしれません……」
旅行二日目の夜に高級なレストランに入ったのだけど、マナーが気になって味がよくわからなかった。
とってもきれいな料理だったけど!
「気軽な雰囲気でなんでも食べ放題だぞ? ジョゼのために俺が肉も野菜も焼くし、デザートも焼くから」
「ロイクさんが焼くんですか? じゃあぼくも焼きます!」
それなら大丈夫そう!
デザートを焼くってリンゴとかバナナかな。ロイクさんの作るデザートって想像できなくて楽しみ!
「そうだな。一緒のほうが楽しいか。エビや魚だってあるぞ」
「それなら、いっぱい動いてお腹を減らしましょう! あそこに何か看板が出てますよ!」
見たことのないものばかりで、ぼくはキョロキョロ辺りを見回す。
「ジョゼ、右回りで行こう。こっちは最初が上り坂で洞窟もある。中に入ってみたいか?」
「洞窟? ちょっと怖そうだけどロイクさんが一緒なら頑張ります!」
「じゃあ、冒険しよう」
ひんやりして薄暗い洞窟の中にはキラキラしたお宝はなかったし、頭の上に水がポタンと落ちて驚いたけど、ロイクさんがいたから怖くなかった。
そのままぐるりと一周島を回ってヴァーヴェ・キュって呼ばれる炭火料理は何を焼いてもとってもおいしくて楽しい。
そしてロイクさんが青空の下で料理する姿が本当に格好よかった!
「肉は足りたか? デザートにするか?」
「はい! ずっと楽しみにしてました!」
だって大きな葉っぱに丸いチーズを乗せて、炭火のすみに置いてとろりとして食べられるのを待っている。
「もう少し待って」
ロイクさんが巧みな包丁さばきでパイナップルを切り、串に刺して炭火で焼き始めた。
リンゴでもバナナでもなくて驚いていると、ぼくに説明してくれる。
「チーズもパイナップルもこの島のもので、ここの名物のデザートなんだ」
熱々のパイナップルでチーズをすくって口に運ぶ。
しょっぱくて、甘くてじゅわってなって不思議。
ちょっと癖になる味かな?
「不思議なおいしさです!」
「あ、チーズに蜂蜜をかけるんだった」
慌てて蜂蜜をたらすロイクさんがちょっと可愛く見えた。
「ロイクさん、口を開けてください」
美味しいご飯を食べさせてくれたから、パイナップルをロイクさんの口元へ運ぶ。
「……うん、やっぱり不思議な味だ」
「ロイクさんも初めてでした?」
「二度目なんだが、ジョゼと一緒に食べたらおいしくなると思ったんだ」
「えへへっ……ロイクさんが作ってくれたから嬉しいし、不思議な味だけどおいしいです!」
「そうだな。不思議だがおいしいな」
うす甘いココヤシのジュースもロイクさんと一緒に飲んだらおいしく感じたよ。
今日も本当に楽しい一日だった!
1
お気に入りに追加
514
あなたにおすすめの小説
【完結】たれ耳うさぎの伯爵令嬢は、王宮魔術師様のお気に入り
楠結衣
恋愛
華やかな卒業パーティーのホール、一人ため息を飲み込むソフィア。
たれ耳うさぎ獣人であり、伯爵家令嬢のソフィアは、学園の噂に悩まされていた。
婚約者のアレックスは、聖女と呼ばれる美少女と婚約をするという。そんな中、見せつけるように、揃いの色のドレスを身につけた聖女がアレックスにエスコートされてやってくる。
しかし、ソフィアがアレックスに対して不満を言うことはなかった。
なぜなら、アレックスが聖女と結婚を誓う魔術を使っているのを偶然見てしまったから。
せめて、婚約破棄される瞬間は、アレックスのお気に入りだったたれ耳が、可愛く見えるように願うソフィア。
「ソフィーの耳は、ふわふわで気持ちいいね」
「ソフィーはどれだけ僕を夢中にさせたいのかな……」
かつて掛けられた甘い言葉の数々が、ソフィアの胸を締め付ける。
執着していたアレックスの真意とは?ソフィアの初恋の行方は?!
見た目に自信のない伯爵令嬢と、伯爵令嬢のたれ耳をこよなく愛する見た目は余裕のある大人、中身はちょっぴり変態な先生兼、王宮魔術師の溺愛ハッピーエンドストーリーです。
*全16話+番外編の予定です
*あまあです(ざまあはありません)
*2023.2.9ホットランキング4位 ありがとうございます♪
俺の番が見つからない
Heath
恋愛
先の皇帝時代に帝国領土は10倍にも膨れ上がった。その次代の皇帝となるべく皇太子には「第一皇太子」という余計な肩書きがついている。その理由は番がいないものは皇帝になれないからであった。
第一皇太子に番は現れるのか?見つけられるのか?
一方、長年継母である侯爵夫人と令嬢に虐げられている庶子ソフィは先皇帝の後宮に送られることになった。悲しむソフィの荷物の中に、こっそり黒い毛玉がついてきていた。
毛玉はソフィを幸せに導きたい!(仔猫に意志はほとんどありませんっ)
皇太子も王太子も冒険者もちょっとチャラい前皇帝も無口な魔王もご出演なさいます。
CPは固定ながらも複数・なんでもあり(異種・BL)も出てしまいます。ご注意ください。
ざまぁ&ハッピーエンドを目指して、このお話は終われるのか?
2021/01/15
次のエピソード執筆中です(^_^;)
20話を超えそうですが、1月中にはうpしたいです。
お付き合い頂けると幸いです💓
エブリスタ同時公開中٩(๑´0`๑)۶
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
大好きだけど、結婚はできません!〜強面彼氏に強引に溺愛されて、困っています〜
楠結衣
恋愛
冷たい川に落ちてしまったリス獣人のミーナは、薄れゆく意識の中、水中を飛ぶような速さで泳いできた一人の青年に助け出される。
ミーナを助けてくれた鍛冶屋のリュークは、鋭く睨むワイルドな人で。思わず身をすくませたけど、見た目と違って優しいリュークに次第に心惹かれていく。
さらに結婚を前提の告白をされてしまうのだけど、リュークの夢は故郷で鍛冶屋をひらくことだと告げられて。
(リュークのことは好きだけど、彼が住むのは北にある氷の国。寒すぎると冬眠してしまう私には無理!)
と断ったのに、なぜか諦めないリュークと期限付きでお試しの恋人に?!
「泊まっていい?」
「今日、泊まってけ」
「俺の故郷で結婚してほしい!」
あまく溺愛してくるリュークに、ミーナの好きの気持ちは加速していく。
やっぱり、氷の国に一緒に行きたい!寒さに慣れると決意したミーナはある行動に出る……。
ミーナの一途な想いの行方は?二人の恋の結末は?!
健気でかわいいリス獣人と、見た目が怖いのに甘々なペンギン獣人の恋物語。
一途で溺愛なハッピーエンドストーリーです。
*小説家になろう様でも掲載しています

番から逃げる事にしました
みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。
前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。
彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。
❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。
❋独自設定有りです。
❋他視点の話もあります。
❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。
急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。
石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。
雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。
一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。
ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。
その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。
愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。
いつの間にかの王太子妃候補
しろねこ。
恋愛
婚約者のいる王太子に恋をしてしまった。
遠くから見つめるだけ――それだけで良かったのに。
王太子の従者から渡されたのは、彼とのやり取りを行うための通信石。
「エリック様があなたとの意見交換をしたいそうです。誤解なさらずに、これは成績上位者だけと渡されるものです。ですがこの事は内密に……」
話す内容は他国の情勢や文化についてなど勉強についてだ。
話せるだけで十分幸せだった。
それなのに、いつの間にか王太子妃候補に上がってる。
あれ?
わたくしが王太子妃候補?
婚約者は?
こちらで書かれているキャラは他作品でも出ています(*´ω`*)
アナザーワールド的に見てもらえれば嬉しいです。
短編です、ハピエンです(強調)
小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる