お嫁さんを探しに来たぼくは、シロクマ獣人の隊長さんと暮らすことになりました!

能登原あめ

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その後の話

7  隣の島へ

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 新婚旅行の五日目、早起きして部屋から見えた小さな島に船で渡ることになった。
 ロイクさんは、船が初めてのぼくが船酔いするんじゃないかってちょっと心配そうに見つめてくる。
 揺れるのも足元がふらつくのも不思議でおもしろい。

「ロイクさん、ぼく大丈夫ですよ。とっても楽しいです!」
「そうか……それならよかった」

 甲板に立って潮風を感じていると酔っている暇もないと思うんだけどな。
 それに時々水しぶきが飛んできて、気持ちいい。

「船って、本当に水に浮かんでいるんですね。すごい! やっぱり本で見るより本物は迫力あります。はぁ……ぼく、毎日が楽しくてこの時間がずっと続けばいいなって……休みが終わってほしくないです」

 ぎゅっと抱きしめると、ロイクさんも同じように抱きしめ返してくれる。
 もちろん、旅行が終わったらいつもの日常が始まるのはわかっているし、それがいやなわけじゃないけど今が楽し過ぎた。

「ごめんな。あと一週間休めなくて」

 ロイクさんがちょっと悲しそうに言う。
 ずっと一緒にいるのにロイクさんとはまだ一度も喧嘩したことがなくて、もしかしてぼくすごくわがまま言った?

 ロイクさんにとんでもなく我慢させているかもしれない!

「ぼく、わがまま言った時はダメって叱ってくださいね。ずっと一緒にいられて幸せだから、思ったことすぐ口に出しちゃっていけないのかな……気をつけます」

 ロイクさんを困らせてシュンとしちゃう。
 だけど、ロイクさんは穏やかな顔のままでぼくの頬をむにむに触る。

「ジョゼはもっとわがままを言ってもいいよ。足りないくらいだ。そのままのジョゼがいい」
「ロイクさんも思ったことは言ってください」

 優しすぎてじーんとする。
 ロイクさんを見つめていると嬉しそうに笑った。

「……俺もこのまま時間が止まってほしい。二人でずっとこのまま……」
「あ! ロイクさん、あそこ見てくださいっ! あれって木の実かな? でもちょっと大きいみたい」

 小さい島に見えたけど、近づいてみたら思ったより大きい。
 それに見たことのない木に目が釘づけになった。
 枝がほとんどなくて、とても高いところに葉っぱと実がなっている。

 もう一度ロイクさんを見ると、なんだかちょっと困ったように笑っていてぼくは首をかしげた。
 そんなぼくの、風でくしゃくしゃになった髪を整えるように撫でながら言う。

「あれは……ココヤシの実かな。あとでジュースを飲もう」
「ジュース? 木の実なのに……? うわぁ、どんな味がするのか楽しみです」
「あまり期待しすぎないほうがいいが……」

 そんな話をしているうちに、船を降りることになった。
 陸に着いたらなぜが脚がふわふわする。
 なんでかな?

「さっきまで揺れていたからな。おいで」

 ロイクさんが抱っこしようとするから、腕にしがみついた。

「ぼく、ロイクさんと一緒に歩きたい! だって今日は島を一周するんでしょう? その後はお肉をいっぱい食べるって。だから、たくさん歩いていっぱい食べます」

 そう言うと、ロイクさんが笑って手をつなぎ直してゆっくり歩き出した。
 
「わかった。昼ごはんはこの島名産のヴァーヴェ・キュでとてもおいしいから、たくさん歩いてお腹を減らそう」
「ヴァーヴェ・キュ? ぼく高級なお店は緊張して食べられないかもしれません……」

 旅行二日目の夜に高級なレストランに入ったのだけど、マナーが気になって味がよくわからなかった。
 とってもきれいな料理だったけど!

「気軽な雰囲気でなんでも食べ放題だぞ? ジョゼのために俺が肉も野菜も焼くし、デザートも焼くから」
「ロイクさんが焼くんですか? じゃあぼくも焼きます!」

 それなら大丈夫そう!
 デザートを焼くってリンゴとかバナナかな。ロイクさんの作るデザートって想像できなくて楽しみ!

「そうだな。一緒のほうが楽しいか。エビや魚だってあるぞ」
「それなら、いっぱい動いてお腹を減らしましょう! あそこに何か看板が出てますよ!」

 見たことのないものばかりで、ぼくはキョロキョロ辺りを見回す。

「ジョゼ、右回りで行こう。こっちは最初が上り坂で洞窟もある。中に入ってみたいか?」
「洞窟? ちょっと怖そうだけどロイクさんが一緒なら頑張ります!」
「じゃあ、冒険しよう」

 ひんやりして薄暗い洞窟の中にはキラキラしたお宝はなかったし、頭の上に水がポタンと落ちて驚いたけど、ロイクさんがいたから怖くなかった。

 そのままぐるりと一周島を回ってヴァーヴェ・キュって呼ばれる炭火料理は何を焼いてもとってもおいしくて楽しい。
 そしてロイクさんが青空の下で料理する姿が本当に格好よかった!

「肉は足りたか? デザートにするか?」
「はい! ずっと楽しみにしてました!」

 だって大きな葉っぱに丸いチーズを乗せて、炭火のすみに置いてとろりとして食べられるのを待っている。

「もう少し待って」

 ロイクさんが巧みな包丁さばきでパイナップルを切り、串に刺して炭火で焼き始めた。
 リンゴでもバナナでもなくて驚いていると、ぼくに説明してくれる。

「チーズもパイナップルもこの島のもので、ここの名物のデザートなんだ」

 熱々のパイナップルでチーズをすくって口に運ぶ。
 しょっぱくて、甘くてじゅわってなって不思議。
 ちょっと癖になる味かな?
 
「不思議なおいしさです!」
「あ、チーズに蜂蜜をかけるんだった」

 慌てて蜂蜜をたらすロイクさんがちょっと可愛く見えた。

「ロイクさん、口を開けてください」

 美味しいご飯を食べさせてくれたから、パイナップルをロイクさんの口元へ運ぶ。

「……うん、やっぱり不思議な味だ」
「ロイクさんも初めてでした?」
「二度目なんだが、ジョゼと一緒に食べたらおいしくなると思ったんだ」
「えへへっ……ロイクさんが作ってくれたから嬉しいし、不思議な味だけどおいしいです!」
「そうだな。不思議だがおいしいな」

 うす甘いココヤシのジュースもロイクさんと一緒に飲んだらおいしく感じたよ。
 今日も本当に楽しい一日だった!
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