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16 大丈夫?
しおりを挟む今朝は目覚めたらロイクさんが隣にいなくて、家の中をぐるっと回ったけど気配がなくて悲しくなった。
休みだって言っていたから、予定のない日はいつもより寝坊するのに……。
急に仕事になっちゃったのかな。
でも書き置きもない。
じいちゃんが、番と離れることを考えたら胸が痛くて悲しくてつらくてご飯が食べられなくなって生きていられないって言ってたのをふと思い出す。
このままロイクさんがいなくなったらぼくは――。
想像しただけで胸が痛くて嫌な気持ちになった。
きっとぼくもご飯が食べられなくなる……。
ロイクさんのいない毎日なんて考えたくない。
「……あれ? 起きたのか?」
扉が開いてロイクさんが何かを抱えてやって来た。
「ロイクさんがいないから、目が覚めました」
ちょっと泣きそうになって、何度も瞬きしてごまかす。
すると、ロイクさんが荷物を置いてぼくを抱っこしてくれた。
赤ちゃんじゃないんだけど、今はロイクさんに甘えたくて胸に顔をうずめる。
「怖い夢でも見たのか? すまない、よく寝ていたからすぐ戻ってくるつもりでパン屋に行ってきたんだ」
「……パン屋?」
「ああ。今、街で評判の焼きたてのパンだ」
「ぼくが食べたいって言ったから?」
ぼくの背中をぽんぽんたたきながらロイクさんがベッドに向かう。
「そうだ。まだ眠いならもう少し寝るか?」
首を横に振って、ぼくは床に下ろしてもらった。
「焼きたて、食べたいです……ロイクさん、次は起こして僕も連れて行ってくださいね」
「わかった」
「目が覚めて一人で寂しかったんですよ」
真剣なロイクさんがぼくの顔を探るようにみつめる。
じいちゃんやばあちゃんも大好きだけど、好きの種類が違うみたい。
ロイクさんのこと、ぼくは特別に大好きなんだ。
「ジョゼ、好きだよ」
「ぼくもロイクさんが好きです」
「俺の番になってくれるくらい?」
そう聞かれて、僕は嬉しくなって何度も頷いた。
「はい、ロイクさんの番になりたいです」
ロイクさんの大きな体にぎゅっと抱きしめられて、心臓がトクトクいうのを聞く。
いつもよりちょっと早いけど、その音に安心した。
「結婚してくれるか?」
「はい、ぼくもロイクさんと結婚したいです」
「……夢じゃないんだよな?」
「……? はい。ぼく達しっかり起きてますよ」
「……現実なんだな」
「そうですね?」
なんだかかみ合っていない気もしたけれど、ぼくもロイクさんの背中に手を回してさらにきつく抱きしめ合った。
背中でぼくの手が回らないくらい大きい。
「ロイクさんに触れてると、ぼくって男じゃなかったんだなぁって感じます」
「…………」
「ロイクさんって大きいし、体温も高いし、柔らかさがないですし包まれている安心感があります」
「…………」
今なら性別の差がよくわかる。
ぼくみたいな少年は見かけたけど、大人の男の人はいなかった。
ロイクさんが黙ったままだから、はぁ、と大きく息を吐いた。
「ぼく小さいなぁ……うーん、なんだろう、この気持ち……もやもや、違う。ムラムラ? 違う。ぽかぽかかな?」
「…………」
「ぼく、女に生まれてよかった。だって、ロイクさんとの子ども、産めるってことだもん。……どっちに似るかなぁ。男の子も、女の子もどっちもほしいな。どうせなら大家族に」
「……ジョゼ……少し黙って」
ぼく、独り言が大きすぎたみたい。
顔を上げるとロイクさんは困った顔をして、それから口を開いた。
「可愛すぎて困る」
「…………」
もう一度その胸に顔をうずめて、さっきより早い心音をじーっと聞いた。
それからすぐにでも結婚することになるかとぼくは思ったのだけど、ロイクさんが結婚休暇を取ることになり、一月後に式をあげることになった。
どうやら一週間も休めるらしい。
どこに行こうか、どこに行きたいか話し合ってぼく達は幸せだった。
だから気が緩んだのかもしれない。
「大丈夫ですか?」
買い物へ行った先で、足を怪我したのか具合が悪いのか物陰にしゃがみ込んでいた女性に声をかけた。
こんなところにいたら誰も気がつかない。
「少し、胸が痛くて……」
ぼくがのぞきこんでアベラさんだと気づいた次の瞬間、ぼくは後ろから何かを嗅がされて袋のようなものに入れられた。
「……!」
困っている人に対して当たり前の行動と思ったけれど、そうではなかったらしい。
薄れゆく意識の中で女の声が聞こえる。
手足を動かして逃げたいのに、袋の上から押さえられてそれもできない。
「馬鹿な子。でもよかった、アンタを売ってしまえば彼を手に入れられる」
なんで?
ぼくって売られちゃうの?
人間を売るなんてだめだよ……。
それにロイクさんって、ぼく以外には本当に怖いんだ。
体がふわりと浮かび、かつがれたのかお腹を圧迫されてとうとう意識を手放した。
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