お嫁さんを探しに来たぼくは、シロクマ獣人の隊長さんと暮らすことになりました!

能登原あめ

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20 結婚します

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 結婚までの一ヶ月はあっという間で、ロイクさんは仕事の時以外ずっとずっと、ぼくにべったり。
 かなりのショックだったみたい。 

 それにあの日、化粧していつもと違うワンピースを着たぼくを見て、すぐに顔を胸に押しつけるから、女らしいぼくは気に入らなかったのかと思って訊いた。
 
『わたし、へんですか? ロイクさんは今のわたし、いやですか?』
『逆だ。いつも可愛いのに、今日は綺麗すぎて困る』
『ぼく、えっとわたしも鏡見て驚いたんです』
『……ぼくのままでいい。一度に完璧になられると、心臓がもたない。どんなジョゼも大好きだが……』

 ぼくの顔を見て少し照れたように笑う。
 その後はずっと抱きしめて離してくれなかったし、やっと家に帰って二人きりになった後もぼくをお風呂に入れてお世話をしようとしたくらい。

『ロイクさん、彼女達のおかげでぼくピンピンしてますから!』
『わかっているんだ。しかし……』
『本当に本当に大丈夫です!』
『だが……』

 ロイクさんにとても心配かけたと思うし、眉間にしわを寄せて唸っている。
 でもお風呂は恥ずかしい。

『あの! それなら眠る時ぎゅってしてください。そうしたらぼく安心だし、ロイクさんもぼくが大丈夫だってわかりますよね?』
『…………わかった』

 そんな感じでとても長い夜だったけど、二人一緒にベッドに入った後はきつくきつく抱き合って、お互いにほっと息をついた。
 本当にここに戻れて嬉しい。

 ロイクさんがぼくの匂いを嗅ぐのがくすぐったいけど、獣人だから怪我してないとかもわかるのかな。

『眠れそうか?』
『はい、ロイクさんの胸の音がすごく落ち着きます……今日は本当に助けてくれてありがとうございました。ちょっと怖かったけど……』

 やっぱり隊長さんだから迫力があったなぁ、あの顔。
 思わずぶるっと震えたらロイクさんがなだめるように背中をゆっくり撫でてくれた。

『……もっと早くに助けられなくてすまなかった』
『間に合ったからいいんです……』

 ロイクさんに包まれて、ぼくはだんだん眠くなる。

『もう怖い思いはさせないから』
『はい』

 ロイクさんの息が時々髪にかかってくすぐったいなぁって思いながら、もうまぶたを開けていられなかった。
 おやすみ、って声とまぶたに温もりを感じたけれどよくわからない。

 途中で目を覚ますと眠りの浅いロイクさんがしっかり抱きしめてくれて、ぼくも顔をすり寄せた。
 そうしてもう大丈夫なんだと安心したんだ。






 それからしばらくの間、街の中が騒がしかったから、ぼくはなるべくロイクさんと一緒に出かけた。
 どんな時でも手をつないで、ぴったりくっついて。

 最初の頃は食事中だって手をつないでいた。
 ぼくは右ききなのに、右手をつかまれてしまったから左手でフォークに突き刺してのろのろ食べる。
 その合間にぼくに食べさせてくれた。

 ロイクさんはぼくに食べさせるのが本当に好きみたい。
 家でも食べさせようとするし、外にいる時も人目が気にならないらしい。
 うーん、考えてみたら街で見かける番のカップルはみんなそうかも?

「大変じゃったなぁ」

 そう言って頭を撫でてくれたじいちゃんに、番は周りなんて気にしないから慣れるしかないって笑って言われた。

 それからジャクリーンさんやルイーズさんともロイクさん抜きでティータイムを過ごす。
 
「あのリボンを渡した時の隊長さん、怖かったな。……ほら、リボンに描いた文字が一瞬血に見えたみたいで……しかも、うちが胸にしまったから番の匂いがわかりづらいとかすごく叱られた。それにその後は話を聞いてくれなくて……」

 ルイーズさんが遠い目をしてごめんねと言い、ジャクリーンさんがやっぱりと笑った。
 二人とも今の店ではなくてちょっと特殊な二号店に移っている。
 女の子達はみんな女王様なんだって!

 そこではぼくには説明が難しいことをするらしくて、結婚したら教えてくれるって言うから楽しみ。
 大人の遊びってなんだろう!

 あの娼館は一旦閉められたものの、街の声もあって徹底した教育を施した後、三ヶ月後をめどに再開されるらしい。
 内装もすべて新しくして、お客様が王様気分になれる店だって二人が笑って言った。




 



 そして今日、ぼく達は教会にいた。 
 ロイクさんの髪色に合わせて、ぼくの白いワンピースは縁に白金色の刺繍がほどこしてある。慣れなくてちょっと恥ずかしい。
 化粧もこの日のために、ジャクリーンさんが教えてくれたのをなんとか自分でやってみた。
 
 一度目は濃くなりすぎて、顔を洗って三度目で納得できた。
 ぼくが格闘している間、ロイクさんはそわそわしながら待っていてくれたみたい。
 だって何度も扉の向こうから声をかけるから。

「きれいだよ、ジョゼ」
「ロイクさんのために頑張りました!」
「……ありがとう。とても嬉しい」

 ぼくの顔をじーっとみつめるから気に入ってくれたのかな。時々化粧しようかな。

「きれいで可愛くて、愛おしい」
「……ロイクさん」

 いつになく真剣な顔で言うからなんて答えたらいいかわからなくなる。

「いつもそう思っている」

 そう言って穏やかにほほ笑むから、なんだか胸が詰まって言葉が出てこない。
 そんなぼくの手をとって指先にキスすると、そのまま歩き出した。

 神父さんの前で誓い合ってサインをする。
 
 教会の前へお祝いに集まってくれた人達がたくさんいるらしくて、神父さんがそちらに声をかけに行ってくれた。

 ぼく達もあとを追ったほうがいいのだろうけど、ほんの少しだけ祭壇の前で二人きりになれたのが嬉しい。

「ロイクさん、ぼくをお嫁さんにしてくれてありがとうございます」

 ロイクさんがぼくを抱きしめて、そっと唇にキスをした。
 さっき誓い合った時はおでこだったからびっくりして顔が赤くなる。
 ロイクさんはぼくの顔を見てとても嬉しそうな顔をした。

「愛しているよ、ジョゼ」
「ぼくもロイクさんを愛しています」

 見つめ合って、お互いに笑みがこぼれる。
 何だか胸がいっぱいで涙が出そう。
 ロイクさんに出会えて本当に本当によかった。

「ぼく、ロイクさんのお嫁さんとして頑張ります!」

 お嫁さんを探しに山を下りたけど、とっても素敵な番の旦那さんと出会えて、ぼくは今とてつもなく大きな幸せを手に入れた。









              終






******


 お読みくださりありがとうございました。
 この後は新婚旅行を予定しています。
 一話目はRなしで読み切りです。ほのぼの。
 二話目からRの入るお宿の話なので、大丈夫な方はおつき合いくださると嬉しいです。 こちらは甘々(前半コメディ)
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