お嫁さんを探しに来たぼくは、シロクマ獣人の隊長さんと暮らすことになりました!

能登原あめ

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19 救出とは

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「ほら、ここに座って。基本的に笑顔。それから、目が合ったらほほ笑んで。誰にだってできる簡単な仕事さ!」
「……姐様、今しばらくこの子に教えるために隣にいていいですか?」

 女にジャクリーンさんが言った。

「……そうだね、逃げないように見張りながら、男のイロハでも教えてやりな! ただ、指名が入るまでの間だよ」
「はい、わかりました」

 ジャクリーンさんが頭を下げたからぼくも真似する。
 女はじろじろぼくを見ていたようだけど、ニヤッと笑った。

「……あんたはしばらくジャクリーンに付きな。色々覚えてもらわなきゃいけないからね」
「……はい」
「じゃあ、奥にいるから困ったら呼んで」

 建物の外から姿が見える位置で、それほど目立つ場所ではない。
 人気のある子達が目立つ場所で、ぼくみたいな顔見せする子がすみに座る。

 他の新人や稼ぎの悪い子達が外に出て自ら客を捕まえているらしい。
 ガラス越しだからなんとなくまだ現実味がなかったけれど、女の子達が男の人を連れて入れ替わるのを見て、ぼくは場違いだってすごく感じた。

 ジャクリーンさんは今日はわざと後ろに控えて目立たないようにしている。
 ごめんなさいと謝ると、今日はそれどころじゃないって笑った。

「……ほら、来たんじゃないかしら? あら困ったわね。ルイーズ、うまく説明できなかったかも」

 ジャクリーンさんが背筋を伸ばし、ぼくを抱きしめた。

「私は味方だって言ってよね。殴られたくないわ」
「まさか……」

 そう言って笑おうとしたけれど、店のおもてに走り寄って来たロイクさんの表情を見て怯えた。
 リボンを握りしめ、目が血走っている。

「ひえぇ……っ!」
「だから言ったでしょ!」

「ジョゼ! ジョゼ!」

 目が合って、警備隊を引き連れたロイクさんが、館内に乗り込んできた。

「失礼する! 全員ここから逃すな!」
「おや。隊長さん、一体どういうことでしょう? うちは優良、善良を売り物にしているんですが」

 人の良さそうな、困った顔を浮かべた館長が出てきてロイクさんの前に立った。

「俺の番がここに売られたという! 不正に! 館内くまなく調べさせていただく! お前達、突入しろ!」

 隊員達がバタバタと奥へ入っていき、その先で悲鳴が聞こえた。
 怖くなってジャクリーンさんにしがみつく。

「いえ、そんな、まさか……ありえませんよ。隊長さん、落ち着いてください」
「俺の番がそこにいるのに、落ち着いていられるか!」
「ヒッ……!」

 ロイクさんはぼくを見つめながら大声で言った。
 館長もぼくに気づいてロイクさんと見比べている。驚いて、なんとかこの場をしずめようとして媚びるようにロイクさんに笑いかけた。

「隊長さん、何か行き違いがあったみたいですね」
「何が行き違いだ――! これは違法な人身売買だ! まずは番の無事を確認させていただく!」

 ロイクさんとしては入り口を塞ぐように立つ館長の肩を軽く押したんだと思う。

「あっ!」

 だけど館長はバランスを崩して後ろにあった大きくて高そうな花瓶にぶつかり、騒ぎを聞きつけて出てきた女がそれを受け止めようとした。

「あぁ~! 国宝がっ」

 ――ガシャンッ!

 花瓶と重さに耐えられず女が転び、その上に館長が座り込んだ。
 
「い、痛いっ、目に入った! 誰か、早く医者を呼んどくれ!」
「尻がっ、尻が……っ!」

 女は破片で顔や腕を切り、館長はお尻を押さえている。でもお尻というよりもっと前を押さえているような?
 それにしても花瓶って凶器だったんだ。
 大きな花瓶、怖い。

「あーぁ。あれオーナーの壺で家一軒分の値段だって。やっぱりというか、被害が大きそう。……離れるわね」

 ジャクリーンさんがぼくにそうささやいて後ろに下がる。

「ジョゼッ」

 次の瞬間がばっとロイクさんに抱きしめられて、胸の中の空気が抜けた。
 嬉しいけど苦しくて……死んじゃいそう。
 なんとか背中をバンバン叩いて伝える。
 伝わらない!

「ジョゼ、ジョゼッ」

 そう言いながらすんすん匂いを嗅ぎ、ぼくの頭を胸に押しつけるから、本当に今すぐ死んじゃいそう!
 
「そんなに押さえつけたらジョゼフが息できないですよ」

 ジャクリーンさんがぽつりともらし、ぼくはようやく顔を上げることができた。

「すまない……っ!」
「……すぅ、はぁ……。ロイクさん、来てくれるって信じてました。……わたし、ちゃんと無事でしたよ。そこにいるジャクリーンさんやルイーズさん達に助けてもらいました」
「無事か……よかった!」
「……はい、彼女達のおかげで無事です」

 ロイクさんがジャクリーンさんを見て頭を下げる。

「ありがとう。君たちのおかげだ」
「いえ。……よかった、ちょうどオーナーが来たわ」

 






 すらりとした美貌のオーナーが来てからはあっさりとことが済んだ。
 館長や女に協力していた者は罪をなすりつけ合ったものの捕まり、アベラの元へも警備隊が向かったらしい。

 ロイクさんはぼくの保護がメインということで、副隊長のサンディさん主導で彼女達が関わった悪行がすべて暴かれた。

「私は何も悪くない! 私の男に手を出した女達が悪いのよ! 番がなによっ、私のほうがきれいじゃないの!」

 売られた娘達は五人。
 みんな同じ縫製工場に押し込められていて、一番長い子で三年もの間朝から晩まで低賃金で働かされていたらしく、まとめて連れ帰ることになった。

 そして街の法律で多額の借金を背負うことになって、アベラ達は真っ青になった。

「そんな大金支払えないわっ! 牢屋に入れなさいよ! おかしいじゃないの!」
「そうだ、牢屋で反省するよ!」
「鞭打ち十回受けてもいいからっ。牢屋へ、牢屋へ入れてちょうだい!」
 
 ロイクさんがいうには、行方を探して長い間つらい思いをしていた家族から報復を受けるだろうし、警備隊も街から彼らを逃さないと言った。

 それに、ぼくだけ娼館だったことをロイクさんがものすごく怒っている。
 今回の件は、番を持っている者達にとってもひどく腹の立つことだというから……。

「やっぱり街って怖いところですね」

 そうぼくが言うと、ロイクさんが不安そうにこっちを見る。

「山に帰りたくなったか?」
「……ロイクさんがいるところがぼくの居場所です」

 この街は怖いところもあるけど、いいところも、温かい人達もいる。

「今すぐには山に住むと約束できないが、近いうちに一度、ジョゼの家へ行こう」
「はい、のんびりできて、とてもいいところですよ」

 ぼく達はお互いをきつく抱きしめ合った。
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