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15 求愛行動
しおりを挟むぼくが首を横に振ると、自信なさそうにしていたロイクさんの背筋がスッと伸びた。
ようやく飲み込んで、一口水を飲む。
「んぐ……ごくっ」
「それは……っ!」
間違ってロイクさんが飲んでいたお酒を口にしてしまい驚いて飲み込んだ。
喉が熱い。
「大丈夫か? 水はこっちだ。たくさん飲め」
グラスを口に押しつけられて半分くらい一気に飲んだ。
びっくりして涙目になるけど、何度か呼吸したら大丈夫みたい。
「ごめんなさい、大丈夫です」
「そうか、よかった……」
ほっとしたようにロイクさんが椅子に背を預けた。
「あの、ぼくロイクさんのこと、好きです。その、どのくらい好きかって言われるとまだ難しいですけど、ばあちゃんやじいちゃんと同じくらい好き、です」
「……それなら全力で口説かせてもらう」
「へ? ぼくを?」
「そうだ。ジョゼ、愛している」
ぼくの手をとって、指先にそっと口づけする。
驚いて手を引きかけたけど、ガッチリつかまれてびくともしない。
「もっと俺を好きになってほしい。できれば俺と同じくらい」
見たことのない熱っぽい瞳でみつめてくるから、どきどきしてきた。
「ロイクさん、ぼく、ぼく、手を離してほしいです」
「手を離したら逃げないか?」
それは逃げるかもしれない。
こんなの初めてで、どうしたらいいかわからないから。
黙ったぼくに、しばらくこのままいさせてほしいというから、ぼくらは向かい合ったままおしゃべりをすることになった。
「ジョゼの本当の名はジョセリンだったのか?」
「いえ、あれはじいちゃんが誰もこの街で昔からぼくのことを知っている人がいないから、自分の好きな名前を名乗ったらいいって。他にジョゼフィーヌとか」
「そういうことか……ジョゼはそうしたいのか?」
そう尋ねられて少し悩む。
ずっとジョゼフとして生きてきたし、ちょっと男っぽい名前らしいけど嫌じゃない。
「このままジョゼフでいいです。ロイクさんだけ、ぼくのことをジョゼって呼んでくれるなら、それが嬉しい」
ぼくの手をぎゅうっときつく握って、ロイクさんが俯いた。
「ちょっと……急にそういう特別扱いは……抱きしめたくなるじゃないか」
「えっと、恥ずかしいので……今はだめです」
「今は」
ロイクさんがぼくの手を両手で握って目を閉じ、何度も深呼吸する。
もしかして、抱きしめるのを我慢してくれてるのかな?
なんだろう、そんなロイクさんが可愛くみえるなんて。
ぼく、もうロイクさんのことを特別に好きなのかもしれない。
「あとでならいいか?」
「……あとで聞いてください。ぼく、そろそろ頭が真っ白になりそうです」
「……まだまだ、これからなんだけどな」
その日の夜は最初からロイクさんにすっぽり抱きしめられて、眠れないと思ったのにいつの間にか朝になっていた。
信じられないくらいぐっすり眠って、寝ぼけまなこのぼくのこともロイクさんは可愛いと言って驚かせる。
それからロイクさんは仕事の後、毎回お菓子や花、ぼくに似合うって髪留めやリボンまでお土産に買ってきた。
仕事が遅い時間に終わる時は、日中の休憩時間に用意しているらしい。
休みの日もいつも一緒に二人で出かける。
いつアベラさんと遭遇するかとヒヤヒヤしたのに一度も会わない。
街から飛び出して旅先の宿に泊まることもあって、クタクタになったぼくらは抱きしめ合って朝まで眠った。
ずっと一緒で仕事が終わったらまっすぐ帰ってきてくれるのは嬉しいけど、商店街の奥さん達から旦那さんが飲み会へ行く話を聞いて、ぼくはロイクさんに訊ねた。
「ロイクさんは職場の人と飲みに行くことはないんですか?」
「これまではあったが、今は番に求愛中だから行かないよ」
「そういうものなんですか?」
「そういうものだって認められているんだ」
満足そうに笑った。
それと、なぜか風呂上がりの髪の手入れをしてくれるようになった。
いつの間にか手に入れたいい香りのするオイルを使って髪をといてくれる。
「ジョゼの髪は綺麗だから、こうして手入れをしておけば伸ばしても大丈夫だ」
「……長いほうが似合うと思います?」
「あぁ。俺はそう思う」
「今より長くしたことはないので、伸ばしてみます」
「そうか」
ぼくはその時間がすごく気に入っているけど、ロイクさんは仕事の後に余計な手間で疲れるんじゃないかと心配になった。
「番の世話をすることは至福の時間なんだ。癒される」
そう言われてしまえばぼくはお願いするだけ。
「実はすごく気持ちいいんです。ぼくもやってみていいですか?」
「あぁ」
だけど、ロイクさんの短髪はタオルで拭くとすぐ乾いてしまうし、櫛でといてもしかめっ面だから僕が下手くそなのかも。ありがとうと言ってもらえたけど……。
代わりにといっていいのか、いってらっしゃいと、おかえりのハグをすることになっていた。
ロイクさんが嬉しそうにしているからこれでいいのかな。
ぼくも無事に戻ってきてハグするのは幸せな気持ちになる。
これってもうかなり好きじゃないのかな?
違うのかな?
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