お嫁さんを探しに来たぼくは、シロクマ獣人の隊長さんと暮らすことになりました!

能登原あめ

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14 番

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「会いたかった! 私にやきもち焼いて欲しいからって、無視するなんてひどいわ!」

 わざとぼくに見えるように背中に胸を押し付けて笑う。

「離れろ。お前の時間を無駄にするだけだ」

 ロイクさんは片手に荷物を持って、ぼくが片腕にしがみついていたから、顔だけ振り返って冷たく言う。
 ゾッとするような冷たい怒りを感じるのに、その女の人はさらにキツく抱きついた。

 怖くないの?
 ぼくは、恐ろしくなってロイクさんの腕をぱっと離す。
 女の人は勝ち誇ったような笑顔を浮かべてロイクさんを見上げた。

「ロイクぅ、ちゃあんとアベラって呼んで。ね? んもう、恥ずかしがり屋なんだから! さぁ一緒に夕食を食べに行きましょ。とってもおすすめの店があるの。その後は二人きりで忘れられない夜を過ごしましょうよ」 

 アベラという名前だということは分かったけれど、彼女のおしゃべりが止まらなくて驚く。
 やっぱり街の女の人は積極的なんだ。

「無理だ。彼女は俺の番なんだ。他の女性を見ることはない」

 ロイクさんが彼女の腕を外して正面から言い渡す。
 番? ロイクさん、番って言った?
 もしかしてぼく、断りの理由にされちゃったのかな。

「なんでよ! その子だって人間でしょう? 私ほどのいい女なんて、他にいないわよっ」

 いつの間にか周りの人の注目を浴びて、ヤジが飛ぶ。

「よ、いい女!」
「いい女だよ、アンタ」
「そんな奴より俺と遊ぼうぜ」

 ロイクさんは静かに息を吐き、首を横に振った。

「番は唯一無二の存在なんだ。目移りすることはない」
「……どうかしてるわ」

 彼女は一度ぼくを見てから、周りの男達の相手はせずに小走りに去った。
 立ち止まった人達も見世物は終わったのかとあっさり歩き出す。

「…………」
「……すまない、少し前から彼女に絡まれていた。もしかしてジョゼが会ったのも彼女だったのか?」
「はい」

 ロイクさんと本当に関係がなかったってわかったのは安心したけど、最後にゾクッとするような顔でにらまれて怖かった。
 もう一度、ロイクさんの腕をつかんで無意識にすり寄る。
 あの人もう来ないといいけど……。

「嫌な思いをさせたな。……じゃあ、俺が美味いステーキを焼いてやる」
「それはだめです! ぼくがロイクさんのために焼きたいんです。……そんなに僕の焼き方まずいですか?」

 ぼくだってもう焦がさないんだけどな。

「いや……正直言って俺のために焼いてもらえるのは嬉しい。その言葉がもう一度聞きたかった」
「……別に、ロイクさんのためならいつだって焼きますし、何度だって言いますよ」

 さっきの女の人のことも、番だって言われたことよりも、ぼく達はお肉をおいしく焼くことを話題にしたまま急いで家へ帰った。







 今日は、いつもよりとても上手に焼けた。 
 周りはしっかり焼けているけど、中はほんのりピンク色。
 これまでみたいに周りはこんがり焦げて、中が生すぎることもない。

「……うまい。これまで食べたステーキで一番おいしいよ」
「ロイクさん、褒めすぎです。ロイクさんが焼いたのもおいしいですよ……ぼく、頑張りましたけど!」

 お肉もおいしいし、ロイクさんとおしゃべりしているとあっという間に食べ進む。

「ジョゼの頑張りも旨味だな」
「……ロイクさん、時々とんでもないこと言いますね。ぼく、びっくりしちゃいます。……さっきも番って言ってましたし」
「それは本当だ」

 思いのほか真剣な顔で、ぼくを見つめるから目をそらしたいのにそらせない。

「でも……本で読んだのと違います」
「本?」
「番の物語だと、そうじゃなかったなって……えーと。その、すぐ好きって言うとか、抱きしめちゃうとか、衝動が抑えられないとか?」
「……それは、割と当たっている」
「でも、ロイクさんは……」

 ぼくに対してそんな態度はとったことはないと思う。
 ぼくは人間だからわからないし……。

「手が止まってる。食べてしまったらどうだ?」

 ぼくのお皿に手を伸ばして肉を切り分け、食べろというようにフォークを口元へ近づける。

「あ、えっと……はい」

 じっと見られてパクッと食いついた。
 おいしいんだけど、なんだかへん?
 いつもはこんなことしないのに……。

「ほら、もう一口」

 どうして食べさせられているんだろう。
 ロイクさんはいつの間にか食べ終わっていて、ぼくはもぐもぐ咀嚼して飲み込む。

「これ、給餌……番に手ずから食べさせること」
「キュウジ」
「そう。ジョゼは人間だし、番だと言って怖がらせたくなかった。ゆっくり俺を知ってもらって好きになって欲しいと思っていた」
「……ロイクさんのことは怖くありません……でも、初めて会った時にもし番だって言われてたら、こわ、びっくりしたと思います」

 だっていきなり襟首つかまれて連れ出されたし。
 じいちゃんとお茶飲んでいた時も、警備隊の人が現れた時も、さっきの女の人に対しても怖い顔をしてた。

 そうだ、ロイクさんってぼくにはだいたい優しいけど他の人がいる時は怖くみえるのかも。
 ぼくって特別?

「ジョゼが好きだ……俺のことが嫌いか?」

 最後の一口を押し込まれ、フォークを置いたロイクさんがぼくを見つめる。
 もぐもぐして、飲み込むまでの時間が長くて静かでちょっとつらい。

 こういう時に限って飲み込めないから、とりあえず首を横に振った。
 

 
 
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