お嫁さんを探しに来たぼくは、シロクマ獣人の隊長さんと暮らすことになりました!

能登原あめ

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「ロイクさん、こんにちは。あの……」

 ぼくが怖々話しかけると、じいちゃんが被せるようにすらすらしゃべりだした。

「やぁやぁ、はじめまして。あなたがロイクさん? どうぞ座ってください。わたしはジョセフィンを幼い頃から知ってましてな、再び親交を深めているところです」

 いつもよりシャキッとしたじいちゃんに驚いてまじまじ見ると、なぜがぼくに片目を一瞬閉じて見せる。
 ごみが入ったのかな?

「いえ、仕事中のため座ることはできませんが、ジョゼを見かけたのでお邪魔してしまいました」
「そうでしたか……ちゃんと日付けが変わる前にジョセフィンのことはお返しし」
「それは困る」
「……それはなぜですかな?」
「それは! 彼女が……」
 
 なぜかロイクさんが唸るような声をあげて、ぼくをちらりと見る。

「じいちゃん、じいちゃんも忙しいでしょ? 今日はどこかに泊まるの? また一緒にお茶飲んでくれる?」
「……じいちゃん?」

 ロイクさんの声が聞こえなかったみたいにじいちゃんが笑顔でぼくに答える。

「うむ、うむ。この街に一泊して一度自宅に帰るんじゃ。また次の時でもおしゃべりしよう……おや、名乗らず失礼したね。わしはヨアンだ。ロイクさん、わしの孫娘の一人、よろしく頼みますよ」
「……はい、安心して任せてください」

 驚いた表情を浮かべるロイクさんとニコニコしているじいちゃんを見比べながらぼくは言う。

「ロイクさんってすごい人なんだ。ぼく、何度も助けてもらっているし、こうしてぼくが無事でいられるのもロイクさんのおかげだよ」

 ロイクさんはなぜか耳を赤くして黙っちゃって、じいちゃんは仲が良くてけっこう、けっこうって笑った。
 そうしているうちに、この間の警備隊の栗毛の人がロイクさんを連れて行った。

「ジョゼフは獣人の番について訊いているか?」
「うん。ただ一人の相手なんだよね? お互いしか見えなくなるって本にも書いてあったし、街でもそんな二人を見かけるよ!」
「そうじゃな、獣人の相手が人間の場合があることも知っておるか?」
「うん。ばあちゃんがそんな本を持ってた。というより、あれはぼくのかあちゃんの本だったのかも」
「……そうじゃろうなぁ。ばあちゃんは物語より植物の育て方とか観察日記なんかを好んでいたからなぁ」

 野菜とか食べ物に困らなかったのはそのおかげかも。

「人間は相手が番だって言われないと気づかない人が多いようじゃが。人同士も好きだと思ったらずっと一緒にいたいものだけど、相手が番の場合は離れることを考えたら胸が痛くて悲しくてつらくてご飯が食べられなくなって生きていけない」
「生きていけない……」

 想像してみたけど。
 やっぱり今のぼくにはわからない。

「まぁ、そんな相手が見つかったら大事にしたほうがいい」
「うん、じいちゃん、ぼくお婿さんをみつけるよ!」

 そう言ったらフォッ、フォッって笑った。
 
 じいちゃんと別れた後、八百屋で野菜と果物を買い、肉屋に戻って分厚いステーキ肉を買った。
 さっそく肉屋直伝の美味しい焼き方でロイクさんに味わってもらおう。

「ロイクさんはお得意さんだから、おまけしておくよ!」
「嬉しいです、ありがとう!」

 人が多いけど安全な大通りに出て足早に歩く。

「ジョゼ!」

 後ろから話しかけられて、ロイクさんに荷物をひょいっと奪われた。

「ロイクさん! 急にびっくりします」
「あ、すまない。ちょっと早く終わったらジョゼの姿が見えてつい……もう帰るところか?」
「はい。じゃあ、美味しいお肉を買ったので早く帰って食べましょう。ぼく、今日のは上手に焼けると思うんです!」

「わかった。……後ろで見てる」
「手を出しちゃだめですからね? ぼく、今回は一人でやります。いつも頑張っているロイクさんのために焼きますから、本気でおいしいって言ってもらいたいので!」

 人通りが多いから、自然とロイクさんの腕を取る。
 ロイクさんはぼくの手が離れないようにきゅっと腕を締めた。

「ぼく、だいぶ慣れてきましたよ!」
「そうだな。まだちょっと危なっかしいが……」

 昼間とは違ってすごく優しい顔でぼくを見る。 
 やっぱり仕事中は緊張感が違うんだろうな、そう思ってじっと見つめていると困ったように笑う。

「まいったな。……すぎる」
「ロイクさん? 今なんて……」

 聞き返そうとしたら、この間の黒髪の女の人が後ろからやってきてロイクさんに抱きついた!


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