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10 お留守番
しおりを挟むロイクさんと出かけたり、一緒に食事を作ったりして楽しく二日間を過ごした後、ぼくはまず家の中の掃除をすることにした。
せっかくお世話になっているからピカピカにしよう!
初日はキッチンだけで力尽きた。
夕食はいつでも食べれるように煮込みシチューにして、男女の違いについて書かれた本から読み始める。
見た目については分かっていたけど、決定的に違うのは女の人が赤ちゃんを産むこと。
ぼくだってそれくらいは知っていたけど、毎月、血が流れるのは赤ちゃんを産む準備と書いてあって衝撃を受けた。
「ぼく、本当に女の子なんだ……」
初めて下着を汚した時はびっくりして、ばあちゃんに死ぬかもしれないって泣いた。
だけどばあちゃんは毎月体の悪いものを出す日で、周りには悟られないのがマナーだと教わった。
体の中からスッキリすれば病気になりにくくて健康を保てるからおとなしく休んでいればいいって。
ずっとそれを信じていたんだ……。
「ばあちゃん、きっと成人前に教えてくれるつもりだったんだよね……ぼく、山で暮らしている間は問題なく暮らせたのはばあちゃんとじいちゃんのおかげだ……」
だって、じいちゃんが本に載っている女性用の下着も持ってきてくれていた。
ぼくは男物だと思って何も考えずに買っていたから……。
じいちゃんが最新の若い男の子向けだと思い込んでいる可能性もあるけど。
どうかな、まさかね?
タヌキ獣人で行商人のじいちゃんに早く手紙が届くといいな。
夢中になって本を読んでいるうちに、ロイクさんが帰ってきた。
「おかえりなさい。あっ……お風呂の準備が!」
「あぁ、ただいま。風呂は俺がやるよ。ジョゼは食べたのか?」
本を持ったままのぼくを見て、ロイクさんが笑う。
「……まだです。夢中になって読んでました」
「そうか、よかった」
なぜかほっとしたような様子をみせて、そのまま浴室へと向かった。
暗くなって部屋の明かりをつけた後、もう少し時間があると思いこんじゃうなんて。
家にいたのに風呂のことをすっかり忘れて情けない。
「ロイクさん、ごめんなさい」
「いや。いつも自分一人でしていたし、その後食事の用意をしていたが、今日はジョゼが用意してくれているだろう? すごくいい匂いがする」
鼻を鳴らして目を閉じる。
「多分、おいしいと思います! ロイクさんのためにじっくり煮込みました」
「……そうか、楽しみだな」
「えへへっ」
ぼくが笑うと髪をくしゃっと撫でてそのまま浴室へ向かった。
シチューの味見をしてのんびり待つ。
すぐに濡れた髪のままロイクさんが、冷める前に風呂に入るように言った。
「でも、お腹すいているでしょう?」
「ジョゼが長風呂しなけりゃ大丈夫。さぁ、冷める前に行っておいで」
「はい」
慌てて向かうぼくの背中に、ちゃんと浸かれよって言う。
ロイクさんは優しい。
もちろん、すぐに出てご飯にしたけど!
「そんなに焦らなくてよかったのに」
笑ってぼくの髪をタオルに包んだ。
「僕、子どもじゃないですよ?」
「分かっているよ」
ロイクさんの態度はじいちゃんやばあちゃんより優し過ぎて戸惑う。
ロイクさんはすごくシチューを褒めてくれて、おかわりして食べてくれた。
男の人って、みんな女の人に優しくするのかな。
それともロイクさんが特別に優しいのかも。
でも他の女の人に優しくする姿を想像したら少し胸がチクッとした。
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