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9 可愛い番
しおりを挟む* ロイク視点
今日は朝からそわそわしていた。
仕事中もふいに集中力が途切れる。
午前の見回りの時よりも午後の見回りの時のほうがなぜが肌がぴりぴりするような、何かがやってくるという感覚があった。
「どうしました、隊長?」
誰にも気づかれないと思ったのに、警備隊で副隊長の栗毛のサンディが訊ねる。
彼はイタチの獣人だから感覚が鋭いのかもしれない。
この街の住人も警備隊も半数は獣人で、お互いを受け入れて穏やかに暮らしている。
「いや、今日は一日そわそわするんだ……」
「もしかしたら近くに番がいるのかもしれませんよ。俺は一週間くらい街をうろついたので」
「……そういえばそうだったな」
三年ほど前のサンディは、警備隊って仕事熱心ねと言われるくらいうろつき回っていた。
そのおかげで、引っ越してきたばかりだという番――現在の妻に出会えたわけだが。
「隊長も頑張って下さい」
人間同士では番など関係なく結婚するから、せっかく出会った番がすでに手の届かないところにあることもある……多分警備隊で何より大変なのが番絡みの喧嘩かもしれない。
ある意味大きな犯罪はなくて平和な街ではあるけれど――。
仕事が終わり、まっすぐ家に帰る気分じゃなくて色々なところを歩き回った。
これはサンディを笑えない。全く同じだ。
大通りではない、そう感じて脇へと入る。
酒場の通りに入り、誘いの声をかけられるがそれどころではない。
酒とは違う甘い匂い。
この先に娼館があるが、その香の匂いでもない。
わからないが、場所が場所であるため早足になる。
すると何やら店の前で、客の奪い合いをしているようだ。
もしかして俺の番は娼婦なのか?
「ジョゼフは、うちと過ごすのよね!」
「私のほうがとーってもいい夢を見せてあげるけど?」
見つけた。
娼婦の間からその子を引っ張り出した。
少年の格好をした女の子。
俺の番は女の子にしか見えないんだが、彼女は「ぼく」と言う。
茶色の髪を後ろで一つにしばり、すっきりとした顔立ちとすらっとした体型は一見少年に見えなくもない。
実際娼館の客引きにあったわけだし。
まだ山から下りてきたばかりだと聞き、頼るはずの相手とすれ違ってしまったところを保護することができてほっとした。
あまりにも純真無垢で、目を離すことができそうにない。
一緒に風呂に入ったことも番が確実に男じゃないと確かめたかったのもあるが、誘惑に勝てなかった。
一瞬で性別はわかったものの、目のやり場に困り……心の目を閉じたのだが。
二日休みで街を案内したけれど、話を聞けば聞くほど心配になって、できれば一人で外に出てほしくないとまで思った。
休み明けは何か事件に巻き込まれるんじゃないかと心配になって仕事に行きたくない。
ずっとそばに、近くにいたかったが仕事を放り出すわけにはいかなかった。
一緒に朝食をとりながらジョゼの予定を聞く。
「……今日はどうする予定だ?」
「今日はのんびり本を読んで過ごすつもりです。少し人が多くて疲れたので」
昨日、街の案内誌や男女の違いを書いた本、最近街で流行りの小説を手に入れてきた。
「そうか……今日は昼からの勤務で夜は遅くなるから先に夕食を食べてくれ」
「はい。あの……帰ってきたら食事を食べますか? もしそうだったら、ぼくロイクさんの分も作ります」
「……食べる。お願いしていいか?」
「はい! ぼく、ロイクさんの役に立ちたいので一生懸命作ります」
「楽しみにしている」
ぼくの味付けで大丈夫かなぁ、などというから次の休みは一緒に料理の本を探しに行こうと誘った。
目をキラキラさせて頷く番が本当に可愛い。
刺繍とか裁縫とか編み物とか興味があるなら道具を揃えてもいい。
このままずっと家にいてくれてもいいんだが。
「誰か来ても開けないこと。家に入れないこと。相手にしなくていいから」
「はい。……そんなに心配しなくても、山での暮らしもそうでしたから」
「そうか……。すまない。……じゃあ、晩飯楽しみにしているよ」
「はい! まかせてください」
ジョゼの可愛い笑顔を見て、抱きしめたくなるのをなんとか抑えた。
どうか、俺のことを好きになってほしい。
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