お嫁さんを探しに来たぼくは、シロクマ獣人の隊長さんと暮らすことになりました!

能登原あめ

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8 街へ出た

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 大通りの人の多さに、やっぱり慣れない。
 見るもの全てが珍しくてすぐに人とぶつかりそうになるし、一人でつまづきそうにもなった。
 多分通りが平すぎる。

「……ジョゼ、腕につかまれ。ここがこの街の一番栄えている通りだ。今日は、安全で今後使う場所を教えるから」
「はい、ありがとうございます」

 ロイクさんのたくましい腕に両手でしがみつくと、ふ、と笑う。
 ロイクさんって本当に面倒見が良くて、優しい。
 きっとみんなに好かれているんだろうな。

「この先に噴水があっていくつもの道に分かれているから、そこに座って説明するよ」

 少し歩いたらそれはあった。

「噴水……初めて見ます!」

 なんだこれは。
 水が下から上に吹き上がっている!

「ジョゼ、あまり近づくと濡れる。こっちに座ろう」
「あ、ごめんなさい。……はい」
 
 近くのベンチに並んで腰かけ、通っていいところだめなところを説明してくれた。
 
「この後案内するけど、衣類や雑貨は西側の通り、肉屋のヤンさんの店がある東側の通りは魚屋や八百屋、パン屋など食材が一通りそろう。南側の通りに学校や役所関係が多いかな。……北側は、酒場なんかがあるから近寄らないほうがいい」
「…………」

 一度には覚えられそうになくてついつい黙る。

「歩いてみたらだんだん覚えるだろう。ゆっくり覚えていけばいいから。ジョゼが危険に巻き込まれるほうが良心が痛む。だから仕事も住まいも焦って決めるなよ?」
「はい……」
「まずは街に慣れることだ。ジョゼならうちにいつまでいても大丈夫だから」

 そう言ってぼくの頭を撫でる。

「ロイクさん、知り合ったばかりのぼくにも優しすぎます。ぼく、絶対恩返ししますから!」
「……あぁ、わかった」

 もしロイクさんに会えていなかったら、ぼくはどうなっていたんだろう。
 そんなことを考えていたら、向かいから大柄な男達がこっちに向かってきた。
 初日にロイクさんが着ていた服と一緒かも?

「ロイクさん?」
「警備隊の奴らだ。ちょうど見回りの時間だな」

 小声でそう説明してすぐに、赤毛の男が僕の隣に座った。
 もう一人の栗毛の男はロイクさんの隣に立つ。

「隊長、何してんすか? ぼくちゃん迷子? 近くで見ると可愛い顔してんじゃん。そのお兄さん怖いだろ、俺が送って行ってやるよ」

 いきなり赤毛の男にあごをつかまれて、顔をのぞきこまれた。
 驚いて固まるぼくの肩をロイクさんが引き寄せる。

「え?」
「ん?」

 バランスを崩して寄りかかったぼくがロイクさんを見上げると、ものすごく渋い顔で赤毛の男をにらんでいる。

「何っすか、その反応……」
「えっと、すみません。お邪魔しました!」

 ロイクさんの隣に立った栗毛の男がぼくの隣にいた男の手を引っ張りあげた。

「隊長、休み明けに説明してくださいね!」

 栗毛の男がそう言って、二人は立ち去ったのだけどよくわからなくてポカンとする。

「ロイクさん、なんだったんですか? 今の……それに、隊長って、ロイクさんは偉い人なんですね」
「いや、偉くはない……やっぱり、心配だな。あごをつかまれたままキスされたらどうした?」

 キス……?

「まさか! そんなっ⁉︎」
「……あいつはふざけていただけだが、世の中にはいろんな趣味のやつがいる。家から一歩出たら油断してはいけない」

 街はそんなに怖いところ?

「しばらくはその姿の方がいいんだろうか……しかし……」

 ロイクさんが、女の子の服がたくさんあるお店に連れていくことを考えていたらしい。
 街を歩く女の子たちの可愛い服が気にならないわけじゃないけど、今着ている服は慣れているし動きやすくて好きだ。

「ぼく、慣れるまではこの姿でいます!」

 なぜかロイクさんがほんの少し残念そうな顔をしたけど、僕達はその後色々と歩き回って食堂に寄り、東側の通りで食材を買い込んだ。

「ヤンさんの近所の人に伝言を頼めるでしょうか? 一応紹介してくれたじいちゃんが、ここに僕が来ていないと知ったら心配すると思うので」
「そのじいさんの家はわからないのか?」
「行商人なので、家は知りません……ばあちゃんの代からつき合いはありますけど、タヌキの獣人さんです」

 いつもじいちゃんって呼んでいたから、とっさに名前が出てこない。

「ヨアンじいさんかな?」

 横から八百屋のおじさんが口をはさむ。

「そうです!」
「ヨアンじいさんの家はこの街にはないよ。山を超えた向こうだね。……いつやってくるかわからないけど、うちには必ず寄るから伝言聞こうか?」
「あの、じゃあ手紙を書いて持ってくるので預かってもらえますか?」
「ああ、もちろん」

 よかった。
 街にはいい人だっている!
 何より隣にロイクさんがいるのが心強かった。
 
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