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6 衝撃の事実
しおりを挟む「ぼく、ついてません! 落としたのかもしれません……もしかして人間はついてないんじゃないですか?」
ぼくは膝を抱えた。
「落としては、ないと思う。傷がないなら切ったわけでもないだろう。……男には大小あるが必ずある」
僕が脚を開いてのぞきこむと、ロイクさんが視線をそらす。
「傷はない。これかな……?」
「多分、ジョゼフのばあちゃんが身を守るために男だと偽らせたのだと思う。危なっかしいから……」
ばあちゃんが?
確かにずっとぼくの心配をしていたかも。
それにじいちゃんは男だと思っているはずだけど、ぼくの裸をみたことはない。
この体は男じゃない……?
「だけど、ぼく、女の子みたいに大きな胸じゃありません」
「それは個人差がある。みんなの顔が違うように……個人差が」
つるんとした平らな胸に触れて首を傾げた。
「ぼく、女の子なの……?」
「そうだ」
目をそらせたまま、ロイクさんが短く言う。
嘘を言っているようには見えないし、ぼくに嘘をつく理由もない……。
「……ぼく、お嫁さんもらえないんですね」
「お嫁さんになる側だろう」
「…………」
ぼくが女の子。
ぼくって、何も知らないまま大人になっちゃったんだ……。
悲しくなって涙がこぼれる。
「ロイクさん、ぼく早くここを出ていきます。迷惑かけてごめんなさい」
「……なんでそうなる?」
「やっぱり山に戻ります。誰にも迷惑かけたくないです」
ごしごし目元をこすって、ロイクさんを見つめる。
わかった、って言うと思ったのに意外にも強い調子で返ってきた。
「……何十年も一人で暮らすつもりなのか? お嫁さんが欲しいってことは家族が欲しかったんだろう? もう諦めるのか?」
「でも! こんなぼくのこと好きになる人いません!」
「……勝手に決めつけるな」
ロイクさんがざぶんと立ち上がり、湯が大きく揺れる。
ぼくは倒れそうになって、浴槽の縁をつかんだ。
「疲れているんだ、まずゆっくり休め。ほら」
ロイクさんに手を差し伸べられて、思わず握った。ちょっと目線に困ったけど。
「はい……」
「街で困らないように教えるから。それでもここが合わないって言うなら考えればいい」
「はい……ロイクさんが言うと、そうなのかなって思います」
「……じゃあ、出るぞ」
「はい、あの……さっきと違って恥ずかしいです」
「気にするな。俺もだ」
そっか、ロイクさんもぼくが男だと思っていたからお風呂に入ったんだよね?
驚いて見えないけど顔に出ないだけなんだ、きっと。
「驚かせてごめんなさい」
「いや、そうかもしれないとは思っていた」
疑っていたの?
それなのにぼくが押し切っちゃったから?
「……ごめんなさい」
「もういい。こっちも止めなかったんだ。悪かったな。……さぁ、服着るぞ」
ロイクさんが腰にタオルを巻きつけ、ぼくにふわっとタオルをかけてくれた。
警備隊でシロクマ獣人だということをおいといても、男と女の体つきは全然違うらしい。
「風邪をひかないようにしっかりふいて」
なんでもないようにロイクさんは言うけど、今頃じわじわと恥ずかしくなってきた。
今ぼくはものすごくハレンチな場面に遭遇している。
「酒……はやめたほうがいいか。冷たいものでも飲むか?」
「はい」
「じゃあ、先に行っている」
「はい」
ぼく、これからどうしたらいいんだろう。
ずっとつきあってきたこの体が女の子だったなんて。
うちにあった本に出てくる男は背が高くて大きくて、女は小柄だけど胸が大きかった。
ぼくは自分が女かも、なんて少しも疑ったことがない。
下半身の絵なんて見たことがなかったから……。
ばあちゃんはある朝突然息を引き取ってしまったから、ロイクさんが言ったみたいにぼくが山を下りる前に話すつもりでいたのかも。
だってばあちゃんなら、ぼくをこんなふうに困らせるはずない。
じいちゃんは、ぼくのことを女だって疑ったことはないのかな?
じいちゃんが戻ってきたら話したい。
これからはお嫁さんじゃなくてお婿さんを探すことになるのか……。
じいちゃんやばあちゃんより好きになれる男の人が現れるのかな。
一瞬、ロイクさんの顔が浮かんで消えた。
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