お嫁さんを探しに来たぼくは、シロクマ獣人の隊長さんと暮らすことになりました!

能登原あめ

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4 新しい住まい

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 広くないとロイクさんは言ったけど、狭くもなかった。
 ぼくの住んでいた山小屋と同じくらいあるけど、ロイクさんが大きいから圧迫感があるのかもしれない。

「腹は減っているか?」
「えっと、はい……」

 何から何まで頼りっぱなしで恥ずかしい気持ちでいるぼくに気にするなと笑う。
 それからロイクさんが、厚切りのステーキを焼いてくれた。

 ぼくも手伝おうとしたけど焼くだけだからと手際良く用意してくれて、申しわけ程度に葉物野菜とパンが添えられた。
 肉の量に驚いていると、ロイクさんが首をかしげる。

「量が多かったら残していい。俺が食べるから心配するな」
「あの、それなら先に食べる分だけ取り分けてもいいですか?」

 ぼくが半分に切ると、ロイクさんが残り半分をフォークで突き刺して自分の皿に乗せた。

「さあ食べよう。……俺はシロクマ獣人なんだ。だから基本的に肉を中心に食べる。……ジョゼフは?」
「ぼくは人間です。ロイクさんが大きいのはシロクマ獣人だからなんですね。ぼく、これでも成人してるんですけど小柄だから羨ましいです」

 ぼくをちらっと見て、すぐにさらに目を落とす。
 それから、ぼくの三口分くらいを切りながら言った。

「いや、ちょうどいいサイズだろう……」
「もしかして人間って小さいんでしょうか?」

 じいちゃんもタヌキの獣人で、大きい方ではなかったけどぼくより大きかった。

「種族によるが、小動物だと小柄だ。人間も大きくはないだろう……ジョゼフはどこに住んでいたんだ?」
「山奥に住んでいました。ばあちゃんが四年前に亡くなってからはずっと一人暮らしです……もともとあまり人と会うことがなかったので周りのことがよくわかりません……」
「なるほど」

 ロイクさんがうなる。
 やっぱりぼくって相当田舎者なんだろうな。

「……冷めないうちに食べろ。俺は明日から二日休みだから協力するよ」
「あ、ありがとうございます!」

 ロイクさんって優しいな。
 じいちゃんやばあちゃんと違っておしゃべりじゃないけど。

「……さっきの場所には近づかないほうがいい。あそこは……」
「あそこは……?」

 ロイクさんが困ったように口を閉じる。

「花を買う場所なんだ」
「へぇ……花を。山の中には自然と咲いていたので買おうなんて考えたことありませんでした」

 あれは眺めるもので必要以上にとってはいけないとよく怒られた。

「……困ったな、一人で歩いたらすぐに悪い奴に捕まりそうだ」
「ロイクさんにもそうみえるんですね。……じいちゃんが心配してヤンさんのところを勧めてくれたんです。……街の生活に慣れたら、ぼくはお嫁さんがほしいので」

 しばらく黙っていたロイクさんが、ふう、と息を吐いて言った。

「それなら、色々教えてやる。……ヤンさんも移民の子達を預かるなら忙しくなるだろう。ジョゼフが嫌じゃなければ、だが……」
「本当ですか? ぼくはすごく嬉しいですけど、甘えてしまったら迷惑じゃ」
「そんなことない。こうして会ったのも縁があったんだろう」

 ロイクさんは仕事柄面倒見がいいのかもしれない。
 頼り甲斐があって男から見ても憧れる。

「ぼく、ここでできることは何でもします。ちゃんと仕事が決まったらお返しするので、これからよろしくお願いします!」

 そう言うと、いかめしい顔に笑みを浮かべた。

「ロイクさん、笑ったほうがカッコいいです。ぼくが女の子だったら好きになってますよ!」

 きっとモテるんだろうなぁ。
 部屋の様子から結婚はしてないみたいだけど。
 
「ロイクさんは、いくつなんですか? 恋人がいるならぼく、早くここから出て行かないと悪いですよね」
「……二十九歳だ。恋人も妻もいない。……番が現れるのを待っていた」

 ぼくをまっすぐ見つめるから、何だか少し居心地が悪い。

「本で読みましたけど、獣人の方達は番と結婚するんですよね? 運命の相手という感じなのでしょうか?」

 家にある本はくり返しくり返し読んだ。
 幼なじみと結婚が決まっていたのに、番と出会って大騒動が起きた末に番と結婚する話だった。

 最初に約束していた幼なじみじゃなくて番だから結婚するって言うのがよくわからない。
 ばあちゃんはそういう生態だと笑っていたから何回か読むうちに抗えないものなのかなと漠然と思うようになったけど。

「ぼくももしかしたら、番に会えるかもしれないんですね。番がお嫁さんって、素敵な響きです」
「……そうだな」

 ロイクさんが絞り出すような声でそう言うから、ちょっとびっくりした。

「男は番を見つけたら離さないもんだ」

 なるほど、獣人の世界は奥深い。
 
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