裏切った勇者を捨てて細マッチョの魔王と古式ゆかしいやり方で婚礼の儀式に臨みます!

能登原あめ

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7 勇者が現れた! (終) ※?

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「ここが、魔王の部屋か⁉︎ とうとう開いたぜッ!」

 私がサイラスの膝の上で甘くて優雅なティータイムを楽しんでいると、懐かしい声が聞こえた。

 いや、三日前の話なのだけど、あまりに濃厚な時間を過ごしてきたから遠い昔のことのように感じる。
 披露宴? 
 魔王城にいた魔物達がきゃっきゃ、きゃっきゃ喜んでくれたよっ!

「どこにいる! スライムッ! 出てこーい‼︎ 俺が倒してやるッ」

 隣の部屋から大きな声が響く。

「勇者のくせに生意気だな」

 眉を上げたサイラスがどうする、と言うように私を見た。

「まぁ、勇者って熱血型が多いですから……アイツ、ですよね? せっかくなので結婚報告してきましょうか♡」
「スライムに任せてもいいかと思ったが、それも悪くないな」

 この三日の間に、私の茶髪は艶やかな黒茶色の髪に変わり、栗色の瞳は紅くなった。
 そばかすの浮かんでいた肌はつるんとした白い肌に変わり、サイラスにたっぷり愛されて、魔力ももらって、すっかり女っぷりが上がった!

 鏡を見て溢れる色気に驚いたけど、私が本来持っているものが引き出されただけだって、サイラスは言う。
 
 鏡を見るのが楽しい!
 それも全部サイラスのおかげだよ♡

 ボディラインがはっきりわかる胸元の開いた黒いロングドレスを着ていたけれど、黒いストールでグルグルに巻かれた。
 これはどうだろう⁇
 まぁ口づけの痕が残っていて病気みたいにみえるから隠したほうがいいか。

「サイラス、行きましょう?」

 差し出された彼の手をとり、私達は移動した。








「…………」

 私とサイラスが彼らの前に姿を表すと、勇者が唖然として口をぽかんと開けた。

「くっさ……」

 彼らはあの日のまま風呂に入れていないようだ。
 そして、薄汚れた勇者とぺったりした髪の聖女の二人しかいない……と言うことは、兄は離脱したらしい。
 だよね~。そうなるよね~。

「お前……まさか⁉︎ ツネコなのか?」

 昔の名前で呼ばれてあいまいに笑って頷いた。
 もう、その名で呼ばれても自分のことじゃないみたいで。
 
 それにしても、二人はダンジョンから出ることもできず、水を求めてウロウロしたに違いない。
 なぜか二人とも裸足で足元泥だらけだし、もしかしてサイラスが水を抜くタイミングも図ったかな?
 ちらりと見ると素知らぬ顔をしている。
 それにしても、異臭がすごい。

 こっちに匂いが来ないように、微風を起こそうとしたら突風が起こり、彼らの元へ飛んでいった。

「きゃっ、やだぁ!」
「くそっ!」

 あ、ごめん。
 服切り裂いちゃったね?
 おかしいな。

「どうゆうことだぁ!」

 カピカピの下着が見えて、うん、ごめん?
 そんなつもりなかったんだけどね?
 まだうまく制御できなくて。

「おまえ、俺達を裏切ったのかぁ⁉︎」

 その一言に私はキレた。

「はあ? 魔王様の部屋の前で盛ってたのは誰?」
「くっ……俺達は、運命の愛で結ばれたんだ!」

 でたー! 運命の愛‼︎

「婚約解消するのが先よね? なのにこっちを責めるのはお門違いよ! そっちが先に裏切ったんだから……式の準備して待ってる私の両親にちゃんと謝ってよね」

 そんで、めちゃくちゃ怒られて、準備にかかったお金請求されればいいよ!
 私からは請求しないけど、両親は商売人だからね!

「すまん……」

 私の言葉に勇者が唸り、がくりと片膝をついた。
 あー、待って、寒くて縮こまってるブツがチラチラしてる。
 この部屋は暖かいけど薄着だもんね。
 そんな彼に覆い被さるように彼女が抱きついた。ほっ。

「ごめんなさいっ……全部私が悪いのっ! 彼を好きになっちゃったからっ!」
「いや、お前は悪くない! 俺が、俺がっ、ちゃんとしてればっ」
「でもっ 気持ちを抑えられなかった私がっ!」
「それは俺の方だろ! 可愛すぎるッ、愛してるんだッ!」

 二人の世界に突入した。
 私はサイラスを見上げて、声に出さずにどうしましょう、と訊いた。

「ここにいたら、これからも各地から勇者が来るだろう。……旅に出るか? 二人で世界をまわったら楽しいぞ」
「それイイですね! さすがサイラス♡」
「あとは、スライムがうまくやるだろう……フフン」

 すささーっとやって来た大きなスライムが二人に襲いかかる!

「うわっ、不意打ちは卑怯だぞ!」
「きゃっ、ナニコレ⁉︎」

 騒ぐ二人に私は声をかけた。

「もともとスライム倒すつもりだったでしょ? その後、結婚するんだっけ? がんばってね~?」

 倒せないだろうけど!

「じゃあ、私は彼と幸せになります♡さようなら!」

 サイラスの手をとって私達はふわりと浮かび、優雅に旅立った。









 それから二十年、私達は各地を旅して満喫し、久しぶりに魔王城に戻った。
 相変わらず私達は仲良しで、見た目だって変わっていない。

「クッ!」

 留守番のスライムが今もどこかの勇者の相手をしているみたい。

「あッ、クソッ、すっげーな、おい!」

 ん?
 なんだか、ちょっと聞き覚えがあるような?

「うはッ、いいッ、いいぜぇ!」

 え? まさかね?
 待って、待って、誰と誰?

「どうやら、あの勇者……頻繁にスライムに会いに来ているようだな」

 私とサイラスは現場に踏み込んだ。
 四つん這いの勇者の斜め後方から、静かに様子を眺める。
 まず、現状把握から。

 スライムの触手がウネウネと動き、髪が薄くなり小太りになったあの勇者の体中を這い回って悶えさせている。

 お尻にずぼずぼと太い触手を突き入れられ、お粗末なイチモツの根元に触手が絡んでいた。
 そんでもって、お尻もパンパン叩かれて、なんだろう、これ?

「うわぁ……」

 今回はうっかり声を出してしまったせいで、私達に気づいた勇者が振り返った。

「……お前はッ⁉︎ その姿……なぜ、若いままなんだ‼︎」

 驚きすぎてよだれを垂らしながら喚く。
 あ、よだれはその前からかな。

「私は魔王様の妻だから♡」
「なん、だと⁉︎ あぅっ」

 サイラスにぴったり寄り添って見上げると、軽い口づけが落とされた。
 サイラスってば、いつだって最高なの。

「大好き♡」
「我もだ」

 ついつい抱き合って二人だけの世界を作っちゃう。

「お前のせいで! 俺はッ、あの後スライムに……! それで、結婚もッ! 村の皆はッ冷たいしッ、稼いでも稼いでも奪われるしッ、聖女アイツは、よりによってオークを追いかけてッ! 残された、俺はッ、もう居場所がないッ……だからッ、こうやって、時々思い出してスライムと……スライムだけが、俺を! お前が、責任、とれっ!」

 つまり、結婚したけど村八分で居心地悪くて、うちの両親からしっかり慰謝料取られて、嫌になった聖女がオークを追いかけて出て行ったのかな……オーク⁉︎
 運命の愛どこ行ったの~?

 それで、勇者は二十年前に触手でお尻の開発と雌調教されたのが忘れられなくて、ここに来ちゃったってこと? 
 それ、私じゃなくて自業自得だし、スライムのせい……。
 このスライムって基本ピンク色だもんなぁ。
 
「しばらくここにいようかと思ったが、面倒だな」

 サイラスが眉間にしわを寄せる。
 
「そうだ! もう一度行きたいところがあるの。二人で過ごした常夏の国♡ スコールの中で愛し合ったのは、忘れられない♡」
「うむ。では行こう! スライム、ソレじゃない。ある意味褒美になっているようだ。ではここは任せたぞ。……さらば、勇者よ」

 ピギャーって声がした気がするけど、私の頭の中はすでに常夏だった。

「二十年目の新婚旅行、楽しみだね♡」

 






              終






******


 お読みくださりありがとうございました!
 アホなまま終わります。
 この後おまけのスコールの小話が入りますので、おつきあいいただける方はよろしくお願いします。
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