裏切った勇者を捨てて細マッチョの魔王と古式ゆかしいやり方で婚礼の儀式に臨みます!

能登原あめ

文字の大きさ
上 下
3 / 8

3 儀式の前にはお清め ※微

しおりを挟む




「あの……?」

 サイラスの腕が浴槽のふちにかけられ、ちゃぷんと湯が跳ねた。
 私は一面に花びらの浮かんだ湯船の中で、彼の脚の間に膝を抱えて座り、背中を預けている。

「儀式の前に身を清めるものだろう? 人間も同じく、風呂が好きだと聞いている」
 
 まあそうだけど。
 さっきのは儀式に含まれないの?
 あれは魔王様のプロポーズみたいなものだと思えばいいのかな?

「そうですけど、一緒は恥ずかしいです」

 一瞬で脱がされて湯船に浸かっていたから、急展開過ぎて訳がわからないというのが本音だけど。
 出る時どうすんの、これ?

「慣れるしかあるまい」
「これが古式ゆかしいやり方……?」
「そうだ。愉しいだろう?」

 どうだろう?
 一緒に風呂に入るシーンがある物語も読んだことがあるし、その先のことも書いてあったけど体験するのとは違う。
 
「サイラスは楽しい、ですか?」
「愉しいな」

 なんだかずるい。
 種族も違うし、きっと歳もものすごく違うだろうから仕方ないけど。

「ほら、洗ってやろう」

 どこからか取り出した石鹸を泡立て、私の腕を取る。

「……自分でできますよ?」
「我が嫌なのか? それならスライムを呼ぶか?」

 何、その二択⁉︎
 スライムの触手で体を洗われるって、なんかもう、違うプレイの域だから!
 旅をしていればそんな話聞かせてくれた人がいっぱいいたよ? 
 みんな知ってる話!

「サイラスが、イイデス……」

 指の一本一本まで、サイラスの手で洗われると体だけじゃなくて心もくすぐったい。
 甘やかされているというか、恋人同士みたいで。
 夫婦になるんだけどね!
 勇者……名前を呼ぶ価値のない元婚約者とは、腕相撲をしたくらいの記憶しかない。
 甘さがまったくなかったわ。
 そりゃ、聖女との恋に浮かれるよね。
 ケジメをつけないのはダメだけど!

「……一体、何を考えている?」
「あの、私。実はサイラスの部屋にいるというスライムの討伐にやって来たんです」
「それは知ってる。それで?」

 知ってるの? それってどこかで見ていたの?
 じゃあ、なんで見合い相手か訊いてきたんだろう……まぁ、今はいいや。

「えーと、私はそのパーティから抜けてあの扉を開けてしまったのですが、そのうち入ってきてもおかしくないのかな~、って」
「ふむ。儀式が終わるまでは開かないようにしてある」

 さすが、魔王様!

「じゃあ、しばらく彼らは足留めされるんですね」

 魔王の部屋の前で、イライラしながら待ちくたびればいいんだ!
 盛ってる奴らなんて‼︎
 ん?
 もしや、二人はひたすら乳くり合って、聖女の兄がうんざりするだけ?

「ダンジョン内の水路とか行けないようにできないですか?」

 だって、二人の緊迫感のなさ、ムカつくじゃない!

「何故だ? そういえば部屋の前で睦み合っていた男女がいたな。……真剣味の欠けた奴らだと思っていたが……詳しく話してみよ」

 ここは協力してもらったほうがいいかも。

「実はあの勇者、私の幼馴染で婚約者だったんです! それで、いつの間にかあの二人が恋に落ちて、私の近くであんな! 行為に!」

 思い返しても、信じられない。ありえない。
 倫理、倫理~!
 
「ふむ。……ならば、今すぐダンジョン内の水を全て抜いてしまおう……未だにあの状態のようだしな」
「いい案ですね! さすがです!」

 彼らの中に水魔法を使える奴もいないし、あーんなことした後、水浴びもできないなんて、さぞ気持ち悪いだろうね!
 ん……? 
 今、サラッと流しちゃったけど、ずっとシてたの⁇
 えー? 聖女の兄……不憫。
 あんなところで三人で、水浴びもできないって気まずいだろうね。

「ふふっ……はははっ! あははははっ」

 やだ。高笑いしちゃったよ。

「……レーナは、その男を愛していたのか?」

 サイラスが私の髪を洗いながら訊いてきた。

「まさか! ただの幼馴染だし、あんなの屑です!……それに、キスも、サイラスが初めてです」

 ちょっと申告するのって照れるわ。
 何にも知らなくて。
 サイラスがなるほど、と長考してたけど。

「……ならば、忘れられない夜にしよう」
「もう、すでに……サイラスと過ごす時間は、私にとって驚きの連続ですよ♡」
「……そうか」

 そう言ってそのまま黙って私の髪を流す。

「気持ちいい……」

 誰かに髪を洗ってもらうのも初めてだし、こんなに気持ちいいものなんて知らなかった。
 サイラスがたっぷりの湯で髪を流してくれるから、幸せを噛み締める。
 宿に泊まる時だって、ちょろちょろとしかお湯が出ないところもあったから。

「続けるぞ」

 いつの間にかさっきとは違う白っぽいにごり湯に入れ替わっていて、私の肩から背中にかけて撫でながら洗ってくれる。
 そのまま私のウエストやお腹もくるくると。

「あの……前は自分で洗います」

 背中から抱えられていて、見えないだろうけど恥ずかしい。

「それでは我が愉しくない。レーナ、力を抜いて愉しんだらよい。せっかく、ダンジョン内の水をたっぷり使えるのだから」

 そっか。
 そうだよね!

「わかりましたぁ!」
「愛い愛い。レーナは愛い奴だな」

 ウイウイ? あぁ、可愛いの愛いなのね!
 サイラスの大きな手が私の胸を包み、エロさを感じさせない手つきで洗ってくれた。
 だから私は力を抜いて彼に全てを委ねた。

 エロいこと考えた自分が恥ずかしいぃ!

 そんな私の腰を持ち上げて向かい合わせにする。

「脚が洗えないからな」

 そっか。
 湯が濁っていてよかった。
 サイラスが楽しそうに私の足首を持ち上げ、やっぱり指一本ずつ洗い始めた。
 ちょっとくすぐったいけど、水に濡れた色っぽいサイラスをぼんやり眺める。

「どうした?」

 ちらりと私を見て笑う。

「サイラスはずっとその姿なんですか?」
「……気に入らなければ、変えることもできるが?」

 そう言って、頭に二本のぶっとい角と、立派な口髭にケツアゴの強面へ、体はゴリゴリのマッチョに姿を変えた。

 
 


 

しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

燻らせた想いは口付けで蕩かして~睦言は蜜毒のように甘く~

二階堂まや
恋愛
北西の国オルデランタの王妃アリーズは、国王ローデンヴェイクに愛されたいがために、本心を隠して日々を過ごしていた。 しかしある晩、情事の最中「猫かぶりはいい加減にしろ」と彼に言われてしまう。 夫に嫌われたくないが、自分に自信が持てないため涙するアリーズ。だがローデンヴェイクもまた、言いたいことを上手く伝えられないもどかしさを密かに抱えていた。 気持ちを伝え合った二人は、本音しか口にしない、隠し立てをしないという約束を交わし、身体を重ねるが……? 「こんな本性どこに隠してたんだか」 「構って欲しい人だったなんて、思いませんでしたわ」 さてさて、互いの本性を知った夫婦の行く末やいかに。 +ムーンライトノベルズにも掲載しております。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

騎士団長のアレは誰が手に入れるのか!?

うさぎくま
恋愛
黄金のようだと言われるほどに濁りがない金色の瞳。肩より少し短いくらいの、いい塩梅で切り揃えられた柔らかく靡く金色の髪。甘やかな声で、誰もが振り返る美男子であり、屈強な肉体美、魔力、剣技、男の象徴も立派、全てが完璧な騎士団長ギルバルドが、遅い初恋に落ち、男心を振り回される物語。 濃厚で甘やかな『性』やり取りを楽しんで頂けたら幸いです!

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

鉄壁騎士様は奥様が好きすぎる~彼の素顔は元聖女候補のガチファンでした~

二階堂まや
恋愛
令嬢エミリアは、王太子の花嫁選び━━通称聖女選びに敗れた後、家族の勧めにより王立騎士団長ヴァルタと結婚することとなる。しかし、エミリアは無愛想でどこか冷たい彼のことが苦手であった。結婚後の初夜も呆気なく終わってしまう。 ヴァルタは仕事面では優秀であるものの、縁談を断り続けていたが故、陰で''鉄壁''と呼ばれ女嫌いとすら噂されていた。 しかし彼は、戦争の最中エミリアに助けられており、再会すべく彼女を探していた不器用なただの追っかけだったのだ。内心気にかけていた存在である''彼''がヴァルタだと知り、エミリアは彼との再会を喜ぶ。 そして互いに想いが通じ合った二人は、''三度目''の夜を共にするのだった……。

淡泊早漏王子と嫁き遅れ姫

梅乃なごみ
恋愛
小国の姫・リリィは婚約者の王子が超淡泊で早漏であることに悩んでいた。 それは好きでもない自分を義務感から抱いているからだと気付いたリリィは『超強力な精力剤』を王子に飲ませることに。 飲ませることには成功したものの、思っていたより効果がでてしまって……!? ※この作品は『すなもり共通プロット企画』参加作品であり、提供されたプロットで創作した作品です。 ★他サイトからの転載てす★

【完結】婚約破棄されたので田舎に引きこもったら、冷酷宰相に執着されました

21時完結
恋愛
王太子の婚約者だった侯爵令嬢エリシアは、突然婚約破棄を言い渡された。 理由は「平凡すぎて、未来の王妃には相応しくない」から。 (……ええ、そうでしょうね。私もそう思います) 王太子は社交的な女性が好みで、私はひたすら目立たないように生きてきた。 当然、愛されるはずもなく――むしろ、やっと自由になれたとホッとするくらい。 「王都なんてもう嫌。田舎に引きこもります!」 貴族社会とも縁を切り、静かに暮らそうと田舎の領地へ向かった。 だけど―― 「こんなところに隠れるとは、随分と手こずらせてくれたな」 突然、冷酷無慈悲と噂される宰相レオンハルト公爵が目の前に現れた!? 彼は王国の実質的な支配者とも言われる、権力者中の権力者。 そんな人が、なぜか私に執着し、どこまでも追いかけてくる。 「……あの、何かご用でしょうか?」 「決まっている。お前を迎えに来た」 ――え? どういうこと? 「王太子は無能だな。手放すべきではないものを、手放した」 「……?」 「だから、その代わりに 私がもらう ことにした」 (いや、意味がわかりません!!) 婚約破棄されて平穏に暮らすはずが、 なぜか 冷酷宰相に執着されて逃げられません!?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...